クルーズ<2138>は11月5日、2014年3月期第2四半期(7~9月)の連結決算を発表し、都内で決算説明会を開いた。EC(ネット通販)事業の好調などを受け、7~9月の売上高は前年同期比2倍、4~6月比3%増の60億円と、四半期として過去最高を記録した。小渕宏二社長は決算会見で、同社初となるネイティブアプリのレーシングゲームを公開し、「世界市場で大ヒットを狙っていく」と意気込んだ。ブラウザゲーム開発者の採用を絞り、ネイティブ開発者を月10人程度採用していくなど、ネイティブアプリへのシフトを主張しつつも、「ブラウザの手は緩めない」と述べた。10~12月の売上高は57億円と7~9月から減少を見込んでいるが、新規タイトルの収益などは計画に含めておらず「保守的な数字」と、先行きの自信を訴えかける場面も目立った。(以下、かぎ括弧内は小渕社長の発言)
7~9月の売上高、営業利益、純利益はいずれも前年同期から2倍に成長した。4~9月期累計の売上高は119億円、営業利益と経常利益は24億円、純利益は14億円と、いずれも計画を上回った。スマートフォンの売上比率が6割を超えており、「フィーチャーフォン向けが落ちてもスマホ向けがリカバリーしていった」という。
ただ、大規模なプロモーションによる広告宣伝費やゲーム関連の人員増などが響き、営業利益は9.5億円と4~6月に比べて37%減った。ソーシャルゲームのクリエイターが4~6月比で33人増加。ネイティブのクリエイターが月平均10人前後入社しているという。また、7~9月においてネイティブアプリの開発が大幅に遅れたことを「バッド(悪い)ニュース」として取り上げた。
小渕社長は「とっておきのお知らせ」として、「EC事業がかなり成長してきている」ことを挙げた。ショッピングサイト 「SHOPLIST.com」の単月取扱高が6月は5億円、10月は6.9億円と伸びている。「ほかのECサイトと違うのはファストファッションを扱っていること。2012年7月にサイトをスタートし、ここまではレディースのファストファッションがけん引してくれた」という。20代中盤で子供のいる既婚者がユーザーに多いといい、今年の夏にメンズコーナー、秋にキッズコーナーをオープン。「来期はメンズの売り上げも乗ってくる上、キッズも楽しみな分野だ」と今後の成長について期待感を示していた。
実際、クルーズの事業セグメントごとの業績を見ていくと、成長のけん引役が交代する兆しが見えている。ソーシャルゲーム事業を含む「インターネットコンテンツ事業」の7~9月の売上高は4~6月と比べて2%減の45億円弱と、久しぶりに前四半期比で減少に転じた。一方、ECの「インターネットコマース事業」の7~9月売上高は同23%増の15億円だった。
注力地域は欧州、北米、韓国を中心としたアジア。日本のIT企業の海外進出は難易度が高いとしつつ、社長と10年来のパートナーである役員2人を北米と欧州の拠点担当にすることで、成功確率を引き上げるという。海外展開の成功のカギは「私と息が合うか、意思疎通ができるかが大事。何をやるかも大事だが、誰とやるかも大事」とのこと。
説明会では「もうひとつのとっておき」として、開発中のネイティブアプリであるスマートフォン向けレーシングゲーム『ACR DRIFT』の映像を流した。2013年中に日本を含む世界177カ国で配信し、11月にカナダとオーストラリアでβ版を先行リリースする予定だ(関連記事)。小渕社長は、北米と欧州には巨大なレーシングゲーム市場があり、人気も高いと指摘。「他社のレーシングゲームを見ていても、リリース後、売上ランキングが一気に上がってくるなど、ジャンルの収益性は高い」との考え方を示した。「世界から見てもここまでのレーシングゲームを作る会社はない」と自信あふれる発言も出た。
会場からは、他社のレースゲームとどうやって差別化するのか、という質問が出た。小渕社長は「そこが秘密なので言えない。詳しく答えられない」とにごしつつ、イメージとして「これまでのレースゲームは車本来の動きに忠実だったが、それだとコアなレースファンしかとれない。たくさんの人に楽しんでもらえるよう工夫している」「従来タイトルはコアユーザー向けで『良い車を買うと終わり』となってしまっている。長く続けてもらうため、どのようなゲーム性、操作性にするのか、そこがキーワード」「従来タイトルはゲーム内の競争心しか煽れておらず、対人間の競争心を煽ることはあまり得意じゃないのかなという印象を受けている」などの見解を述べた。
また「今、ブラウザゲームで面白いゲームがほとんど出ていない。SAP業界で人材がネイティブにシフトしている結果、ブラウザで面白いものがない。そこに面白いものを出せば、ユーザーは食いついてくると実感した」と述べた。
なお、小渕社長は「ブラウザ、ネイティブともにある程度の自信を持っており、経営陣は不安に思ってはいない。自信があることを伝えたいが、自信は数字に落としにくいので、あえて保守的な予想で出した」と、先行きへの自信を強調した。ブラウザの『アヴァロンの騎士』は1周年記念キャンペーンが好調で10月の売上高が9月を上回ったという。
質疑応答の時間には、この業績予想の"作り方"に対する質問が相次いだ。
アナリストの疑問のひとつは「EC事業の取扱高が月次で2億円近く増えているにも関わらず、売上高がこれだけ減るのは、それだけ既存のブラウザゲームの落ち込みがひどいためか」というものだ。小渕社長は「EC事業は好調だが、取扱高は受注高であり、出荷した段階で売上になる。現在、秋冬物含めて先行予約で受注しており、出荷が開始するのは12月。調子のよい(10月の)受注(=取扱高)は2か月遅れでやってくる」と指摘し、EC事業における10月までの取扱高の成長が、10~12月の売上高全体にそれほど大きく影響してこないと説明した。あるアナリストは、10~12月の売上高の計画は、EC事業の成長ペースを考慮すると、既存のソーシャルゲームの売り上げが10%程度落ち込む計算になると指摘したが、小渕社長は「ソーシャルゲームは微減見込みで、10%も落ち込むとは見ていない」と回答した。
もうひとつは利益の落ち込みについて。人件費・開発費が重荷となるようだ。広告宣伝費は「7~9月に比べ、ソーシャルゲーム事業7割、EC事業3割の配分比率は変わらないが、全体の規模は縮む」「計画上、新規タイトルは売り上げも利益も広告宣伝費も見込んでおらず、既存のブラウザゲームの広告宣伝費しか見込んでいない」という。一方、「『ACR DRIFT』など新規タイトルは売上高も広告費も見ていないが、開発を進めているため労務費だけは計画に織り込んでいる。『ACR DRIFT』の出来が良いため、このゲームの製作にかかわることを『教育』として、あえて人を余分に投入している」という。
具体的な広告の投入方法に関する質問も出ていた。「ブラウザはKPIがよければ投資するというスタンスは今までと変わらない。ネイティブは、ある程度は最初から(広告費をかけて)いかなければ世界中で勝負できず、ダメだと思っている。ただ、ブラウザとは違うやり方である程度テストマーケティングをして、数字が取れた段階でかけていく」と回答した。
人員については、「ブラウザ系技術者は、BANEX JAPANを買収したこともあり、足りている。ネイティブ系技術者を対象に、月10名くらい純増させていく。社内のブラウザ向けクリエーターもなるべく、(ネイティブに)シフトさせる」と話していた。
■関連リンク
・決算説明会資料
▲説明会の小渕社長
■スマホ向け売上比率6割超、7~9月は広告費と人件費が利益を圧迫
7~9月の売上高、営業利益、純利益はいずれも前年同期から2倍に成長した。4~9月期累計の売上高は119億円、営業利益と経常利益は24億円、純利益は14億円と、いずれも計画を上回った。スマートフォンの売上比率が6割を超えており、「フィーチャーフォン向けが落ちてもスマホ向けがリカバリーしていった」という。
ただ、大規模なプロモーションによる広告宣伝費やゲーム関連の人員増などが響き、営業利益は9.5億円と4~6月に比べて37%減った。ソーシャルゲームのクリエイターが4~6月比で33人増加。ネイティブのクリエイターが月平均10人前後入社しているという。また、7~9月においてネイティブアプリの開発が大幅に遅れたことを「バッド(悪い)ニュース」として取り上げた。
■売上増の主役はEC事業の成長、ゲーム事業に頭打ち感
小渕社長は「とっておきのお知らせ」として、「EC事業がかなり成長してきている」ことを挙げた。ショッピングサイト 「SHOPLIST.com」の単月取扱高が6月は5億円、10月は6.9億円と伸びている。「ほかのECサイトと違うのはファストファッションを扱っていること。2012年7月にサイトをスタートし、ここまではレディースのファストファッションがけん引してくれた」という。20代中盤で子供のいる既婚者がユーザーに多いといい、今年の夏にメンズコーナー、秋にキッズコーナーをオープン。「来期はメンズの売り上げも乗ってくる上、キッズも楽しみな分野だ」と今後の成長について期待感を示していた。実際、クルーズの事業セグメントごとの業績を見ていくと、成長のけん引役が交代する兆しが見えている。ソーシャルゲーム事業を含む「インターネットコンテンツ事業」の7~9月の売上高は4~6月と比べて2%減の45億円弱と、久しぶりに前四半期比で減少に転じた。一方、ECの「インターネットコマース事業」の7~9月売上高は同23%増の15億円だった。
■ネイティブのレーシングゲーム『ACR DRIFT』お披露目、世界177カ国で配信
今後のゲーム事業の成長に向けて、「積極的にネイティブアプリに挑戦し、日本市場はもちろん世界市場で大ヒットを狙っていく」と、世界を意識した発言を繰り返した。2014年3月末までにネイティブアプリを複数本リリースするとの計画を示しつつ、「本数が大事なのではなく、ユーザーが求めるプロダクトを出せるかどうかが大事」と話した。良いプロダクトで海外投資家の注目も集めていきたいという。注力地域は欧州、北米、韓国を中心としたアジア。日本のIT企業の海外進出は難易度が高いとしつつ、社長と10年来のパートナーである役員2人を北米と欧州の拠点担当にすることで、成功確率を引き上げるという。海外展開の成功のカギは「私と息が合うか、意思疎通ができるかが大事。何をやるかも大事だが、誰とやるかも大事」とのこと。
説明会では「もうひとつのとっておき」として、開発中のネイティブアプリであるスマートフォン向けレーシングゲーム『ACR DRIFT』の映像を流した。2013年中に日本を含む世界177カ国で配信し、11月にカナダとオーストラリアでβ版を先行リリースする予定だ(関連記事)。小渕社長は、北米と欧州には巨大なレーシングゲーム市場があり、人気も高いと指摘。「他社のレーシングゲームを見ていても、リリース後、売上ランキングが一気に上がってくるなど、ジャンルの収益性は高い」との考え方を示した。「世界から見てもここまでのレーシングゲームを作る会社はない」と自信あふれる発言も出た。
会場からは、他社のレースゲームとどうやって差別化するのか、という質問が出た。小渕社長は「そこが秘密なので言えない。詳しく答えられない」とにごしつつ、イメージとして「これまでのレースゲームは車本来の動きに忠実だったが、それだとコアなレースファンしかとれない。たくさんの人に楽しんでもらえるよう工夫している」「従来タイトルはコアユーザー向けで『良い車を買うと終わり』となってしまっている。長く続けてもらうため、どのようなゲーム性、操作性にするのか、そこがキーワード」「従来タイトルはゲーム内の競争心しか煽れておらず、対人間の競争心を煽ることはあまり得意じゃないのかなという印象を受けている」などの見解を述べた。
■「ブラウザの手は緩めない」
一方、「ブラウザ(ゲーム)の手は緩めない」とも主張した。小渕社長は9月にリリースした『ドラゴンブレイク』の滑り出しを受けて「手ごたえを少し感じた」という。「『ドラゴンブレイク』を出すまでは、ブラウザゲームは微妙かな、ネイティブにユーザーが移っているのかなと考えていた。だが、『ドラゴンブレイク』をリリースした際、集客そのものは大きく落ち込んでいなかった。継続率やDAUについても、プラットフォームが弱くなったから落ちたのではなく、ゲームのメイキングに課題があれば落ちるし、きちんとユーザーに伝わるものがあればユーザーが帰ってくる、ということを感じることができた。ネイティブに移っていることは事実だが、ブラウザゲーム市場がなくなることは絶対無いと思い、ブラウザは手を抜かずに(タイトルを)出していったほうがよさそうだと考えた」と話した。また「今、ブラウザゲームで面白いゲームがほとんど出ていない。SAP業界で人材がネイティブにシフトしている結果、ブラウザで面白いものがない。そこに面白いものを出せば、ユーザーは食いついてくると実感した」と述べた。
■10~12月は前四半期比で減収減益予想、会場から質問相次ぐ
10~12月の売上高は前四半期比3億円減の57億円、営業利益で同3.5億円減の6億円と、「かなり保守的な予想」になっている。新規タイトルの売上と利益は含めていないためという。「既存のブラウザゲーム市場がどういう推移をするのか読めないうえ、ネイティブアプリも初めてなのでKPIの状況が読めない。社内では一時、非開示にしようという議論も出たが、理由をきちんと伝えたうえで分かっている数字だけは出そう、という結論に至った」とのこと。なお、小渕社長は「ブラウザ、ネイティブともにある程度の自信を持っており、経営陣は不安に思ってはいない。自信があることを伝えたいが、自信は数字に落としにくいので、あえて保守的な予想で出した」と、先行きへの自信を強調した。ブラウザの『アヴァロンの騎士』は1周年記念キャンペーンが好調で10月の売上高が9月を上回ったという。
質疑応答の時間には、この業績予想の"作り方"に対する質問が相次いだ。
アナリストの疑問のひとつは「EC事業の取扱高が月次で2億円近く増えているにも関わらず、売上高がこれだけ減るのは、それだけ既存のブラウザゲームの落ち込みがひどいためか」というものだ。小渕社長は「EC事業は好調だが、取扱高は受注高であり、出荷した段階で売上になる。現在、秋冬物含めて先行予約で受注しており、出荷が開始するのは12月。調子のよい(10月の)受注(=取扱高)は2か月遅れでやってくる」と指摘し、EC事業における10月までの取扱高の成長が、10~12月の売上高全体にそれほど大きく影響してこないと説明した。あるアナリストは、10~12月の売上高の計画は、EC事業の成長ペースを考慮すると、既存のソーシャルゲームの売り上げが10%程度落ち込む計算になると指摘したが、小渕社長は「ソーシャルゲームは微減見込みで、10%も落ち込むとは見ていない」と回答した。
もうひとつは利益の落ち込みについて。人件費・開発費が重荷となるようだ。広告宣伝費は「7~9月に比べ、ソーシャルゲーム事業7割、EC事業3割の配分比率は変わらないが、全体の規模は縮む」「計画上、新規タイトルは売り上げも利益も広告宣伝費も見込んでおらず、既存のブラウザゲームの広告宣伝費しか見込んでいない」という。一方、「『ACR DRIFT』など新規タイトルは売上高も広告費も見ていないが、開発を進めているため労務費だけは計画に織り込んでいる。『ACR DRIFT』の出来が良いため、このゲームの製作にかかわることを『教育』として、あえて人を余分に投入している」という。
■「ネイティブ開発者を月10名くらい純増させていく」「ブラウザ系技術者は足りている」
具体的な広告の投入方法に関する質問も出ていた。「ブラウザはKPIがよければ投資するというスタンスは今までと変わらない。ネイティブは、ある程度は最初から(広告費をかけて)いかなければ世界中で勝負できず、ダメだと思っている。ただ、ブラウザとは違うやり方である程度テストマーケティングをして、数字が取れた段階でかけていく」と回答した。人員については、「ブラウザ系技術者は、BANEX JAPANを買収したこともあり、足りている。ネイティブ系技術者を対象に、月10名くらい純増させていく。社内のブラウザ向けクリエーターもなるべく、(ネイティブに)シフトさせる」と話していた。
■関連リンク
・決算説明会資料
会社情報
- 会社名
- クルーズ株式会社
- 設立
- 2001年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 小渕 宏二
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高140億円、営業利益6億4400万円、経常利益6億2800万円、最終利益2億5400万円(2023年3月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 2138