【コラム】XR/メタバースは死んだのか? 「XR Kaigi 2024」の現地取材から読み解く


「全然、流行らないじゃん!」

そのように冷笑されつつある、XR/メタバース領域。

ガートナーのハイプ・サイクルでは、2023年8月段階でメタバースは幻滅期に突入したとされている。

筆者も数年間、同業界を取材してきたが、個人的には「フォートナイト以降のメタバースの鈍化」「アフターコロナの”脱”オンラインの流れ」など、気がかりな部分は多い。



(心の声)
「いや!そんなわけがない!幻滅期なんて言わせておけ!」
「きっと現場の人たちの意見を聞けば、そんなの払拭されるはずだ!」

そんな自分の直感を信じて、東京ポートシティ竹芝で開催された国内最大級のXR/メタバースカンファレンス「XR Kaigi 2024」(2024年12月11日(水)~13日(金))を取材した。

来場者に質問ーー「幻滅期」を脱するには何が必要か?

出展者や来場者に「どうなるとXRが普及して、メタバースが『幻滅期』から『生産性の安定期』に転換するか?」という質問をしてみた。

出展者の声
■自社ではXR関係のデバイスを作っているが、普及にはコンテンツの力が必要だ。誰もが楽しみたいような面白いコンテンツが必要だと考えている。キラーコンテンツが出てくることで、XR/メタバースはtoCに広く普及するだろう。

■XRとメタバースは切り分けて考えるべきだ。XRデバイスがtoBに普及したあとにコモディティ化が進み、製品の価格が低くなることで、toCにも普及するだろう。メタバースは通信制の学校のホームルーム、映画館での音楽ライブのパブリックビューイングなどで活用されると考えている。

来場者の声
■「幻滅期」と言われるが、現状の技術的にも今ぐらいの盛り上がりが妥当だと考えている。2021年にマーク・ザッカーバーグ(Meta社)が大風呂敷を広げ過ぎた。

■大学生時代にパンデミックを経験して、XR/メタバースにハマり、就職先を同業界に選ぶ人も出てきた。XR/メタバースのネイティブ世代が業界に入ってくると「幻滅期」を脱せるだろう。

toBからtoC視点、ソフトウェアからハードウェア視点まで、様々な声があった。

ここからは現場の一次情報を咀嚼しつつ、XR/メタバースのこれからについて考察する。また出展者から指摘があったように、本稿ではXRとメタバースを区別して取り扱うことにする。



メタバースが広がらない理由ーーアバターの「好み」で界隈が分断している?

筆者はメタバースをその文脈に合わせて、「コミュニティ×SNS文脈」「Web3.0×NFT文脈」「ゲーム×3DCG文脈」の3つに分類している。

経験上、これらを混同すると、論述の抽象度が高くなると考えているので、本稿におけるメタバースは「コミュニティ×SNS文脈」に限定する。

メタバースは“国境”どころか“界隈”すらも越えない?
とある出展者から「日本のメタバースといえば、アニメ調のアバターが一般的だが、海外では現実的な人間のアバターや動物などのアバターが人気だ」という情報を得た。

つまり、日本と海外では、好みが異なる。

また「現状のメタバースは、仲良い人たちがさらに仲良くなるツールになっている」と話す出展者もいた。個人的にこれには物足りなさを感じる。

「メタ(Meta)」に「超越」という意味があるように、筆者はメタバースに対して、言語や国籍を超えた「国境を越えやすい」コミュニケーションツールになることを期待していた。

とはいえ、私たちはX(旧:Twitter)などのSNSで「異なる界隈が繋がることによるハレーション」を何度も経験してきたので、実はこれからは(現状のメタバースのように)徹底的に界隈を分断させるコミュニケーションツールのほうが必要とされるのかもしれない。

メタバースが目指すべきはスパイダーバース?
メタバースが小さな共同体の中だけで使用されること自体は否定されることではない。

例えば、不登校の学生が社会復帰の機会としての教室メタバース、身体障碍者がライブやテーマパークを体験するためのイベント型メタバースなど、特定の利用者に向けたセーフティネットとしての用途も意義深い。

メタバースが「共同体の分断を生む、閉じたコミュニティツール」として重要な役割を持つことは認めつつも、筆者は、将来的なメタバースが「共同体を繋ぐ、開けたコミュニティツール」になることを諦めたくはない。

ただ、メタバースが「共同体を繋ぐ、開けたコミュニティツール」として発展するためには、いくつかの条件と段階が必要に思えた。まずは「国」「趣向」「界隈」などをセグメントした上で、それぞれのユーザーに合わせた(アバターデザイン、UI/UX、世界観などの)最適化が必要だろう。

その次の段階として、国境や界隈を越えたメタバースの覇権争いが始まり、企業買収と法整備を経て、複数のメタバースが合併・統合されることを期待したい。そうやって「1つのメタバース」になったときこそが、真のメタバース元年なのかもしれない。

それは夢物語かもしれないが、是非とも見てみたい。

「1つのメタバース」が生まれる上で、特に障壁となりそうなのが、統合されたあとの世界観のデザインだろう。

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)、『レディ・プレイヤー1』(2018)のような、統一感のないデザインのアバターが同居しても、違和感とならない神がかり的なバランスの世界観でないと、ユーザーは冷めてしまうだろう。



XRは“流行”から“普遍”へーー製造業と謎解きゲーム

流行り廃りが激しいメタバース業界ではあるが、その一方、XR業界は地に足がついており、toB領域においては着実に広まっているようだ。

例えば、レノボ・ジャパン合同会社のエンタープライズ仕様ハイエンドVRデバイス(ThinkReality)は自動車メーカーを中心に検討されつつあり、NTTコノキューデバイス社の眼鏡型デバイスは工場現場の作業支援に活用されつつある。

また、toCの実装例も増えてきた。

2022年、あべのハルカスの展望台(ハルカス300)で実施されていた「ハルカスバンジーVR」(VRゴーグルをつけて、展望台から落ちる体験ができるVRアトラクション)は、現地の体験を向上させていた。

新宿駅周辺を舞台にしたXR×謎解きゲームも実施されており、今後は、脱出ゲームやTRPGとの相性も検討されるだろう。世界観が重要視されるボードゲーム的なコンテンツとXRの相性は良い。

特にTRPGにおいては、プロテウス効果によって「ロールになりきる」が促進され、プレイ体験は格段に向上するだろう。

また会場内では「XRが広がるためには、デバイスの普及率がネックである」「デバイスが普及するためには、キラーコンテンツが必要である」という意見が多かった。

VR対応のコンテンツ制作には通常の数倍のコストが掛かるともされているので、撮影手法の進歩と二人三脚なのかもしれない。



最後に“もう一度”、XR/メタバースの「勝ち筋」を考える

取材をしていく中で、ざっくりと「XRはパブリック(toB)なもの」「メタバースはプライベート( toC)なもの」といった印象を受けた。

狙ってそうなったというよりも「結果的にそうなってしまった」という印象がある。

パブリックで普及したXRデバイスによって、プライベートなメタバースが盛り上がるところまでをイメージできたが、パブリックなメタバースの普及については疑問符が残った。

そもそも私たちはパブリックな空間において、既に「ビジネスマンというアバター」を演じ「ビジネスシーンというメタバース(仮想空間)」を生きているような気もしている。

そういった哲学的なアプローチがあってもよいのかもしれない。

例えば、メタバースとは、単なるバーチャル空間ではなく、「現実(生産的な空間)」に対する「非現実(非生産的な空間)」なのかもしれないし、「現実(与えられた空間)」に対する「非現実(自分が選んだ空間)」なのかもしれない。

その上で「すでに私たちは現実世界で複数の世界を生きているのだから、メタバースは不要だ」なのか「その複数の世界のうちの、どれか1つをメタバースに置換しよう」という問いに決着をつけ、(それを実現するのが)「“XRデバイス”と“メタバース”である必要があるのか?」という問いと向き合うべきだろう。

「いや、“スマホ”と“SNS”(画像&テキスト)で十分だろ」
「“コントローラー”と“オンラインゲーム”(ゲームキャラ&チャット機能)が最適解だ」

XR/メタバース業界を取材する私たちも、そのような冷笑ワードに対して「言わせておけ」と突き放すのではなく、、少しでも旗色を良くしていくしかないのかもしれない。



YouTubeのメタバース化とスーパーアプリ

最後にカンファレンスを体験した個人的な感想を述べるが、黎明期のXRデバイスの「3D酔い」「見た目のダサさ」「装着時の不快感」に幻滅したユーザーは、このタイミングで一度自身の情報をアップデートしてしておくべきだろう。

Meta Quest、Apple Vision Pro、XREAL、MeganeXなど、最新のXRデバイスは軽量化が進んでおり、解像度と視野角の向上も著しい。

この業界は、進むときは急速に進む。YouTubeにXRコンテンツがアップロードできるようになったり、YouTube自体がメタバース化すれば、XR/メタバースは一気に「啓発期」「生産性の安定期」に突入するかもしれない。アジア圏のスーパーアプリ(※1)に実装された場合も同様だろう。時代から置いていかれないように、キャッチアップを続けていきたい。

※1 中国のWeChat(ウィーチャット)、Alipay(アリペイ)、インドネシアのGojek(ゴジェック)のような、メッセンジャーなどのアプリに他の様々なアプリが紐づいている形



[取材・文 :合同会社KijiLife(Ogawa Shota)]



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