ブシロード<7803>のグループ内のデータ分析組織「アニメデータインサイトラボ」は、調査レポート「2024~2025アニメ ゆく年くる年ランキング~初回放送週・放送終了時・冬アニメ事前人気から読み解く」を公開した。
■はじめに
本記事では、2024年から2025年にかけて放送されるアニメ作品を対象に、独自に算出した「話題度の偏差値」を用いて、多角的な分析を行います。
具体的には、以下の4つを軸にデータを比較・考察します。
・2024年アニメ初回放送週の話題ランキング
・2024年アニメ放送終了時の話題ランキング
・2024年アニメの“異常値"ピックアップ
・2025年冬アニメの事前人気ランキング
この分析を通して、「放送前の事前期待」と「放送中の盛り上がり」が作品の最終評価や注目度にどのように影響するのかを明らかにし、今後のアニメ市場におけるプロモーション戦略のヒントを探ります。
■話題度の偏差値について
Googleトレンドの相対的な検索ボリュームをベースに、独自の標準化処理を施して“偏差値"を算出しました。平均値を50とし、60以上で「高い注目度」、70以上で「突出したバズ」と定義しています。
元データの具体的な検索量は非公開ですが、作品間の相対比較を行うための客観的な指標となっています。
■2024年アニメランキング
【「初回放送週」話題ランキング(全作品TOP10)】
まずは、2024年に放送を開始した全作品(新作・続編含む)を対象に、放送開始直後の1週目でどれだけ話題になったかを偏差値で比較した結果をご紹介します。
上位5作品はすべて2期目以降のシリーズが占めており、既存ファン層の強力なバックアップがうかがえます。一方で、6位以下は全て新作タイトルがランクイン。特に『しかのこのこのここしたんたん』『逃げ上手の若君』『ダンダダン』などは、事前SNSマーケティングや原作の知名度が初週の高偏差値につながったと考えられます。
【「初回放送週」話題ランキング(新作TOP10)】
次に、新作アニメのみに絞って初回放送週の偏差値を比較します。
新作部門では『しかのこのこのここしたんたん』と『逃げ上手の若君』が偏差値68超えで突出した注目を集めました。また、『ダンダダン』『らんま1/2』『アオのハコ』なども60台中盤以上で期待値の高さがうかがえます。『ドラゴンボールDAIMA』のような伝統的IPの新展開から、『ダンジョン飯』『魔法少女にあこがれて』といったニッチな魅力を持つ作品まで、視聴者層の多様化が顕著に表れています。
【「放送終了時」話題ランキング(全作品TOP10)】
続いて、放送終了後(便宜上12週目と設定)における偏差値TOP10です。
特筆すべきは『ダンダダン』と『マッシュル』の2作品が示した圧倒的な最終評価です。また、『怪獣8号』のように、初回は9位と控えめながら放送後半に注目度を一気に高めた作品も目立ちます。『鬼滅の刃』は初週1位→終了時8位へ順位は下がったものの、70超えを維持して安定した人気を示しました。
【「放送終了時」話題ランキング(新作TOP10)】
新作アニメに限定した放送終了時点の偏差値ランキングです。初回から終了までの成長度をより詳細に分析できます。
『ダンダダン』と『怪獣8号』は、特に物語中盤から終盤にかけて注目度の上昇を見せました。また、『忘却バッテリー』や『負けヒロインが多すぎる!』のように、初回は控えめな反響ながら、放送を重ねるごとに評価を着実に積み上げていった作品も目立ちます。
■2024年アニメの“異常値"ピックアップ
2024年のアニメ市場では、ほとんどの続編作品が高い注目度を得る中、「放送前から異常に盛り上がった作品」と「放送中に急激にバズを起こした作品」が存在しました。ここでは、特に顕著な2作品を取り上げ、その背景と作品評価への影響を考察します。
【マッシュル : 音楽×アニメの相乗効果】
本作は週刊少年ジャンプ連載の人気作品が原作という強固な認知基盤に加え、2期OPテーマの Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 が社会的なヒットを記録し、アニメ放送の盛り上がりを大きく後押ししました。
週別の注目度推移を見ると、放送開始直後は続編としての安定したスタートを切りながら、放送中盤以降にOP楽曲がTikTokやYoutubeなどで爆発的に拡散。音楽をきっかけに本編への注目度も高まり、最終的には偏差値78.9となりました。
こうした「放送中のバズ」が生まれた背景には、作品本編のクオリティはもちろん、アニメ×音楽のタイアップ施策やリアルタイムでのSNS展開が大きく寄与していると考えられます。
【しかのこのこのここしたんたん :事前人気の活用課題】
新作アニメ『しかのこのこのここしたんたん』は、放送前からSNS・ショート動画プラットフォームを中心に大きな話題を獲得し、放送前週の時点で偏差値68.3(全作品中4位)という驚異的な数字を記録しました。新作アニメとしては異例の認知度を築いていたことから、初回放送週の「全作品ランキング」でも6位にランクインしています。
しかし、実際の放送が始まった後は、新たな話題づくりや追加プロモーション・音楽施策が限定的だったためか、終了時の話題ランキングでは圏外となり、初動の勢いを放送後半まで維持する難しさが浮き彫りになりました。
【「放送前週」話題ランキング(全作品TOP5)】
【「放送前のバズ」vs「放送中のバズ」 : 継続的な話題維持の必要性】
放送前に大きく注目を集めた『しかのこのこのここしたんたん』と、放送中に話題が急上昇した『マッシュル』を比較すると、作品の最終評価や最終的な注目度に大きな差が生まれました。
この二つの事例は、アニメ作品を“跳ね"させるには放送前だけでなく放送中期から後期にかけても話題を作る仕掛けが不可欠であることを強く示唆しています。内容の面白さが大前提であるのはもちろん、適切な楽曲選定やSNSキャンペーン、追加情報解禁などを段階的に投入することが必要だと考えられます。
■2025年冬アニメ「事前人気」話題ランキング
ここからは、2025年冬クール(放送開始前の2024年12月中旬時点)のデータをもとに、事前期待度が高い作品TOP10を見ていきます。事前注目度は必ずしも実際の視聴率や評価と完全に一致するわけではありませんが、市場の期待値を測る重要な指標となります。
【ランキングについての補足】
ランキング内のいくつかの作品は偏差値が50を下回っています。しかし、これは「このクール」における相対評価であることにご注意ください。
ランキングで使用している偏差値は、2025年冬アニメ全57作品を母集団として算出しており、さらに時期特有の検索ボリュームの影響を受けるため、必ずしも一定の分布になるわけではありません。
下記ランキングに挙げられている作品はいずれも57作品中の上位作品ですので、たとえ偏差値が50を下回っていても「2025年冬クールにおいては十分に注目度が高い」ということになります。
【2025年冬アニメ全57作品のうち上位10作品】
『Re:ゼロから始める異世界生活』は偏差値77.0という圧倒的な数値を示しており、前シーズン『襲撃編』からの継続的な期待感が反映されています。『薬屋のひとりごと』も2期作品として高い需要を維持し、新作では『SAKAMOTO DAYS』が最も高い注目を集めています。今後のプロモーション展開次第で、さらなる上昇が期待されます。
【2025年冬アニメ新作40作品のうち上位10作品】
新作部門では『SAKAMOTO DAYS』が先行しており、メディアミックス展開が期待される『BanG Dream! Ave Mujica』や、独特なタイトルで話題を呼んだ『ババンババンバンバンパイア』も平均を上回る注目度を獲得しています。
今後は、作品本編のクオリティや音楽との連動効果によって、さらなる数値の変動が予想されます。
■総括と今後の展望
【2024年の事例から見るプロモーションの重要性】
2024年のアニメ分析からは、「放送前バズ」と「放送中バズ」のどちらも、作品評価に直結する重要要素であることがわかりました。
特に注目すべき対照的な例として、『マッシュル』と『しかのこのこのここしたんたん』が挙げられます。『マッシュル』は放送中盤でOPテーマが大きな話題を呼び、それに伴って本編への関心も継続的に上昇。結果として終了時に偏差値78.9という高評価を達成しました。一方、『しかのこのこのここしたんたん』は放送前のSNSでの話題性が極めて高く、初回放送週も偏差値68.4と好調でしたが、放送中の新たな話題づくりが限定的だったため、終了時のランキングには入りませんでした。
このケースは、放送前の高い話題性を放送中も持続させることの重要性を示唆しています。
【2025年冬クールの期待と課題】
続編作品、特に『Re:ゼロから始める異世界生活』や『薬屋のひとりごと』は、放送前から70前後の偏差値を記録しており、初週から高い注目を集めることが予想されます。ただし、2024年の事例が示すように、放送中の新規施策なしでは注目度の維持が困難な可能性もあります。
新作枠では、『SAKAMOTO DAYS』を筆頭に、放送開始後の視聴者の反応とプロモーション展開が重要な鍵を握ります。過去の事例から、作品本編の質の高さに加えて、適切なタイミングでのプロモーションが組み合わせることで、予想を超える躍進を遂げる可能性が考えられます。
■おわりに
2024年は『鬼滅の刃』『推しの子』などの強力な続編IPが依然として高い注目度を維持しつつ、『ダンダダン』『怪獣8号』など新作勢も後半で評価を伸ばすなど、新旧IPが拮抗する展開となりました。
2025年冬シーズンにおいても、『Re:ゼロから始める異世界生活』や『SAKAMOTO DAYS』など、続編と新作の両方に期待作が多数控えている状況です。作品の面白さはもちろん、放送中盤に向けた追加プロモーションや音楽施策、SNS展開が評価を左右することは間違いありません。
本記事の分析結果が、アニメ視聴者やファンコミュニティだけでなく、制作・プロモーションに携わる方々の一助となれば幸いです。今後もデータを追跡しながら、アニメ市場の動向を注視していきたいと思います。
・レポート著者
株式会社SevenDayDreamers
湯通堂 圭祐
株式会社マクロミルでデータサイエンティストとして複数の新規事業を立ち上げ、その後、FiNC Technologiesにてデータ分析、グロースハック、プロダクト開発、経営企画、人事の責任者を歴任。現在は、株式会社SevenDayDreamersを創業し、データとAIを活用してコンテンツIPの価値最大化に取り組む。
・レポート編集
株式会社ゲームビズ
またゲームビズでは、今後もアニメビジネスに携わる人々に役立つ情報やサービスも提供していきます。
当社は、これまでゲームを中心としたエンターテインメントのビジネスニュースを提供してきましたが、アニメ業界のビジネスニュースの発信や情報交換の場を提供していくこととで、アニメ業界のさらなる発展に寄与できるよう目指していきます。
ニュースやレポートのほか、イベント運営やプロモーションやPRの支援も行っているので、ゲーム・アニメのビジネスにお悩みがあればご相談ください。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ブシロード
- 設立
- 2007年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 木谷 高明
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高462億6200万円、営業利益8億8200万円、経常利益18億9800万円、最終利益8億400万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 7803