深夜アニメの製作資金は約3億円…儲ける仕組みや製作委員会の構造とは 今こそ知っておきたいアニメビジネスの特徴を取材



一般社団法人日本動画協会が主催し、(株)ヒューマンメディア、(株)キャラクター・データバンクが運営している、「アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)」第6期の展開がスタートした。

第6期ABPFは5月18日~8月31日の毎週水曜日16時00分~18時00分に、アニメビジネス最前線のセミナーシリーズ(合計15回)を開催。各回ではセミナー・プレゼンテーションとともに講師・参加者間での名刺交換会を実施、また、ABPF事務局でも参加者のマッチングをサポートしている。

本稿では、一般社団法人 CiP協議会の亀山泰夫氏が登壇した、「アニメ製作委員会の構造とキッズアニメのしくみ」の講演を取材。



 

■キッズ向けと深夜枠…その製作資金はいかほどに


今回登壇した亀山氏は、1986年から2003年まで広告代理店ADK(アサツーディ・ケイ)にて、コンテンツ企画セッションのプロデューサーを担当していた。在籍中は、TVアニメ「ドラえもん」をはじめ、「ビックリマン」シリーズ、「ママレード・ボーイ」や「ご近所物語」など、いわゆる日曜朝の女児向けアニメのプロデューサーを担当。

2003年から2012年までは、企画会社・ウィーヴにて美術展「GUNDAM 来るべき未来のために」や、「セサミストリート」の日米共同制作版のプロデュースを担った。そして、現在は一般社団法人CiP協議会事務局に所属。同協議会は、コンテンツを核とした国際ビジネス拠点を形成すべく、デジタル×コンテンツに関する様々な活動の実施母体となる。

さて、ここからは本題となる「アニメ製作委員会の構造とキッズアニメのしくみ」に移った。



一般社団法人日本動画協会の「アニメ産業レポート2015」によると、日本のアニメ業界市場は制作会社の総売上が推定1,847億円(2014年)となる。「大きな数字に見えて、それほど大きな数字ではない」と語る亀山氏は、周辺ビジネスも含めたアニメ関連産業の総売上が推定1兆6,297億円(2014年)あることを続けた。


 

▲ひとつのアニメコンテンツの周辺で、これだけのビジネスが行われている。


これらのアニメコンテンツを手掛けているのは、アニメ制作会社である。しかし、実際にひとつのアニメを完成するまでに、どれほどの資金(コスト)が必要なのか。キッズ向けと深夜枠の製作資金を、それぞれ亀山氏が解説してくれた。

■キッズ向けTVアニメの製作資金例
・製作費1話1,000万円×52話(4クール)=5億2,000万円
・放送枠料2,500万円×12ヵ月=3億円
⇒約8億2,000万円

■深夜枠TVアニメの製作資金例
・製作費1話2,000万円×13話(1クール)=2億6,000万円
・放送費用+宣伝費=4,000万円
⇒約3億円


金額だけ見ると、アニメひとつを製作するだけでも、とてつもない資金が必要になることが分かる。もちろんアニメ制作会社だけでは、上記の資金を持っていることも、集めることも困難だ。では、一体誰がどのような仕組みで資金を集めているのか。
 

▲アニメをよく見る方ならば、この文言に見覚えはないだろうか。よくアニメのオープニングなどで製作の箇所に表示されている文言。これらは、すべて各アニメの製作委員会の名称である。桜高軽音部は「けいおん!」、SOS団は「涼宮ハルヒの憂鬱」、女王の番犬は「黒執事」。
 

▲アニメは権利の塊で、その権利の対象はほとんど独占的に許諾される。この権利を使ってビジネスを行いたい事業者の方々が出資することで製作委員会が形成される。


例えばビデオグラム化権、これの独占許諾を得るために映像パッケージ事業者が出資される。「今の深夜アニメは、比較的ビデオグラムを売るというのを主体として作られることが多いので、かなりのパーセンテージが出資される」と亀山氏。放送局や放送権を得るため、商品化をしたいメーカーは商品化権を得るため…というように、それぞれのビジネスを行うために製作委員会としてアニメ番組に関わっているのだ。
 

▲具体的な収益方法は写真の通り。各事業者が各々のビジネスを展開し、そこで使用料としてロイヤリティが発生。そのロイヤリティを製作委員会の中でも幹事会社あるいは窓口会社に集める。集まった収益を、原作元や製作委員会各社などに配分されるという。


ちなみに、昔はCMに提供スポンサーを付けたり、70年代では玩具メーカーが主体となりアニメが作られるなど、それぞれの事情によって配分比率は変わっていた。だが、前述した製作委員会方式の採用により、深夜アニメと呼ばれるものが次々と誕生していったと亀山氏は語る。

誕生要因としては、ティーン・成年層のアニメファンの誕生と拡大とのこと。たとえば、70年代後半には「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」などが放送され、80年代には「ルパン三世 カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」と大人でも楽しめる劇場用アニメが公開された。それに合わせてOVA(オリジナルビデオアニメーション)の誕生と市場拡大、それを支える多数のアニメ誌、80年~90年代には成年向けコミック誌の創刊ラッシュが続いた。

するとアニメのビデオグラムの販売会社がメインプレーヤーとなり、ここが深夜アニメ、いわゆる成年向けアニメの誕生要因となる。

これにより、売り物が変化した。今までの「玩具・プラモデル」から「ビデオグラム(DVD・BD)」、成功の指標は「視聴率」から「ビデオグラム売上」に。また、製作費の集め方も「番組スポンサーによる間接投資」から「製作委員会への直接投資」と変化したのだ。

何より視聴時間やターゲットも大きく変化したという。製作委員会が成功したひとつのきっかけの作品に、「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)がある。当時、18時台に放送されていたが、その後、増加してきた宣伝向けアニメを収容するために、深夜の枠がどんどん拡大していき、これによりターゲットが「夕方(小学生)」から「深夜(大学生・社会人)」に拡大していった。このほか、独立局を使ったネットワークの形成、BS局を使った全国放送枠の確保などが、製作委員会方式による成年向けアニメの拡大要因となっている。

では、製作委員会方式のメリットとはどういうものだろうか。

まず言えるのは各プレーヤーのリスク分散。最近ではメンバーが10社を超える製作委員会もそんなに珍しいことではないとのこと。また、小規模制作会社の参入の可能性が拡大する。

もちろん上記のメリットは時としてデメリットにも転じる。たとえば、プレーヤーが多いことで意思決定に時間がかかってしまったり、投資者が関連事業者で一般の投資対象にはなりにくかったりという状況がある。
 

▲おもな製作委員会の内訳。商品化の中でも比較的大きなビジネスを展開する方が入り、小規模のビジネスを展開する方はライセンシーとして事業を行う形になるという。


しかし、製作委員会以外にも新たなお金の集め方が生まれてきている。アニメ制作会社・トリガーが手掛けた「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」では、クラウドファンディングサイト「Kickstarter」を通じて62万ドルを調達。同様に劇場用アニメ映画「この世界の片隅で」では、クラウドファンディングサイト「Makuake」で3,600万円余を調達し、パイロット映像を制作、その後映画化が正式決定した。
 
▲クラウドファンディングは、マーケティングに活用されるケースが非常に多いという。最初の段階でプロトタイプを作るためにサイト上で資金を集める、そして正式版を含めシリーズ化までに育てていく。また、実際に資金が集まらないケースに至っては、恐らくヒットの可能性が低いタイトルということもあり、それはそれでひとつのマーケティングの形になっているかもしれない。




 

■TV、配信、映画…メディアを変えて世に出る“アニメの新たな形”




続いて、国産TVアニメの放送タイトル数推移(1989-2014)を紹介してくれた。これを見ると2014年の新作TVアニメシリーズは232タイトルもある。だいたい1月、4月、7月、10月が放送のクールの切れ目となるが、この切れ目ごとに約50~60タイトルものTVアニメがスタートしていることになる。2000年から2014年までで比較すると、伸び率は約3倍に。ただ、このタイトル数の増加については、昨今3分~5分ほどの短いアニメが増えているのが後押しになっているという。

上記をTVアニメの制作分数推移に切り替えると、2006年の段階がピークとなる。



この時期は、アニメ分野に世界から投資対象となり、国内からも注目が集まって、数多くのアニメが作られた時期となる。それが一旦弾けて、2010年から右肩上がりの状況が続いており、2015年はさらに増えると言われている。

ちなみに、全日帯アニメと深夜アニメの制作分数推移はこちら。



青が全日、赤が深夜。ここで言う全日帯は朝の時間帯から夕方・夜のゴールデンタイムに放送されている番組のことを指す。ご覧のように、深夜アニメが2002年から2014年で比較すると約350%近く増えており、全日帯アニメのほぼ同数まで成長している状況だ。

一方でアニメの映像配信産業市場はどうか。



グラフを見て分かる通り、右肩上がりで伸びている。特に伸びている2012年は、第2次配信ブームと呼ばれており、dアニメストアやauビデオパスなどがサービス開始された年。以降は、日本テレビがHulu日本法人を買収したほか、Netflixが日本進出、Amazonの「プライム・ビデオ」がスタート、テレビ朝日とサイバーエージェント共同出資の「Abema TV」がサービス開始など、事業が活発になっていった。

「Abema TV」でもアニメの視聴がかなり多いという。しかし、海外の動画配信プラットフォームも、キラーコンテンツとして日本のアニメに注目しているようだ。

最近では、TVアニメ「亜人」がNetflixでTV放送とほぼ同時期に世界配信したり、KADOKAWAが米国のアニメ配信大手のクランチロールと戦略的提携を行い、同社アニメのアジアを除く海外配信権の包括許諾や、出版事業での協力をしたりと、話題に事欠かない。

上記はアメリカの話だが、中国にも1億人以上の利用者がいるプラットフォームがたくさんあり、一部では日本との協業も始めているとのこと。たとえば、「霊剣山 星屑たちの宴」の製作委員会には、テンセント社などが関わっており、中国発のコンテンツが日本にも放送されるということが始まっている。

また、2016年4月に放送された「聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ」は、原作元のグリーの他にテンセント関連の配信会社、香港に拠点を置くメディアリンクなどが製作委員会に入る独自の構成となり、このように最近ではアジアの会社との共用で製作委員会がスタートしている状況。

続いて日本の劇場用アニメの興業収入推移のグラフを見せてくれた。



これまで見てきたグラフと比べると、凸凹しているのが分かる。この原因に亀山氏は「その年にジブリ作品があったか、なかったかの違い」とコメント。とはいえ、劇場用アニメは昨今注目されているという。



劇場用アニメ映画の公開タイトル数推移を見てみると、これが年々と増加しているのが分かる。DVDを販売するためにTVアニメが作られるように、劇場用アニメ映画も小規模の公開をイベント的に行ったうえで、DVDを販売するということが一般化してきて、それによりタイトル数が増えているとのこと。
 

▲こちらは2014年日本国内劇場用映画興行収入ベスト10だが、すべてのタイトルがアニメないし漫画原作が埋め尽くしている。


また、ウィンドウ戦略の変化についても言及。昔では、いわゆるコンテンツが最初に触れる媒体の多くがTVアニメだったという。しかし、今ではインターネットラジオやSNS、公式サイト、動画配信など、多岐にわたる導線が出てきた。



事例としては「ニンジャスレイヤーズフロムアニメイション」などは配信ファースト、また「機動戦士ガンダムUC」は劇場とビデオグラムを同時展開、その後にOVAを再構成したTVシリーズを放送した。先ほど事例を紹介した「亜人」では、劇場用映画とTVシリーズの組み合わせで展開するといった、ウィンドウ戦略も劇的に変化していった。


 

■海外で評価される日本アニメ 二次消費の可能性にも言及


話は変わり、海外の方は日本のアニメにどのような印象を持っているのか。

かつて日本は自動車や家電の国といったイメージを持たれていたが、現在はポップカルチャーの国というイメージに変化している。

こうしたイメージの変化の原動力となったのはアニメの海外展開で、たとえば、「ドラえもん」はタイやインドネシアなどで1980年代前半から放送され、現在はアジアをはじめ50以上の国と地域で放送されている。「ドラゴンボール」は世界81ヵ国で放送、「聖闘士星矢」はヨーロッパを中心に海外で大人気、さらに2014年の新作映画は南米で大ヒットするなど、多くの国内アニメが海外で人気を博してきた。

「AKIRA」や「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」といった劇場用映画が高い注目を集めたのも20年以上前の話である。さらに「ポケットモンスター」はゲームと一緒に海外展開を行うことで大ヒットを記録した。また、ジャパンエキスポをはじめ、海外のアニメイベントも大好評。世界各国で約100以上の関連イベントが開催されているという。
 

▲しかし、こうした人気がある一方で、海外展開の規模はそれに伴っていない。これは国産アニメの米国内興行成績歴代ベスト10。トップは90年代の「ポケモン」だが、9位には公開館数37館の小規模公開だった「パプリカ」がランクインしている状況で、大規模公開はこれまで数えるほどしか行われていない。


アニメ関連産業の海外売上は3,265億円(2014年)とされているが、ウォルト・ディズニー・カンパニーの年間売上は約5兆円超であり、人気の高さのわりにビジネスに結びついていないことがわかる。こうした海外展開の拡大が日本のアニメの大きな課題と言える。

最後に、コンテンツの体験型消費について解説してくれた。



いわゆるコンテンツには、一次消費、二次消費が存在する。写真の通り、一次消費は視聴や購読が中心のところ、二次消費としては関連商品を購入する実体購入型消費が中心となってきたが、これに“二次創作型消費”や“体験型の消費”が加わってきているという。

体験型の消費としては、飲食展開やライブイベント、2.5次元ミュージカル等が挙げられる。
飲食展開だと、ガンダムカフェやアニメイトカフェなど、コラボカフェが急成長。ライブでは、キャパ1万人以上の会場で開催されたアニソンコンサート、フェスティバルが多数存在。また、5,000人キャパ以上の会場で開催されたアニメ関連イベントでは、パシフィコ横浜の国立大ホールが当たり前のようにアニメイベントで使われている。

また、アニメ・漫画・ゲームなどの世界を舞台コンテンツとしてショー化する“2.5次元ミュージカル”も勢いづいている。おもなマネタイズはチケット収入+オリジナル商品の物販収入だが、1度きりの公演だけではなくて、人気作品はライブビューイング興行でも成立するという。最終的な形態としては、海外公演とともに上演権の海外販売を狙うなど、ビジネスの幅も広がっているようだ。

以上がアニメビジネスに関係する亀山氏の講演。

アニメビジネス・パートナーズフォーラムでは、8月31日までアニメビジネスに関わる様々な講演が展開されている。興味がある方は、下部の開催概要をチェック。
 
(取材・文:原孝則)


 

■第6期アニメビジネス・パートナーズフォーラム(ABPF)開催概要


開催期間: 2016年5月18日(水)~8月31日(水) 毎週水曜日 16:00~18:00 合計15回
会 場: 慶應義塾大学三田キャンパス、ジェトロ会議室、一般社団法人日本動画協会会議室 等
テーマ:『2020年オリンピック・パラリンピックのインバウンド効果に向けた新ビジネス・海外展開・地方創生の潮流の創造』
参加費 : (1)新規一般会員
法人会員:1口  9万円 / 個人会員:1口  4万円
(2)第1期~第5期ABPF会員・公共団体・協力団体からの参加社
法人会員:1口  7万円 / 個人会員:1口  3万円
※法人会員は4名まで全てのプログラムに参加可能、
個人会員は本人1名のみ全てのプログラムに参加可能。

参加方法: 第6期ABPFへの参加は公式WEBサイト内のフォームより申し込もう。

下記公式WEBサイト内にプログラムを掲載。
http://abpf.jp/06/seminar.html

【第 6 期 ABPF の特長】
・ 最先端のアニメビジネス動向を学べるセミナーでの各種プレゼンを実施
・ 登壇者と参加者の間での名刺交換を行い、アニメ業界の第一線で活躍する企業・人材とのマッチングの機会を提供
・ ABPF 事務局・一般社団法人日本動画協会事務局が、参加者と一般社団法人日本動画協会会員社等アニメ企業とのマッチングをサポート
・ 今後のアニメ業界でのインバウンド施策を検討する研究会を傍聴可能