【インタビュー】MAPPA急成長の立役者・木村誠氏が「BLUE RIGHTS」設立…「関係者がよりハッピーになる構造をつくりアニメ業界の発展に貢献したい」
『チェンソーマン』や『呪術廻戦』『進撃の巨人 The Final Season』などの人気タイトルを手がけるアニメプロダクションMAPPAの取締役兼ライツ部部長として、近年のMAPPAの成長を牽引してきた木村誠氏は、4月3日、自身のSNSでMAPPA役員を退任し、新たに「株式会社BLUE RIGHTS」を設立したことを明らかにした。
BLUE RIGHTSは、木村氏がこれまで関わってきたアニメや音楽、商品、イベント、催事、海外展開などの領域で事業を行うとのこと。今回、木村氏にインタビューを行い、独立して起業した背景や新会社の方向性、そして今後のMAPPAとの関わり方などについて話を聞いた。
ライター:ふみ丸
■『チェンソーマン』100%出資など、新たな取り組みの最前線に
――:改めてこれまでのご経歴を教えてください。
木村:元々フジテレビで「ノイタミナ」という深夜アニメ枠のプロデューサーを十数年やった後に、ツインエンジンという会社に2年ほど在籍し、そのあとMAPPAに移籍しました。
基本はずっと企画の開発とビジネス周りのプロデューサーをやってきて、そのノウハウをアニメプロダクションで活かしたらどんなことができるだろうと思ってMAPPAに入り、アニメプロデューサーをやりながら、今までになかった座組を作って試してみるというのを7年ほどやってきました。
例えば『チェンソーマン』や『とんでもスキルで異世界放浪メシ』等をMAPPA100%出資で製作したり、様々なレコード会社様と連携した音楽の企画プロデュースや、「呪術廻戦展」「チェンソーマン展」のような催事のプロデュース、グローバルの番組販売や、海外のゲーム会社との共同企画など、アニメの周辺にあるあらゆる事業をフロントに立って進めて来たので、アニメに関わる主なビジネスは大体一通り触れてきた実感はありますね。それぞれ教科書みたいなものはないので実際にやってきたトライ&エラーがノウハウになってきたと思います。
他にもアニメプロダクションにいながら、色んな方々と向き合ってきたので、出版社、放送局、映画会社、ビデオメーカー、配信会社などアニメに関わる会社様がどういうふうにマネタイズしていて、どういう課題があって、どういう目的で今後やっていこうとしてるのかなど、アニメビジネスの全体像を実体験をもって学んできました。
――:『チェンソーマン』といえば、先進的な取り組みが非常に多かった印象があります。
木村:普通は関係各社がお金を出し合って製作委員会を組んでアニメを作るケースがほとんどなのですが、先ほどの通り『チェンソーマン』などはMAPPAが全費用持ち出しで製作し、全ての権利窓口を運用するという形を取りました。
その権利を運用するためにはライツ担当がしっかり立っていないとできないのですが、僕がMAPPAに入って取り組んだのがまさにライツ事業で、僕が入った当初はライツ部なんて部署はなく一人か二人くらいしか担当がいなかったんですよ。そこから今や数十人の部署になってライツ事業を回せるようになったので、そういった部分は貢献できたかなと思っています。
『チェンソーマン』だと他にもエンディングが12話分毎回変わるという取り組みもかなり注目していただきました。『チェンソーマン』は非常に起伏が激しいタイトルだと感じて、その起伏の激しさを一個のエンディングだとまとめきれないなと思い、全話エンディングを変えることを思い付きました。それを実際に制作を担当するアニメプロデューサーに話したら快諾してくれて、同じようにレコード会社さんにもそのビジョンに賛同してもらって、あのエンディングたちが出来上がりました。
そのうえで各話の内容とアーティストの個性を上手く当てはめていった結果、例えばあのちゃんが"げろちゅー"でお馴染みの『ちゅ、多様性。』で大バズりして紅白歌合戦にまで出たり、今をときめくVaundyさんやEveさん、熱狂的なファンも多いマキシマム ザ ホルモンさんにも参加いただいたりして、今を代表するアーティストが集結するタイトルになりました。
■40代、新たな夢への挑戦としての「BLUE RIGHTS」
――:様々な取り組みを行ってヒット作品も多数出している中、なぜ今回MAPPAを辞めて独立されたのでしょうか。
木村:僕がMAPPAに入った時に思い描いていた形とか、やりたかったことっていうのは、自分的には一旦ここまでかなりいい形で実現はできたなと思っていて。多分MAPPAはこれからも成長するし、していってほしいなと思うんですけど、僕自身としてはMAPPAを出てもっと広く仕掛けていく方が、自分のチャレンジとしても業界に貢献するという意味でも良いかもしれないと思ったのがきっかけです。それが回りまわってMAPPAにも還元できそうだなと。
タイミングに関しては、実は僕は今40歳になりまして。30代は色んなやりたいことを仕掛けていった結果が実って、自分的にはある程度納得感を持って30代を終えられました。そんな中、40代になって次に何をやるべきなんだと考えた時、やっぱり自分のもう一個先の新しい夢が必要で、その夢を40代の10年間かけてやっていくべきかなと思い、実は今年の1月に独立を決めて、2か月で準備して「BLUE RIGHTS」を設立しました。
――:今回設立された株式会社BLUE RIGHTSは、これまでのノウハウを活かした事業を行う会社になるのでしょうか。
木村:そうですね。これまで現場で企画や権利(ライツ)の運用をやってきた知見を活かして、様々な会社様とMAPPAでやってきたことをもっと広くやっていきたいと思っています。
日本のカルチャーがきちんと海外でも認めてもらえる実績が特に近年増えてきてますよね。今年も宮崎駿さんがアカデミー賞を取っていますし、僕がやったやつで言うと『チェンソーマン』オープニングの米津玄師さんの「KICK BACK」がアメリカで日本人初のゴールドディスクというのに認定されたんですよ。
今、日本のカルチャー、特にアニメとかゲームは世界で同時に楽しまれていて、それがより一層評価され、グローバル市場でさらにマネタイズされていくという流れも全然作りうると思っていて、その時に適切な形で作り手にもお金が回っていくような形があるべきで、そういった構造改革を権利(ライツ)という切り口をベースに仕掛けていきたいと思っています。
――:社名の「RIGHTS」もそこから来ているのでしょうか。
木村:そうですね。元々MAPPAライツ事業の部長だったので「RIGHTS」はつけたいなと思っていて、それに何かシンプルな言葉をつけたいと考えた時に「青」がピッタリだったんですよ。
青って「SAMURAI BLUE」「キタノブルー」とかにあるように日本的なカルチャーの色だなというのがまずあって、他にも青臭いとか青二才とか「未熟」を表現する時に使う色ですよね。何か未熟なアイディアをちゃんと形にしていくのが企画なわけで、様々なアイディアや思いをしっかり企画として実現していきたいという思いを込めています。
さらに言えば、そういった日本のカルチャーや自分が手がけた企画を、海を越えて届けていきたい、そんなニュアンスも含んでいます。
たまたま3月の頭にブルーロックっていうサッカー漫画を読んでて、「青ええやん」ってなったのがきっかけです。
――:既に色々な企画や案件が動いているのでしょうか。
木村:大変ありがたいことに、仕事自体は既に色々いただいてまして。コンサルのような仕事を何件か、事業も何件かやるのと、あとはプロデューサーももちろんやる予定です。
独立を公表した際にありがたいことに色んな方からいただいたご相談も、今ひとつずつお話していて、これから具体的な案件としてまとめていきたいです。
MAPPAで自分が深く関わっていた案件などもあり、そこは今調整中ですが、良き形を模索して引き続き仲良くしていきたいと思っています。
■「ノリの良いメンバー」と共に大きな会社にしていきたい
――:中長期的にはどこを目指して行かれるのでしょうか。何となく木村さんの個人プロデュース会社なのかなと思っていましたが。
木村:いや、もうガンガン採用して増資もして大きくしていきたいと思っています!なので独立というよりは起業というか、普通のスタートアップのような動きをしていく予定です。
思えば最初から僕はベンチャー気質だったんだと思います。フジテレビでやっていた「ノイタミナ」も社内ベンチャーみたいなものでした。テレビ局の中にいるのに外部のパートナーと製作委員会を組成して放送枠の維持をする座組みを作ったり、ブランディングするためにラインナップ発表会やノイタミナラジオっていうラジオ番組を作ったり。元々制作請負をしていたアニメプロダクションであるMAPPAで新規事業を立ち上げつづけたのも自分の文脈ではそういった延長線上にある感じですね。やはり資本主義社会に生きているのでベンチャーで大変なこともたくさんあったのですが、すべきと思ったことに背水の陣で全力を尽くしていくのが好きなのかもしれません。
今回も新しい形を作るためにはなにかリスクを取るというか、MAPPAの役員を退任するみたいな立場的には退路を断ってやらないとなんとなくうまくいかなそうな気がして、決断しました。まあ、そういう形は自分自身が割とシンプルな人間なので性に合っているんだと思います。
その上で中長期的にどんなことをやっていきたいかというと、目標は大きく持ちたいと思っていて、やはりアカデミー賞といった大きな賞を取れる作品をプロデュースしたいというのが一つ。新たな座組でもっと広い市場にアプローチして投資家も作り手ももっとハッピーになれるような構造を作りたいというのが二つ。三つ目は、個人的な興味の矛先が色々なところにあるので、色々な新しいことを仕掛けていけるような「ノリの良いメンバー」を見つけて、楽しみながら企画をつくって成功させてその感動を分かち合う、そんな仕事をしていきたいと思っています。鈴木敏夫さんのいうみんなで神輿を担ぐっていうやつですね。
そういう意味でも全て人ありきだと思うので、これから一年くらいかけて「ノリの良いメンバー」を探して、見つかった時に新しくやることを決めるくらいのイメージでいます。
会社の規模で言うと「超デカくしたい」ぐらいの気持ちで、自分の会社で社員を雇って、リスクテイクもした上でちゃんと形にしていくというのをこの会社でもやっていきたいと思います。なので一緒にやってくれる仲間は大募集中です!
――:最後に何かあればお願いします!
木村:やりたいこと面白いことを実現するために人生かけて本気で勝負しにいきます!一緒に仲間になってくれる方がいればぜひご連絡ください!
株式会社BLUE RIGHTSにご興味がある方はこちらまで
https://twitter.com/Kimu777
会社情報
- 会社名
- 株式会社BLUE RIGHTS
- 代表者
- 木村誠