CEDECとは、コンピュータエンターテインメント業界内外の有識者が開発者に新たな知見をもたらす基調講演と特別招待セッションが行われるほか、多種多様なワークショップ、ゲーム開発やビジネスに関して公募を中心とした発表の場。
開催2日目には、株式会社モバイル&ゲームスタジオの取締役兼ゲームデザイナーの遠藤雅伸氏による講演、「すごろくで体感!もう一度プレイする気にさせる「バランスブレイカー」というゲームシステム」が行われた。
コンシューマやスマートフォンアプリなど、様々なプラットフォームでゲーム制作は行われているが、本講演のテーマにも据えている「もう一度プレイする気にさせる」という内容は、立場や環境に関わらず全開発者が目指すべき取り組みであろう。
本稿では、プレイヤーのモチベーションを保たせるほか、ゲームデザインの裾野を広げる「バランスブレイカー」について、「書込み式ループすごろく」を用いながら学び行われた、賑やかな講演についてお伝えしていこう。
「バランスを保つ」ことは「ゲームをつまらなくする」
現在のゲームデザインでは、モチベーションを保つために「ゲーム時間を短縮する」「敗北感を軽減する」手法として、メカニクスに「バランスブレイカー」を組み込むことが増えていると遠藤氏は語る。そもそもバランスブレイカーと聞いて、あまり肯定的な印象を持つ人は少ないだろう。ゲームにおいて、ルールが破綻してしまうことや、対戦の場合は平等に進行していかないことなど、様々な問題に直面する心配が頭をよぎるものだ……。
しかし、遠藤氏は、その「バランスを保つ」ことが「ゲームをつまらなくする」原因だと続けた。そんなバランスブレイカーを実際に体験するため、受講者参加型の講演が幕を開けた。
まず講演で用いられた「書込み式ループすごろく」について説明しよう。
はじめに各テーブル5人ずつに分かれて、道具にサイコロとコインが15枚、自身の位置を示す5本のポール、そして四角い白枠がたくさん描かれた3枚のシートが配られた。
ルールは単純明快。シートに描かれた四角い白枠の矢印に従って、サイコロが出た目の数だけ順番に進んでいき、1周すると1コイン(ポイント)GETでき、誰かが3コインを獲得した時点でゲームが終了する「すごろく」だ。
ゲームを開始する前に、遠藤氏から「それでは、シートに描かれた四角い白枠に、自分たちで好きなように内容を書いてください」という指示があった。そう、今回の「書込み式ループすごろく」というのは、自分たちで止まったマスの内容を考える手作り感満載のルールなのだ。
開始の掛け声を合図に、それぞれ各テーブルごとにすごろくの内容を書き足していった。追加した内容を見て回ってみると「1枚コインがもらえる」「1回休み」「2マス戻る」など、ボードゲームにおく定番なマス目が追加されていった。
▲本講演は事前に参加登録をした方のみが講演を受けらえるのだが、主催側と遠藤氏の粋なはからいで、多くの見学者も会場に入ることができた。見学者が場内を取り囲み、とても賑やかな雰囲気に会場が包まれた。
「もう一回やろう!」という気にさせられるか…
さて、1枚目のシートで遊び繰り返していると、遠藤氏が「ひと通り触ると“1回休み”や“誰かのコインを取る”に対して、どこか不快に感じるうえに、ゲーム時間が伸びてくることに気付くと思います。じつは、これらの要素がマイナス要素になっている」と明かしたのだ。
そして、これらの要素を排除すれば「面白くなる」という。たとえば前述したように、誰かのコインを奪う行為をマイナス要素とすれば、“該当マスに止まったプレイヤー以外”の全員にコインが手に入るということをプラス要素と話す遠藤氏。
誰かがコインを1枚失うことに対して、みんなさして興味は無いのだが、マスに該当したプレイヤー以外の全員にコインが渡ることは、自身にも影響が出るため、興味も溢れてモチベーションに繋がるようだ。
そして、全員がある程度2枚目のシートで遊び繰り返すと、遠藤氏が重要なことを告げた。「1枚目の反省点を踏まえて、みなさんマス目に逆転の要素を入れたと思います。たとえば一番コインを持っている人が、最下位の人に数枚渡すなど……でも、それってバランスさせているじゃないですか?」と。
そう、デジタル・アナログ問わず、ゲームにおいて絡んでくる「逆転の要素」とは、単純に時間を無駄に長引かせて、次第にプレイヤーたちを疲弊させていく原因にも繋がっていたのだ……。均等にゲームを楽しむ“シーソーゲーム”とは、「もう1回やろう!」という気概が無くなってしまうようだ。
単純に遊んでて「次行こう!」「もう一回やろう!」という雰囲気を出せるかが、ゲーム性を構築するに当たって重要とのこと。常識に捉われない発想が、何よりも人の心を動かす力になるようだ。
▲遠藤氏は、各テーブルごとを廻りながらアドバイスを告げていた。
では、“すごろく”で言うバランスブレイカーというのは、いったいどれほどの内容のことを指すのか。「あるマスに止まり、そこでサイコロを振って1が出たら、その人の勝利。このぐらいのバランスで良いんです」と遠藤氏は話す。
たしかに実際のプレイをしているなかで、上記のマスと結果が出れば、大笑いしてしまうだろう。頭ひとつ抜けた人が、早く勝てるような基準を入れてしまったほうが、遊びのサイクルも早くなり、なおかつひとつひとつのマス目を恐々と待ち焦がれるようになるようだ。
また、不思議なものでバランスブレイカーによって負けた人は、「アイツは運が良かっただけ、次々!」と悔やまず気持ちの切り替えが簡単にできるという。思えば、行き過ぎた内容と結果に直面すると、どこか痛快で清々しい気持ちにもなるもの。
さらに「毎回、“変なこと”を考え付け足す努力も大事」と語る遠藤氏。「たとえば、みなさんが企画会議で全員に苦笑・一蹴された変な仕様でも、それが面白い要素になったり、時としてヒットの要因に繋がることもある」と語った。
“面白いもの”は何処にある…!?
名残惜しいが気付くと講演の終了時刻に。60分という短い時間のなかで、多くの参加者が頭を捻らせて“面白いもの”を考えたことだろう。しかし、最後に遠藤氏は「“面白いもの”は頭のなかで考えている以上に、とても“変な場所”にあるものです」と言葉を添えたのだ。また、CEDECでは各講演の終了後にアンケートを提出することがある。これに対して、遠藤氏は「今回“バランスブレイカー”について学んだこともあり、悪かったら0、良かったら満点をつけて帰ってください!(笑)」と、中途半端な回答にならないよう指摘しつつ、最後まで笑いの絶えない講演となった。
本講演を聞いていた筆者は、ときおり、幼少時代に様々なゲームで遊んでいた頃の景色が目に浮かんだ。「すごろく」というアナログめいたものを見て、懐かし気持ちになったのはもちろんだが、“バランスを崩すことでゲームが面白くなる”ことを講演中に何度も耳にして、「じゃあ、あの作品ではどうだった…?」というように要素と作品を結びつけながら、また再確認しながら講演に参加していたのであった。
……また、蛇足で恐縮なのだが、とても会場の雰囲気が心地よかったのが印象的だった。
というのも、みなさん初対面にも関わらず、どこのテーブルも本当に仲良く楽しくプレイに興じていたのだ。それぞれゲーム開発者、学生、男女や年齢など立場は異なるものだが、CEDECに訪れる人の共通点、それは「みなさん、ゲームが大好き」であること。
会場の雰囲気を遠巻きから見ていた筆者としては、改めてゲームは本当に魅力的な“コミュニケーションツール”であることを再認識しつつ、本稿を締めることにしよう。