【インタビュー】ゲーム業界の人材活用に革新をもたらす「人材デジタルダッシュボード」 シンワークス岩本真吾氏が語る開発現場の働き方の問題とは

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ゲーム業界のHR事業に特化した新会社「シンワークス」が4月1日より始動した。同社は、新しい働き方と人材活用を支援する「人材デジタルダッシュボード」を主力サービスとしている。設立からわずか8カ月ほどだが、すでに大手ゲーム会社が採用するなど業界内でも高く評価されている。今回、創業者の岩本真吾氏と、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 副代表理事 加藤茂博氏にインタビューを行い、会社設立の経緯やサービスの特徴、ゲーム業界に特化した理由について話を聞いた。

 

▲右から岩本真吾氏(代表取締役社長)、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会加藤茂博氏(副代表理事)

■人材デジタルダッシュボードという新しい働き方を支援するサービス

――:まず、起業の経緯についてお伺いしてよろしいでしょうか?

私はこれまで2社の創業期に関わってきました。最初にCSKに入社してから、ちょうど2000年前後にブロードバンドでドリームキャスト事業が展開されるのを見て、ゲームはネットワークでプレイする新時代が来た!とIsao社に出向しました。そのまま転籍して、課金決済事業から、オンラインゲームの運営受託、データセンターでのサーバー運用・クラウドなどに携わってきました。

次のタイミングが2010年前後で、スマホの出現するなかでゲーム業界の中で異業種からの人材流入・還流が激しくなってきた時代に2011に初めての起業。そして時代の変化もあり人材も紹介・派遣ばかりでなく、新しい働き方を支援する「シンワークス」を2021年4月に立ち上げました。

――:2000年前後のドットコムブーム、2010年前後の東日本大震災・スマホ浸透期、そして今回の2020年コロナとDX期、だいたい時代の切り替わりのタイミングで創業されているのですね。

そうですね。時代の変化を読んで、新たな潮流に特化した会社を立ち上げるのが一番よいと判断しました。環境変化のポイントでいうと、下記の4つだと思っております。
 

ゲーム業界に新しい人財ポリシーが求められる時代がくる4つの構造変化
1. 上場基準のガバナンスコードの変化

2. コロナによるリモートワークの常態化
3. 人材派遣法の改正
4. 中国・韓国資本の日本開発会社設立による競争激化

人財デジタルダッシュボードがゲーム会社に必要になる

この4つに対応するサービスとしてシンワークスでは「ゲーム業界用人財デジタルダッシュボード」というゲーム業界に特化したサービスを開発しました。負担をかけずコンディションの可視化を可能にするため、ゲームの開発ツールと人財可視化ツールを一体化した独自の可視化メソッドを開発。開発を続けることでプロジェクトの現状を可視化して全体の開発スケジュールの進捗確認に加えて、チームや個々人の生産性やリモートワーク下でのモチベーションを可視化します。同時に最適な配置や個々の人材キャリアもサポートするという優れた仕組みです。

可視化の部分でいうとゲーム会社でもパルスサーベイ(簡易的に繰り返し実施する調査、毎日の精神状態をクリック報告するなど)等で各自の「満足度」を申告してもらい、同時にRedmineのようにプロジェクト別のガントチャートでタスクごとの進捗や「生産性」も可視化します。この満足度/生産性の両面を、チーム単位/部署単位/会社単位で定量的かつ定期的に計測する結果、浮かび上がってくるのは「関係値」のファクターなんです。上司部下、チームや会社全体の関係性がうまく潤滑しているかどうかが大事なところです。

 

――:関係性というのは可視化できるんでしょうか?こういったサービスの難しいところは、把握しようとすればするほどスタッフ自体が何か記入したりと負担が多く、計測コストが結果に異なる影響を及ぼしてしまいます。

関係性自体は質問しても正直に話してもらえないことも多いのですが、メールやチャットなどコミュニケーションのログを解析するだけで、関係性の手がかりとなるデータを入手することも可能です。部署・プロジェクト単位での満足度/生産性の履歴が積みあがってくれば、経年的な定量指標によって人がうまく活かされる/活かされないマネジャーの巧拙が浮かび上がります。「このプロデューサーは女性スタッフととにかく相性悪い」とかですね。

現状のパフォーマンスは本人の能力だけでなく、上司との相性による影響もかなり含まれています。そういった時、プロジェクトの中で閉じてその合わないスタッフを辞めさせてしまうより、経営陣や人事部が拾い上げて別のチームに配置し直すだけで、嘘のように活躍する社員も出てくるのです。現在のチームや上司の評価だけを正とせず、科学的に相性を見極めながら再配置を行うことは、最もコストがかからずパフォーマンスを引き出せる投資の一つなのです。

リクルート、ソニーなど、社内が活性化している企業では社内異動制度が必ずと言って良いほど導入されているものです。上司の許可なしに異動申告が出来て、「マネジメントは減員・増員など人材資源の調達の責務を負っている。」と肌で感じることは上司にとってスタッフが部下ではなく「人財」であることを認識させ、満足度やキャリア支援にも気を配る活性化した組織を作っていくために非常に重要な要素となります。

――:旧時代に「満足度調査」「タスク管理」「1on1の面接」「人事制度」と個々に対応していたものを、より動的につなぎあわせながら、渾然一体として対応していく仕組みですね。面白いシステムだと思います。

このサービスの構想を各社とディスカッションしていると各社の反応は想像以上に良く、ご案内しているゲーム会社の社長の方からも賛同いただいており、業界の機運が変わってきていると感じます。ゲーム会社はこれまで、作品自体の人気に支えられ、「ゲームに携わりたい」という応募者に恵まれ、人材調達に関して他業界より人を集めやすい時期もあったかもしれません。その分限られた人財資源を活かしきるということをせずにやってこれた企業も少しあったように感じています。

――:それでは、ゲーム業界はまだ人材活用の戦略的な余地が大きいということですか?

はい、そう感じています。20年以上ゲーム業界にお世話になっていて、業界が構造的に変化する中で、IPの開発やマネジメントを支援するだけでなく、ゲーム業界こそ「人財の活用」を革新することによって大きく変われる可能性があるのではないかと。それで、こうしたシステムに行きついたんです。

 

■ステークホルダー資本主義の中で、ゲーム業界が講じるべき人財への施策

――:ダッシュボードサービスに至るまでの、前述の4つの構造的変化についてお話頂いてもよろしいでしょうか?

まず一点目ですが、まだ業界的には大きく注目されておりませんが、22年4月よりプライム市場(東証は今後一部/二部/マザーズではなく、プライム/スタンダード/グロースの3分類への変更を予定している)が出来上がるにあたって、これまで上場企業にはなかった視点が付加されています。それは人材の多様性や育成方針についての開示です。

✔経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
✔管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と計測可能な自主目標の設定
✔多様性の確保に向けた人材育成方針・社会環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
✔人的資本への投資と事業戦略の関係性に関する明確な説明を開示することへの要求

これだけ「人材」について上場基準が踏み込んだ表記をしたのは初めてのことです。変化の根底には、過去の「株主資本主義」に関する大きな転換点があります。株主のための会社というのは株式会社である以上避けられない所有権の問題ではありますが、その社会的公器である「企業」が資するべきは株主だけではない。ユーザーはもちろんのこと、広く社会的な関係者、経営者や従業員のキャリアにも責任を持つべきだ、として「ステークホルダー資本主義」と言われています。従業員も含めたステークホルダーや社会が豊かになるため貢献する役割を企業が果たしているかどうか、をみられる時代になりました。

 

――:これは簡単に言うと、「(利益が出ていても)人材を活かさない企業だと淘汰される」ということなのでしょうか?

BS/PL/キャッシュフローとしての成果部分ではなく、その過程で各ステークホルダーにどんな価値をもたらしているか、それは社会全体のサステナビリティに貢献しているか、投資家からも社会からも求められる時代になってきました。取締役会でもよくあるのは、プロパーの50~60代社員のみで寡占されている取締役会です。それで許されるということは、これまでの成功体験に基づいたメンバーだけで経営して行ける。時代の変化や今後の戦略に対する新たな専門性を必要としていないことになります。

作品としてはグローバル向け、女性向けのものを展開しているのに、それに近い経験をもつ女性・外国人・中途の役員・社員で構成されていなければ(正直ほとんどの企業が対象になりそうですが)、いつまでにどういった採用計画で適正な形にしていくかといった改善計画まで問われる時代に入ります。

――:かなり大きな変化ですね。取締役会の件はよく北米発でそうした変化があることは認識してましたが、従業員にまで適用になるのですね。

これまでは社員満足度調査は、あくまで経営と現場のコミュニケーションツールくらいの役割しかなく、そこに改善のコミットメントなど殆どなかった。なんとなくそこに意識ある経営者が経年的に調査するけれど、根本的にそこにどんな解釈をして具体的な戦略を実施していくことはほとんどされていませんでした。しかしこれからは、財務だけでなく、人的資本やESGなど持続可能性など新たな経営指標に関する経営判断ができなければボードメンバーとしての要件を満たすことができなくなります。

――:こちらが②にもつながりますね。コロナでリモートワークになって、より経営陣・管理職はスタッフの状況把握をしにくくなった。把握をしようとすればするほど、荷重管理でスタッフの気持ちが離れている事例もよく目にします。

2点目のリモートワークの常態化は、これまでのような1on1や人事面談といった状態把握の仕組みを無効化してしまう。そこでコンディション把握とタスク管理を併せ持ったような、簡単かつ定期的な現場スタッフとのコンタクトポイントが必要になるのです。リモートが3-4割当たり前の常態でどうやってスタッフの状況を把握するかといったときに、この人財デジタルダッシュボードのようなシステムが機能します。

あわせて、これは前職の経験も踏まえてですが、③の人材紹介・人材派遣についての法改正も大きく効いてきます。正社員化させようという法制化の意図が民間の実態とあわず、とにかく5年正社員化の前に契約社員は4年で終わり、派遣社員も3年で入れ替え、といった状況が増えてくるかもしれません。フリーランスの活用や雇用人材をどう活用していくか、といった視点はこれから否が応でも強くなるはずです。

――:そして最終的に④ですね。日本企業、特にゲーム業界は、競合への異動がそれほど頻繁ではありません。私個人も北米やアジアでゲーム会社を経営する中で3年もすると給与1.2~1.5倍で引き抜かれるということが当たり前でした。

日本のゲームクリエイターの現在の給与水準が妥当なのかはわかりません。今、中国系・韓国系の開発会社が日本で子会社を作り、給与をプラスして雇用、といったことが起きてます。20年間デフレで給与があがらなかった日本の企業の課題が、黒船のように外資競合ができることで一気に表面化しております。

だからこそ、どの日系ゲーム会社も今自社内の開発戦力が満足度高く、かつ生産性も担保して働けているかを気にするようになりました。定点の満足度調査では拾えない、キャリアパスとしても満足させられているかを現場だけでなく経営や人事も巻き込んで考えなければいけない時代になってきています。

 

■あなたのキャリアは会社のものでも上司のものでもない――:ピープルアナリティクスの時代

――:お聞きしていると、「人事制度を変える」といった一面的な対応では不十分な環境変化だと感じ始めています。加藤さんが副理事をされているピープルアナリティクス協会とはどういったものなのでしょうか。

もう30年以上リクルートにいらっしゃっる加藤さんが「人間を科学して最高の状態を保つ分析」として立ち上げた協会です。リクルートも、米国Indeedを買収し、その成長によってグループ全体への期待値が高まってますが、学ぶべき重要な点は多様性です。日本で作ったものを、後からローカライズするのでなく、Indeedは開発段階でその対象マーケットを狙えるような開発チームの多様性を担保している。ドイツ市場もねらうなら開発チームにドイツ人を入れるべきであり、メンバリングからして全然違うんです。「日本は開発チームのメンバーアサインに戦略性がない」ということをまざまざと感じる相違点です。

日本は『推しエコノミー』などにもあるように、ファンが多様化・細分化するなかで様々な面でサービスを展開してファンをつくっている。そうした多様に派生する1つのIPを1つのチームでつくるのでなく、1つのIPを運用するように人財ポートフォリオ自体を考えながら作り方もサービス運営も「チームの多様性を担保する」ように、今後はIP開発・活用戦略と人材戦略も高度に連動していくべきではないかと思うのです。

――:拙著も引用頂いてありがとうございます(笑)。確かに日本語・日本人・男性のみ・プロパーのみという日本の「チームの多様性の低さ・統一性の追求」は他の国での開発チームでは見たことのないレベルですね。このピープルアナリティクスの成功例などは出てきているのでしょうか?

グローバル展開ではないですが、直近の注目すべき例としてヤクルトスワローズがあります。万年6位だったヤクルトが、この2021年に20年ぶりに優勝したのは2018年から継続的にピープルアナリティクスに投資し、日本球界で唯一ホークアイという分析システム導入したことが背景にあります。

ピープルアナリティクスにおいて議論される重要課題の一つは、「上司の評価フィードバックに納得しているメンバーが非常にすくない」という点です。関係性もごちゃまぜになった主観的すぎる評価に不満をもっているメンバーが多く、上司1人の偏見ではなく、データに基づいて科学的に検証しながら評価され、配置され、もっと人が活かされる組織開発ができないか、日本全体に人的資本経営を根付かせられないかといったところに背景があります。

データに基づき人が最大限に活かされる人的資本経営はゲーム業界のみならず、どの業種にも適用できる考え方です。一早く人的資本経営を実践した企業が投資家からも評価されることを示せるような実践的な事例を増やしていく予定です。

――:ゲーム以外のエンタメ業界にも通じる話だと思います。作品・IPありきの資本集約的産業なので、1人1人の労働集約的な生産性に感度が低い。タスクの処理スピードのみを工場のように管理して、満足度×生産性が最大化するキャリアパスを見せるといった動機づけについてはおざなりになってきたな、と私自身も人材業界にいた経験から感じてました。

日本のゲーム業界は徒弟制度が長く残っているケースもときおりみます。人的資本については可能性がある業界だと思います。モバイルゲーム業界の貢献は、アーケード・家庭用の時代の統一的なモノづくりに、異業種の人材を高給で引き抜いてきて、また女性を増やしたことではないかと思ってました。まだまだ女性経営者は少ない状況ですが。

――:私の知っている事例も、イニスさんとかColyさんとか数例ですね。本当に事例が少ないですよね。女性もそうですが、男性であっても管理職なのかプロデューサーなのかの曖昧な人事制度が才能を殺してしまう事例も多いのではないでしょうか。

最後まで前線でいられる事例が、他の業界と比べてもに少ない思います。それまでに成功したプロデューサーには継続してチーム全体で良い作品生み出し続けて頂きたいと思ってます。

今年大谷翔平選手がエンゼルスで成し遂げた偉業は、彼だけでなくマネジメントの勝利でもあります。2018~2020年は怪我も多く、最後の4年目になるかもしれなかった。そうした中で、私はマドン監督の言葉が強く心に残りました。「大谷のキャリアは私のものでも、エンゼルスのものでもない。大谷自身のもの」。データに基づき、客観的かつ本人の意志を汲み取るきめ細かなコミュニケーションで個々人の特性と限界を客観的に見極めていくスタンスがあったからこそ、4年目の奇跡の成功に賭けることができた。

エンタメ業界においてファン形成のメカニズムも変って来ている中で、狭い日本で無理やりヒット確率を上げようと苛酷に働くのではなく、その生態系を豊かにするためにどう人材を入れていくのか、どういう働き方を担保するのか。新たな人材戦略を実現することで、エンターテイメントの価値を持続的に高める環境や仕組みを提供していければと考えています。

 

(聞き手:中山淳雄)

 

■関連サイト

株式会社シンワークス
https://synworks.jp/

会社情報

会社名
株式会社シンワークス
設立
2021年4月
代表者
岩本真吾
上場区分
未上場
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