【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】原作の裾野を広げる『ヒプノシスマイクARB』。話題沸騰の「ヒプマイ」ゲームアプリのリリース前後施策を分析


スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
 

なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
 

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本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はアイディアファクトリープラスの新作ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-の施策をピックアップする。
   
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より) 
 

■開発・運営はオルトプラスとアイディアファクトリーの合弁会社


  

■『ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-』
提供:アイディアファクトリープラス

リリース日:2020年3月26日

音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-(以下、ヒプマイ)」のゲームアプリが話題沸騰中です。3月26日(木)のリリース早々にApp Storeのセールスランキングで5位、無料ダウンロードランキングで1位を獲得するなど、垂直立ち上がりを見せました。

ゲームアプリ版のジャンルはリズムゲーム、タイトルは『ヒプノシスマイク-Alternative Rap Battle-(以下、ヒプマイARB)』です。同作では、DJのターンテーブルのようなリズムゲーム画面で、LIVEでもお馴染みの大胆なリリック演出が楽しめます。

▲リズムゲーム画面では、『ヒプマイARB』ならではの「スクラッチノーツ」など新感覚なギミック、複数の難易度でプレイできるためリズムゲームに慣れていない方から、普通のリズムゲームでは物足りない方まで遊び尽くせる内容に。

開発・運営を担当しているのは、オルトプラスとアイディアファクトリーの合弁会社アイディアファクトリープラスです。設立の経緯には「両社の知見を共有し、タイトルの安定運営や効果的なマーケティング施策の遂行などの実現」を目的としています。

アイディアファクトリーは、女性向け商品を扱うブランド「オトメイト」を展開しており、これまでに『薄桜鬼』や『緋色の欠片』など、さまざまな恋愛アドベンチャーゲームのヒット作を手掛けています。一方オルトプラスは、ソーシャルゲーム事業として『アイドルマスター SideM』や『RenCa:A/N』など、こちらも女性向けコンテンツで実績を持つ企業です。

両社とも、『ヒプマイARB』におけるプラットフォームやターゲットに関しての知見の融合が期待されており、リリース前から話題を呼んでいました。

そして、なにより原作である「ヒプマイ」の人気も日に日に熱を帯びてきています。

そもそも「ヒプマイ」は、キングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSが手掛ける男性声優陣による音楽原作キャラクターラッププロジェクトです。キャラクターデザインはアイディアファクトリー(オトメイト)、キャラクターデザイン原案と公式イラストをオトメイト所属のイラストレーター一為(Kazui)氏が担当、シナリオは百瀬祐一郎氏が担当しています。

2017年9月に公開したミュージックビデオを皮切りに、プロジェクトが始動。作詞・作曲に有名ラッパーやアーティストを起用しているほか、声優陣による力強いライブパフォーマンスが話題を呼び、2018年11月にはオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでプロジェクトが成長していきました。

「ヒプマイ」の世界では、ディビジョンと呼ばれる区画を代表するMCグループが活動をしています。ゲームアプリ版『ヒプマイARB』では、イケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュクと4つのディビジョンに所属する12人のキャラクターが登場(原作ではオオサカ、ナゴヤの6人が存在しますが、ゲーム版ではまだ未実装)。

新進気鋭のIPプロジェクトを、いったいどのようにゲームアプリに落とし込んでいったのでしょうか。今回は、ランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できる「Sp!cemartカレンダー」を用いて新作『ヒプマイARB』の施策を調査していきます。まずはリリースまでの流れを見ていきましょう。
 

■『ヒプマイARB』リリースまでの流れ


【リリースまでの流れ】
■ 2018年9月9日 制作発表
■ 2019年4月22日 公式Twitterアカウントを開始
同年9月5日 主題歌の新曲ミュージックビデオを公開
同年10月1日 公式サイトをリニューアルオープン
同年12月20日 事前登録及びキャンペーンを開始
■ 2020年1月16日 池袋・オトメイトビルに特大ポスターを掲出
同年3月3日 公式サイトに声優陣による意気込みボイスを公開
同年3月中旬 各ゲームメディアで事前のレビュー記事が掲載
同年3月20日 正式リリース日を発表。App Storeの予約注文も開始
同年3月24日 アプリストアで事前ダウンロードを開始
同年3月26日 正式リリース

以上が『ヒプマイARB』におけるリリースまでの主な流れです。上記の施策以外にも、公式Twitterでキャラクター情報を公開したり、キャンペーンの達成状況を投稿したり、さらには原作「ヒプマイ」の露出も並行して行われるなど、さまざまなアクションが間接的に同作のプロモーションに寄与していました。


▲池袋・オトメイトビルに掲出された​キービジュアル使用の特大ポスター(関連記事

デジタルマーケティングでは、事前登録と同時に始めたキャンペーン企画「HYPNOSISMIC-ARB- SCRATCH BATTLE」を公式サイトで実施。これは、プレイヤーがDJとなってゲームを進めるアプリの内容に倣い、DJになりきってDISCをスクラッチするタップミニゲームです。参加者全員の累計スクラッチ数に応じて正式リリースした際に使用できるゲーム内特典が獲得できます。

▲制限時間内にスクラッチの回数を増やしていくミニゲームで、終了後は結果をツイートしてシェアが可能でした。また、スクラッチの回数は蓄積されていき、参加ユーザーの累計回数に応じてリリース後に配布される報酬内容が変わります。なお、こちらのタップミニゲームは、ゲーム版で展開される内容とは異なります。

シンプルなミニゲームではありますが、世界観にマッチしたキャンペーンが功を奏してか、当初予定していた累計1億スクラッチを優に超えて、結果的に累計12,3456,789回となりました。ゲーム内特典の「Gコレクトチケット(ガチャチケット)」合計10回分を配布するほか、追加報酬としてゲームアプリ内で登場するSSRカードを使用した「スマートフォン用待ち受け12種」も新たに設けました。

また公式サイトでは、リリース前から断続的に“ここでしか聞けない”記念ボイスを掲載するなど、事前登録の導線を確保するほか、ユーザーの期待値を上げていく細やかな施策も随時展開していました。

なお、公式Twitterはリリース直前で45万フォロワーを達成。原作「ヒプマイ」の公式Twitterが70万フォロワーのため、約半数以上の認知ユーザーがリリースを心待ちにしていたのがうかがえます。

続いては、『ヒプマイARB』のゲーム内施策やマネタイズを中心に「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
 

■SSRを1枚選べる特別なセット商品を販売


『ヒプマイARB』の基本的なゲームサイクルは、シナリオ、リズムゲーム、育成が主な行動です。リズムゲームを遊ぶことでアイテムが手に入り、それらをショップで強化アイテムに交換することでキャラクターを育成することができます。また、シナリオはディビジョンごとにオリジナルストーリーが存在し、ファン待望の内容になっています。

細かいゲーム内容に関しては、Social Game Infoでもレビュー記事が掲載されていますので、こちらをご覧いただければと思います。

【関連記事】『ヒプマイARB』をシブヤ・ディビジョンの個別ストーリーと共に先行レビュー…ラップ&DJならではのリズムゲームから「ヒプマイ」の本気度を再認識

さて、本作のマネタイズは、有償アイテムのジェムの販売です。ジェムは主にガチャやショップなどで使用します。ジェムのラインナップは以下の通り。

【ジェムのラインナップ】
・ジェム 有償60個(120円)<単価:2.00円/割引率:0.0%>
・ジェム 有償245個+無償85個(490円)<単価:1.48円/割引率:26.0%>
・ジェム 有償490個+無償210個(980円)<単価:1.40円/割引率:30.0%>
・ジェム 有償740個+無償360個(1,480円)<単価:1.35円/割引率:32.5%>
・ジェム 有償1840個+無償960個(3,680円)<単価:1.31円/割引率:34.5%>
・ジェム 有償2450個+無償1550個(4,900円)<単価:1.23円/割引率:38.5%>
・ジェム 有償2990個+無償2010個(5,980円)<単価:1.20円/割引率:40.0%>
・ジェム 有償5000個+無償3900個(10,000円)<単価:1.12円/割引率:44.0%>


▲ジェムショップ画面

ショップでは期間限定商品やサブスク商品なども販売されていました。

【ゲーム開始後1週間限定商品】※購入回数1回
・ジェム 有償1840個+無償960+増量分500個<無償>(3,680円)
・ジェム 有償5000個+無償3900+増量分1100個<無償>(10,000円)

【A.R.Bパス<サブスク商品>】※30日間有効
・ジェム有償490個に加え、購入翌日から毎日ジェム無償100個を最大25日間受け取れる

「Gコレクト」と呼ばれるガチャでは、リズムゲームパートで編成できるキャラクターカードが排出されます。ガチャは1回でジェム250個(500円相当)、SR以上1枚確定の10連で2500個(5,000円相当)必要となります。

『ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-』【調査期間:2020年3月23日~3月30日】

▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)

Sp!cemartカレンダーでは、リリースから直近の施策及びランキング推移として、2020年3月23日(月)~3月30日(月)を抜粋しました。ランキング推移を見て分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりを見せています。無料ダウンロードランキングは1位を継続し、セールスランキングも5位にランクインしています。

リリース当日の施策では、ゲーム内を中心に4つ展開。

【リリース記念キャンペーン内容】
・A.R.B リリース記念Gコレクト(内容:ピックアップガチャ)
・リリース記念ログインボーナス(内容:ジェムを毎日500個配布 - 最大2500個)
・スタートダッシュログインボーナス(内容:ジェムを毎日100個配布 - 最大1300個)
・スタートダッシュセットの販売(内容:10連ガチャチケット+セレクトチケット)

特徴的なのは、期間限定のログインボーナスをふたつ開催していました。それぞれ期間は下記の通り。

<リリース記念ログインボーナスの開催期間>
2020/3/26(木)11:00~2020/3/30(月)23:59

<スタートダッシュログインボーナスの開催期間>
2020/3/26(木)11:00~2020/4/7(火)23:59

全日ログインすれば最大3800個(7,600円相当)の無償ジェムを受け取ることができました。終了日は異なりますが、リリース開始から最初の土日を挟む5日間は、同時に報酬を受け取ることもできるなど、ユーザーの定着率にも寄与した施策になったことでしょう。

ガチャ施策の「A.R.B リリース記念Gコレクト」では、とくに有償ジェム限定でもなく、一部SSRカードの排出率が上がる通常のピックアップガチャとして展開。


▲「A.R.B リリース記念Gコレクト」

恐らく今回のセールスランキングの垂直立ち上がりに最も寄与したのが、スタートダッシュセットの販売でしょう。これはSSRカードを1枚選んで手に入る特別な「セレクトチケット」と「10連Gコレクトチケット」がセットになった商品。期間中に1回限り、有償ジェム2500個(5,000円相当)で購入できます(4月30日23:59までの限定販売)。


▲スタートダッシュセット

すでに情報が先行しているIPタイトルのため、ユーザーにとって推しメン(好きなキャラクター)が存在します。ガチャで対象のSSRが排出されるのを待つよりも、確実にSSRの推しメンが手に入る唯一の方法として、ユーザーに訴求したことがうかがえます。
 

■初出情報に溢れたゲームアプリ版


大型IPプロジェクトのゲームアプリが満を持して登場しました。幸先のいいスタートを切っていますが、現在はセールスランキングが緩やかに下降し、落ち着きを見せてきました。

3月31日より初のゲーム内イベント(関連記事)を開催したほか、未実装の楽曲をはじめ、オオサカやナゴヤのメンバーもこれから登場することを考えれば、さらなる盛り上がりを見せていくことがうかがえます。そして、2020年7月より待望のTVアニメ化がスタートするため、今夏はおおきなスパイクが作られることでしょう。

『ヒプマイARB』をひと通り遊んで感じたことは、いい意味でリズムゲームアプリの型にはまっていることです。先ほど挙げた通り、同作のゲームサイクルは、シナリオ、リズムゲーム、育成が中心となり、ほかのコンテンツ(モード)は存在しません。

昨今のゲームアプリと比較するとやや物足りなさを感じるところですが、アプリストアの評価は3月31日時点で★4.8をキープしています。

高評価の背景には、恐らくゲーム上で体験できる世界観やキャラクターによる初出情報が溢れている点が挙げられます。

原作「ヒプマイ」は2017年9月に始動し、まだまだ日が浅いプロジェクトです。当然、これまでも音楽CDやライブ、漫画、ラジオなどさまざまなメディアミックス展開を仕掛けてきましたが、今回のゲーム版ではボイス付きのキャラクターたちによる掛け合い、世界観の深掘り、DJプレイヤーとして楽曲に参加できるなど、他メディアとは異なる価値を体験できることが強みのひとつです。

そのため『ヒプマイARB』は、ゲームアプリ市場におけるほかのIPタイトルとはやや異なる立ち位置にいるのかもしれません。現状ユーザーはシナリオやリズムゲームだけでも十分の価値を体験できるかもしれませんが、今後のアップデートやオリジナル施策をきっかけに、ゲームを起点として「ヒプマイ」のさらなる成長が見込まれるのではないかと期待しています。

「Sp!cemartカレンダー」では、各ゲームのイベント情報をランキング推移と共に閲覧できます。自社はもとより、競合他社の施策一覧を取りまとめた分析などにもご活用できます。ぜひ、ご興味がある方はお問い合わせページからご連絡ください。

 

 

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■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。

コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
 

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アイディアファクトリー株式会社
https://www.ideaf.co.jp/

会社情報

会社名
アイディアファクトリー株式会社
設立
1994年10月
代表者
代表取締役社長 佐藤 嘉晃
企業データを見る
株式会社スパイスマート
http://corp.spicemart.jp/

会社情報

会社名
株式会社スパイスマート
設立
2015年7月
代表者
代表取締役 久保 真澄
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