「単なるオマケ、記念イベントならやりたくない」 『サウザンドメモリーズ』開発陣がこだわったゲームアプリと小説の深い連携性とは?

アカツキは、6月29日、スマートフォン向けキャラリンクRPG『サウザンドメモリーズ(千メモ)』の小説版「サウザンドメモリーズ 転生の女神と約束の騎士たち」を発売したが、Amazonの販売ランキングでも上位に入るなど書籍の販売は好調のようだ。ゲームとの連動も図られており、ゲームのユーザーの動きも活性化するなど好影響をもたらしているように見える(できれば掲載前にランキングの動きなども書く)。今回、書籍化に関する取り組みについて、『サウザンドメモリーズ』のプロデューサーである藤田真也氏、ディレクターの柿沼睦子氏にインタビューを行い、書籍化の狙いと実際の効果、ゲーム内での取り組みなどについて話を聞いた。


■『サウザンドメモリーズ』とは
『サウザンドメモリーズ』とは、かわいいちびキャラを指でつなげて戦う本格アクションRPG。伝説の騎士が500年前に果たせなかった魔王討伐を果たすため、前世で戦いをともにした剣の生まれ変わりと冒険を進めていく内容で、すでに200万ダウンロードを突破している。第1部「覚醒の騎士の友と交わせし約束」が完結し、現在、第2部「破滅の序曲と忘れ去られた龍」が配信されている。


■「サウザンドメモリーズ 転生の女神と約束の騎士たち」とは
発売された小説版は、完結した第1部から半年後の世界を舞台にした書き下ろしのサイドストーリーが展開される。本書を読むことでゲームの世界観やストーリーがより深く楽しめるようになる。小説内の重要人物である再臨の騎士「ランスロット」(CV:柿原徹也さん)と謎の少女「ネビア」(CV:小清水亜美さん)は、ゲーム内にも登場するが、本書に付属されているシリアルコードをゲーム内で入力することで「ランスロット」が入手できる。



―――:今回のノベライズの経緯について教えていただけますか?

藤田氏:『サウザンドメモリーズ』ではゲームのストーリーや世界観を強く訴求していきたいというコンセプトがそもそもありまして、そういった部分をより強化していきたいと考えているところにタイミングよく宝島社さんからノベライズのお話をいただきました。こうした試みは、他社さんでもあまりやっていませんし、ぜひチャレンジしてみたいと考えた次第です。

―――:ゲームとしての狙いとビジネス的な狙いは。

藤田氏:ストーリーは、第1部の続きになりますので、まず、実際にゲームで遊んでいるユーザー様をターゲットにしています。本書を読むことで、ゲームのストーリーを深く理解でき、より楽しめるようになります。ビジネス的な側面としては、書籍販売で利益を追求することは考えていません。実際、キャラクターのデザインや起用した声優さんなどのコストもかかっていますから。ですから、たとえ利益がでなかったとしても、書籍を通じて、ユーザー様によりゲームを楽しんでもらえたらいいのではないかと考えています。

 

■柿原さん起用の効果で女性中心に話題に


―――:価格は972円とすごく安いですよね。私も読んでいて思ったのですが、ゲーム経験者でなくても楽しめるようになっていますね。

藤田氏:そうですね。作者の大泉さんは、ファンタジー小説としての完成度を追求したそうで、ゲームをプレイしていない方でも楽しめるように書いていただきました。『千メモ』ユーザーの方はよりゲームを楽しめるように、そして、ラノベの新刊として買った方や、柿原徹也さんのキャラクター目当てで買った方もこれから『千メモ』で楽しんでもらえればと思っています。

―――:キャラクターも単なるおまけではなく、ゲーム内でも使い勝手がいいですよね。ボイスも評判です。

藤田氏:はい。『サウザンドメモリーズ』に登場するリターナー(キャラクター)は全てボイスがついています。おまけとはいえ、きちんとしたボイスがついていないといけません。今回、男性のイケメンキャラを特典にしたいと考えていました。ちょうどキャラクターのイメージにぴったりと合う柿原さんに受けていただいたのはうれしかったですね。

柿沼氏:どちらかというと、ゲーム内では女性キャラクターの方が需要がある印象なのですが、ゲームを楽しんでいただけている方であれば特典にはこだわらず今回のノベライズは読んでいただけるだろうと考え、あえてイケメンキャラを特典にしました。これを通じて、女性の方にも遊んでいただけたら、という思いがあります。発表後ですが、柿原さんがキャラクターボイスを担当するということで、女性の方を中心に強いバイラルが働きましたね。


―――:柿原さんを起用されたのは女性ユーザーに訴求したいというお考えがあったんでしょうか?

柿沼氏:そうですね、女性ユーザーの方にゲームで遊んでもらいたいと考えていましたので、女性ファンの多い声優さんはと考えた時、柿原さんがピッタリではないかと考えました。『千メモ』の一部のユーザー様に対してアンケートを取らせていただく機会があったのですが、柿原さんが出演されている作品が好きという回答が多かった事も一因です。

―――:なるほど。収録はどういった感じだったのですか?

柿沼氏:『千メモ』は、セリフ数はそんなに多くないため、スムーズにいけば1キャラクターあたり30分程度で終了します。今回柿原さんに担当いただいた『ランスロット』は通常のキャラクターに比べるとセリフ数が倍用意されていまして、そのため、収録時間は1時間を予定していたのですが、収録はわずか30分で終わりました。こちらの要望を理解していただけただけでなく、柿原さんのキャラクターへの演技も加わって、本当に名演です。作品やキャラクターを深く理解されてから演技に入られる方で、リテイクはほぼなく、すぐに終わりました。仕事ぶりを拝見していてとても感動しました。

―――:6月23日に発売されましたが、その後の反響はいかがですか?

藤田氏:各種掲示板などで少し話題に上がった程度で、思ったほど騒がれていないと感じていたので、アマゾンのランキングで上がっていることには驚きました。

柿沼氏:『千メモ』の公式Twitterではリプライという形で感想をいただくこともありますね。「面白かった」というポジティブな反応が多かったです。ゲームのユーザー様にどの程度読んでもらえるのかわからない部分があったのですが、特典目当てで購入された方にもしっかりと読んでいただいていると感じました。キャラクターや世界観を深堀した内容がユーザー様にも伝わってよかったと思います。


 

■連動イベント実施で小説の売上もUP!


―――:作家の大泉さんもAmazonのランキングについては自分の作品が売れているという実感がなくて、半ば他人事のように見ていたとおっしゃっていました。あと、ノベライズにあたって、ガチャやイベントなどで連動キャンペーンをされていましたよね。

藤田氏:ええ。それ以外にも、実は小説を発売する3日前から、小説を訴求するイベントをアプリ内で実施しました。「ラプラス」という敵キャラクターを倒すイベントで、小説へと続く導入のストーリーになっています。そしてラプラスを倒すことに成功すると、最後に「6月23日小説が発売!」といった表示が出て終わり、続きのストーリーは小説を読んで楽しんでください、という趣旨のものとなっています。クエストの難易度を低めに設定し、誰でもクリアできるようにしましたが、多くの方に遊んでいただき、施策導入後、書籍の売り上げが大きく伸びました。ゲーム内で告知して期待感をもってもらうことは物語を訴求する上で重要なのだなと感じました。
 

―――:書籍の内容はサイドストーリーですが、ゲーム運営サイドではどういった考えがあったのでしょうか。

藤田氏:本編をそのままノベライズするより、ゲームをいままで楽しんでくれた方や「続きが気になる」という方にアプリの中ではなく、別の媒体で表現したものを提供したいと考えました。また小説の主人公であるアーサーは、アプリ内でも人気のあるキャラクターなのですが、第1部のメインキャラクターという位置づけでずっと登場するわけではありません。ですからアーサーの魅力をより深堀したいという思いもありました。

―――:ノベライズについてはいくつかの先行事例に比べてもだいぶうまくいっている印象ですが、御社側ではその要因についてどう分析されていますか?

藤田氏:今回、小説を出すにあたって、単にアプリ内の特典がつきます、連動イベントを実施します、といったありきたり展開ではなく、ゲームと強く連動させたことがよかったのかもしれません。先程申し上げたアプリ内での事前告知もありますし、特典となるキャラクター「ランスロット」の設定やデザインを作りこみ、キャラクターボイスも人気の柿原徹也さんに担当していただきました。またキャラクター目当てで購入した方でもゲーム内できちんと使えるようにパラメーターを高く設定しました。単なるおまけにはしませんでした。

 

■アカツキとしても第2弾は出したい


―――:売れ行きも良いみたいで、宝島社さんも第2弾を出したいとおっしゃっていましたね。

藤田氏:そうですね。私共といたしましても、第2弾をすごく出したいと思っています。

柿沼氏:売れ行きについては、特典キャラクターのボイスを担当していただいた、柿原さんの効果も大きかったと思います。先日実施した書店イベントは事前に150名限定で整理券を配布したのですが、受付日には店舗オープン前に60名が並び、電話受付開始後もすぐに満員になったと聞いています。また、柿原さんのファンの方にはTwitterなどで拡散もしていただきました。


―――:キャラクターの性能を考えてもかなりお得ですよね。今後、小説との連動企画などはお考えですか?

藤田氏:そうですね。まだぼんやりと考えている程度ですが、小説は第2弾、第3弾とシリーズ化できればと思います。連動企画などのイベントについてはマネタイズする目的ではないのですが、ユーザー様の評判が良かったのでこれからもチャレンジしていきたいです。小説に登場する男性キャラ「ランスロット」と女性キャラの「ネビア」がゲーム内で「リターナー」として登場しますが、「ネビア」だけをピックアップしたラノベガチャを実施し、こちらも非常に好評でした。こんなに評判がいいのかと正直、驚いている次第です。今後も何かやりたいですね。

―――:小説のストーリーをゲーム内で実現するというのは。

藤田氏:いまのところ考えていませんが、ユーザー様からの要望が多ければ、何らかの形で対応したいと考えています。既存の他のキャラクターについても掘り下げてほしいというご要望があれば、アーサー以外でやってみるのも面白いかもしれないと思います。

―――:最後にメッセージをお願いいたします。

藤田氏:『千メモ』のIP化への取り組みについては、まだまだ試行錯誤の段階ですが、引き続き行いたいと考えています。コンテンツの追加やアプリの機能改善も継続し、ゲームを大事に育てていきたいですね。もちろん成功するのかどうかはわからないですが、ユーザ様に望まれていることや、海外展開などいろいろな形で『千メモ』を広げていければと考えています。

柿沼氏:個人的にはグッズ展開などIP化を進めて、多くの方に『千メモ』に触れてもらいたいです。グッズやキャラクターから『千メモ』を知っていただけて、そこからもゲームを遊ぶ方が増えてくれると嬉しいですね。『千メモ』の輪を広げていきたいです。

藤田氏:それと、当社とユーザー様との距離をもっと近づけたいですね。実際にゲームで遊んでいるユーザー様に当社にお越しいただいて、ゲームに関するご意見やご要望をいただいたり、運営サイドとの意見交換を行ったりしています。当社もベンチャーですので、これからもフットワークを軽くして取り組みたいですね。




■『サウザンドメモリーズ』
 

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© Akatsuki Inc.  
株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高239億7200万円、営業利益26億7600万円、経常利益28億3400万円、最終利益12億8800万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3932
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