【CEDEC 2021】『シノアリス』で実施した”ユーザーVS運営”の「コロシアム」イベントはどのようにして生まれたのか CPU戦を楽しんでもらうための工夫をポケラボが紹介!


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、824日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催している。

本稿では、825日に行われた、ポケラボ・ゲーム事業本部/エンジニアの高田美里氏による「SINoALICE -シノアリス- 多人数バトルにおける対CPU戦イベントのご紹介」のレポートをお届けする。



『シノアリス』では、最大15v15人のリアルタイムバトル「コロシアム」において、「運営を倒す」名目のもと、ユーザーのギルドと運営が用意したCPUギルドが戦うお祭りイベント「運営淘汰コロシアム」を開催。本セッションでは、CPUの行動設計が難しい多人数バトルにおいて、ユーザーに楽しんでもらうためにどのように運営ギルド側CPUの行動を設計したか、どのように人間っぽさを出したか、などイベントを楽しんでもらうための工夫や、イベント中のサーバー負荷や稼働率などを紹介した。また、セッション後半では本イベント中に発生した課題や今後の展望についても紹介している。




CPUの作成は「見た目よし!」「動作よし!」「面白し!」を目標に、サーバー対策は負荷分散を上手に行うことを目的に進めていったという。

本セッションの題材となっているのは、『シノアリス』のメインコンテンツのひとつである「コロシアム」で開催したイベントである。そこで高田氏はまず、「コロシアム」の概要を紹介した。


▲「コロシアム」は、ギルドメンバーと協力して相手のギルドを攻撃し、コロシアム終了時までに「イノチ」と呼ばれるポイントをより多く獲得した方が勝利というゲーム内容になっている。



ここからはセッションの本題へ。

これまで『シノアリス』では、「コロシアム」において、ユーザーのギルド同士が戦うことはあっても、運営ギルドと直接戦う場はなかった。そこで、運営ギルドからイノチをガンガン奪ってスカッと楽しめるイベントをやりたいという案がプランナーから挙がってきたという。さらに、「ユーザーに運営が淘汰されるのって面白くないですか?」というところから、自虐的な内容をウリにしている『シノアリス』らしく、イベント名は「運営淘汰コロシアムSP」に決定。ただし、弱いCPUが集まっているギルドと対戦しても楽しくないという想いから、そこそこ強いギルドにしようという方針でイベント制作が始まった。


▲加えて、SNSでの盛り上がりも狙って「映え」を意識した造りに。

そこで、最初に目指したのは個人で強いCPUを作るということだった。運営が始まってから丸4年分のコロシアムに関するデータをAIに学習させることで、強力なCPUが生まれるのではないかと考えたという。しかし、この案は再考されることに。

理由として高田氏は、「今回の運営ギルドに実現させたい面白さって何だろう」「ユーザーに味わってもらいたい楽しさって何だろう」というところを掘り下げることになったからだと経緯を説明した。そこで導き出されたのは、”15人で作戦を話し合って大きな戦略の波を作ることがコロシアムの面白さだということ。


▲戦略を持っている「群れ」を相手に戦うことがコロシアムの面白さだと気付いたことから、全員で強くなるCPUを目指そうということに。

では、15人でどのような戦略の波を作るのか。『シノアリス』には、魔法攻撃と物理攻撃、さらに火・水・風の三竦みの属性攻撃が存在する。これらを考えながら、15人のギルドメンバーで、攻撃役・妨害役・サポート役・回復役といった役割をそれぞれ担うこととなる。



上図は、中盤辺りまでは魔法攻撃を中心に、終盤は物理攻撃で一気に攻めていくという戦略の流れになっている。この戦略に対して、自分たちのギルドがどう立ち回っていくかを考えたり、15人で一斉に動いて大きく戦況を変えたりするのがコロシアムの醍醐味となっている。

そこで、ひとつの方針として運営ギルドには「戦略に則った動きをさせたい」ということが決まった。この戦略を作る際に、丸4年分のコロシアムのログを活用したと高田氏は語る。日頃のログから戦略を探し出し、実際に毎日コロシアムをプレイしているユーザーのデータベースのアクセスログなどから大枠の戦略を作っていく。最後に調整として、日頃コロシアムをプレイしている運営メンバーの経験値でカバーしていったという。

では、作った戦略を実現させるためにはCPUに何をさせればよいのか。実際にユーザーが行っている行動を以下の大枠に分けてみることにした。


SP=コロシアム中の行動ポイント。「おそうじ」と呼ばれるミニゲームをプレイすることで回復できる。また、ナイトメアの発動は運営ギルドの戦略を実現するうえで重要なポイントとなったと高田氏は説明した。


▲「武器を使う」「SP回復」は元々のCPUでも行っていた行動ではあるが、実施回数や速さをよりリアルのユーザーに近付けた。「ナイトメア発動」「装備変更」は新規実装となった。

以下は大枠の具体的な調整内容について。

武器の使用に関しては、自然さを出すために最小の値にランダム値を付与して調整。間隔は、4年間のログからギルドランキング上位にいるユーザーの武器使用頻度のデータベースアクセスの平均時間から割り出した。これにより、手数が増えたためアクティブなギルド感がアップしたが、データベースへのアクセスが増加したことが課題となった。



SP
回復に関しても、できるだけ上手いプレイヤーの回復速度の平均値を割り出して調整。ここでもデータベースへのアクセスが増加したことが課題になる。



ここからは、運営ギルドにより深い戦略を実行させるための新規実装になる。

ナイトメアは非常に強力で、発動することでそれまで劣勢だった状況を一気にひっくり返すことができるほど。これにより、運営CPUでもより綿密な戦略を立てることが可能となる。今までできなかったことを実行可能にしているため、ここでもデータベースへのアクセスが増加した。




▲なお、運営ギルドが使用するナイトメアは独自のものに。ここでも『シノアリス』運営が大事にしている自虐ネタを盛り込み、ユーザーから好評を得ている。

装備の変更は、運営ギルドのメンバー15人分を一気に行うため、データベースへのアクセスが超増加することに。これを全コロシアムで同時に実施すると、サーバーへの負荷が高まってしまうことが予測された。



ここまでで、理想の運営ギルドを実装するにはデータベースへのアクセス増加問題を解決する必要があることが分かった。




▲上記2ヶ所のタイミングでサーバーのアクセス負荷が一気に高まる。



では、これらの課題をどのように解決していったのか。問題は2点で、「データベースへのアクセス増加」と「コロシアム数の倍増(アプリサーバーの増強が必要)」である。




▲通常であれば、ユーザーのギルド同士の対戦となるため、例えば6ギルドなら3つの部屋が必要になるが、今回は相手が運営ギルドとなるため、6ギルドなら6ギルド分の部屋が必要になる。そこで、立てられるコロシアムルーム数を増やす必要があった。


▲上のグラフは、コロシアム開催時のCPU使用率のグラフとなる。吹き出しが付いた部分がコロシアムを開催している時間で、通常時よりもアクセスが増加していることが分かる。


▲このまま対策をしなければ上図のようなスパイクが生まれ、「ロードが長引く」「ゲームが進まなくなる」といったように、コロシアムに参加していないユーザーにも悪影響を及ぼすことになる。

武器の使用頻度とSP回復速度の上昇に関しては、connection数や負荷が通常の1.5倍に増加したが、元々サーバーのスペックにマージンを持たせていたことでそのままで問題なしという結論に。



一方、ナイトメア発動と装備の一斉変更に関しては、全てのコロシアムで同時に行う必要はないという結論に。そこで、コロシアムごとに実施時間を少しずつズラして1分間のあいだに全コロシアムで行動が完了するように調整することで対策を行った。



この結果、瞬間的に負荷がかかっていたところを分散して弱めることが可能となった。




▲データベースへのアクセスは通常の1.5倍ほどに留めることに成功した。

続いて、アプリサーバーに関しては、必要ルーム数がいつもの2倍になるなら、アプリサーバー台数も2倍にすればいつもと同じ状態になるのではという発想に。




▲この発想が功を奏し、いつもとほぼ変わらない結果に。サーバー増強のコストも必要最低限に収めることができた。

最後に高田氏は、「CPUの動き」と「サーバー実装」に関してポイントとなった点を以下のようにまとめた。





また、本イベントに対するユーザーの反応が好評だったことから、当初狙っていた「戦略面の深さ」や「映え」を伝えることができたと言及して本講演の締めとした。




▲「ガチャ担当だけ狙い撃ちにしていた」という声があったことから後ほどログを調べてみたところ、本当にガチャ担当という運営CPUだけ攻撃を多く受けていたことが判明した。

(取材・文 編集部:山岡広樹)

 

 

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会社名
株式会社ポケラボ
設立
2007年11月
代表者
代表取締役社長 前田 悠太
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