
ゲームアーツで『LUNAR』シリーズや『グランディア』シリーズを手掛けた宮路洋一氏(写真右)が先日、ゲームプロデュース企業「KADATH (カダス)」を設立したことを明らかにした。オリジナルゲーム、オリジナルIP(知的財産権)を生み出し、海外市場に挑戦することを目指している。
今回の取材では、カダス設立の背景から、ゲーム開発の大型化に対する問題意識、「JRPGとは何なのか」というテーマ、そして現在開発中のゲームについて、宮路氏と、カダスの協力会社であるマトリックスの大堀康祐氏(写真左)に話を聞いた。
前編では、カダス設立の背景からJRPGの捉え方、そして現在開発を進めている新作ゲーム『Under Mythos』のコンセプトまで紹介する。
■ 「大手が参入しにくいところ」にチャンスがある
カダス設立の背景には、ゲーム業界の構造変化に対する宮路氏の問題意識がある。
「今の業界のストラクチャーが大きく変化している」と宮路氏。一時は爆発的な伸びを見せたスマートフォンゲーム市場が落ち着く一方で、日本だけでなく米国や欧州でも大手パブリッシャーの開発コストが膨らみ、「正直もう1000万本売れないとダメ」という構造になっているという。
宮路氏自身、ゲームアーツで『グランディア』を手掛けていた頃から、開発費の上昇に危機感を持っていた。
「『グランディア』をやっていた頃でも、10億円近くかかっていて『これ、大丈夫か』と考えていました」
かつては、据え置きハードの進化によってゲームのクオリティが上がり、開発費も高騰していった。一方で、ゲームボーイやニンテンドーDS、プレイステーション・ポータブルなど、画面やメモリ容量が限られた携帯ハードが盛り上がる時期もあった。
そうした携帯ハードでは、大規模なゲームを作ることができない。そのため、開発費を抑えながらゲームを作り、次の成長につなげることができた。こうした携帯ハードの存在は、開発費が上昇し続けるゲーム業界にとってのいわば「逃げ道」だった。
しかし、現在はそうした逃げ道がなくなっている。
「昔だとハードの進化においてゲームボーイが出たり、携帯機が出たりして少し落ち着くといいますか、開発費がちょっと落ち着くタイミングがあったんですけど、それがないじゃないですかどんどん開発費は上がるんだけど売れる本数は変わらない、というのがずっと続いています」
その一方で、インディーゲームが存在感を高めている。大規模タイトルの開発期間が長期化し、発売本数も限られる中で、宮路氏は大手ゲーム会社が参入しづらい、インディーゲームにチャンスを見いだした。そしてオリジナルゲーム、オリジナルIPを海外に向けて展開することを基本方針とした。
「まず最初にターゲットとしているのは海外です。日本は全体の10%、20%ぐらいで考えていて、まず、海外にリーチしたいと考えています。我々が得意とするJRPGを開発して、オリジナルのIPを生み出したいですね」
SteamやEpic Gamesストアなどを通じて海外市場に直接アクセスしやすくなったことも追い風だ。AAAタイトルに100億円規模の開発費がかかる一方、インディーゲームでは1〜3億円程度の開発予算で取り組むケースが珍しくないという。
「そういうレンジで作品を作れる環境は一番良いので、タイミング的には悪くないと考えています」
■「重厚長大」になったゲーム業界への問題意識
プロジェクトに協力するマトリックス代表の大堀氏もまた、ゲーム開発の重厚長大化に対して問題意識を持っている。大堀氏は、ゲーム業界に入ったきっかけはアーケードゲームへの興味だったという。ゲームライターやテストプレイなどを経験する中で、次第に「ゲームの面白さとは何なのか」を考えるようになった。
現在のゲームは映像表現を含めて大規模化し、完成までに3〜5年と長い時間がかかる。当然、開発費も高騰する。
「まさに丁半賭博みたいになっちゃってるんですよ。販売本数も減ってきているし、それ自体が業界を締め付けているような状況なので、方向性を考え直す必要があると感じています」
重厚長大化への切り札として、生成AI(人工知能)などの活用が期待されているが、AIによって制作効率を高められる可能性はあるものの、それだけで突出したゲームを作れるわけではない。
大堀氏は、そうした状況の中で「面白さ」を改めて考える必要があると指摘する。海外のユーザーは必ずしも日本のゲームと同じ価値観で作品を見ているわけではない。
「海外のユーザーは、ゲームに対してかなりストイックに見ていて、面白いか、面白くないかで判断する傾向にあります。グラフィックが綺麗かどうかではないんです。見た目の綺麗さはファーストコンタクトで重要ですが、面白いかはまた別軸になっているんですね」
続けて「海外のゲーマーが「JRPG」と言ってくれる本質を理解した上で、そういったゲームを遊びたい人に向けて作れないかと悶々としていたところ、大先輩(宮路氏)が同じような考えを持たれていた」と共同で取り組むことになった経緯を明かした。
「JRPG」とは、いうまでもなく「日本で独自に発展したRPG」を示しているのだが、日本のゲーム開発者の手掛けた「JRPG」は現在では非常に少なくなっているそうだ。宮路氏によると、ワールドワイドで見ると8割が海外開発者の「JRPGスタイル」のゲームになっている。そしてセールスランキングでも高い順位を獲得する場面も多く、現在も強いニーズが存在するという。
■「JRPG」とは何なのか
カダスが海外市場を狙う上で重要になるのが「JRPG」だ。そしてそもそも「JRPG」とは何なのか。
改めて尋ねると、宮路氏は、JRPGには「成長」と「物語」の体験があると応えた。特に物語の比重が大きく、プレイヤーがキャラクターを操作しながら物語を進めていく点に特徴がある、とした。
「JRPGって、やっぱり成長と物語なんですよ。物語の方が結構大きい。オープンワールドって、どちらかというとシミュレーションに近いじゃないですか。JRPGは縦にちゃんとストーリーがある」
一方で、ビジュアルノベルのように物語を見るだけではない。プレイヤー自身がキャラクターを動かし、世界を体験する。宮路氏は、JRPGを「ナラティブゲーム」と捉えることもできると話す。
大堀氏は、JRPGを構成する要素をさらに分解する。物語があり、キャラクターや世界観を丁寧に小気味よく描き、戦闘では考えて遊ぶ必要がある。そうした要素を組み合わせたものが、JRPGの一つの形になるという。
「今回、別に『ファイナルファンタジー』を作ろうということではなくて、ゲームとして面白くて、物語があって、ある程度自由度もある。そういう正統進化系の作品を作りたいんです」
『Undertale』など、海外で生まれた作品にもJRPGの影響は見られる。重要なのは「日本で作られたJRPGを再現すること」ではなく、JRPGが持っていた面白さを現在の環境でどう再構築するかということだ。
■カダスは「プロデュース」に徹する
カダス自身はゲーム開発会社ではなく、プロデュースに徹し、IPを育てていく。
「プロデュースですよ。開発は持たないし、基本的にはIPを育てたいと考えています」
宮路氏が考えているのは、カダスが企画やプロデュースを担い、クリエイターや開発会社と組んでゲームを作り、その先に海外パブリッシャーとの展開を見据える形だ。
日本ではクリエイターがIPや権利を持ちにくいケースもある。一方、インディーの世界ではクリエイターに権利が戻るケースも多い。カダスとしても、そうした環境を生かしながらオリジナルIPを育てていく。
開発面では、大堀氏が代表を務めるマトリックスが支えていく。大堀氏は、RPGを作れる会社が限られている現状を踏まえ、開発会社との連携を広げながら、実際にゲームを形にしていく役割を担う。
「やっぱり作れる会社が限定されている中で、だからこそ今ちゃんともう原点に立ち返ってと言ったら変ですけども、もう1回少し戻ってみて、俯瞰してみて、ちゃんとRPGを作れるチームを作ろうという動きをしています」
カダスがプロデュースとIP育成を担い、マトリックスなどの開発会社がゲームを形にする。こうした役割分担によって、海外市場への挑戦を進めていく。
自社でゲームを販売することもできるが、Steamに出せばそれだけで売れるわけではない。海外パブリッシャーとの連携も含め、海外市場でゲームを展開するためのノウハウを蓄積していくこともカダスの役割になる。
つまり、カダスが企画・プロデュースやIP育成、海外パブリッシャーとの接続を担い、マトリックスをはじめとする開発会社が実際のゲーム開発を支える。カダス単体で開発機能を抱えるのではなく、外部の開発会社と組みながら作品を生み出していく形だ。
■「温泉」と「クトゥルフ」を組み合わせる
そして、カダスが現在開発している『Under Mythos』は、温泉宿とダンジョン、アクションバトルを組み合わせた作品だ。
宮路氏が構造の参考として挙げるのが『Dave the Diver』。寿司屋を経営するパートと、海に潜るパートという異なるゲームプレイを組み合わせながら、一つの世界を作っている。
カダスが目指したのも、異なる要素を組み合わせたゲームだった。
「インディーでJRPGをやる時にやりたかったのは、クトゥルフの世界観でやりたいなというのがあって。単に普通に怖いクトゥルフをやるだけだと面白くない。やっぱり日本人なので日本の文化も入れたいと思ったので、もう異質なものを合わせようと思った」
そこで選んだのが「温泉」だった。
「日本と言えば温泉でしょう」という発想から、温泉とクトゥルフを組み合わせることになった。
ゲームの基本構造は「温泉+ダンジョン」。温泉宿を拠点に客を迎え、従業員が働く。ダンジョンに向かって食材などを集め、温泉宿の日常を維持していく。
「だから基本はコージー(平穏な)日常の話なんですよ」
しかし、そこに異変が起こる。ある客が温泉に入ることで変異し、事件が発生する。それまで食材を集めていたダンジョンも、普通のダンジョンではなくなっていく。
穏やかな温泉宿の日常と、クトゥルフ神話を背景にした異常な世界。そのギャップこそが、このゲームの大きな特徴になる。
カダスが目指すのは、過去のJRPGをそのまま再現することではない。物語、キャラクター、成長、戦闘といったJRPGの要素を現在の開発環境に合わせて組み直し、日本独自の文化や世界観を組み合わせる。その最初の挑戦が、「温泉」と「クトゥルフ」という異質な組み合わせから生まれる新たなJRPGだ。
では、なぜ「温泉」と「クトゥルフ」を組み合わせたのか。そこには、宮路氏が考える「ナラティブ」のあり方や、プレイヤーにこれまでにない体験を届けたいという思いがある。
後編では、現在開発中のゲームに込められた物語や世界観、そしてカダスが目指す海外インディー市場への挑戦、ユーザーとともにゲームを作っていく新たな開発・ビジネスモデルについて、さらに話を聞く。
■関連サイト
▼Steamストアページ
▼公式サイト
https://www.kadath.co.jp/
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会社情報
- 会社名
- 株式会社KADATH(カダス)