【インタビュー】大規模化するゲームアプリ運用で施策の精度をいかに上げるか…アカツキにおける若手企画職の分析スキル底上げの取り組み(提供:リーン・ニシカタ)

木村英彦 編集長
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モバイルゲーム業界では、昨今、ゲームアプリがリッチ化し、運営チームの規模が100人を超えるタイトルも珍しくなくなった。競争の激化と開発・運用コストの上昇を背景として、ゲーム運用では、イベントやアップデートなどより精度の高い施策が求められるようになっている。

人気タイトルを多数運営するアカツキ<3932>では、現場で実際に業務に従事し、意思決定を行っている企画担当者のデータ分析スキル底上げを通じてこれらの課題に対応し、これまで多くの成果を残している。

今回は、アカツキのゲーム事業本部 企画職能GMの菅隆一氏(写真左)と、リーン・ニシカタ代表取締役社長の西方智晃氏(写真右)に適切なデータを収集・分析するための環境づくりや仕組みづくり、そして企画担当者の分析スキルを底上げするための取り組みについて語ってもらった。



――:まず、簡単に自己紹介をお願いいたします。

:アカツキでは企画職の職能GMとして、主に中途採用や若手・中途スタッフの育成を担当しています。直近では、きょうのお話にもつながるのですが、リーン・ニシカタさんと一緒に新卒を中心とした企画職へのデータ分析の研修も企画しました。

西方:もともとゲーム会社に在籍していましたが、3年前に独立して、主にデータ分析業務を行っています。アカツキさんで運営されているタイトルを分析面で支援しておりまして、その関係で今回データ分析の研修を担当することになりました。



――:今回のテーマである企画職向けの分析スキル研修を行ったとのことですが、どういった経緯で始めたのでしょうか。

西方:アカツキさんの特徴として、ゲームやIPに対する愛情が非常に深いことがあげられます。IPの取り扱いの丁寧さや、ユーザー目線への意識が他社と比べてもずば抜けていると感じていました。その一方で、定量的なデータを使って施策を評価・改善することにはまだ課題があるということで、その解決のためにデータ分析を支援させていただいた経緯があります。

企画職の方が自分でデータが分析できると、様々な施策のスピード感や精度をさらに上げることができます。企画職のスキルとして、今以上に定量的な分析力が必要という相談を受けまして、アカツキさん向けのメニューを考えて研修を実施することになりました。



――:アカツキ側の視点では、どのような経緯で企画職にデータ分析の研修を行おうと考えたのでしょうか。

:もともと私は、他のゲーム会社で9年ほど企画職として働いていました。プランナーから始めてディレクター、そしてプロデューサーとしてゲーム開発・運営に携わってきましたが、ソーシャルゲームの黎明期は、とにかく分析が必須でした。データ分析に基づいてPDCAを回していくと必然的に数字が上がっていく状況でした。

当時は黎明期ということもあり、プロモーションをせずともお客さんがどんどん増えていく状況だったことも大きかったのですが、とにかくPDCAを回すことで数字が改善される時代でした。その後、デバイスの進化に合わせ市場から要求される品質の水準も高まり、企画力やクリエイティブが一層求められる時代になってきました。


その一方、ゲームの開発・運営を担うチームの規模が大きくなっていて、いまや100人、200人単位になっています。そうなると、プランナーが一つのセクションを長くずっと担う状況になりやすく、「この作業はできるけど、他は何も経験していません」といったバランスの悪いスキルセットにつながることを懸念していました。

こうした問題意識から3年ほど前から、企画職を中心にベースとなるスキルをしっかりと身につけてもらうための研修を設計・実施するようになりました。その一環として、新卒の企画職がしっかりとデータ分析をできる状態にするための取り組みをできないかと考え、リーン・ニシカタさんにお願いしました。



――:そういうことだったのですね。データ分析の専門部署がある会社もあれば、チームに専門スタッフがいてデータ分析を担う会社もあるように、分析機能の配置パターンはいくつかありますよね。

:おっしゃる通り、会社によっては分析の専門の部署があるところと、そうじゃないところが混在している印象ですね。西方さんが以前に在籍されていた会社では専門組織がありましたよね。

西方:そうですね。私がいた会社では、分析の専門部署があって、そこから各チームに担当がアサインされていました。あとは、会社の運営するタイトルについて、横断的に分析するといった機能もありました。

:私も以前の会社には分析専門の組織はあったのですが、分析官がチームに寄り添うのではなくて、評論家的な立ち位置で、「このような分析結果が出たから、こうしたほうがいい」とアドバイスする光景がみられました。そういう関係が受け入れがたいチームもあったのは事実です。会社によって、分析専門部署があったり、なかったりとバラツキがあるのはそういう背景があるようです。

現在のアカツキでは、専門の部署というものはなく、チームの中にいる分析に強みを持つメンバーを中心として、プランナー自身でそれをできるようにした方が良いと判断しました。

 



――:仕事をやりながらデータ分析を学ぶのはなかなか大変ではないかと思います。

西方: おっしゃるとおり、参加されたプランナーの方の多くは日々タスクに追われていて、これ以上、仕事を増やすと大変といった反応はありました。特に序盤は覚えることがたくさんあり、大変そうでした。ただ、長い目で見ると、意思決定をする上でのコミュニケーションコストやアイデアの優先順位の決定など、業務の質・スピードの改善にもつながるという観点から取り組んでいただけました。

具体的な研修の進め方としては、まず座学を行った上で、実際に自身が担当するタイトルの数字を分析してもらい、課題と感じているポイントと、なぜそれが課題なのか、といった仮説を出して、さらにデータを使って仮説を検証してもらいました。自分の仮説が合っているのか、間違っているのか、白黒を出す、といった実践的な取り組みを実施しました。

問題設定にあたっても、あるKPI――ここでは課金率が落ち込んでいたとします。では課金率を上げるためにどうするかとなったとき、買いやすい低価格商品を出しましょうといった対策に走りがちです。そうではなく、どのようなユーザーのどのような行動が起因しているのか、そして、期待するアクションをしてもらえる対策となっているかを考えるようにしました。運営がゲームとしてきちんと面白さを提供しながら解決方法を探ることが目的でした。

実際に研修を終えてみると、多くの方がデータ分析を活用できるようになりました。アカツキさんのプランナーは、ユーザーの気持ちや感性に沿った施策を考えるのが得意な方が多いですが、研修を受けたことで、これまでの施策のレベルが一段上がったと思います。



――:研修は、どれぐらいの期間で実施されたのですか。

西方: 本来であれば半年以上かけてじっくりやるレベルの内容でしたが、3カ月で実施しました。講義は隔週で実施し、講義の合間には課題に取り組んでもらうことで、知識の定着を図りました。こちらの要求が高すぎるのではないかと心配していましたが、最後までついてきていただいたのは良かったです。


――:3カ月間とは随分短期間で実施されたのですね。

:あえて詰め込む形にしました。普段の業務は、メンバーレイヤーになるほど、作業内容が多くなりますので、その中でも安定的に業務ができる能力をそもそも身に付けてもらいたいと考えていました。本当にやることがないときにしかできない分析というのは、業務としては成り立たないので、普段の業務の中でちゃんとデータ分析を組み込むいといった、バランスの取れた働き方を意識してもらうようにしました。


――:実際研修を受けてもらっての成果はいかがでしたか。

:最後の受講生アンケートで印象に残ったものをあげると、数字が苦手というプランナーが数人いて、研修の最初の方は苦労していたようなのですが、研修の最後の方になると、「こういうデータが欲しいから、こういうことをやってほしい」とエンジニアと対話しながら企画を進められるようになった、という感想がありました。

あとは、企画に対する考え方を支援するツールとしてデータ分析を捉えて、自分でデータを分析して仮説と立証をしながら企画内容を論理的に組み立てることができた、という嬉しい声もありました。

1年目のスタッフがデータ分析を学んで成長していく過程を見ることができたと思っていますので、やってみて非常に効果が高かったと考えています。



――:以前いたゲーム会社で、プランナーが何となく立てた企画をエンジニアから問題点を指摘されてリジェクトされる現場を何度か見ました。数字を使って論理的に組み立てられるスキルは重要ですよね。

:私はどちらというとバランスが大事だと考えています。完全に理詰めで企画を考える部分と、お客様の意見を踏まえつつ、自分もコアファンとしてゲームをプレイしながら感性でアイデアを出すことがうまくバランスするといい企画ができると考えています。

どちらかに偏ると、何かしら問題が起こることが多くて。とくに感覚だけだと、おっしゃったように他の職能のメンバーから「これ、本当にやる意味があるんですか」と指摘が入ることがあります。意味があることをデータで説明して、チームのみんなが納得して気持ちよく仕事できるようにするのもプランナーの仕事なので、やはりバランスが大事だと思います。

西方: 受講後アンケートの回答内容には、データ分析を学んだことによって相手への伝え方が分かってきた、といった回答が非常に多いですね。相手にものを伝えるにあたって、必要な論理構成や見せ方を学ぶことができ、今まで何度もやっていた企画スキルにプラスアルファが生まれて、1段上の高いところから企画を進められるようになった、というコメントが多かったです。



――:西方さん、実際に研修に取り組まれていて、アカツキさんのスタッフのレベルが上がったことは実感できましたか。

西方: 以前からあるタイトルで一緒に仕事させていただいているのですが、その中のメンバーにも研修を受けていただきました。研修終了後にタイトルの課題について話す機会があったのですが、質問内容が鋭くなりましたね。

また、研修後は「こんなことを考えているんですけど、確証を取りたいので、こういう数字を出してください」といった的確な分析依頼が来るようになりました。
われわれは、目的や意図・背景を明確にした分析依頼を「分析スペックを切る」と呼んでいます。分析スペックがうまく切れないと、数字を出してみたものの、「よくわからないから別の集計方法で出してみてくれませんか」といったやり取りを何回も経てやっと回答にたどり着くケースが多々あります。最初から自分の知りたい答えをちゃんと導き出せるようなオーダーを出してくるようになり、意思決定のスピードがだいぶ改善されました。


:企画をする過程で新しくデータが必要になったとき、取れるログデータを最初から設計しなくてはいけないのですが、後になって「こういうデータが取りたいけど、ありませんか」といったリクエストがたまに出てしまいます。

研修を経て考え方と知識が付いたので、設計時点からエンジニアに的確なリクエストが出せるようになったのも大きな進歩です。



――:対象とされたスタッフですが、プランナー、いわゆる現場で作業しているスタッフの方が中心ですか?

:入社1年から2年以内の企画職のプランナーを対象にしました。


――:チームのほうからの反応はいかがでしたか。

:普段プロジェクトのリーダーと話す機会が多いのですが、目に見えて変わったと聞いています。自分の意志を持った企画を出せるようになったと聞きました。意志を持った、というのは、自分で確証を持ってこういうことをすべき、と提案してくる若手が多くなったとのことでした。

これまでは「何となくお客様が喜んでくれると思う」といったアイデアベースの企画が少なくなかったのですが、ちゃんと意思と論理で組み立てた企画が出てくるようになり、現場サイドでも若手が成長したという実感を持っているという声を聞きました。



――:それはすごいですね。具体的にどういうことを研修ではお伝えされたのですか。

西方: 座学ではまず、データ分析の基本的な考え方をお伝えしました。例えば数字を見るときは、ユーザーをいくつかのセグメントに分けてそれぞれの数字を出してみるといろいろな側面が見えて来ますよ、といった話などです。その後は、事実と意見を分ける、といった分析結果の伝達方法を、実践も交えつつ伝えて行きました。

研修を通じて、一番大事にしたかったのは、自分が担当しているタイトルに対して、漠然と思っている課題や、「こうしたら面白いだろうな」というアイデアが、本当にお客様に求められているのか、そして、どうやったらそれを定量的に示すことができるか、その方法を自身で考えることです。

研修では、実践を重視した内容になっていて、具体的な座学の後にグループワークをZoomの機能で実施しました。様々なタイトルのプランナーが参加していましたが、その中で「自分のタイトルではこういう課題があるんだけど、どういう数字を見たら良いのか」といったことを参加者同士で議論してもらいました。メンターとして弊社スタッフも参加して一緒に議論しながら、こういう数字を見てみましょうというところをまず決めました。

その後、実際、自分で手を動かして、集計をしてもらって自分の思っていたとおりだった、あるいはそうではなかった、など、いろいろな発見がある中で、あえてそこから施策をあらためて検討することもしました。実践までもっていくことを重視した研修の設計にしました。

 



――:ちなみに分析研修ということで、統計的な素養を持った受講者は多かったですか。

西方:それぞれ入社時のバックグラウンドが違いますし、ばらつきがありました。理系出身の方などは本当に最初からできましたし、数字が苦手な方もいらっしゃいました。とはいえ今回扱った分析は、難しい統計知識がなくても出来るものを中心に説明しました。

ゲームに必要な分析は実際には、高度な統計知識が必要ないケースが多いと思います。今回受講された皆さんは地頭が良いので、すぐに吸収できたようです。最初に、今まで数字苦手ですって言っていた方が特にすごく成長されて、個人的にもすごく感動しました。



――:なるほど。

西方: グループワークをやったことで、できていた人はグループの中で発言をして、引っ張ってくれるし、ちょっと苦手な方も、なんとかできる方に食らいついていく姿勢がありました。そういった姿勢やマインドもうまくいったポイントだと思います。教える人が一方的に何か知識をたたき込むというより、普段接点がない人からいろいろな刺激を受けて、プラスにはなっていたと感じます。


――:研修で横のつながりはできたのでしょうか。

:チームに入って仕事をすると、他のチームと普段は関わりがあまりないのですが、グループワークを通じて知り合ってもらい、仲良くなってもらいたいと考えていました。研修で親しくなった違うチームの人に企画の相談をして、アドバイスをもらうことは結構やられているように思います。企画のスタッフは、もともとコミュニケーション能力が高い人が多いのもあるとは思います。


――:グループワークで一緒にやると親しくなりますよね。

:そうですね。横のつながりというのは、俯瞰的に見られる人間が意識的にやらないとできづらいものです。プロジェクトに配属されて、プロジェクトの人しか知り合いがいない状況になりかねません。チームの中で活動する分にはそれでもよいのですが、研修などの機会を使って他のチームの人と接触することで、化学反応が起きると考えています。


――:その他、印象的なエピソードがあればぜひ。

西方:資料の作り方が最初と最後で大きく変わりましたね。研修序盤の資料はアカツキさんらしいというか、思いを全て資料に残してくる人が多くて、気持ちはとても伝わるのですが、印象としてまとまって伝わらないと感じることがありました。

分析の研修の後半になっていくと、資料の書き方とかがしっかり洗練されてきて、思いと一緒にロジックも伝わってきて、何より説得力が増してきました。大きな成果だったと言えると思います。


:通った企画書でいうと、分析資料の中で最初に分析対象にしている施策の「why」から全部紐付けていく、なぜこの施策がそもそも行われていて、誰に何の体験を与えるためにできたのか、といたことから考えていく人が出始めました。ただクエリを叩いて結果が出たからこうします、ではなくて、調べる対象のそもそものwhyから確認しているようです。


――:whyですか。トヨタのカイゼン活動を思い浮かべました。5回、whyを繰り返すという…。

西方:それに似たものがありますね。新しいプランナーさんの中には、なぜこのイベントをランキング形式でやるのか。十分な理解がないまま、担当していることがあったようです。ランキング形式で競うことによって、より熱量の高いユーザーさんに興奮や感動を届けるといった企画意図がわかってくると、着目する数字の精度が上がり、企画もブラッシュアップしていく、といった方向に変わっていきます。数字が苦手だった方に関しても、whyの深掘りができるようになり、他のスタッフへのフィードバックができるようになったそうです。

また、我々も4タイトルの運営のお手伝いをしておりますが、こちらも学ぶことは非常に多いです。研修のときもお話ししたことですが、皆さん、いかに面白いものを作るかという感性的なところが素晴らしく、そのなかで、データを使って裏付けを取って、精度をより上げていくことができるようになりました。これは私が前職で同じようなことをやろうとして、難しいと感じていたところで、それが徐々にクリアできつつあります。その意味で、我々もやりがいを持ってやらせていただいています。



――:こういった研修は、引き続きやられていくお考えですか。

:そうですね。私がアカツキに入社したのは2018年です。2018年からずっと研修を設計しながら、新入社員や中途採用の社員を対象に研修を設計して、パッケージにしようとしています。1人の新人が入ってきたときに、このステップを踏めば1人前になれるような研修パッケージができあがってきました。その中に分析研修があって、現在、リーン・ニシカタさんと一緒に作っています。


――:最後に今後への取り組みをお話しいただけますか。

:今回の研修では、実際に企画に反映をしてお客様の反応を見るところまではできていなかったのですが、この次はそこまでやりたいですね。分析して企画を考えて、それをプロジェクトのリーダーに提案をして、実際に案が通って、施策まで持っていけるような研修設計ができると、より現場に即したものができると考えています。


――:実際、学んだことを実践に生かせるのは大きな体験ですよね。

:それをさせてあげるような適切なサイズのチームがなかなか無いのです。例えば、あるチームは200人規模で、福岡や台湾のオフィスもあり、いろいろなチームが混在して仕事をやっています。そこまで一気通貫して体験を設計すること自体が難しくなってきているので、それを意思を持ってちらから作り出していくのも大事だと考えています。


――:西方さんはいかがですか。

西方:菅さんがおっしゃったとおりなのですが、研修を受けた方は、自分の担当を持っていて、その領域に対して今も仮説を検証して、結果を導いて、それを上長に承認を取ってリリースすることになると思います。

キャリアが進んでいくと領域が広がり、中長期的にどうあるべきかといった、少し難しい課題を考えないといけない場面も出てくると思います。そういったときにまた違った見方が必要とされます。着眼点の違いを全部吸収できるようなところも将来的に身につけて、面白いゲームをたくさん作っていただきたいなと考えています。



――:ありがとうございました。


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コーポレートサイト



(※)写真は、撮影するタイミングのみマスクを外しています。

リーン・ニシカタ
https://www.lean-nishikata.com/

会社情報

会社名
リーン・ニシカタ
設立
2018年6月
代表者
西方智晃
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