ソニーG、2024年度経営方針説明会を開催…ゲームIPの実写映像化やAIの活用、アニメは自社制作ツールによる効率化やアカデミーによる海外クリエイター養成など

ソニーグループ<6758>は、この日(5月23日)、2024年度経営方針説明会を開催した。説明会では、会長 CEOの吉田憲一郎氏が経営の方向性を、そして社長 COO 兼 CFO の十時裕樹氏が長期ビジョンとその実現に向けた取り組みを紹介した。

吉田氏は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」という Purpose(存在意義)のもと、コンテンツ、プロダクツ&サービス、半導体(CMOS イメージセンサー)という 3 つのビジネスレイヤーにおいてソニーが取り組んできた「クリエイションシフト」について説明した。そして、CMOS イメージセンサーやゲームエンジンを用いた「リアルタイム・クリエイション」について言及し、今後もテクノロジーを通じて人々のクリエイティビティに貢献していくと述べた。

続いて十時氏が、第5次中期経営計画(2024~2026年度)の先にある未来のソニーの長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を紹介した。そして、この長期ビジョンの示す方向性に向けて、IP 価値最大化の取り組みとそれを支える技術基盤の確立を着実に進めるとともに、事業と人材の多様性の継続的な進化により、さらなる成長の実現を目指すと述べた。

ゲームに関しては、「Horizon」や「God of War」などゲームIPの実写映像化によるIPの育成のほか、自社出資するEpic GamesのUnreal Engineの活用、AIを活用したゲーム内字幕の同期化による効率化などを行っているという。Unreal Engineの活用では、バーチャルプロダクションで撮影したミュージックビデオと同じ世界観の中で遊べるゲーム制作も行う。さらにインドでゲーム開発者を発掘、支援し、5本のゲームタイトルの開発も行っている。

アニメに関しては、アニプレックスとCrunchyrollを中核に据えて、高品質アニメの製作と海外配信、そして、傘下のアニメスタジオA-1Pictures や CloverWorksを中心にソニーグループのエンジニアと連携しグループで開発したアニメ制作ソフトによる効率改善や品質向上、そして海外アニメクリエイターを要請するアカデミーの設立などを行っていくという。 

 

■グループシナジーの加速と進化

ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画の3つのエンタテインメント事業は、2023年度のグループ売上高の約6割を占める。2021年のグループアーキテクチャー再編により、グループシナジーも加速した。パーシャル・スピンオフに向けて準備を開始した金融事業については、自立を通じたさらなる進化を、ソニーブランドの利用や各事業との連携強化によりグループ全体で支えていく。

 

■クリエイションシフト

エンタテインメントへの注力に加えたもう1つの経営の方向性として、以下の3つのビジネスレイヤーの軸足を「クリエイション」側にシフトしてきた。

①「感動」に直結するコンテンツ
2018年の EMI Music Publishing の買収を起点に6年間で約1.5兆円を投資し、コンテンツクリエイションを強化。2021年にはアニメに特化した DTC(Direct-to-Consumer)サービス「Crunchyroll」を買収し、アニメクリエイターコミュニティへの貢献を志す。

②「感動」を生み出すプロダクツ&サービス
エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野では、クリエイターと共にエンタテインメントを創造
することに注力。2023年度、ET&S 分野においては、営業利益の8割以上がクリエイションに関わるビジネス(イメージング、スポーツ、バーチャルプロダクション、プロオーディオ等)から創出。

③ クリエイションを支える半導体
クリエイションを支える CMOS イメージセンサーに注力し、過去6年間で約1.5兆円の設備投資を実施。CMOS イメージセンサーは、新たなエンタテインメント空間と位置付けているモビリティの安全にも貢献。

  

■リアルタイム・クリエイション

「リアルタイム」をキーワードに、CMOS イメージセンサーやゲームエンジンのクリエイションテクノロジーに注力していく。

①「瞬間」を捉えるテクノロジー
・グローバルシャッター方式のフルサイズイメージセンサーを搭載したミラーレス一眼カメラ『α9 III』は、今年3月に英・グラスゴーで開催した「2024 世界室内陸上競技選手権大会」でも活用した。
・今年発表した5G 対応ポータブルデータトランスミッター『PDT-FP1』による撮影現場でのリアルタイム写真転送は、迅速な報道・制作を可能にし、スポーツの感動を届けることに貢献。
・デジタルシネマカメラ『VENICE』シリーズの映画業界での採用と、他の映像制作への活用拡大。

② 真正性(Authenticity)を検証するリアルタイム技術
・クリエイターが現実世界を「ありのまま」に捉えることの意義は大きく、CMOS イメージセンサーは画像の真正性を検証することに生かされている。

③ アイデアをリアルタイムで形にするテクノロジー
ソニーが出資する Epic Games の Unreal Engine を、さまざまなクリエイションのプロセスに活用。

・Sony Pictures Entertainment(SPE)の次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」は、映像コンテンツの制作前に、リアルタイムでのクリエイターのビジョンの探索、構想、具現化が可能。
・撮影監督も俳優もその場で映像を確認できる撮影手法であるバーチャルプロダクションの提供。
・現実空間に3D コンテンツを重ねながらコンテンツ制作や編集ができる没入型空間コンテンツ制作システ
ムにより、没入感のある制作体験を提供。
・北米のプロスポーツリーグの「ライブ」の場でも、現実の選手の動きをトラッキングし、リアルタイムで3D アニメーション化することで、新たなファンの裾野を広げる。

  

■長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」

今後のテクノロジーの進化を見据えながら、10年後のソニーのありたい姿を描いた長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を策定。

▼「Creative Entertainment Vision」における3つのフェーズ:
① テクノロジーを活用し、フィジカル、バーチャル、時間といった次元を超え、世界中のクリエイターの創造性を解き放つ
② 境界を超えて多様な人々や価値観を繋げ、熱量の高いコミュニティを育む
③ クリエイターと共に、想像を超えたわくわくするストーリー性のある体験を作り、感動の新たなタッチポイントとして世界中に広げる

 

■IP 価値最大化に向けた現在の取り組み

「Creative Entertainment Vision」が示す方向性に向けて、現在、さまざまなエンタテインメントカテゴリにおいて IP価値最大化の取り組みを進めている。

① IP の創出
▼アニメ
・ 日本のソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)傘下のアニプレックスによる、高品質な作品の制作。
・1300万人超の有料会員を抱える Crunchyroll を通じた海外配信。
・ アニプレックス傘下の制作スタジオ A-1Pictures や CloverWorks を中心に SMEJ、ソニーグループのエンジニアと連携して開発中のアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」を通じた、制作環境と効率の改善、作品品質を向上。
・ アニプレックスと Crunchyrollを中核に、業界とも連携して海外のアニメクリエイターを育成するアカデミーの設立検討を開始。

 

▼映画
・ SPE 傘下の Pixomondo が Epic Games と連携し、バーチャルプロダクションなどの技術を駆使できる映像クリエイターを育成。

▼音楽
・ SMEJ 所属の、小説を音楽にするプロジェクトから誕生したアーティスト「YOASOBI」など、ユニークなアプローチによる新たな IP の創出。

▼スポーツ
・ Hawk-Eye Innovations のトラッキングシステムによるプレー中の選手の骨格などのデータの取得と、Beyond Sports の技術によるリアルタイムでの3D アニメーション化を通じた、新たなエンタテインメントコンテンツの創出。

② IP の育成
▼アニメ
・ クリエイターをたたえ、アニメ IP と文化をファンとともに育てていく Crunchyroll Anime Awards は、過去最高の3400万以上の投票数を記録(2024年)。

 

▼ゲーム / 映画
・ PlayStation Productions によるゲーム IP の実写映像化。「Horizon」「God of War」などを今後公開予定。

 

▼音楽
・ 熱量の高いファンが新たな文化を創り出すファンダムアーティストを育成し、ファンコミュニティを拡大。

③ 境界を超えて IP を拡張する「IP360」
▼ゲーム
・「アンチャーテッド」などのゲーム IP をロケーションベースエンタテインメント(LBE)に展開。

▼音楽
・ グラミー賞を受賞したラッパー、シンガーソングライターの Lil Nas X が初のワールドツアーに臨む姿を記録したドキュメンタリー『Lil Nas X: Long Live Montero』の制作。
・ SPE などによる、各メンバーの視点からビートルズの歴史を振り返る伝記映画4本の同時制作。

▼全カテゴリ共通
・ LBE:ソニーの IP と技術を掛け合わせた、没入体験を提供するアトラクションを世界各地で展開。
・ マーチャンダイジング:IP をグッズ化し、ファンの愛着を高める。グループ間連携も加速。
・ モビリティ:センシングデータ等から搭乗者や周辺環境を把握して提供するエンタテインメントコンテンツや音響技術を活用。車内をパーソナライズしたエンタテインメント空間とし、移動体験の価値を向上。

  

▼パートナー企業の IP 展開に対する貢献
・ Crunchyroll Games がパブリッシングを行うモバイル RPG『Street Fighter:Duel』
・ 実在のオブジェクトを高品位な3D モデルに変換する「ハイクオリティスキャンソリューション」を活用し、「ガンダムメタバース」内へスキャンガンプラを展示。

 

④ IP 価値最大化のグローバル展開:多様な文化的背景や地域に根差した魅力を持つクリエイターをサポート
・ インドの有望なゲーム開発者を発掘、支援し、世界中に魅力的なゲーム体験を届ける「India Hero Project」において、現在、5本のゲームタイトルを開発中。
・ アフリカでのエンタテインメント事業を育成するために設立したコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund: Africa」。新興国での投融資活動をしている国際金融公社とも提携。

 

■IP 価値最大化を支える技術基盤

クリエイターが IP 価値最大化を高品質かつ効率的に行うために重要な技術基盤が、センシング及びキャプチャリング、リアルタイム3D 処理、AI 技術及び機械学習。ソニーの強みとして研究開発・応用を進めており、将来的にはスピーディーかつ低コストに IP を幅広いファンに届けられるソリューションの構築を目指す。また、IP 価値最大化の取り組みをより効率的に行うために、グループ共通のエンゲージメントプラットフォームの構築も検討する。

① センシング及びキャプチャリング
・ボリュメトリックキャプチャスタジオは、フォトリアルな再現が可能で制作自由度も高いため、映画などの複雑なアクションシーンで使われている。今後はグループ各社で蓄積した3D アセットの組織横断での活用と、外販を検討。

② リアルタイム3D 処理
Unreal Engine を軸に Epic Games との連携を深め、バーチャルプロダクションで撮影したミュージックビデオと同じ世界観の中で遊べるゲーム制作のほか、CG のショートフィルムをリアルタイム制作する実証実験を実施。

 

③ AI 技術及び機械学習
・『Marvel's Spider-Man 2』では機械学習を活用し、ゲームに特化した独自の音声認識ソフトウェアを使
い、一部の言語において、登場するキャラクターのセリフに合わせて自動で字幕のタイミングを同期。これにより、字幕の制作工程の大幅な短縮を実現。
・インドにおける、映像コンテンツの吹き替えや翻訳の工程短縮の研究開発。

④ エンゲージメントプラットフォームの発展
・強固なネットワークサービスを確立している PlayStation Network のネットワーク基盤をベースとしたアカウ
ント、決済、データ基盤、セキュリティなどのコア機能を、拡大を続ける Crunchyroll に展開することで、ソニーグループとしてのエンゲージメントプラットフォームへの発展を計画。
・ソニーグループ全体の各種サービスの ID 共通化も進めるほか、モビリティや LBE などに向けたグループ内の新規ネットワークサービスの展開をサポートしていき、将来的には、ファンエンゲージメント特化型の共通プラットフォームとして、広くエンタテインメント業界で活用されることを目指す。

 

■多様な事業と人材による成長の実現

ソニーは、多様な人材が集まり、異なる属性や経験を持つことを強みとしてきた。M&A を通じて、エンタテインメント事業を中心に新たな考え方や知見を取り入れている。また、外国籍役員比率や女性管理職比率は、年々増加している。今後も、事業と人材の多様性を継続的に進化させ、長期視点での価値創出とさらなる成長の実現を目指す。

 

ソニーグループ株式会社
https://www.sony.com/ja/

会社情報

会社名
ソニーグループ株式会社
設立
1946年5月
代表者
代表執行役会長CEO 吉田 憲一郎/代表執行役社長COO兼CFO 十時 裕樹
決算期
3月
直近業績
売上高及び金融ビジネス収入13兆207億6800万円、営業利益1兆2088億3100万円、税引前利益1兆2686億6200万円、最終利益9705億7300万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
6758
企業データを見る
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)
https://www.sie.com/jp/index.html

会社情報

会社名
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)
設立
1993年11月
代表者
暫定CEO 十時 裕樹
企業データを見る
株式会社アニプレックス
https://www.aniplex.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社アニプレックス
設立
1995年9月
代表者
岩上敦宏
決算期
3月
直近業績
・売上高:2062億2200万円(前の期比36.6%増)
・営業利益:534億5300万円(同81.9%増)
・経常利益:537億5100万円(同84.2%増)
・最終利益:369億3600万円(同100.5%増)
上場区分
未上場
企業データを見る
Crunchyroll(クランチロール)

会社情報

会社名
Crunchyroll(クランチロール)
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