【インタビュー】「投資フェーズが終わるというメッセージ」 ワンダープラネットCFOの佐藤彰紀氏が明かすCJ機構からの資金調達と減資の狙い

木村英彦 編集長
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ワンダープラネットといえば、名古屋を本社とし、『クラッシュフィーバー』を国内だけでなく海外でもヒットさせたゲームベンチャーとして知られている。現在、『ジャンプチ ヒーローズ』や『VALKYRIE ANATOMIA -THE ORIGIN-』も海外で展開しており、ヒットを収めつつある。

そんなワンダープラネットが先日、クールジャパン機構から最大で10億円の資金調達を行うとのアナウンスを行なった。同社取締役CFOの佐藤 彰紀氏が当サイトのインタビューに応じ、グローバル展開を志向する同社とクールジャパン機構との理念が一致したことや、調達した資金で既存タイトルの強化と新規タイトルの開発費に充当すると語った。

同時に資本金1億円への減資を行う予定であることも明らかにした(関連記事)。これまでの資金調達で増えた資本金を減らす選択をすることで、税負担を減らすメリットがあるという。ただ、今回の減資は先行投資のフェーズが終わりつつあるという経営上のメッセージであることを強調した。


■佐藤 彰紀氏プロフィール
2008年 大和総研 企業調査部(現大和証券)
2016年 ワンダープラネットに取締役CFOとして参画
Equity/IB両アナリストとして多様なフェーズの会社経営に接し、その間にグループ本社経営企画でコスト最適化等を主導、事業会社側も経験。その後、故郷の名古屋に戻り現職。


――:よろしくお願いいたします。クールジャパン機構から資金調達をされるとの発表を行いましたが、あらためて説明をお願いいたします。

クールジャパン機構を割当先とする第三者割当増資を実施し、最大10億円の資金調達を行う旨を発表しました。最大と書いたのは、一度に全額を調達するわけではないという意味です。今後、残りは当社の資金需要等を踏まえ、両社で協議して決めていきます。


――:どういう経緯でクールジャパン機構から調達することになったのでしょうか。

クールジャパン機構とお会いしたのは、当社既存株主からの紹介がきっかけでした。設立以来、ミッション「楽しいね!を、世界中の日常へ。」を掲げ、グローバルのユーザーにゲームコンテンツを提供しておりますが、クールジャパン機構は日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓に関連する支援・促進をミッションとしており、お互いに理念が合致すると考え、紹介してほしいとお願いしました。

実際にお会いして協議を進める中、まず『クラッシュフィーバー』が国内だけでなく、海外、特に台湾で成功を収めていることに注目いただき、台北ゲームショウでのブース出展やオフラインイベントの開催、SNSを通じた現地に根ざしたプロモーションの取り組みも見て頂きました。また、協議に際し、『ジャンプチ ヒーローズ』は日本版の実績を踏まえた上で、繁体字中国語版の配信準備を具体的に進めていることも含め評価いただきました(『ジャンプチ ヒーローズ』繁体字中国語版は2019年6月に配信開始)。

また、スクウェア・エニックスの『VALKYRIE ANATOMIA -THE ORIGIN-』の海外パブリッシングを担当しておりますが、先程述べたような現地に根ざした運営スタイル、ローカライズやカルチャライズに力を入れている点を魅力として感じていただきました。こちらに関しては今春から共同事業として配信開始しています。

 



――:ワンダープラネットというとグローバルで実績を残していますよね。

はい。業界内での当社の特徴を挙げると、まずグローバル展開を得意としている点があります。『クラッシュフィーバー』の海外運営は4年目に入っており、堅調に収益を積み上げております。歴史的に日本ITベンチャーかつBtoCサービスで、海外で利益を残してきた会社の事例は多くはありません。この点は大きなアピールポイントになると考えています。


――:拠点が名古屋にある点はなにか関係があると思いますか?

それは感じます。私自身、名古屋の出身ですので、東京から戻ってきたときに名古屋の良さを再び意識するようになりました。名古屋といえば、自動車を中心とするものづくりの街です。働く人もその影響を強く受けていて、ITベンチャーで働く人であっても真面目にコツコツと改善を繰り返したいと考える人が多いです。

一方、名古屋はITベンチャーの社数が東京に比べて少ないので、当然、開発者も業界経験者は多くありません。例えば、当社の第1号社員は、自動車系のメーカーでシステム開発をやっていた人でした。そのため、他業界からのシフトチェンジに時間は必要ですが、根が真面目ですので、長い目では心強い戦力になってくれますし、離職率も東京のITベンチャーと比べて低い点が特徴です。

ただ、海外運営を担当するグローバルスタジオのある渋谷オフィスは少し雰囲気が違います。海外出身の社員が多いので、よりフランクな雰囲気を感じますが、開発思想は名古屋本社のものづくりと同じ考え方を意識しています。



――:事前に説明されたかと思いますが、既存の株主の方々からはどういった反応だったのでしょうか。

特に反対はありませんでしたが、実際にあった反応としては驚かれました。クールジャパン機構がゲームベンチャーに出資する初事例でしたし、また直接出資する事例が多くないことがその背景でした。


――:なるほど。調達した資金はどういった使途をお考えでしょうか。

まず、既存運営タイトル、具体的には『クラッシュフィーバー』、『ジャンプチヒーローズ』のグローバル展開強化に充てます。また、新規タイトルの開発費にも充当する予定です。新作については数タイトルを検討中で、まだお話できる段階にありませんが、今後発表していく予定ですのでご期待下さい!


――:グローバルでの展開を意識された開発運営を行うとのことですが、どういった展開になるのでしょうか。

スマホゲーム市場は、日本国内では約1兆円ですが、世界では約8兆円と言われています。ただ、グローバル展開にあたって、世界的に広告先行でとりあえずユーザーを集めて成功できる時代ではなくなってきたと感じ、当社はまず日本版運営でしっかりと実績を残し、自信を持ってグローバル配信を行える品質を確認してからの進出を考えています。
 



――:将来的にはIPOも考えていらっしゃるのでしょうか。

当社には、現在、11社に出資していただいています。共同事業を展開している会社もありますが、多くがいわゆるVCからの純投資です。将来的にはどこかでEXITの場を提供する責務は当然ありますので、EXITの選択肢の一つとしてIPOは検討しております。ただ、IPOは新たに株主となられる方への説明責任が生まれますので、事業進捗等を見ながら時期等の具体的な内容については慎重に考えております。


――:あと、今回予定している減資の狙いは何でしょうか。

今回の資金調達により資本金と資本準備金合計は約30億円となります。一方で、これまで開発費中心に先行投資してきた結果、2018年8月期の繰越利益剰余金は約23億円のマイナスです。こちらは本日(7月26日)付の官報に公告を掲載していますが、減資により資本金を1億円に減少し、繰越利益剰余金のマイナスを一掃する予定です。

これによって、外形標準課税で年間数千万円あった事業税の負担を大きく減らすことができ、税制上のメリットを受けられます。また、今後銀行など金融機関と会話する際も繰越利益剰余金のマイナスがなくなることはプラスに働くと考えています。加えて、今後、繰越利益剰余金がプラスに転じれば、資本政策に関して選択肢も増えてきます。なお、今回の減資は現預金が減るというものではありません。貸借対照表の純資産の組み替えになります。



――:わかりました。減資というと、実施する目的は様々です。おっしゃるように、別に現預金が減るわけではないですが、ネガティブに捉えられることが多いですよね。減資に関する記事に対して予想以上にネガティブな反応があるので驚くことがあります。まさに倒産するんじゃないかという勢いで…。

はい。「減資」という表現の問題もあると思っています。スタートアップは設立当初の数年間、開発費などが投資先行して赤字となり、その間のキャッシュフローをエクイティファイナンスによる資金調達で支える事例は多く、その場合に資本金が増える影響で当社のように事業税負担で悩まれる方もおられると思います。

当社も以前から「減資」を検討してましたが、実施タイミングは慎重に考えていました。判断としては収益の柱が整いつつあり、設立以来の先行投資のフェーズが終わりつつある、ということを内外に伝える経営上のメッセージでもあります。ただ、当社は今後もベンチャーであることは変わらないので、今まで以上の成長を追い求めていきたいと考えています。



――:ありがとうございました。会社側も減資しますと公告を出すだけでなく、こういう目的で実施する、あるいは、減資前後に増資するなどの追加的な情報開示があるといいのにと感じています。


 

ワンダープラネット

ワンダープラネット株式会社
http://wonderpla.net/

会社情報

会社名
ワンダープラネット株式会社
設立
2012年9月
代表者
代表取締役社長CEO 常川 友樹
決算期
8月
直近業績
売上高34億6400万円、営業利益4900万円、経常利益2800万円、最終損益2億3600万円の赤字(2023年8月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
4199
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