スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもレポートは、各国ゲームアプリ市場の最新マーケットトレンド情報を毎月提供。レポート内では、売上・ダウンロードランキングや主要タイトルの運用データの総括・分析、注目のプロモーション事例や新規タイトル情報など、 定番情報に加え旬のテーマをピックアップしている。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回は、レポートにも掲載された「ハイパーカジュアルゲーム」の動向やその特徴について紹介していく。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
【調査箇所】ハイパーカジュアルの主な特徴
日頃からゲーム業界を気にかけているSocial Game Info読者であれば、「ハイパーカジュアルゲーム」についてご存知かと思います。
ハイパーカジュアルゲームとは、スマートフォン端末の機能を活かした直感的な操作方法、老若男女だれもが楽しめる万国共通のルールなど、ゲームの間口を広げるジャンルです。
説明を必要としない明快さと、昨今のトレンドであるマルチプレイの妙を組み合わせた同ジャンルは、世界中で大流行。当然、それは日本でも同様です。たとえば、下記はApp Storeの無料ダウンロードランキングですが、運用型の人気ゲームアプリに混ざり、多数のハイパーカジュアルゲームが上位にランクインしています。
▲Sp!cemartのマイページよりApp Storeの無料ダウンロードランキングを抜粋(2020年6月1日09:00調べ)※運用型ゲームアプリに施した黒マスクは筆者が加筆
ほかのアプリやSNS、動画投稿サイトなどで度々見かけるハイパーカジュアルゲームの広告は、予算に応じてインストール数は大きく左右されるものの、簡単操作で思わず「面白そう。遊んでみたい」と瞬時に訴求できる要素を兼ね備えています。
また、開発費用が従来のスマホゲームと比較して少額にもかかわらず、繰り返し遊ぶその中毒性から広告露出が高く、事業としても成り立つケースが多々出てきています。実際に小規模の開発チームでハイパーカジュアルゲームを開発し、短期間で5億円以上もの売上を記録する企業も国内外含めて存在。
【ハイパーカジュアルゲームの主な特徴】
■説明を必要としない明快さと直感的な操作方法
■マネタイズは広告。繰り返し遊べて広告露出が高い
■開発費が少額のためヒットすれば利益率が高い
そこでSp!cemartでは、ゲーム企業向けに提供している「日本マーケットトレンドレポート(2020年4月号)」において、人気ハイパーカジュアルゲーム40本のゲーム仕様と画面UIを調査したレポートを掲載しました。今回の連載では、その中から前述したランキングにも載っている3本を抜粋し、ハイパーカジュアルゲームの特徴について紹介していきます。
▲実際のレポート内容。1タイトル2ページ(ゲーム仕様と画面UI)を合計40本掲載。課金要素や動画広告再生タイミングなども併せて調査しています。
【Rescue Cut】動画広告の積極機会はやや控え目
■『Rescue Cut』
提供:MarkApp Co. Ltd
リリース日:2019年8月
【ゲームのポイント】
本作は捕まっている人のロープを切って助けてあげるパズルゲーム。操作方法は、ロープを横にスワイプして切るだけ。ただ、ロープを切る順番を間違えると、障害物に接触したり、落下したりと失敗します。状況を鑑みて、切る順番を見極めるのが大切です。
ゲームを進めると、マップに悪漢が登場。当然これに接触しても失敗なので、あえて危険な障害物を悪漢にぶつけて撃退し、退路を確保する必要があります。また、本作にはキャラクターが猫になるなど、ユニークなゲームモードも存在。ステージ数も豊富に取り揃えており、さまざまなパターンを楽しめます。
▲可愛らしくシンプルなゲームですが、障害物に接触すると血しぶきが飛びます(写真右)。そんなギャップも本作が支持されている魅力のひとつ。
▲画面UI
【マネタイズ】
本作には課金要素が見当たりませんでした。基本的には動画広告がマネタイズの中心となります。ただ動画広告の接触機会はやや控え目。当然クリア後には一定回数で広告が挿入されますが、それ以外ではほぼ登場しません。
本来であれば何度も失敗を繰り返しながら進めるタイトルですが、なんとリトライにおける動画広告の閲覧も要求されないのです。また、リトライを繰り返すとステージスキップがポップアップするものですが、この機能にも調べている限りでは動画広告を設けていません。最低限の接触だけなので、そこまでストレスを感じずにプレイできます。
※参考:動画広告再生タイミング(確認できた限りのもの)
・クリア後(一定回数)<恩恵:なし>
・クリア後<恩恵:獲得コインを10倍にできる >
・クリア後(キャラクターポップアップ)<恩恵:新しいキャラを解禁できる>
・スキンショップ<恩恵:一部スキン(キャラクター)を解禁>
【全部打とう】マネタイズでは武器の試し撃ちを採用
■『全部打とう』
提供:Voodoo
リリース日:2020年2月
【ゲームのポイント】
本作は、前方から迫りくる敵にボールでぶつけて場外に弾き飛ばすシューティングゲーム。ボールは常に出続けるため、ユーザーはドラッグ操作でガンを動かしながら、敵や障害物に当たるよう調整していきます。
ボールが当たった敵はよろけたりしますが、基本的には場外まで弾き飛ばす必要があります。ただ、ヘッドショットが決まると一撃で破壊することが可能(巨大な敵は大きくよろける)。またステージ中の障害物を破壊すると敵を一掃できるほか、ドラム缶を爆発させる、足場を崩すなどのテクニックを磨けば、効率よく対処可能。
節目にはボスも登場。相手の攻撃を避けながら、タイミングを見計らってボールをぶつけていく必要があり、緊張感があります。
▲ボールを敵の各部位に当てることで、様々な反応を示します。たとえば脚を撃てばよろけて前のめりに倒れたり、ヘッドショットは大ダメージなど。敵を的確に倒すために、ガンの操作も自ずと急所に目掛けて微調整することになります。
▲画面UI
【マネタイズ】
課金要素は、広告非表示(370円)のみでした。スキンはガンから出るボールのデザインで、購入にはステージ毎に得られるコインが必要。なお、ショップには動画広告閲覧によるコイン獲得は存在しません。
その代わり、動画広告を閲覧することで武器の試し撃ちが可能になります。本来新しい武器はステージ進行により解禁されるのですが、いち早く試したいユーザーは動画広告を閲覧することで一時的に使用できるようになるのです。
※参考:動画広告再生タイミング(確認できた限りのもの)
・クリア後(一定回数)<恩恵:なし>
・リザルト画面<恩恵:獲得コインが3倍になる >
・ホーム画面<恩恵:新しい武器の試し撃ちが可能>
・ゲームオーバー<恩恵:なし>
・ゲームオーバー<恩恵:ステージスキップが可能>
【Park Master】試行錯誤でシーンを切り抜けていく
■『Park Master』
提供:KAYAC Inc.
リリース日:2019年11月
【ゲームのポイント】
本作は、車の移動先を指で描いて、該当の色の駐車場に上手く停めるパズルゲームです。2つ以上車がある場合は、各々の移動先を決めると同時に動きます。最初は車と駐車位置をつなげるだけでもクリアできますが、徐々に車の台数が増えるとほかの車と接触するなどの事故が多々起こるように。
車は同時に動くため、あえて1台だけ遠回りさせたり、接触しないための道筋を作ったりと、頭を使いながら進めていくのがセオリー。ステージを進めていくと、障害物を押しのけたり、動く速度が異なる車なども登場し、特徴を生かした立ち回りが求められます。
▲何度もぶつけてはやり直す、試行錯誤の多いタイトル。実際に車が動き出したときのシーンを思い浮かべながら移動先を描いていくが、これがなかなか思うようにはいきません。ただ「やり直し」ボタンで一手前まで戻れるため、徐々にクリアまでの道筋を組み立てられます。親切なシステムです。
▲画面UI
【マネタイズ】
本作に課金要素は見当たらず、恐らく動画広告の閲覧がマネタイズの中心となります。
基本的に「広告非表示」に伴う課金要素は、今回調査した40本のなかで多くの作品が採用していましたが、(レベル30まで)ゲームを進めてもそれらしい表記はありませんでした。裏を返せば、ユーザーが煩わしく思っていても動画広告は一切外れない仕様となっています。
スキン購入のためにコインを大量に獲得したり、ヒントを閲覧するために動画広告と接触したりする機会は多々ありますが、ユーザーのストレスとどのように向き合うかは今後の課題かもしれません。
※参考:動画広告再生タイミング(確認できた限りのもの)
・クリア後(一定回数)<恩恵:なし>
・クリア後(一定回数)<恩恵:獲得コインを5倍にできる >
・クリア後(サプライズギフト)<恩恵:新しいスキンを解禁できる>
・スキンゲージが一杯<恩恵:新しいスキンを解禁できる>
・プレイ中<恩恵:ヒントを閲覧できる>
・プレゼントボックス画面(鍵3つ獲得)<追加で鍵が3つ手に入る>
【今後】企業の課題を打開する“事業のひとつ”として注目
冒頭でも取り上げたように、ハイパーカジュアルゲームは小規模の開発体制と短期間の開発工数で実現できるジャンルです。思えばスマートフォン向けゲームの黎明期には、ハイパーカジュアルゲームとも呼べるようなタイトルが多数存在していました。
しかし、当時は有料の買い切り制アプリ、やや作り込みのあるタイトル、なにより動画広告が主流ではなく、事業としての売上を見込むにはハードルが高いもので、現在のハイパーカジュアルゲームとは似て非なるものでした。
そういう意味では、開発費の高騰が叫ばれる昨今のゲーム業界において、ハイパーカジュアルゲームは企業側の開発事情を打開する取り組みのひとつとしても注目されているのです。
一方ユーザー側の状況は、エンタメ系アプリの勃興により、ひとつのゲームにかける時間が減少し、いわゆる可処分時間の奪い合いがゲーム分野だけではなく、他ジャンルでも巻き起こっています。さまざまなアプリを起動するユーザーは、まさに多忙の毎日。そんな彼らのライフスタイルの隙間に入り込めるのが、短時間で遊べるハイパーカジュアルゲームだったのです。
このように、企業側の開発事情とユーザー側の需要が合致したことで、国内でもカジュアルゲームが爆発的な人気となります。そして2019年下半期には、アカツキ社とポノス社がカジュアルゲームを専門に展開するスタジオを立ち上げました。
さらに、今回の記事でも紹介したカヤック社開発の『Park Master』は、世界17ヵ国で無料ダウンロードランキング1位を獲得、全世界で3200万ダウンロードを突破するなどの大ヒットを記録しました。同社のゲーム事業部門は、このひとつのハイパーカジュアルゲームの登場によって、第1四半期の売上高で過去最高を更新。
▲カヤック ゲーム関連の売上高推移。2020年12月期 第1四半期決算説明会資料より
▲一方で『Park Master』に多額の広告宣伝費も投下しています。明確な数字ではありませんが、これまでの広告宣伝費の平均、そして前四半期比から鑑みるに、少なくとも数億円規模でしょう。2020年12月期 第1四半期決算説明会資料より
このように現在では、ハイパーカジュアルゲームが業績に深く関係してきています。
当然、ヒット作を生み出すには並大抵のことではありません。それこそアイデアとタイミングが鍵を握るため、作っては改修し、作っては改修することで洗練されたゲームに仕上がっていくと思います。これからは、各社、同ジャンルに関連したスタジオ設立や事業の発足など、より加速していくことが予想されます。
Sp!cemartでは、ゲーム企業向けに提供している「日本マーケットトレンドレポート(2020年4月号)」において、人気ハイパーカジュアルゲーム40本のゲーム仕様と画面UIを調査したレポートを掲載しています。
ぜひ、ご興味がある方は下記のお問い合わせページからご連絡ください。自社で開発する際や、ミニゲームを作る際などの参考材料になれば幸いです。
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
■Sp!cemartゲームアプリ調査隊 バックナンバー
■Vol.1 〜待望のシリーズ最新作『マリオカート ツアー』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.2 〜新作リズムゲーム『欅坂46・日向坂46 UNI'S ON AIR』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.3 〜初週で全世界1億DLを記録した『Call of Duty®: Mobile』、リリースから直近1ヵ月の運営施策を探る〜
■Vol.4 〜Riot Games大特集。新作『Team Fight Tactics』の概要から『LoL』の直近プロモ・e-Sports施策まで〜
■Vol.5 流入から定着まで繋げた7つの施策…大ヒット中の『FFBE 幻影戦争』、事前登録からリリース直後の施策を総まとめ
■Vol.6 事前プロモ(ほぼ)なし…突如配信された『ワールドフリッパー』ヒットの背景。リリース前後の施策を分析
■Vol.7 運営7周年を迎えた長期運営タイトル『にゃんこ大戦争』…長く愛される理由をゲーム“内外”の施策から分析
■Vol.8 好調なリスタートを切った『魔界戦記ディスガイアRPG』、リリース中断から再開までの8ヵ月間の動向を分析
■Vol.9 大ヒット中の『デュエル・マスターズ プレイス』、売上ランキング2位の背景をIP×マネタイズの観点から分析
■Vol.10 スマホ向けパズルゲームのトップを走る『ガーデンスケイプ』の施策とシリーズの強みを分析
■Vol.11 海外発のストラテジーゲーム『Rise of Kingdoms -万国覚醒-』がヒットの兆し。リリース前後の施策を分析
■Vol.12 ヒットを生み出し続けるYostar待望の新作『アークナイツ』を分析。リリース前施策からマネタイズまで
■Vol.13 売上ランキングTOP10入りの『メダロットS』を分析。既存ファンに向けた「メダロット」ならではの露出も
■Vol.14 ゲームはスローライフだが運営施策は挑戦的…『どうぶつの森 ポケットキャンプ』これまでの歩み
■Vol.15 目指したのは「リアルなミニ四駆体験の追求」…『ミニ四駆 超速グランプリ』ヒットの背景を分析
■Vol.16 『モンスト』×「鬼滅の刃」コラボを分析…IP頼りで終わらず、推奨行動など多様な施策で盛り上げる
■Vol.17 放置ゲームの新たな形『ロストディケイド』の挑戦。“放置させない”循環や独自性の高いマネタイズも
■Vol.19 原作再現度の高さで話題沸騰――大ヒット中『このファン』のゲーム内外施策を調査
■Vol.20 新旧ではなく共存共栄――『あんさんぶるスターズ!!Basic&Music』リリース前後のゲーム内外施策を調査
■Vol.21 周年施策から辿る『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』大ヒットの背景。1・2・3周年でなにが起こったのか
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■Vol.30 勢いが止まらない『ディズニー ツイステッドワンダーランド』…ランキング上位を維持する背景とその魅力
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄