【インタビュー】なぜマイナビがesports事業をおこなうのか?…「マイナビeカレ〜esports全国大学選手権〜」のキーマンが語る立ち上げ背景とその想いとは

達川能孝 gamebizプロデューサー/TeeL合同会社代表
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昨今、esports市場が拡大基調にある。コロナ禍の影響により、イベントや大会などの機会は少なくなっていたが、オリンピックや東京ゲームショウの開催などにより、再び盛り上がりを見せている。

esports専門企業であるウェルプレイド・ライゼストが上場承認を受けたことも、市場として注目されている証左だろう。

そんな中、マイナビ社とBrave groupの子会社であるバーチャルエンターテイメントより、esportsを楽しむ全ての大学生を対象とした「マイナビeカレ〜esports全国大学選手権〜」(以下、「マイナビeカレ」)を共同プロデュースすることが発表された。

本大会は、両社のアセットを活用し大学生以外にも様々なプレイヤーを対象としたesportsイベントの創造も見据え、esportsマーケットの更なる盛り上げに貢献していく考えにより開催されるそうだ。

マイナビ社といえば、キャリア支援サービスを提供している事業社だと思い浮かぶ人も多いだろう。そんな同社がなぜesports事業に参入を行なったのか。

今回、gamebizでは「マイナビeカレ」のキーマンにインタビューを実施。その参入背景と想いについて話を聞いてきた。


 

人とスポーツに寄り添ってきたマイナビ…esports事業をやるその理由とは

株式会社マイナビ
執行役員 社長室室長
粟井 俊介氏(写真右)

経営企画室
イノベーション推進統括部 統括部長
須山 俊介氏(写真左)


――:よろしくお願いします。まずいきなりですが、マイナビさんがesports事業を行うというのが驚きでした。

粟井まず「マイナビeカレ」の立ち上がる前の話として、マイナビのこれまでについて少しお話させてください。

マイナビが企業として15年ほど力を入れている宣伝領域にてスポーツ分野があります。プロ野球でしたらオールスターゲームの協賛、ゴルフなどでも「マイナビABCチャンピオンシップ」というプロゴルフツアーも開催しています。

これまで、メジャースポーツに限らず、様々なスポーツにて、選手が活躍する場や注目が当たる場へは、協賛・宣伝として関わってきました。

私自身、今年の6月まではマイナビグループで運営している女子プロサッカーチーム運営会社の社長も務めていました。


――:これまでもマイナビはスポーツというジャンルには深く関わりがあったのですね。

粟井おっしゃる通り、マイナビとスポーツの関わりというのは実は歴史が長いという点が、今回の事業におけるキーの一つにはなっていると思います。

須山:マイナビでは、そういった協賛や宣伝の他にも、ベンチャー企業に資本参加をさせていただき、事業促進を行う部署もあります。私が統括している、イノベーション推進統括部という部署になりますが、今回一緒に取り組んでいるBrave groupさんとはこの部署で関わりを持ちました。

他にも、産官学連携を推進する役割も担っています。


――:マイナビといえば、キャリア支援サービスのイメージがありますが、実は様々な事業への参入や出資も行われているのですね。

須山そういったマイナビのこれまでの取り組みがある中で、Brave groupさんに出資したのが2019年からになりますが、そこからマイナビeカレの話が立ち上がっていくことになります。

Brave groupさんが、縁あって、バーチャルエンターテイメントさんと経営統合するタイミングで、”esportsでも何かやっていきましょう!”という話が挙がりました。

そして、マイナビがこれまでやってきた事とも重ね合わせてみると、当社が開催主体として、大学対抗戦みたいなことができたら良いねとなり、社内でも粟井たちに協力してもらいながら形になったという経緯になります。


――:Brave groupさんの動きとマイナビさんのこれまでの取り組みが結びついたのですね。

須山はい。マイナビとしてスポーツ分野の支援に力を入れていること、Brave groupさんのような新進気鋭の企業と一緒に事業を推進すること、産官学連携の取り組みも今までやってきたことが結びついた形となります。

粟井我々も、そこをビジネスにするものがもともとあったというより、Brave groupさんとのつながり、これまでの広告宣伝の戦略的な部分の中で、新しい機軸をつくるという、一つのチャレンジにし得る部分があり、今回、前に進み始めています。


――:Brave groupさんとはどういった話し合いから立ち上がったのでしょうか。

須山esportsの市場が盛り上がりを見せているというのは、もはや釈迦に説法なところだと思いますが、諸外国を中心にマーケットが盛り上がっており、日本も盛り上がり始めています。

プロチームも様々な団体で立ち上がり、それ相応の大会が開催されていたりと、市場の勃興期だと感じていました。

その市場の勃興期において、いろんな競技でもそうですが、プロ競技、アマ競技、大学生から高校生といった、競技人口のピラミッド構造があると思いますが、その構造が今まさにできているときだとBrave groupさんとも話題になり、そこに非常に興味を持ったのがきっかけでした。


――:日本国内でもチームや団体が増え始めてきたと感じます。

須山そんな中、せっかく当社が大学生や若年層向けのキャリア支援もやっているので、そこと絡めた何かができないかと議論することになりました。

そして、私たちでも調べた結果、esportsの領域において駅伝でいう箱根駅伝みたいな存在が、まだ世の中に大々的にはないということを知り、これはマイナビとしてもやる意味があるのではないかとなったのがスタートです。

esportsプレイヤーの大学生が注目を浴びる場をつくることで、彼らの、いわゆるガクチカみたいなところにも寄与できるかなと考えたのです。

※ガクチカ:”学生時代に力を入れたこと”の略称。エントリーシートへの記載や面接時のエピソードとして企業側からも聞かれることが多く、人となりなどを判断する情報として書くことが多い。


――:なるほど、そこから「マイナビeカレ」が始まったのですね。立ち上げ時は社内や学生さんからの反響はどうだったのでしょうか。

須山立ち上げる前に、いろんな学生さんにもヒアリングをしたところ、そういったシンボリックな大会や成果を示す場が少ないが故に、サークルや部活によって温度差があるという悩みはあるようでした。

そういった大会を当社がやることで、彼らの大学のサークルにいる意味とか、目指す意味みたいなことを、アウトプットできたらいいなと感じるようにもなりました。

マーケットが盛り上がっている中で、大規模な大学対抗戦みたいなものが少ない。であれば、これまでたくさん大学生や若年層の方々に接してきた当社が、学生さんにとってそういった大会を開催できたら、非常に腹落ちするのかなと思いました。

実際に、社内でも企画はすんなり通っていきました。もちろん、いくつかの部署が跨ったので、時間は当然かかりましたが、社内でも割と皆が同じ方向に向いているんだなと感じました。


――:当初、話を聞いた際、粟井さんはどう思いましたか?

粟井私は今年の7月に今のポジションに就いて、突然の相談なのですごく新鮮でした。

そして、これまで私たちが行っていた協賛宣伝は、ほとんどがすでに歴史や権威のある大会でした。これから伸びるであろう領域、そのスポーツジャンルにも積極的に支援をしていくということは、マイナビが人のキャリアに寄り添っていく事業をおこなっている以上、スポーツの領域で共に成長していくことは会社としても意味も意義もあることだと感じましたね。

実は、これまでもesports大会のスポンサー提案はいくつかありました。ただ、話題になっているから協賛する、だけではストーリーがないなと見送ってきていました。

同じく支援をするのであれば、当社としても事業としてやっていき、共に成長していくべきだと思いました。

私も須山も共通しているのは、当社に新卒で入社しており、長らく、就職情報事業という、大学生向けのキャリア支援事業におりました。ですから、大学生の励みになることはやりたいという想いも強かったです。

ですから、元から宣伝効果があると思ってやりましたという観点ではなく、マイナビが、なぜesportsを支援するのかというスタートストーリーを描いて、しっかりと出口の部分でも、マイナビがやってきたことにつながる、そういった話でしたので、聞いたときに魅力を感じたというところが大きかったです。


――:確かに、そういった大会をマイナビさんがやるっていうのは、大義があるなとお聞きして納得できました。

粟井しかも、ここ数年ではコロナ禍の影響であり、学生生活も通常と違った制限がかかっている時流です。

クラブ活動、サークル活動の前に、大学で友達をなかなか見つけられないとか。学生生活自体に相当な制限がかかっています。


――:ここ数年でライフスタイルは変容しました。

粟井ライフスタイルが変わらざるを得なかった、という事態でしたね。本当に私も、そばで見ていて、純粋にかわいそうだと感じました。

文化系を含めて、クラブやサークル活動、成果を発表する場が自然と少なくなり、すごい割を食っている世代ができてしまった。

ただ、これはどこかで転換させないと駄目ですし、そこでesportsは良いきっかけになると思います。

実際に、esportsに取り組もうという学生も増えてきています。コロナ禍で影響を受けている学生のことも含めて、何とか、我々としてもできないだろうかという想いも重なってくるのかなと思います。

須山esportsは遊びの枠を超えて、市場として確立しビジネスとしても成り立ちつつあります。esportsが産業化していると言えると思います。

「マイナビeカレ」は運営メンバーとして現役大学生の方に参加してもらっています。

esports業界で働くということはどういうことかを学生さんに体験してもらい、楽しむesportsだけではない一面も知れる機会になればいいなという副次的な狙いもあります


――:ある種の職業体験としての機会でもあるんですね。

粟井どんな業界に関してもそうなんですけど、結構、一方的に見えている情報だけで判断されがちです。関わり方って色々あると思いますので、私たちとしてはesports業界を盛り上げる意味でも、どういう仕事があるのかっていうところも、ちゃんと伝えていけるような大会にしたいと考えています。


――:ちなみに、発表後での学生さんからの反響などはいかがでしょうか。

粟井地方を含めたさまざまな地域の学生さんや学校さんから反響をいただいています。また、esportsイベント「AICHI IMPACT」の運営メンバーの学生さんから直接ご連絡いただき、「マイナビeカレ」の運営メンバーとして加わっていただいています。作る側としても学生さんが主役のイベントにしていきたいという想いがありましたから、非常に嬉しい出来事です。学生さん含めてesportsをさらに盛り上げていきたいですね。


――:学生さんも、そういった場が欲しかったのでしょうね。

粟井そうかもしれません。大規模な大学対抗戦という意味合いだけでなく、地域や大学間の壁を超えた試合の場の創出、練習試合等の手合わせする相手のマッチングという部分も含めて、「マイナビeカレ」という存在が学生さんたちにとって「便利かも」と思ってもらえるものになれば幸いです。


 

学生やesportsを盛り上げるシンボリックな大会にしていきたい

――:お二人からみたesports市場のポテンシャルはどのようにみていますか。

須山潜在的な可能性はまだまだあると感じています。

その顕著なものとして、全国の大学に、esportsサークルが200~300存在しています。

昔はゲームサークルという存在は少なかったですが、みんなで一つの目的があってやる場として形成されていっているのが率直に驚きました。

学生にとってesportsはもはや野球やサッカーと同じ規模にまで成長しているものと思います。

粟井私たちのサービスでは高校生の方々が一番若い世代のタッチポイントになります。例えば、高校の授業の中で探究学習の時間があり、その授業のコンテンツを提供しています。

これまでは“将来のことをちょっと考えないとな”といった場面で、マイナビが登場してくることが多かったんですが、今回は純粋にesportsの大学対抗戦という形で新しいタッチができるポイントだと考えています。

そして、今や小学生や中学生世代もライフスタイルの一部としてesportsを楽しんでいます。高校・大学と進路を進めていく過程においてもそのライフスタイルが継続していくと捉えており、それを踏まえ、「マイナビeカレ」も大学生のみならず対象の幅を広げていければと考えています。

私たちは直接esportsに関する商品を提供する立場ではありませんが、「マイナビeカレ」を起点として「マイナビ」という名称に触れていただくことで、若い世代とのタッチポイントのきっかけになればいいなと考えています。


――:「マイナビeカレ」では学生さんにはどのように取り組んでもらいたいですか。

粟井もちろん第一には気軽にご参加いただきたいです。

ただ、大会というものは1番を決める、頂点を決める場でもあります。当然、勝ちもあれば負けもあって、報われたというところもあれば挫折もあると思うんですよね。

でも、本当に重要なのは、そこにチャレンジして、そこで得られた経験だったりとか、そこで出会った仲間だったり、そういった一連の経験みたいなものをできる貴重な場にしていきたいと考えています。

ガクチカという、よく就職活動のときに聞かれる定番の質問があります。そこで、「マイナビeカレ」にチャレンジしたことで得られたエピソードに基づいて、こういうところが自分は成長したみたいなことが、自然と言えるような場になればいいなと思いますね。

ですので、esportsを楽しむ全ての学生さんに気軽に参加してほしいというのは、まず一つあるんですが、同じく参加するのであれば、いろんなものが得られるように、エントリーするだけでなく能動的に参加してほしいなと思います。

Discordの中でも、大学生のesportsコミュニティをつくり始めたので、そういう場もぜひ活用してもらい、いろんな仲間をつくった上で、体験を磨いてほしいなと思います


――:「マイナビeカレ」の展望についてもお聞かせください。

須山箱根駅伝の話がありましたけど、大学生のesports頂上決戦の第一想起が「マイナビeカレ」になればいいなと考えています

多くの選手が箱根駅伝や甲子園があるから、小学校から中学生、高校生で部活に入って、部活やクラブでやっているみたいなところが一つあると思います。

そういった、アマチュア最後の大会として、最終的に目指せる大会にできれば、100点かなと思います。

私もずっと野球をやっていましたが、甲子園や全日本を目指してやっていたところもあります。

そういったシンボリックなものがあることによって、そのプロセスで学べることって多々あります。本人もそうですし、それを取り巻く友人関係もそうです。

親とか親族も含めて人格形成、人間形成するプロセスかなと思っているので、そういったものに、少しでも「マイナビeカレ」が絡めれば、本当にうれしいかなと思いますね。


――:最後に一言お願いします。

須山大学生の皆さんに関しては、サークルや部活などの団体でなくても参加OKにさせてもらっているので、友達同士や仲間内で、少しでも興味があれば気軽に参加してもらいたいです。

そのプロセスから得られる体験とか、ガクチカという話もありましたけど、そこに少しでも寄与できるような、きっかけになればいいかなと思います。

次に、業界関係者の皆さん向けですが、我々はこの「マイナビeカレ」が、esportsの初めてのタッチポイントになります。少しでもesports業界の発展に寄与できればと、本気で考えています。

その一つが、こういった大会運営もそうですが、esports業界で働くという意識の醸成、機会の創出にも寄与していきたいです。こんな働く場があるんだよということを、学生にも知っていただき、採用の場、働く場として、積極的に発信することによって、結果的に市場発展にもつながると考えています。

その点が、大会をただやるだけではなく、当社がやる意義、意味というのもあるはずなので、今回はできることが限られるかもしれませんが、毎年、何かしらアップデートできるようにしますので期待していただきたいです。

粟井マイナビという会社としては新規事業として、新しいビジネスを創出したいという気持ちも、もちろんありますが、さきほど須山が申し上げたように、基本的に我々が出したメッセージとしては、esportsの発展のため、esportsをもっと盛り上げていけるようにするために、試行錯誤しながら取り組んでいきたいというのが本懐です。

この記事をご覧になった業界関係者の皆さんには、共に盛り上げていきたいと思いますので、なにかご一緒できることがあればぜひお声がけいただきたいです。

我々は、esportsではまだまだ新参者なものですから、共に価値を高めていけるように、頑張っていきたいなと思います。

esportsの潜在力の高さを私たちは確信して取り組んでいますので、共感いただいた方はぜひよろしくお願いします。

 

――:ありがとうございました。

 

 

※大学生向けのコミュニティになりますので、現役大学生以外の方の参加はご遠慮ください。