スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2015年の市場動向と2016年のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2015-2016」。
今回は、LINEのLINEゲーム事業部 副事業部長である清水信彦氏にインタビューを実施し、「LINE GAME」が2015年に取り組んできたことや今後の展望、いろいろなビジネスモデルが花開きつつある協業展開など、様々な視点から話をうかがってきた。
■カジュアルゲームの好調を維持しつつ、ミッドコアでシェア拡大
LINE株式会社
LINEゲーム事業部 副事業部長
清水信彦 氏
――:始めにゲームアプリ市場の2015年を振り返ってのお話をよろしくお願いします。
まず業界でよく言われておりますが、レッドオーシャン化(競争の激しい既存市場)が進みました。多くの企業が参入して、結構いろいろなものを出していて、成功しているものと、そうでないものがだいぶはっきりしてきてきた印象があります。ジャンルによっては開発費の高騰や、新規参入へのハードルもあがり、それらがかなり進んだのかなと思います。
それと、2012-3年以前にリリースされたコンテンツが一巡し、ランキングの上位にもいろいろな新しいタイトルが食い込めるようになってきていて、まもなく新しいヒット作がでてくることを想像しています。
あとは、IPタイトルが非常に強力でしたね。リリースの初期段階から上位にランクインするタイトルも増え、また従来のものでは『LINE:ディズニー ツムツム』も引き続き好調で上位を維持することができました。
――:そうした中で、御社のスマホゲームの2015年の取り組みについて教えていただければと思います。
弊社が「LINE GAME」を始めて2015年11月で3周年を迎えました。「LINE GAME」の中で従来から人気のカジュアルゲームは、引き続き好調を維持していて、運営をさらに強化してコンテンツを維持していくということに注力しました。
2015年に新規にリリースしたタイトルの中では、パズルゲームの『LINE バブル2』をはじめ複数タイトルが好調に推移し、引き続きカジュアルゲームでの地位の足場固めはできた1年になりました。
それにプラスして、ジャンルの拡充とか、マーケットの拡充といったことを目指すべく、カジュアルゲームに加えて、ミッドコアのラインアップにも注力してきました。6月にはグリー<3632>さんとのJV(ジョイントベンチャー)のEpic Voyageから『LINE タワーライジング』を出しましたし、11月には『LINE ウィンドソウル』というタイトルも出しました。
さらに12月に入ってからセガさんとのパートナーシップでリリースされました『フォルティシア SEGA×LINE』(以下、『フォルティシア』)や、15日にリリースの『LINE 英雄乱舞』というタイトルもミッドコアのジャンルでして、ラインアップも充実してきました。
――:なるほど。個人的な印象としても非常にミッドコアのタイトルが増えてきたなぁという印象だったのですが、これは2015年は当初からそうしたミッドコアタイトルを充実させていこうというような方針だったのですか?
そうですね。カジュアルゲームにおいてはトップシェアを維持しつつミッドコア領域へ展開し、シェアを拡大することを当初より目指しております。
――:ミッドコアを目指す上で、協業という形が増えてきたということでしょうか? 先ほどのグリーさんもそうですし、gumi<3903>さんやボルテージ<3639>さんも2015年は「LINE GAME」でタイトルを出していますよね。
弊社の場合はもともとパブリッシングビジネスをメインに行っておりますので、内製だけではなく、外部のパートナー様とも一緒に組む形でラインアップを充実させていくことを進めております。
そうした中で、おっしゃっていた通り、グリー様や、ボルテージ様、gumi様、セガ様など様々なパートナー様と組ませて頂きました。メインのパブリッシングモデルを軸に、2014年の後半くらいからは、JVやプロジェクトファイナンスでのお取り組みをはじめ、マーケティングパートナー提携など、、仕掛けたことが、今年の中頃から形になってきました。
――:そうした協業の流れなのかもしれませんが、先ほどのgumiさんとかは先に海外で出していたり、バンダイナムコエンターテインメントさんの『ONE PIECE トレジャークルーズ』は御社が海外でのパブリッシングを行っていますね。こうした海外パブリッシングについてのお考えも聞かせてください。
はい。gumi様とは、2015年7月に台湾で先行リリースを皮切りに『LINE 三国志ブレイブ』をリリースし、日本でも11月にサービスを開始しました。弊社ではグローバル配信にも注力したいと考えています。特に台湾や、タイをはじめ東南アジアはLINEがナンバーワンメッセンジャーアプリとなる地域です。こうした地域を中心にパートナー様から提供いただいたタイトルを配信していくことも引き続き積極的にやっていきたいと思っています。
またバンダイナムコエンターテインメント様とのお取り組みの場合は、バンダイナムコエンターテインメント様にてアジア展開を検討されているなかで、われわれのアジアにおけるユーザー基盤という強みに魅力を感じて頂き、現地においても強力なタイトルを弊社でパブリッシングさせて頂ける機会を願っており、そこがうまくマッチングしたことで、今回ご一緒させていただけたのだと思います。『ONE PIECE トレジャークルーズ』はお蔭様で、台湾のアプリストアランキングで1位を獲得することができました。
弊社では、日本のオフィスから、現地のオフィスとも連携を取る仕組みが作れていますので、LINEにパートナー様のタイトルを預けて頂くと、ワンストップでアジア向けにネイティブアプリを配信することができます。海外とのやりとりはいろいろと大変ではあるのですが、バンダイナムコエンターテインメント様にもご協力いただいて、スムーズに運用ができていると思います。
――:海外にタイトルを持っていくというような形は今後もやっていきたいということでしょうか?
はい、特に台湾やタイなど東南アジアの地域は、日本のゲームや日本のIPというのがすごく人気があるんです。かつて『ブレイブ フロンティア』がアジア地域で1位とか2位を取って非常に強かったりもしましたし、現地で日本のIPの魅力を強く感じていることを、パートナー様とのお取り組みの中で実感しています。われわれとしては、アジアの配信も含めてパートナー様と協業することも引き続き進めていけたらと思っています。
■パートナー企業とのビジネスモデルの多様化を推進
――:なるほど。それから、先ほどから何回かお話に出ている『フォルティシア』が非常に順調なスタートを切っていますね。LINEの強みである、LINEプラットフォームからゲームへの送客、またプラットフォームがあるからこそユーザーがより深くゲームを遊んでいただけるということが、今回『フォルティシア』で実現できていると思います。
しかもゲーム業界の最大手であるセガ様と協業させて頂いているというのはLINEにとってはとても大きなことです。通常だとわれわれもセガ様もパブリッシングビジネスが中心、ということでなかなか接点が持ちにくいな、と感じていたのですが、LINEがマーケティングパートナーという形を取ることによって接点が見え、よりお互いの強みを生かしながらシナジー効果を出すことが、今回実現できているのではないかなと考えています。
――:なるほど。これがうまくいくと、次やまたその次というのも考えていきたくなるところですよね。
11月18日に両社で発表会を行った際に「これを第1弾として、やっていきましょう」と両社からお話させて頂きました。これを機により強力なパートナーシップが組めるといいですね。
――:先ほどLINEはパブリッシングビジネスがメインということでしたが、セガさんとの取り組みはこれとは違うようですが、どのような取り組みですか?
先ほど申し上げましたように、もともとLINEはパブリッシングビジネスを中心にビジネスをやっていたのですが、その中でいくつか課題が出てきていて、広くパートナー様とお付き合いをするためには少し間口が狭いかなという印象がありました。そこで2015年の後半に取り組んだのは、ビジネスモデルの多様化でした。その成果の1つがセガ様と組んだ『フォルティシア』になります。
LINEパブリッシングの場合、App StoreやGoogle Playにゲームを上げるのもLINEが配信元になります。『フォルティシア』は今回、日本では初めてセガ様が配信元になり、LINEプラットフォームに連携しています。その上でマーケティングをLINEがサポートするという、「マーケティングパートナー」という形で提携しています。
ビジネスモデル拡大のもう1つの施策は、これまでは、ゲームをある程度の完成度のところでご提案頂き、協業を決めるというケースが多かったのですが、もう少しゼロベースの段階、コンセプトや企画の段階からご一緒する形も進めています。
ご提案いただく中で、場合によってはLINEが開発費を支援させていただくこともやりながら、「LINE GAME」のラインアップを揃えていく取り組みも始めました。こちらのモデルは、お会いする機会を頂いた企業様に、随時ご相談させて頂いています。いくつか取り組んでいるものが、2016年以降に出てくることになると思います。
――:2016年のスマホゲーム業界の展望をどのように見ているのかお聞かせ願えますでしょうか?
先ほど、2015年はレッドオーシャン化の印象、ということはお話しましたが、やはり競争がだんだん激しくなってきておりますので、開発面ではきちっと作り込むこと、また運営面でも特に日本において、きめ細かい運営、ユーザーへのサービスを行うという、高い質の開発、運営を両立させていくことが非常に重要ですね。
これができているコンテンツやタイトルが、引き続き成功していくのかなと思っています。ここの基本は以前から変わっていないと感じています。
――:各社さんの2015年の動きを見ていてもユーザー重視の傾向が強まっていますよね。リアルイベントとかユーザーの囲い込みを意識した取り組みが増えているような気がします。御社でもそうしたことは考えていたりしますか?
LINEの場合はどちらかというとオンラインでの施策が主体となりますが、今後ますます意識を強めていきたいと思っています。アプリのマーケットで成功しているタイトルを見ても、オフラインイベントを規模の大小問わず頻繁に行ったり、作品の世界観を踏まえてアプリの内外で連動させたり、コミュニティ形成の場を提供したり、様々な取り組みがありますが、小規模の施策の成果が、だんだんじわじわと積み上がっていって大きなビジネスになるという成功モデルが、今後はますます増えていくのかなと思います。とにかく、きめ細やかにきちっとサービスしていくのが非常に重要だと意識しています。
――:御社は2015年はボルテージさんと組んで、「LINE GAME」において初めての女性向け恋愛シミュレーションゲームを出されましたよね。
LINE GAMEのコアユーザーの中には、女性のユーザーも多いので、そこに向けたラインアップの1つとして、女性向け恋愛シミュレーションゲームを出しました。2015年は市場でもそのジャンルのヒット作がかなり出始めていて、来年以降も注目していきたいジャンルの1つですね。
LINEには女性ユーザーもたくさんいるので、きちんと女性ユーザーを意識したタイトルのラインアップも組んでいきたいと考えています。それは単に女性向けだということではなく、男性も女性もいるということを意識してゲーム作りができればということです。
――:そうした中で御社の2016年の取り組み・抱負などをお聞かせください。
パブリッシングビジネスを中心に置きつつも、セガさんとの取り組みのようなマーケティングパートナーのモデルだったり、開発費の支援をするモデルなど、パートナーシップの準備はできたので、きちんといいタイミングでいいタイトルを提供していきたいです。それからやはり、先ほども申したようにきちんと開発、運営もきめ細かくというところを妥協せずにやってくつもりです。
またLINEはプラットフォームですので、LINEのプラットフォーム、ソーシャルグラフをより活用できるようなゲーム作りをやっていきたいと思っています。各パブリッシャー様が単独で通常にストアに上げるよりも、われわれと組み、LINEのソーシャルグラフが活かされることによって、よりユーザー同士のコミュニケーションが活発化し、ゲームの継続性が上がっていく。そのLINEとのパートナーシップのメリットを提供できればと思いますし、より強化していきます。
パートナー様とお互いの強みを活かしたお取り組みをしていきたいという思いがあります。これからもいろいろなパートナー様とご一緒できればと思っています。
――:それこそ大手さんもそうですし、出資する形でもということですよね?
はい。ビジネスモデルは本当にさまざまで、パートナー様とLINEでの最適な形でのお取り組みができると思っています。お気軽にお問い合わせ頂ければと思います。
――:どうもありがとうございました。
(取材・文:編集部:柴田正之)
■LINE
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会社情報
- 会社名
- LINE株式会社
- 設立
- 2019年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 出澤 剛/代表取締役 慎 ジュンホ