【CEDEC 2021】『メギド72』が教える「こだわり」の運用を貫くための分析術 “キャラの平等性”を保つ秘訣や「ゲーム大賞優秀賞」受賞を訴求に活用した理由も紹介!


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、824日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。

本稿では、826日に行われた、ディー・エヌ・エー ゲーム事業本部マーケティング統括部エンターテインメントサイエンス部メカニクスデザイングループのグループリーダーの早川真央氏と、ディー・エヌ・エー マーケティング統括部 マーケティングプロデュース部 副部長の魏健人(ギ ケント)氏による講演「メギド72」の事例でお伝えする「こだわり」によってユーザーを熱狂させるスマホゲーム運営手法のエッセンスをレポートしていく。




競争が激化しているスマホゲームの世界で成功するには、質の高いゲーム体感の提供はもちろんのこと、一度獲得したユーザーをファンに変え、SNSなどで話題の熱量を高く保つことが重要となる。そんな中、『メギド72』は必ずしも正攻法だけで作っているわけではなくゲーム内外も独特の「こだわり」により、熱狂を生んできた面がある。そこで、本セッションでは、『メギド72』がどのようにしてチーム全体が一体となってユーザーを夢中にさせるコンテンツとコミュニティを作り上げてきたか、様々な観点からノウハウを紹介した。




▲『メギド72』は、運営・パブリッシュ・マーケティングなどをDeNAが、開発をメディア・ビジョンが担当する、本格スマホ向けRPG。今年で4周年を迎えるタイトルで、2019年にはスマホアプリから唯一、日本ゲーム大賞 優秀賞を受賞したことが話題となった。

まず始めに早川氏は、『メギド72』がこれまでに歩んできた歴史を紹介した。

以下は、201712月に『メギド72』がリリースされた当初のアクティブユーザーの推移を表したグラフとなる。



リリース直後こそ多くのユーザーが遊んでいたが、時間が経つにつれアクティブユーザーの数が減少している。一時期は、アクティブユーザー、セールス共に振るわない状態となり、「サービスを終了した方がいいのでは?」という声が挙がるほど壊滅的な状況だったとか。

このような状況を打破するべく、運用チームは背水の陣の覚悟で20183月に改修の施策を投じ、V字回復を果たした。さらに、その後は12月に実施した1周年のマーケティング施策も成功し、アクティブユーザー数だけで見ると最も低かった時と比べて約15倍まで跳ね上がったという。


▲大改修は「チュートリアル改修」や「初期ゲームサイクルの改善」が主な施策となるが、内部の取り組みとして「運用方針の改善」を行った結果、運用体制を構築できたことがV字回復に繋がったと考えているとのこと。

また、本セッション全体では、下記のグラフにある通り、運用3年目までの中からピンポイントな内容にスポットを当てて紹介していく。セッション後半では、「ゲーム大賞」と「メギドの日」におけるマーケティング施策に関する話を展開すると早川氏は述べた。 




■ゲームデザインの「こだわり」を運用するために

ここからはいよいよ本題へ。現在はヒットタイトルとなった『メギド72』だが、何故、初速に失敗してしまったのか。それは、各施策の「こだわり」を上手くゲームサイクルとしてワークできなかったためだと考えていると早川氏は話す。

また、各施策の「こだわり」の一例として、

・商材(ガチャ)としてのキャラクターにレアリティ差分を作っていない
3Dモデルを使いつつ、ほぼ全キャラクターに固有のモーション、エフェクトを用意している

を挙げた。

スマホゲームの運用を一度でも経験したことがある方であれば、上記の「こだわり」がどれほど難しく、手間がかかることか共感いただけるのではないかと早川氏は続けた。これらの「こだわり」を前提とした運用について、深く考えられていなかったことが最も大きな失敗の要因となったとのこと。

では、如何にして「こだわり」を運用としてワークさせることができたのか。これには、以下の2つのポイントがあるという。

ゲームデザインの精度は、分析の内容に強く依存する。そのため、精密な分析を行うための環境が必須事項のひとつとして挙げられた。また、多種多様な分析内容は、ゲームデザインをサポートするための強力なツールとなる。ただし、これらの分析結果をちゃんとした武器としてゲームデザインをするためには、一定の専門性が必要となる。そのため、分析とその内容をもとにゲームデザインを設計する専門家がチームに必要な人材となった。これら2点が、『メギド72』の「こだわり」の運用を支えたポイントである。


▲組織的に運用をサポートする体制が取れたことが成功の大きな要因となった。

ここからは『メギド72』の「こだわり」をより深掘りしていく。各施策のこだわりは、先ほど一例で挙げられた通りだが、これらの仕様の大元は「キャラクターを平等に扱う」ということに起因していると早川氏は語る。そのため、ここからはキャラを平等に扱うことが可能な運営方法がどのようなものかを模索していくこととなった。なお、ひとえにキャラを平等に扱うと言っても、ストーリーの登場機会やマーケティングへの活用など、さまざまな観点がある。ここでは、バトルの側面からの考え方にフォーカスを当てていくと補足した。

さて、バトルの観点から見たときに、この「こだわり」をベースに運用していくためには、多くのゲームで行われているメジャーな方法が使えないという壁が立ちはだかった。



例えば、『メギド72』ではキャラにレアリティが存在しないため、パラメータの差異を作ることが難しい。また、時系列によるインフレが難しく、キャラの需要を作るためにパラメータに依存しないバトルでの魅力が必要となった。そこで代わりとなるキャラの軸を探すことになったが、『メギド72』はこのとき既に運用中のタイトルであったため、途中から新規の軸を作ることは中々にチャレンジングな試みになったと早川氏は当時を振り返った。

一般的にこれらの問題を解消する方法のひとつとして、属性の概念や竦みによる関係性などが挙げられる。特に、属性の概念は馴染みやすく、ユーザーにとっても分かりやすいというメリットがある。しかし、『メギド72』は既に運営を開始していたため、後付けで作るには運営としても、ユーザーの体感としても面白みに欠けると考えた。そこで、『メギド72』のバトルシステムにマッチした新しいバリエーションの開発が必要となった。

ここで登場したのが、「タクティカルソート」と呼ばれるバリエーションとなる。属性などによるバリエーションでは、タイプが異なるだけで遊び方自体にはあまり変化がないことが多い。しかし、タクティカルソートでは遊び方自体を変えていることがポイントとなる。これによりユーザーの飽きが訪れにくい構造を作ることに成功した。


▲「協奏」は、楽器を携えて戦う姿が魅力的で、ユーザーからも人気の戦術のひとつ。


▲「点穴」は、敵の防御力を無視して攻撃できるため、硬い敵に効果的。「Hボム」は、爆弾が爆発するまで耐える必要があるため、防御能力に秀でたキャラの適性が高い。

上記の通り、「タクティカルソート」が変わるだけで適性の高いキャラが変わるため、必然的にさまざまなキャラの需要が高まっていく。例えば、「ヒーラー」という役割ひとつをとっても、点穴を溜めることができるヒーラーや、爆弾を作れるヒーラーというように、キャラに別の魅力を付け加えることができる。「回復する」という意味ではどちらのキャラも同じだが、選択肢をより広げることには成功しているのではないかと早川氏は話した。

次に、「タクティカルソート」を実装したメリットについて。大きな利点のひとつは、遊び方の軸を変えているため、バトルでの体感が変わることだ。一般的な属性などのバリエーションでは遊びの体感を変えることは難しく、属性を変える目的が「このボスを倒すために必要だから」という強制感のある遊びになってしまう可能性がある。しかし、「タクティカルソート」の場合は、遊びの形質自体が変化しているため、強制感を緩和できるのではないかと考えているという。

また、もうひとつの利点として、一定の数までバリエーションの増加ができることを挙げた。運用中のゲームで「属性がひとつ増加しました」とアナウンスしても、多くの方から喜ばれることは想像しがたいが、「タクティカルソート」であれば、ユーザーに楽しんでもらう遊びのひとつが増えたということになり、一定数であれば増加させることが可能となっている。しかし、ユーザーに遊びとして理解してもらう必要があるため、数には注意が必要であるとも述べた。そのほか、開発コストが増加するというデメリットにも触れている。『メギド72』では、この「タクティカルソート」を通じて年に数回の遊びの変化を起こしているが、かなりの開発工数がかかっているという。

 

前述した通りメリットも多い「タクティカルソート」だが、その運営には注意も必要だと早川氏は述べる。扱ううえでの難易度やダメージ量など、絶え間なくバランスをチェックしていく必要があるからだ。例えば、ダメージが低く、扱いが難しいタクティカルソートはユーザー体験が悪く何らかの対応が必要となる。逆に、ダメージが高いのに扱いやすいタクティカルソートはユーザーから好まれるが、いわゆる一強の状態に陥ってしまう。メタが回らなくなるため、基本的にリリースしてはいけないと説明した。



上記のグラフの縦軸は難易度を表現しているため、ユーザー成長に繋がっているかの確認なども行っている。戦術ABは序盤に使ってほしいタクティカルソートのため、序盤に入手しやすくなっているか、ゲームを始めたばかりのユーザーがこのタクティカルソートを好んで使っているかをチェックしている。冒頭で触れられた初期サイクルの改修はまさにこの対応があり、序盤に戦術ABのデッキパーツを獲得しやすくした。

逆に、タクティカルソートの扱いが難しいところに属しているものが適切に配置されているかもチェックしている。戦術ABを触っていたユーザーが難易度の高いタクティカルソートにチャレンジし、成長を遂げられているかどうか、これらのデッキパーツの入手難易度が適切かなどを確認しているという。また、各タクティカルソート間の強さが適切であるかの確認も行っている。例えば、戦術ECはほぼ同等のダメージ量となるが、扱いやすさがCの方が簡単なため、大部分のユーザーは戦術Cを選択する。これは、戦術FDの関係にも同じことが言える。この場合、いずれかのタクティカルソートに手を加える必要がある。そこで、戦術EFのダメージ量を上げる方向で調整したのが以下のグラフとなる。


▲こういった調整を行う方法として、キャラの追加や「霊宝」と呼ばれる、いわゆる武器の追加でゲームをアップデートしている。

このように、日々タクティカルソートのマッピングを更新してゲーム環境がどのようになっているかを観測している。

ここまでかなりキャラの性能における話を続けてきたが、続けて、その理由を説明すると早川氏は語る。一般的にキャラの需要を作るという意味では、バトル以外のところでも魅力を作れるが、『メギド72』では以下の差分で明確に区別をして考えていたという。



『メギド72』が、性能に対する魅力に特にフォーカスしてきた理由は、「こだわり」の運用をベースに先ほどの区分けで考えたときに、キャラの魅力だけで売上を立てることは極めて難しいと判断したため。キャラの魅力で購買を促す際には、売上の高いキャラの登場機会を増やしたり、衣装の数を増やしたりすることが常套手段となる。しかし、『メギド72』の「こだわり」の運用では、その手段を取ることはできない。そこから別の手段を模索することはあまりにも勝算が少ないため、性能の魅力を最大の魅力としてユーザーに届けることを考えているという。

話は少し戻り、「タクティカルソート」で需要の軸を作ったとしても、それはまだ軸でしかない。実際にユーザーが「キャラが欲しい」と思うためには、どのキャラが何の「タクティカルソート」を持ち、どんな技を持っているかを適切に設計しなければいけない。「このキャラとこのキャラの組み合わせでもっとダメージが出せそう」、「コンテンツが拡張されたときに、このキャラを持っておきたい」という感情をユーザーに持ってもらうためにもゲーム環境の把握が必須となり、そのときのゲーム環境にマッチするキャラをタイムリーにリリースしていく必要がある。



しかし、この「タイムリー」という部分が非常に難しい。制作期間の長期化により、設計時とリリース時のタイミングがずれてしまい、リリース時に環境にマッチしていない可能性があるためだと川上氏は解説した。



ポイントとなるのは、リリースから約1年半前の「キャラクター排出計画」のタイミングで、既にリリース時のメタ環境を想定してキャラの選定や技の候補、タクティカルソートなどを決めておく必要があるということ。リリースまでの期間が長引くほど、外部要因が多く入り、設計確度が落ちてしまうため、これらをサポートするために多種多様な分析を実行している。実際に行っている分析の一例は以下の通り。



前半のまとめとして早川氏は以下のように述べた。

『メギド72』にはキャラクターの平等性という「こだわり」がある。その中で、この「こだわり」を運用していくことが大事なポイントとなる。「とがり」となる「こだわり」を運用し続けることで、『メギド72』はヒットタイトルになることができたという。

また、『メギド72』では「こだわり」をカバーするために多種多様な分析を実行してゲームデザインに反映している。結果として、このようなサポート体制を取れたことがタイトルに対して大きな貢献に繋がったと考えているとして締めとした。


■マーケティング施策での「こだわり」実践例

ここからは魏氏が登壇し、いくつかの事例からマーケティング施策での「こだわり」を紹介した。


▲これまで数々の施策を実施してきたが、本講演では2019年の「ゲーム大賞優秀賞」受賞施策と、2020年の3回目のハーフアニバーサリーに実施した「メギドミー賞」施策について、当時、どのような考えで施策実施に至ったのかを解説していく。

・「ゲーム大賞優秀賞」受賞施策(2019年)
ゲーム大賞とは、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が開催している、その年の優れたゲーム作品に授与される賞である。『メギド72』は、2019年の受賞作品の中で唯一のスマートフォンゲームとなった(関連記事)。

まず始めに魏氏は、『メギド72』がゲーム大賞 優秀賞を受賞する前の状況を振り返った。


5月のGW施策や7月のハーフアニバーサリーで大きな山を作ることには成功し、アクティブユーザー数も維持はできているものの、伸び悩みも見られる状況だった。そんな中、「ゲーム大賞 優秀賞」受賞のお知らせが届く。

そこで、「ゲーム大賞 優秀賞」受賞を活用することで伸び悩んでいる状況を打破していきたいと考えた。しかし、訴求自体がニッチということもあり、社内では実際にこの訴求を活用することに対して不安視する声も多く挙がっていたという。



そこで、当時プロデューサーを務めていた宮前氏にとことん相談することに。リスクがあることは分かるが、今回を逃したら2度とこのチャンスはやってこないことや、他に事例がないことは関係なく、『メギド72』として事例を創出する気持ちが大事という結論に至った。



訴求可能な期限は、2020年の「ゲーム大賞優秀賞」が発表されるまでの1年となる。せっかく使い倒すのであれば、今まで『メギド72』を支えたユーザーだけではなく、これから触れることになる新しいユーザーにも届いてほしいという想いから、『メギド72』らしい「ゲーム大賞優秀賞」受賞訴求の活用方法を以下のように考えていった。 



本施策において大きく意識ポイントは以下の2つ。

既存のお客様への感謝
苦しい時期を支えてくれた全てのユーザーに対しての感謝を、施策を通して伝えた。今までプレイしたゲームがここまで大きくなったことを伝えるために初の交通広告を実施したり、受賞したことを一緒に喜んでもらえるためにゲーム内外のキャンペーン施策やプレゼント施策を実施した。上記を通して全体的な「お祝いムード」を一緒に創出した。

訴求効果を踏まえた施策展開
「ゲーム大賞優秀賞」受賞を使い倒すとはいえ、実際に訴求効果が出なければあまり意味はない。そこで、まずはデジタル広告を基軸に訴求テストを細かく繰り返し、実際の数値面での効果を分析。ブラッシュアップを続けた結果、この訴求は有効であるという判断に至ったため、年末年始の大型マーケティングに関しても、それ以外の軸ではなく「ゲーム大賞優秀賞」受賞の訴求を軸に添えて展開していくという意思決定をしている。そこで、新規ユーザーに対しては「何か受賞した凄そうなゲーム」という刷り込みを行いたいとの想いがあったと魏氏は語った。

ここで魏氏は、本施策を実施した際の数値面での改善率を発表した。


▲これらの結果から、「ゲーム大賞優秀賞」受賞の訴求は大きな効果があったと言える。

20198月までと比較してアクティブユーザー数の水準は一段階向上。既存ユーザーの盛り上がりを維持しつつ、訴求効果を分析して大型マーケティングにも活用した結果、非常に多くの新規ユーザーの流入にも繋がったと本施策の結果をまとめた。



本訴求を通して「このタイミングでしか使えない訴求」や「効果が出るタイミングが一時的な訴求」に対して、それをどうやってリアルタイムに自タイトルに取り入れることができるかを考えて実行に移すことが運用型のゲームマーケティングとしては非常に重要なポイントになると述べた。

・「メギドミー賞」施策(2020年)
「メギドの日」とは、他タイトルのハーフアニバーサリーと同様の立ち位置で、ゲーム内外で多くの施策が展開されている。1年目は「#メギド愛」を活用した施策、2年目はもう少し踏み込んで「Twitter」を基軸とした施策展開に。3年目は過去2回の成果を踏まえて大きく踏み込んだプロモーションを実施した。本講演では、この3回目の話を展開していく。

ここで、改めて3回目の「メギドの日」前の状況を振り返った。


2019年~2020年の年末年始にかけて、先ほど挙げられた「ゲーム大賞優秀賞」受賞訴求で大きな盛り上がりを作ることができたが、それ以降に関しては大きな山を作ることができないという状況に陥っていた。

そこで、72日のハーフアニバーサリーのタイミングで年末年始と同様の規模感の盛り上がりを作りたいという想いで施策の検討を進めた。その中で誕生したのが、以下の「メギドミー賞」である。

【「メギドミー賞」って一体どんな企画?】
4月後半から72日までの約2.5ヶ月にも及ぶユーザー参加型投票コンテンツ
・メギドミー賞は合計で10部門!『メギド72』を彩るイベント、メギド、ボス、NPCキャラクター、音楽など複数の賞カテゴリに分かれている
・ユーザーの一次投票、二次投票を踏まえて授賞式(生放送)で受賞者を発表
・外部施策(Twitterや各種記事展開、コンテンツ制作)も複合的に展開


▲これほどのロングスパンで施策展開を行うのは『メギド72』として初のこととなる。612日以降は外部施策も併せて展開し、よりアクセルを踏み込んだ形となる。

次に、企画開始時のユーザーの声を紹介した。



当時、ティザーサイトがオープンしたタイミングでは実施の経緯や詳細の説明をはっきりと発表していなかったため、ユーザーからは戸惑いの声が多く挙がった。しかし、企画終了時のユーザーの声は一変。お祝いや喜びの声で溢れかえる結果となった。



では、本施策でどのようなことをして大きな態度変異を起こすことができたのか。その際に意識したポイントと併せて解説した。

「メギドミー賞」の施策を考えるにあたって、どのようにして実際の式典のような空気感や体感を創出できるのかを徹底的に追及。タイトルを見ると分かる通り、実際にある賞を参考にした。一次投票⇒二次投票⇒授賞式の流れや、それに紐づくPVや外部展開など、リアルタイムに行われている式典の流れを参考にして企画の大きな方向性を決めていったという。



また、最も議論を重ねたところとして「全てのキャラクターにファンがいるため、人気投票のようにしたくない」という部分を挙げた。通常の投票形式のコンテンツではどうしてもキャラに順位が付いてしまうが、全てのキャラにファンがいることを踏まえると、順位が出てしまうことは避けたい。どうやってこの座組のコンテンツで人気投票のようにならないようにするかという点が最も議論を交わしたポイントのひとつとなった。その結果、生まれたコンセプトが以下となる。


▲「好き」から成る人気投票ではなく、「何故その賞に相応しい」のかを一緒に考える審査員的な立ち位置として参加することで、人気投票とは異なる形の参加型コンテンツに仕上げた。

続いて、本施策を通じて最も力を入れたポイントとして、本物の式典らしさを体現するためにPVや生放送といったアウトプットクオリティに「こだわり」を持って制作したことを挙げた。



細部までこだわって作ることによって、企画に対しての没入感や盛り上がり、本気度を4月下旬から徐々に上昇させ、72日の授賞式のタイミングで大きく爆発させるような布石を散りばめたという。次に、そのためのポイントを紹介した。

50種類にも及ぶノミネートPV
各賞ごとにノミネート動画を用意し、合計50本以上のPVを制作。実際に投票を行う際にはユーザーからコメントを募り、それに全て目を通して、いくつかに関してはPV内でも使用している。これにより、選出理由の納得感がより深く生まれ、施策に対してのストーリー性が増したと考えているとのこと。

授賞式のOPEDのサプライズPV
ノミネート動画だけでなく、授賞式においてもよりそのコンテンツに対しての没入感や期待値を創出するために、OPED共にスペシャルPVを用意。EDPVにも、実際のユーザーからのコメントを多数活用し、メギドミー賞を振り返る内容にしている。また、3Dで全キャラを登場させることで、受賞したキャラだけのイベントではなく、全キャラに関係しているイベントであることを意識させる見せ方をしている。

3D空間における授賞式の演出
ノミネートの導入動画では、ゲーム内では見ることができなかった角度からの3Dモーションを多数活用。ユーザーに喜ばれる演出を細かく散りばめている。授賞式パートでは、会場を全て3D空間で制作。キャラも3Dで制作し、動きに関してはモーションキャプチャーを採用した。実際の動きを付けることによって、よりリアルな形でそのキャラたちが臨場感をもって動いているところをユーザーに感じてもらいたくて、この形にしたと魏氏は話した。さらに、より演出にリアリティを持たせるために、本授賞式においてはフルボイス実装で本イベントを実施している。

上記3点のように、ユーザーに喜ばれるだけでなく驚きを持てるようなポイントを踏まえたうえで授賞式の演出を構築。本イベントに全力投球した結果、99.3%の方が「とても良かった」と評価する結果に。これは今までの生放送の中でも群を抜いて高い評価となっている。

特に本施策に関しては、当初の設計部分とそれに紐づくアウトプットのこだわりによって、最初に抱かれていた「この企画って何なんだろう?」という気持ちを、全体を通したストーリー設計と各種クリエイティブでユーザーの期待値を上回ることができたのではないかと推察した。



本施策のまとめとして、実際の効果についても言及。

運営も3年目に入り施策の目新しさがなくなり始めている中で、この「メギドミー賞」については単純なインパクトだけではなく、その施策の背景にあるストーリーや「らしさ」をどう追求できるかを含めて作り込んだ施策となっている。改めてユーザーに背景を含めた細かい作り込みやストーリーをもった施策に関して「応援したくなる」「夢中になってくれる」というところが体感として分かったと魏氏は述べた。


▲上記のグラフから分かる通り、年末年始と同水準までアクティブユーザー数を引き延ばすことに成功し、ゲーム内のKPIとも紐づいた結果となった。

これらの事例は、施策全体を通して軸となる何かしらの「こだわり」を持って行っている。全施策においてこだわりを掲げて運用していくことは非常に難しいが、ひとつひとつに対してそれをすることによって、他のタイトルとは毛色が違う、形式にとらわれない『メギド72』らしさがある施策を継続的に打つことができたのではないかと魏氏はまとめた。

開発領域と同様に、マーケティング領域でも「こだわり」をそれぞれの施策に落とし込んで運用していくことが非常に重要だと述べて講演の締めとした。 



(取材・文 編集部:山岡広樹)

 

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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