【年始企画】アカツキ塩田元規氏インタビュー「厳しいが面白い市場になる」 世界観とキャラクター重視の作品で「こだわり層」にアプローチ



スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年の市場動向と2017年のトレンドを読み解く年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016-2017」。今回は、株式会社アカツキ<3932>の塩田元規社長(写真)にインタビューを行い、2016年のゲームアプリ市場とともに、アカツキとしての2016年の取り組みを振り返ってもらいつつ、2017年の展望について語ってもらった。


――:よろしくお願いします。まず、2016年の市場動向を振り返っての感想を伺えればと思います。
 
市場が成熟期に向かう中で、各社の戦略の違いが鮮明になってきたと思います。一般的に成熟産業で起こるとされていることが当たり前のように起きている感覚です。プレイヤーの淘汰が進み市場でチャレンジし続けられる会社の数が限られてきました。当社もその限られた一社になれていると思いますが、十数社程度に絞られてきた印象です。
 
成熟期の産業では、差別化戦略が重要になってきます。同じことをやっていても市場は伸びないので、いかに違いをだすかが大切です。ポイントは”ちょっとした差”ではなく、”明確な違い”を打ち出していく必要があるということです。その意味では、各社それぞれの戦略の色が出てきたように思います。
 
また当社では以前から、ゲームシステムよりも、IPや世界観・キャラクターを重視する「こだわり層」へのアプローチが重要と読んでいましたが、その通りの展開になっています。ゲームシステムの「ちょっとした差」は、ユーザーにとっては「違い」にならないため、認識されません。成熟期になればなるほど、分かりやすい差である「世界観やキャラクターの差」が重要になってきていると考えています。もちろん、ゲームシステムについても「差」ではなく「違い」と言えるほど、明確な差異があればユーザーを惹きつけられると思います。例えば、今年話題になった『ポケモンGO』は良い成功例でした。
 
2016年は、全く想定外のことは起きておらず、総じて市場の流れのままに、ロジカルにセオリティカルに読めることが現実に起きたという印象です。

 

――:市場規模に関しては引き続き成長しているとお考えですか。
 
そうですね。成熟産業になったといっても、マーケットは高水準のまま推移していると見ています。この点は、家庭用ゲームとは違うものです。家庭用ゲームの場合、ハードウェアは買い替えというライフサイクルの影響を受けますし、サイクルに伴ってユーザー数は目減りしていく傾向にあります。
 
それに対してスマートフォンは、ゲームデバイスであるとともに、コミュニケーションデバイスであり、そういう意味では必需品です。なので、デバイスを持たなくなるということはありません。もちろん、端末の買い替えは有ると思いますが、グレードが上がる程度で、ユーザーのゲームへのタッチポイントは減ることは無いと思います。また海外市場については、まだまだこれから伸びるポテンシャルが有ると考えています。


 
――:厳しい市場になってきたという声もよく聞かれます。
 
確かに厳しい状況ではありますが、むしろこれからが面白い市場になると思っています。マーケットの規模は極端に減ることはなく、メインはシェアを奪い合う戦いです。プレイヤーの数は減っていくので、国内だけ見ても利益ポテンシャルは悪くなっていないと見ています。

また参入障壁が上がっていることで、市場に残っている会社が残存者利益を享受出来る構造になっています。当社は市場に残る会社に入れると思っていますが、ここで中途半端にブレーキを踏む会社は厳しい結果になると思います。そして、経営力やプロデュース力が問われるフェーズだと思っています。

 
 

――:プロデュース力ですか。

はい。成熟した市場では、面白いゲームを作る・完成度の高いゲームを作ることは勝ち残るための必須条件です。ただ、面白いものを作れるだけではだめで、それをどう広げていくか、どうユーザーさんに届けていくかというプロデュース力が求められます。その力がないと、ファンを既に抱えているIPの力を借りて、届ける力を補うというやり方に頼り続けてしまうと思います。その場合、当然自分たちでIPを生み出していくということが難しくなります。
 
当社も、オリジナルタイトルは作り続けますし、自分たち独自のIPやキャラクター、世界観を生み出したいと思っています。それができれば、デバイスが変わったとしてもファンを持ち続けることが出来るからです。その鍵がプロデュース力だと考えています。
 
もちろん、そもそもクオリティの高い作品を作る力を持つことも非常に難しいことです。我々はクオリティを継続的に高めるには、1人の天才ではなく、組織の力が大切だと信じています。当社も以前から仕組みや組織の力でクオリティの高いものを作るため、人と組織に投資し続けており、一定の成果が得られていると考えています。単純に面白いものを作るだけでなく、IP化などプロデュース力を高めていくことが2017年の当社のテーマになると思います。

『サウザンドメモリーズ』の事例もあるように、オリジナルIPを広げていくのは当社の得意とする領域でもあります。ただ、今までのようにスマホゲームのブランドをプロデュースするという考え方と、世界観やキャラクターを含むIPをブランドとしてプロデュースする話では、明確な違いがあります。後者の取り組みについては当社にとって次の重要なチャレンジです。



――:2016年を振り返ると、IPタイトルが強い状況でした。オリジナル作品をユーザーにアピールして受け入れてもらうためにはどういったことが必要だと思いますか?  
 
このフェーズで、オリジナルタイトルでヒットさせる方法としては、4つのパターンがあると思っています。まず1つ目は、ユーザーに認知してもらうために、トリプルAクラスのタイトルで圧倒的な広告投下を行い認知を得る方法です。

2つ目は、『パワプロサッカー』や『白猫テニス』のように、ナンバリングやシリーズのような形で出す方法です。すでにシリーズのファンもいるので、IPタイトルのような形でスタートさせることができます。

3つ目は、コアなユーザーにとにかく刺さるものを作っていくことです。コアなファンが良い・素晴らしいと評価してくれたことが周辺にいるファンを呼び込んでくれる構造です。タイトルやジャンルとして尖らせていく方法です。

最後は、会社や開発スタジオ、クリエイターにファンが付く構造にする、という考え方です。スクウェア・エニックスさんや、コナミさんは確固たるブランドがありますよね。
 
こうしたなかで、当社としては、以前からこだわり層と言っているとおり、尖らせた作品やテーマとターゲットがクリアな作品を作って、ユーザーにアピールしていきたいと思っています。コアなファンに向けてゲームを作り支持を集めることは、結果そこからユーザーが広がっていき、マスで売れることと同義になる可能性があると考えているからです。

例えば、『君の名は。』がメガヒットとなりましたが、ここまで売れた理由については諸説あると思います。そのなかの一つの意見として、監督の新海誠さんのコアなファンから徐々にマスに広がっていった、というものがあります。世の中にこれだけ作品があると、ユーザーの皆さんはどれを観たら良いのか分からないですよね。だから、友達や知人が進めてくれたものを観に行く傾向が強くなる。それには、進めてくれる友達、つまりその作品のファンが必要だと思います。当社も尖らせて、熱量の高い方々に支持を集め、結果としてマスに広がっていく、という展開を目指しています。それが当社で、「こだわり層」と呼ぶ方々です。



――:いわゆるタイトルポートフォリオを組む考え方とは全く違いますね。

はい。カジュアルゲームからマス向け、コア向けとあらゆるゲームを作っていると、会社としての色がなくなってしまい、結果として、会社や開発スタジオがブランドにならなくなってしまう可能性があります。ある程度フォーカスして、この会社や、この開発スタジオはこういうものを作ると認知される方が良いと思っています。


――:キャラクターや世界観を重視されるのはなぜでしょうか。

世の中には新しいゲームシステムや仕組みなど、ゲーム性を考えることを得意とする会社がありますが、当社はそちらよりもキャラクターや世界観を重視しています。キャラクターや世界観はデバイスを超えることができますし、長期の資産になり、運用も長く可能になるからです。

ゲームシステムは飽きが来ますが、キャラクターや世界観は触れれば触れるほど愛着が湧くものだと思います。ですから、キャラクターや世界観は長期的に運用すればするほど、価値が上がってくる資産です。

 


――:御社はこれまでも尖ったゲームが多かったですよね。
 
そうだと思います。ものづくりは、プロダクトと組織を一貫させることが大事です。当社は、歴史的にもコア向けのコンテンツを作るのが得意で、それは組織に雰囲気として現れてきます。それは目に見えない強みであるとも思っています。こうした強みが、マーケットにはまる状況になっています。自分たちの強みに、スケーラビリティや、クオリティを高める力が加わることで、突き抜けることが可能だと思います。スマホゲームは成熟産業ですが、市場の見方によっては成長産業と捉えることが出来ると考えています。
 
また当社は、創業以来自分たちを「スマートフォンゲーム企業」と定義したことはありません。デジタルからリアルまで、全ての領域で人々にワクワクやつながりといった、心躍る体験を届ける会社です。最近は、ゲームの中だけでなく、リアルのエンターテインメント領域にも参入しています。これから、ゲーム産業とは何なのかを再定義される時代になってくると思います。ライブやミュージカル、物販も含めて一つのビジネスと捉えると、戦略も非連続的な手段を打っていくことが大事ですし、チャレンジしていきたいと考えています。
 


――:2016年の注目タイトルと言えば、『ポケモンGO』だったかと思います。どう評価されていますか?
 
革新的なタイトルだと思います。成熟期になるとIPタイトルがヒットしやすいので、各社IPを取りに行く動きが加速しますが、それはある種のイノベーションのジレンマを生む可能性が高まります。各社が同じ戦略で同じような戦い方をすると、同じようなゲームが出てくるのでユーザーに飽きられてしまう。ブラウザゲームのときも、どこもカードゲームばかりを作っていたため、『パズル&ドラゴンズ』のようなネイティブゲームがユーザーに評価されました。『ポケモンGO』は、各社とは違う戦い方をした、イノベーティブなタイトルだと捉えています。

大切なのは、Niantic社がなぜ『ポケモンGO』を生み出せたのか?です。色々な理由はあると思いますが、私は、最も重要な鍵は、会社の哲学にあると思います。Niantic社は、「スマホゲームを作ります」という会社ではなく、「人の心をエンパワードしてリアルを活性化させる」というビジョンを持った会社だと思います。会社の哲学やビジョンがあれば、「我々は何者で、どんな価値を生み出そうとしているのか」という本質的な問いを深く考え続けます。それは提供する価値からプロジェクトをスタートするということです。価値からスタートするので、オリジナルで、既存のものとは別のものが生まれる可能性が高い。当社も、哲学やビジョンを非常に大切にしていますが、恐らくイノベーションのジレンマを超えるプロダクトは、価値や信念にしっかりと向き合って、ものづくりをするチームにしか生み出せないんだと思います。

実は当社でも以前、スマートフォンだけに限らず《ライフログなどをうまく取れたら、もっと面白いエンターテインメントができる》とずっと議論していました。その意味で『ポケモンGO』が出てきた時は、まさにやりたいことそのものでしたので、泣ける悔しさでした。ディスカッションしていた当時、当社は生きるか死ぬかの戦いをしていたので、実現を諦めてしまいました。しかし上場して資金調達したことにより、半問・1年ではなく、5年・10年先を見据えた戦い方ができるようになり、非連続的な成長をもたらすことや、業界を変えるようなことにチャレンジできるようになりました。そういう意味では、これからのチャレンジは非常に楽しみです。

また、『ポケモンGO』の価値は、ゲーム業界に対して《もっと深く考えて》というメッセージでもあると思います。各社がこのメッセージを受け止めて、新作ゲームを作っていけば、成熟産業と言われるスマホゲーム市場も再び活性化してくると思います。ゲーム業界の中だけでなく、広くエンタメ産業の中で可処分時間の奪い合いをしている状況です。当社としては、もっと多くのユーザー様に遊んでいただくためのチャレンジをしていきたいと考えています。

 


――:2016年の御社の取り組みを振り返っていただきたいのですが。

ポジティブとネガティブに分けますと、ポジティブな側面で一番大きなことは、海外も含めてヒットタイトルを中長期的に運営できる組織づくりができたことですね。特にグローバルで、1年・2年と継続的に成果を出せる組織は少ないと思っています。当社は、台湾支社Akatsuki Taiwanの組織づくりにフォーカスし、「とりあえず人材を集めてゲームを作ってみよう」ではなく、5年・10年先を見据えた組織づくりを行ってきました。

設立以来、人材と組織に投資し続け、台湾拠点もアカツキらしい組織になってきたと思います。モチベーションが高くて自ら価値を生み出すだけでなく、各自が信頼関係でつながりながらもオープンであるカルチャーができていると思います。
 
ネガティブなこととしては、新規タイトルのリリースが遅れてしまったことです。諸々の事情は存在していますが、お待たせしているユーザーの皆様にはご迷惑をおかけし、大変申し訳無いと思っております。ただ、この遅延で起こったこともしっかりとノウハウとして蓄積し、それ以降の新作については、よりしっかりとした開発プロセスで新作を仕込めていると思います。IPタイトルを含めて4本開発ラインがありますが、リリースが楽しみです。いずれも一段も二段もステージが上がったタイトルになっていると思います。



――:続いて2017年の見通しについてお話をお願いします。まず、市場動向はどうなるとみていますか。

2016年の状況からは大きく変わらないと見ています。マーケットは著しく伸びることはないでしょうが、減ることもないと思います。また、市場に残り続けるプレイヤーの数が絞られてきて、新規参入できる会社も減っていく状況になると見ています。市場で一定のポジションを取れている会社にとっては、ポジティブな状況になるのではないでしょうか。タイトルについては、特定のヒットタイトルに集中するのではなく、ニーズが多様化し、ニッチな作品に注目が集まると考えています。


――:開発費だけでなく、広告宣伝費も高騰し、1本あたりの費用が上がっているといわれていますよね。その中で、合併やM&Aなどは増えていくのでしょうか。

合併やM&Aなどのニュースは増えていくと思います。ただ、M&Aは、ゴールではなくあくまでやり方の選択肢の一つだと思います。それ以外にも例えば、複数の会社が協力する協業や、アニメ製作で行われている委員会方式のような共同出資のモデルも考えうると思います。また、ゲーム以外のメディアへの展開も考えると、自分たちだけで全てを賄おうというのは明らかに無理があり、ゲーム業界以外の会社の力もお借りする必要が出てくると思います。


――:最後に御社の展開を教えてください。

2017年は、まず、現在開発中のラインナップをしっかり世の中に出していきたいと考えています。現在自分たちの戦略には追い風が吹いており、しっかりと取り組むことで大きな成果を出せると考えています。それと同時に、今後を見込んだ投資も行い、オリジナルIPや「アカツキ」を中長期的にブランド化していきたいと思います。もちろんそれは国内だけでなく、一定の成果が残せている海外でも行いたいと思っています。また、スマホゲームの枠組みにとらわれない、新たなチャレンジも行い、「Good」ではなく、「Great」な成果を目指して挑戦し続けたいと思います。


――:ありがとうございました。
株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高243億3600万円、営業利益57億円、経常利益52億700万円、最終利益13億4200万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
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