【CEDEC 2020】DeNA、アクティブユーザー2.2倍増を見せた『逆転オセロニア』のコミュニティ施策 さらにポストソーシャルゲーム時代5大予想
コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月2日~4日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2020」(CEDEC 2020)が開催された。
本稿では、9月4日に実施された、ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>によるセッション「運営がコンテンツ化する時代 ~2020年代 ポストソーシャルゲーム時代に向けて~」の模様をお届けする。
登壇者は、『逆転オセロニア』プロデューサーの香城卓氏。運営5年目にして、アクティブユーザーを2.2倍増を見せた『逆転オセロニア』のコミュニティ施策の実践例を交えつつ、新たなソーシャルゲームの形、そして「ポストソーシャルゲーム」の姿について語られた。
現在2800万DLを記録する『逆転オセロニア』は、コミュニティと一緒に語られることが多いという香城氏。
下のスライドは、月次のアクティブユーザーの推移だが、リリースから11ヵ月は何も起きていないことがわかる。その黎明期から、2017年に入ってから一気に成長フェーズへ。
この11ヵ月、運営は大小規模を問わず全国各地でファンミーティングを開催し続けていたという。
これは自分の街に、『オセロニア』をプレイする人が他にもいるんだと、いうことをユーザーに感じてもらうために行ったもので、「ファンコミュニティ形成をひたすらやり続け、そして2016年年末から大きくプロモーションを踏んだことで一気に拡大し、成長していった」と香城氏は振り返った。
香城氏は。「SNSで新しいアプリが出た時に"このゲームやったほうがいいですか?"というコメントをよく見ます。今は商品、プロダクトそのものを見て自分で決めるのではなく、プロダクトの周りにいる人の意見や集合値が価値を決める」とし、「コミュニティマネージメント、ゲームの周りにいて応援してくれる人たちをいかに繋げて、コミュニティをどう形成、デザインするかが最も大事な時代にきている」と述べた。
その具体例がリアルイベント。メタバースをリアルの中に作るべく、プラットフォームとしてリアルイベントを使っているという。
『オセロニア』は、"オセロニアンの宴"というブランドで全国ツアーなど、年間30近くのリアルイベントを開催。香城氏曰く「1年間は52週しかないので、年間30ですと運営は1年間の内60%は日本全国のどこかにいる」
『オセロニア』のリアルイベントの特徴は、東名阪の大きな会場で数千人規模ではなく、数十人規模でも運営が現地を訪れ、コミュニティ作りを手伝っているところ。
全国各地のユーザーと直接顔を合わせることで、「アクティブユーザー数などの数字では見えない、オセロニアンの方達の人間関係が見えるし、ユーザーというよりも自分の知り合いにゲームを届けているという感覚で運営できます」(香城)という副次効果もあるそうだ。
そんなファンコミュニティを大切にする『オセロニア』に暗雲が立ち込めた。
2018年1月、正月のガチャ施策でゲーム環境から突出した性能の駒(キャラ)が登場したという。
「運営もそれを良しとは思っていなかったし、ある程度考えてやっていた」(香城)が、そのキャラの登場をキッカケに「このキャラが出たら勝ちじゃん!」「実力関係なくない?」という意見が多く寄せられたそうだ。
『オセロニア』はオセロを使った対戦ゲーム。故に、実力が反映されない、構築したデッキが活かされないというのは一番体感を損ねる部分となる。
運営も1年以上にわたり対策するキャラを出したが、根本的な解決に至らず2019年に突入。問題が解決されない状況が続くと、じりじりとアクティブユーザーは低減していった。
この状況に香城氏も「これはさすがに看過できない。このままでは不味い」と、2019年に実施予定の計画などを全てストップ。
この問題に向き合わなければ『オセロニア』に未来はないと確信し、様々な策を考える中で、その夏に特殊な打ち手を実行した。
それが、2019年8月31日に開催されたオセロニアンの宴ツアーファイナルでの説明会。
YouTubeLive配信もされたこの説明会で、「これから我々はこう変わっていきます」「4ヵ月後の1月1日に必ずこの問題を解消する」とユーザーに約束したのだ。
▲問題のキャラ(右)の対戦環境のデータ。同キャラを4ターン以内に先置きできると82.3%勝てるという数字で、「ゲームとして完全に終わっている」と香城氏。
この説明会によって、運営を応援してくれる声が多数寄せられ、先行きが見えた…と思われたが、翌9月1日に運営史上過去最大の炎上が起きたという。
それは、9月1日0時にTwitter上で公開した新キャラのプロモーションムービー。「色々な都合があり、チェックが漏れていた唯一のもの」(香城)というその動画は、先述の問題キャラの他にも勝率が飛び抜けたキャラもおり、「これらのキャラも改善したい」と説明会で話したその該当キャラが、新キャラとの相乗効果でパワーアップします、という打ち出し方の内容だったという。
香城氏曰く、「結果的には違うのだが、意図した見せ方になっていなかった」ため、「話が違う!」「昨日の説明会は何だったんだ?」「期待したのに裏切られた」と炎上を起こしてしまった。
「説明会が支持され、あとは残り4ヵ月やるだけど思っていた運営は、まさに谷底に落ちた感じだった」と香城氏は当時を振り返った。
その後の4ヵ月間は、定期的にユーザーから意見をもらいながら最終的な数字やシステムの機能を決めていったり、毎月月末配信のYouTubeLiveでほぼ全てのコメントに答えていったそうだ。
そして4ヵ月後の12月31日、香城氏はオフィスの自席から配信を行い、『オセロニア』がどう変わるのかを発表。改善点は100点ではないけど、それでも致命的と思われているところは少しずつ改善を見せている所もあり、多くのユーザーに受け入れられたという。
香城氏は、「おしかり、ご意見をいただいていたコアコミュニティの方達が、大晦日の発表を受けて、発信してくれました。それにより、2018年以降辞めてしまった方達がたくさん戻って来てくれた事が、僕の中で大きな経験になりました」とした。
そして翌月には4周年を迎え、「オセロニアンで良かった」というユーザーの声で溢れたそうだ。
▲アクティブユーザーベースでおよそ2.2倍一気に引き上がった。
「運営5年目に2度目の逆転で、大きな改善を見せた」という香城氏。運営がコンテンツする時代で、運営がどんなスタンスでユーザー、ゲームの課題に立ち向かうかが大きな評価軸になっているとし、「どんな運営をしてきたかというストーリーが、まさに今この時代にとって大きな評価軸になってきている」と述べた。
▲コロナ禍の影響で現状、最も重要なリアルイベントが開催できなくなっている。しかし運営は逃げずに、コロナ禍でしかできないオンライン大会の開催を決定。新しいコミュニティマネージメントに真っ向から挑戦する姿勢を見せている。
そして最後に、後半はポストソーシャルゲーム、ソーシャルゲームの次の時代の5大予想を、「ここから3~5年以内に起きるであろう変化」として香城氏が発表した。
その1.ファンという言葉の定義が変わる
例えば『オセロニア』を遊んでくれる人の事をユーザー、すごく好きなコアユーザーがファンというイメージだが、この定義がファン=運営を好きな人、という風になるという。より運営という存在が可視化され、その人たちのスタンス、パーソナリティが好きな、あの運営が好き、という人がゲームのファンになると予想。
その2.コミュニティがオープンからクローズドへ
ゲームではTwitterのタイムラインなどでオープンなコミュニティが形成されているが、『オセロニア』を例にすると対戦が強い人達以外にも、二次創作を楽しんでいる人や、皆とつながりたい人もいるなど楽しみ方は多様化しており、そういう人達で固まろうというクローズドに細分化されたコミュニティが加速化すると予想。
その3.会社でも個人でもなく、チームが業界の単位になる
昔のゲーム業界は、あのメーカー、あのプロデューサーの新作など会社、個人がフィーチャーされる動きがあったが、この先はチームが一番重要な単位となり、『オセロニア』運営が次に何をやるのか、といったチーム単位で認識されると予想。
その4.お金の使い方が最大のマーケティング手法になる
ソーシャルゲームというビジネスに対するリテラシーが上がり、昨今の誰かを応援するギフティングのように、「あの運営にお金を預けるとこういう使い方してくれる」という観点からゲームタイトルを選ぶ時代になり、どれだけ遊んでくれるユーザーや世の中に還元できるかによって評価が決まっていくと予想。
その5.運営というストーリーの面白さでゲームが選ばれる時代になる
運営が歩んできた道のり、ストーリーに共感する、面白いと思うという。共感性を持つ事が重要な時代になってくると予想。ゲームのおもしろさの軸、運営のおもしろさの軸の両輪で、今後のソーシャルゲームの評価が決まる時代になるであろうとした。
■『逆転オセロニア』
© 2016 DeNA Co.,Ltd.
オセロは登録商標です TM & Ⓒ Othello,Co. and Megahouse
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432