アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS Japan)は、6月23日に自社サービス「Amazon Web Services(以下、AWS)」に関するカンファレンス「AWS Dev Day 2023 Tokyo」を開催した。本稿では、そこで開催されたセッションのうち、「AIがゲーム開発に参戦! アセット生成やチート対策などの活用方法!」と「ゲーム業界のエンジニアたちに訊く! エンジニアのキャリア論!」の内容をまとめて掲載する。
AIの活用は煩雑な作業の簡略化にあり
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS Japan)は、6月23日に渋谷ヒカリエホールにて「AWS Dev Day 2023 Tokyo」を開催した。このイベントでは、「Amazon Web Services(以下、AWS)」を活用したゲーム開発の環境構築などユーザーから関心の高いテーマにまつわるセッションが実施された。
▲会場となった渋谷ヒカリエホール
まずは、ひとつ目のセッション「AIがゲーム開発に参戦! アセット生成やチート対策などの活用方法!」の内容からまとめていく。
本セッションの登壇者は、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社ソリューションアーキテクトのSheng Hsia Leng氏(以下、レン氏)と中村一樹氏のおふたりだ。
▲Sheng Hsia Lengさん(写真左)と中村一樹氏(写真右)
中村氏は、ゲーム開発の段階を「試作」、「本開発」、「運営」の3段階に大きく分けて、それぞれの段階におけるAIの活用法について語っていった。
まず、試作段階において重要なのは、利益を生まないフェーズであることをふまえて少人数で早く終わらせることであると中村氏は指摘した。
そのためには、開発の効率化がカギとなってくる。開発を始めるにあたって必要最低限のアセットを生成する作業や各種資料作成をAIに任せることで、煩雑な業務に費やす時間を削減できる。
こうしたAIの活用法を考えるうえでひとつネックとなりがちなのが、タスクの種別ごとにAIモデルを作るという従来のAIモデルの作り方だった。
そこで、中村氏はタスクとラベルを関連付けず、ラベル付けしていないデータでの学習によって、ひとつの基盤モデルを複数のタスクに適用させるという基盤モデルを作るという解決策を提示した。
しかし、こうしたAI活用において共通している問題点については当然無視できない。それが機械学習の最初のハードルの高さだ。いざ、AIを導入してみようという話になったところで、機械学習をどのように始め、どのように進めば効率的なのかわからいところが多いのが正直なところだろう。
そこでレン氏は、ワンクリックで機械学習を始められるサービス「Amazon SageMaker JumpStart」を紹介した。すでに構築されたソリューションを搭載しており、すぐにでも機械学習を開始できる。2022年8月にはStable Diffusioonモデルも公開され、画像生成にも活用できる。
レン氏は、ただ学習データをしっかり用意していても、そのままでは同じキャラクターで出力しつづけるのは難しいが、追加学習モデルを選定することでその問題は回避可能であることも付け加えた。
また、レン氏はAI利用においては、いかなるサービスを用いたとしてもプロンプトの重要度が高い点は変わりない。そのため、プロンプトエンジニアという職種に需要が生まれるのではないかという予想も口にしている。
次に、本開発のフェーズの話に移る。本開発では内容物すべてを完成させて、世に出せるレベルまで引き上げなくてはいけない。そのために、作るべきものが大幅に増え、本格的な開発に向けてチームの規模も大きくなる。
作業内容は新規の開発だけにとどまらず、開発段階で発生した不具合の修正も並行して行っていく。そして、大人数で様々な作業にあたるためには、コミュニケーションの機会が増え、情報量も比例して増加していく。
こうした状況を踏まえて中村氏は、本開発において重要なことを「円滑なコミュニケーション」、「情報や問題の素早いピックアップ」、「業務の自動化、効率化」の3点にまとめた。
これらの要素に対するAI活用法としては、「オートプレイAI」による不具合の洗い出しや修正確認、試作段階で作った仮リソースの残存を「画像検知」で探し出したり、作業に必要な「資料検索」を委任することで、開発に専念しやすい環境作りに役立てることを提案した。
その際に役立つツールとして紹介されたのが「Amazon Rekognition」だ。これは、画像や動画の分析に使うもので、数千に及ぶ物体を認識しラベルを付けられる。前述した活用法のなかでも画像検知で大きく貢献する。使用するにあたってコードを書かなくても使用できる点も大きい。
もうひとつ、「Amazon Rekognition」でラベル付けした大量の情報を検索しやすくするために、「Amazon Kendra」というサービスの併用もおすすめしている。複数のデータソースをまとめて検索できるようになるため管理がしやすくなる。
また、資料制作においての手間を省く方法としては自動音声認識サービス「Amazon Transcribe」の活用を推奨している。このサービスに機械学習は必要なく、音声文字起こし機能とAPIの併用で、音声に対応するアプリケーション構築ができる。
つまり、音声データから「Amazon Transcribe」で書き起こして議事録を作っておき、そのファイルを各人が「Amazon Kendra」で参照することで、資料の共有における煩わしさが減る。
他にも、ゲーム開発において欠かせない要素でありながら、少しでも人手を減らしたいのがインフラ管理だ。「Amazon Bedrock」では、基盤モデルを選択するだけで使用できるため、用途に合わせた基盤モデルを適用できる。これらのサービスを利用することで、開発に専念できる環境を作れるとのこと。
開発が終われば、運営のフェーズへと進んでいく。運営フェーズにおいてはユーザーのプレイデータ分析、ユーザーエクスペリエンスの向上、チート対策やバランス調整に焦点があたる。ミッションはただ一点、多くのユーザーにプレイしてもらうことにある。
運営フェーズでのAIの役割は、膨大なデータの管理や、24時間体制の異常検知となる。膨大なログの管理については、人力よりはAIの機械学習に任せる方が作業効率も精度も上がる。
解析、学習に使えるツールとしては「Amazon SageMaker Autopilot」をレン氏は薦めている。モデルのチューニングさえ済んでしまえば、Autopilotでモデル学習を自動化する。その後の分析もAutopilotが実行するので、終わるのを待つだけでよくなる。多大なデータの管理はヒューマンエラーも多くなりがちだ。AIに任せられる環境構築を進めるのが望ましい。
ユーザーからのフィードバックの集積と分析には「Amazon Comprehend」のようなテキストデータ分析サービスが最適。文章を肯定的、否定的、中立的といった階層に分け、複数の感情が混じったものも含めた4つに分類してくれる。ユーザー感情を数値化、視覚化できるため現状の把握がしやすくなる。
最後に、今回紹介したサービスについて以下のようにまとめて、このセッションの総括とした。
「人間なくしてAIの活用はなし」この事実は今も変わらない
続いて紹介するセッションは「ゲーム業界のエンジニアたちに訊く! エンジニアのキャリア論!」。このセッションは、AIの進歩によってエンジニアが職を失うことはあるのかといった点もテーマに挙げながら、現在ゲームメーカーで働くエンジニアたちによるディスカッションが行われた。
登壇したのは、株式会社カプコン第二開発統括システム基盤部 ゲーム基盤室の中島淳平氏。
▲株式会社カプコンの中島淳平氏。
株式会社スクウェア・エニックス第四開発事業部ディビジョンTechシニアマネージャーの鈴木寿尚氏。
▲株式会社スクウェア・エニックスの鈴木寿尚氏。
株式会社MIXI開発本部CTO室 DevRelグループマネージャーの杉田絵美氏。
▲株式会社MIXIの杉田絵美氏。
ガンホー・オンラインエンターテイメント株式会社CTOの菊池貴則氏。
▲ガンホー・オンラインエンターテイメント株式会社の菊池貴則氏。
そして、モデレーターとして登壇したアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社ソリューションアーキテクトの鷲見啓志氏の計5名だ。
▲アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の鷲見啓志氏。
まずは、それぞれの自己紹介を兼ねながら、これまでのキャリア、そしてこれからのキャリアについて聞いている。
中島氏は、元々はゲームクライアントの開発をしていたのだが、Javaを書けるならサーバー業務もできるだろうという強引な理由でサーバー業務をすることになってしまった。そののち、AWSを使ってオンプレからクラウドへと移行したタイミングは、自信にとってもターニングポイントとなったと語っている。
マネージャーといった管理職の道の可能性について聞かれた際には、スペシャリストとしての道を歩んでいきたいという意思を見せていた。
続く鈴木氏は、反対にマネージメント方面でキャリアを積んできている。エンジニアリングマネージャーとして、下のリーダーを上手く媒介することでチームを繋ぐ仕事にあたってきた鈴木氏だったが、CTOとして経営に関わったことを自身のターニングポイントだったと語っている。
チームのリーダーといった立場から、より会社の一員として深い部分のマネージメントをするようになることでギアが変わるように感じたとまとめている。
杉田氏は、海外での経験からひとつの会社に属するのではなく、数年で転職していくことは至極当たり前の出来事であったということ。それ感じるきっかけにもなっているmixiでの西海岸におけるスタートアップ事業が鈴木氏のターニングポイントであるようだ。
菊池氏はターニングポイントについて、開発に関わるようになったニュースアプリ会社での経験すべてであるとしている。また、CTOという役割は会社によって違っているといった旨についても話している。テックに尖った人もいれば、経営に深く関わっていく人もいて、会社にとってCTOのミッションは何であるかを認識することが重要なのだそうだ。
自己紹介も終わったところで、最初に投げかけられた質問は「新しい技術の登場に伴い、キャリアにはどのような影響があるのか?」だ。
これに最初に応えたのは中島氏。最近はこういった話題が絶えなくなっているが、具体的なキャリアへの影響はさほどないと考えているそうだ。技術が進化しているといっても、全く関係ない技術が入ってくるようなことはなく、どこかしらで繋がっている。
既存の技術に結びつくものであればスペシャリストとしては知っておくべきことであり、変わったではなく広がったという視点を持つことの重要性について説いた。
鈴木氏もこの意見にはほぼ同意しながら、エンジニアは新しいものがでてくれば勉強したり、実際に触ってみたりするのが普通であり、それを仕事に活かせるかどうかが大事だと語った。
杉田氏、菊池氏も同様にこの意見に同意し、世間を騒がせているAIであっても共存は可能であり、技術を恐れないことの重要さを訴えかけていた。
この話は次の質問「AIに仕事を奪われることはあるのか? ゲーム業界で生き残っていくためのキャリアアップ術とは何か?」という質問にもかかってくる。
これについても中島氏は、便利なものがでてくれば楽ができるようになるだけであり、今まで大変だった作業をAIに割り振り、人間が担うべき作業に集中しやすい環境ができあがっていくだけだとしている。
鈴木氏は、人間が担うべき作業についてもう少し深く突っ込み、優秀なプログラマーはやりたくないことをAIで自動化して他のことに時間を割くようになるし、そういった環境についていけなくなるのであれば、人に説明する能力を養うだけで社内に席はあり続けると語った。
杉田氏は、昔は使われていなかった差分管理システムを例にあげながら、今はどこでも使うようになったものであり、そのために働けなくなる人が出てくることはなかったと説明する。自分から情報発信もすることでフィードバックを獲得し、何を悩んでいるかを共有することで、この不安は解消されるものであることも付け加えた。
最後に菊池氏も、鈴木氏の話を受けつつコミュニケーション能力の重要さに注目し、チーム制作の力を養う役割は人間にしかできないものであると説明した。また、外部講習の費用を会社が負担する制度を作れば、熱心な人たちは勝手に勉強をするようになっていき、進化する環境に取り残されることもなくなる。最新技術を活用しようという個人の意識と、それをサポートする体制さえあれば、AIに仕事を奪われるような環境にはなりえないとまとめた。