10月の中旬から気温は一気に低下、秋を飛び越えて冬を感じている人も多いだろう。ついつい外出に億劫になってしまう人も多いのではないだろうか。
そんな厳しい寒さと台風の動向が気になる中、10月31日は衆議院議員総選挙の投票日となっている。朝の突き刺すような寒さの中で、ぬくぬくとした「お布団の中で投票できたらな」と考える人は多いはずだ。そう信じたい。本稿ではインターネットによる投票(電子投票)の現在の立ち位置と、ブロックチェーン技術を利用した投票についてお届けする。
■地方選挙での電子投票はあったけれど・・・
日本では選挙における電子投票が認められていた。2002年の2月*に施行となった電磁的記録投票法によって、地方選挙のみではあるが電子投票は可能だった。ここで言う電子投票とは手持ちのスマートフォンやPCではなく、あくまでも投票所にある電子機器を操作し投票を行うというもので、お布団の中でスマートフォンやUMPCからお手軽に投票といった内容ではない。ネット選挙に関しては現行法として認められておらず、実現までには、投開票プロセスの透明性、投票内容の秘匿性、二重投票の防止、プライバシーといった様々な問題を抱えている。ただし、ブロックチェーンなどの技術が、将来これらの問題に対しての解決策を提示し、ネット投票の鍵となりえるというのだ。
(*)https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/denjiteki/index.html
■前提を知っておきたいブロックチェーン、ポイントは改ざんが困難で信用が担保できる
ブロックチェーンは、ネットワーク内での取引の記録を「ブロック」と呼ぶ部分に記録する新しいデータべースだ。これまでの中央集権的なサーバーとは異なり、P2P技術、古くはWinnyなどのファイル交換ソフトでも利用された技術をベースにしている。
その特徴の一つとして、先述した非改ざん性がある。ブロックチェーンはその仕組みとして、「ブロック」に過去の履歴を含めた記録を保存した上で連結させている。そのため改ざんを試みても、全てのブロックのデータ変更を行うことが困難であることから、不正(非改ざん性)に強いと言われる理由となっている。
2021年上半期に話題となったNFTもそんなブロックチェーンの改ざんに対しての強みを生かした技術となる。デジタルデータとして従来どおりかんたんにコピーは可能であっても、この技術によって所有者として信頼が得られるというわけだ。改ざんが非常に困難であるため、信用の担保が得られるというのが、ブロックチェーンの大きな特徴となる。
■一部自治体でインターネットによる投票に向けた実証実験を実施中
国内でもそんなブロックチェーン利用したインターネットによる投票を推進しようとしている企業がある。それがブロックチェーン技術等のテクノロジーを活用した経済活動のデジタル化を推進するLayerXとマイナンバーカードに特化したデジタルIDとブロックチェーン技術で次世代ビジネスモデルを創造するGovtech*カンパニーxIDだ。
*政府(Government)と技術(Technology)の造語
現状の電子投票においては、以下の問題点を抱えている。
電子投票は、二重投票の防止や投票の秘密を高いレベルで担保できない技術的課題、投票所のネットワーク整備環境の不足、電磁的記録式投票機の導入・運用コストなどに課題があり、地方自治体における電子投票は2018年を最後に実施されていません。
https://layerx.co.jp/news/pr201105
そこで、LayerXの研究開発組織であるLayerX Labsでは行政のデジタル化推進施策の一つとして、透明性と秘匿性を両立した電子投票の実現に向けた取り組みを行っているというわけだ。これに伴い現在つくば市において様々な実証事件を行っている最中。
またxIDは、LayerXとともに、石川県加賀市と市の政策に関する電子投票実現に向けた連携協定を締結している。先述したとおり、電子投票の抱えている問題に対して、xIDの言葉を借りれば、投開票プロセスの透明性と投票内容の秘匿性を両立した電子投票プロトコルを研究・開発したLayerX、本人であることが証明でき、かつ一人につきID一つのみ発行できる技術を持つxIDを連携させることでこれらの問題を解決した投票技術の構築を目指している状況だ。
■2005年から電子投票の電子大国エストニア
日本ではようやく光位が見えだした一方で、この分野でいち早く先に進んでいるのは電子大国のエストニアだ。同国では以前よりGovTech分野でも世界をリードしており、ブロックチェーンという概念*が生まれる前の2005年より地方選挙に、2007年には国家議員選挙にでネット投票を採用し、今日にいたっている。
*2008年のサトシ・ナカモト氏の論文を起点。
2015年の資料にはなるが、エストニア国民の約9%程度が国外に居住しており、電子投票の重要性は非常に高いことも、背景のひとつにあったと見られる。日本では在外公館(大使館、総領事館)での在外公館投票。郵便投票、一時帰国による日本国内での投票が可能ではあるものの、在外選挙人名簿への登録申請も必要となり、投票までの敷居は国内に比べて高い状況だ。
■インターネット投票の解禁を待っている
冒頭でも述べたとおり、寒さや雨天など様々な天候状況で投票に億劫になる気持ちは、筆者にもとてもよくわかる。実際に選挙直前や開票時などのニュースでは、天候で投票率に関わるような報道があるのもまま目にする。ただ自分たちの生活に大きく左右する選挙の投票に対して、天気に影響される部分がある(あると思われているような報道が出ることも含め)というのは、かなり厳しい。とある市役所で選挙のため。職員が仕事の合間に鉛筆を1万本削っている、というニュースも流れていた。これもかなり厳しい。
筆者は先に記載したメリットや、投票率があがった際に候補者やそのスタンス、選挙を取り巻く状況がどう変化していくかという点で、とても興味がある。そういった意味で、筆者はブロックチェーンをベースにしたインターネット投票にとても期待している。今後もこれらの取り組みについてお伝えするつもりだ。