アニメのエンドロールを見て、ふと気になったことはないだろうか。「なぜ、こんなにも『プロデューサー』の数が多いのか」と。
画面をスクロールしていくと、1つの作品に5人、8人とプロデューサーの名前がズラリと並ぶことも決して珍しくない。一見すると、予算が潤沢な大作だからこそ関わる人間が多いのだと錯覚しがちだが、実はそうではない。この現象には、現代のアニメビジネスにおける「製作委員会方式」という仕組みが色濃く反映されている。
本稿では、そんなエンドロールに隠された「プロデューサー多すぎ問題」のカラクリを紐解くとともに、業界関係者だけがこっそり楽しんでいる「クレジットの裏の読み方」を紹介する。これを知れば、何気なく眺めていたエンドロールが、企業間の思惑や人間模様が透けて見える「もう一つのドラマ」として楽しめるようになるはずだ。
なぜアニメのプロデューサーはあんなに多いのか?

エンドロールにプロデューサーの名前がずらりと並んでいると、「予算が潤沢でリッチな大作なのだろう」と想像するかもしれない。しかし、その認識は必ずしも正しくない。
「プロデューサーが多ければ多いほどアニメとしてリッチ、というわけではない。アニメの製作委員会というのは基本的に『リスクヘッジ』の仕組みであり、プロデューサーの数が多いのは、それだけ細かくリスクを分散させている結果にすぎないんです。」
現在のアニメ制作の主流である「製作委員会方式」では、出資する各社から必ず代表者が1名ずつプロデューサーとしてクレジットされる。つまり、「出資会社の数=プロデューサーの数」となるのが基本構造なのだ。裏を返せば、最初から「絶対に儲かる」と確信できるような強力なIP(知的財産)であれば、限られた会社で利益を独占しようとするため、かえってプロデューサーの数は少なくなる傾向にあるという。
では、1つの作品に集まった8人前後のプロデューサーたちは、一体何をしているのか。実は、全員が現場でアニメの制作指揮を執っているわけではない。彼らは、音楽、国内配信、海外配信、グッズ化(商品化)など、自社のビジネスの権利と利益を守るために派遣された担当者たちである。
前述の業界関係者は、この委員会構造を「村の議会」に例えて解説する。
「委員会という『議会』のなかで、全員がアニメを成功させるという同じ方向を向く仲間ではあります。しかし同時に、自社のやりたいことや担当役務の利益を主張するための『村の代表者(議員)』でもあるのが現在のアニメプロデューサーの姿なんです」
例えば、グッズ展開で利益を出したい「商品化プロデューサー」と、認知度拡大のために無料イベントを打ちたい「宣伝プロデューサー」との間で利害がぶつかることもある。それぞれの思惑を抱えた代表者たちが水面下で駆け引きを行い、統括役である「幹事プロデューサー」が全体を調整していく。
画面に並ぶプロデューサーの数だけ、そこには各企業のビジネスの綱引きと、議会さながらの社内政治が存在しているのである。
業界人がこっそり楽しむ「エンドロールの裏の読み方」

こうした製作委員会の構造を知ると、エンドロールの楽しみ方は劇的に変わる。業界関係者たちは、ただ文字の羅列を眺めているわけではない。そこからさらに深い「人間ドラマ」を読み取っているのだ。
まずは「権力構造」の読み解き方。一般の視聴者は、作品のトップ=プロデューサーだと思いがちだが、業界のヒエラルキーは少し異なる。
「みんなプロデューサーが一番偉いと思いがちだけど、実は最初に見るべきは『企画』や『製作』の欄。ここには出資各社の社長や、プロデューサーの直属の上司の名前が載っていることが多いです」
たとえば、「企画」に8人、「プロデューサー」に8人の名前が並んでいる場合、一番上にクレジットされている企画担当者は、一番上のプロデューサーの“上司”である可能性が高い。エンドロールは単なる名簿ではなく、出資比率に応じた企業の「組織図」として、縦の列が綺麗に対応していることが多いのだという。
そしてもう一つ、業界ならではのクスッと笑えるあるあるが、エンドロールが「他人の転職情報を知るツール」になっているという事実だ。
製作委員会において、各社のクレジット順(定位置)は出資比率などによってある程度固定されている。そのため、業界人は「この列はあのメガロバナー(大手映画会社)の枠」「ここはあの出版社の枠」といった具合に、定位置を感覚として把握している。それゆえに、思わぬ発見をしてしまうのだ。
「家で何気なくアニメを見ていて、いつもの定位置のクレジットを追っていると、『ん?』と気づく瞬間があるんです。以前、別の会社を退職したと噂で聞いていた人物が、しれっと某大手映画会社の枠にアシスタントプロデューサーとして載っていたりするんですよ。『お前、そこに転職してたのか!』って、エンドロール越しに他人の転職事情を知ることは意外と多いんです」
一般視聴者にとっては、ただ足早に流れていくだけのスタッフロール。しかし業界人にとってそれは、企業の力関係や、業界内を渡り歩く個人のキャリア展開までもが透けて見える、言わば「業界の縮図」なのである。
エンドロールの向こう側
何気なく見過ごしてしまいがちなエンドロールだが、そこには「多すぎるプロデューサー」たちが繰り広げる、泥臭くも熱いビジネスの駆け引きと人間ドラマが刻まれている。
彼らは必ずしもアニメ制作の現場上がりというわけではない。出版、音楽、広告、IT、海外事業など、多種多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルたちが、それぞれの強みを武器に「村の議会」で立ち回っているのだ。そして、クレジット越しに転職がバレてしまうような、狭くも活気に満ちた世界で日々新しいエンターテインメントを生み出している。
もしあなたがこの記事を読んで、「自分もエンドロールに名前を刻んでみたい」「今あるビジネススキルをアニメ業界で活かせないだろうか」と感じたなら、ぜひ一度アニメビジネスの世界を覗いてみてほしい。プロデューサーへの入り口は、企画や制作だけでなく、宣伝、配信、商品化など実は多岐にわたっている。
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