ガンホー決算説明会 「国内スマホゲーム市場は成熟期へ」…課題の「レイトマジョリティ層」に『パズドラW』でアプローチ、中国展開も準備中
ガンホー・オンライン・エンタテイメント<3765>は7月29日、2014年12月期第2四半期(2Q、4~6月)の連結決算を発表(関連記事)し、都内で決算説明会を開いた。2Qの売上高は前四半期比11%減の444億円、営業利益は13%減の249億円。主力タイトル『パズル&ドラゴンズ』を軸に依然として高い売上・利益水準を維持しているが、減収減益となった。
説明会に臨んだ森下一喜社長は、ユーザー数の継続的な増加と、一人当たり課金額の抑制を組み合わせ、現在の売上水準を安定化させる方針を語った。また、レイトマジョリティ層(世の中への普及状況を確認してから受容する後期追随者)にスマートフォンが普及し、スマホゲーム市場が成熟期に入ってきているとの見方を踏まえ、「レイトマジョリティ層への対応がユーザー層拡大への課題」と強調した。
レイトマジョリティ層へのアプローチに向けて、7月29日に実施した『パズル&ドラゴンズ』の大型アップデート『パズドラW』を「フック(手掛かり)としていきたい」と述べた。ガンホーは2014年3月の国内スマホ普及台数が約5700万台と推計、うち約半分の2900万台に『パズドラ』がインストールされている計算になるため、残りの半数を狙っていく方針だ。(以下、かぎ括弧内は森下社長の発言)
2Qの売上高の減少は1Q(1~3月)の好調の反動に加え、消費税の増税後にゲーム内アイテム価格を据え置いたことなどが響いた。消費増税分の価格改定を実施していないため、実質的な値下げになっており、概算の影響額は約12億円とのこと。3DSソフト『パズドラZ』を除いたベースの売上高は、ほぼ昨年10~12月並とのこと。
また、2Qの営業利益は前年同期比でも6%減。直近2年間で営業利益が前年比で減少するのは初めてだ。
広告宣伝費を中心に2Qの費用が増加し、利益を圧迫した。リアルイベント「ガンホーフェスティバル2014」を開催したことや北米でのプロモーション強化などが要因。人員(単体)も333名と1Qから13人増えているが、「新規タイトルの配信などによる増加で、急激に組織を膨張させるような採用は考えていない」という。
なお、月次の業績推移を見ても、業績は成長期から安定期に入ったように見える。
売上の大半を占める『パズドラ』の状況を見て行こう。
国内MAU(月間活動ユーザー数)は1~3月が好調だったことを踏まえると、2Qも安定的に高い水準で推移。一方、海外のMAUは香港・台湾での配信を受けて1Qに伸びたが、2Qは伸びが一段落した。北米の状況については「売上高は右肩上がりに伸びているが、急激な伸びではない。プロモーションに課題があると思っているので、海外でのコラボレーションなどを強化していきたい」と話していた。
会場からは、「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」といった大型コラボがあったにも関わらず、6月の月商が伸び悩んでいるのではないか、という質問が出てきた。森下社長は「コラボやイベントの効果などで、6月のARPPU(課金ユーザー1人あたりの月間課金額)は上がった。MAUも決して悪くなく想定内。むしろ2月の状況があまりに良すぎた、という方が想定外だった。今後はARPPUのトレンドを少し落としていくことが重要かなと考えている」と回答した。
『パズドラ』が、ストアランキングの売上首位から落ちる場面が目立ってきたことについては、自社のメンテナンスと他社のイベントのタイミングによるものと指摘。「日々の運営が重要。通常運転で抜き返せる状況にあるので、さして問題はない」と述べた。また、競争やサービス改善への圧力という意味で「そういう(『パズドラ』に匹敵するような)タイトルが出てくることは良いこと」と指摘した。
説明会では、スマホゲーム市場が急成長期から成熟期へ移行するなか、レイトマジョリティ層への対応がユーザー層拡大に向けた課題と述べた。その施策の一つが、7月29日に実施した大型アップデート『パズドラW』だ。
森下社長は、各種市場調査データから「スマホがレイトマジョリティ層にまで浸透」し、2013年以降、「スマホゲーム市場の成長率が鈍化」していると指摘。そして、2013年時点で国内スマホネイティブアプリ市場におけるガンホーの売上シェアが51%を占めている状況を紹介し、このシェアを維持していくという目標を述べた。シェア維持策として「未獲得のレイトマジョリティ層を狙うこと、新作など新しい価値を創造していくこと、既存IP(知的財産、版権)を最大化していくこと」を挙げた。
レイトマジョリティ層獲得のための具体策が『パズドラW』だ。『パズドラ』本編を遊んでいないユーザーを調査すると、モンスターの育成・合成・進化といったRPG要素が難しいという声があったため、パズルアクション部分とステージクリアの達成感を楽しんでもらうコンセプトで開発したという。
森下社長は実機を操作しながら、この『パズドラW』のコンセプトについて説明した。進化・合成・育成といったRPG要素は一切なく、パズルの課題をこなしていくゲーム。パズルの盤面を『パズドラ』本編の「縦5×横6」から「縦6×横6」に変更し、コンボを作りやすく修正。初心者向けにパズルの爽快感を純粋に楽しめるものに仕上げているという。また、ゲーム内アイテム「魔法石」は本編と共通化しており、フレンドデータも連動。進化・合成・育成が無い代わりに、アバターの着せ替え要素がある。
『パズドラW』の実装で、見方によっては2つのゲームが1つにアプリにぶら下がる形になり、さらに同じ仮想通貨を使える状態になる。この状態のアプリがiOS端末のプラットフォーマーであるアップルの審査を速やかに通過したことに意外感を抱く声が、会場から出てきた。「アップルとは情報交換を定期的に行ってきた。(パズドラWも)新しいものとして非常に評価を頂いている。今後も良好な関係を維持していきたい」と回答した。
新作『ピコットキングダム』についても「最近のトレンドがアクションゲームだとは捉えていない。一度クリアしたステージはオートで遊べるようになっており、コアゲーマーだけでなくライトなカジュアルユーザーにも遊んでもらえるよう設計している」と話していた。
新作10タイトルの開発・企画を進行中だと明かした。第3四半期(7~9月)中に、『パズル&ドラゴンズ』の大型アップデート「パズドラW」とは別に、完全新作タイトルを1本提供予定だという。
また、グラスホッパー・マニファクチュアが開発、ガンホーが発売元を担当するPlayStation4(PS4)向けオンラインアクションゲーム『LET IT DIE』について、PS4版と連動するスマートフォン向けゲームを提供する予定であることも明かした。『LET IT DIE』は2015年に配信開始予定で、基本プレイ無料のアイテム課金型ゲームとなる。スマホ向けゲームは、単独でも遊べるゲームになるという。
ガンホーの森下社長は「スマートフォンゲームだけでなく、コンシューマーゲームでコアユーザー獲得も同時に目指していく」と話していた。
中国展開も準備中であることを明かした。現地パートナーはほぼ確定しており、「可能であれば年内にリリースしたい」とのこと。現在、国内で提供している『パズドラ』を、中国市場向けに大幅にカスタマイズして提供する予定だ。
中国展開については「目指すところはトップで、そのためには中途半端なローカライズ・カルチャライズではなく、万全の状態で出したい」と述べた。中国展開におけるパートナーの選定基準を問われた際、具体的な社名は明かさなかったが「我々は運営が重要だと考えている。オンラインゲームの運営ノウハウを持ち、中国市場のデータを持ち、我々のゲームを運営できる会社」と述べるにとどめた。
今後の広告宣伝費の動向について、『パズドラW』のプロモーションを実施していく方針と述べた。ただ「様々な状況を考慮しながら適時実施していく。大量にやるというわけでもない」と述べた。
子供の間での『妖怪ウォッチ』の人気について、「(ガンホーへの)影響はさしてないと思うが、この時代にパッケージソフトを販売し、認められたということは、本当に素晴らしいこと。小さなお子様に安心・安全で楽しい遊びを提供していきたい。負けないように頑張っていく」と意気込みを語った。
グラフィック水準の上昇による開発費の高騰などを懸念する声も会場から出たが、「開発費は少しずつ上がっていくことはありうると考えているが、ゲームとして重要なのはゲームシステムそのもの。グラフィックという視点では、最近の若い人は2Dのドットを斬新なものと思っているのかもしれない、と感じている。グラフィックはクオリティだけではなく、表現手法の問題ということ。いたずらにグラフィック(の質)を追うことはしない」と回答した。
(以下、筆者が何度か説明会に参加して感じたことだが、株式市場はガンホーに対して、これまでほどでは無いにせよ、高成長の再来を期待しているように思う。一方、ガンホー側は、以前のような高成長ではなく、安定成長への変化を目指していることを伝えようとしているように見える。市場から安定成長株としての評価を得るには、ガンホーは配当額を増やすなどの対応が必要となりそうだ)
※追記:図表をガンホーが公式サイトで公開したデジタルデータ(PDF)からの抜粋に差し替えました。内容は同じものです。
■関連リンク
・決算説明会資料(PDF)
説明会に臨んだ森下一喜社長は、ユーザー数の継続的な増加と、一人当たり課金額の抑制を組み合わせ、現在の売上水準を安定化させる方針を語った。また、レイトマジョリティ層(世の中への普及状況を確認してから受容する後期追随者)にスマートフォンが普及し、スマホゲーム市場が成熟期に入ってきているとの見方を踏まえ、「レイトマジョリティ層への対応がユーザー層拡大への課題」と強調した。
レイトマジョリティ層へのアプローチに向けて、7月29日に実施した『パズル&ドラゴンズ』の大型アップデート『パズドラW』を「フック(手掛かり)としていきたい」と述べた。ガンホーは2014年3月の国内スマホ普及台数が約5700万台と推計、うち約半分の2900万台に『パズドラ』がインストールされている計算になるため、残りの半数を狙っていく方針だ。(以下、かぎ括弧内は森下社長の発言)
■営業益は2年ぶりに前年比減…売上成長に一服感
2Qの売上高の減少は1Q(1~3月)の好調の反動に加え、消費税の増税後にゲーム内アイテム価格を据え置いたことなどが響いた。消費増税分の価格改定を実施していないため、実質的な値下げになっており、概算の影響額は約12億円とのこと。3DSソフト『パズドラZ』を除いたベースの売上高は、ほぼ昨年10~12月並とのこと。
また、2Qの営業利益は前年同期比でも6%減。直近2年間で営業利益が前年比で減少するのは初めてだ。
広告宣伝費を中心に2Qの費用が増加し、利益を圧迫した。リアルイベント「ガンホーフェスティバル2014」を開催したことや北米でのプロモーション強化などが要因。人員(単体)も333名と1Qから13人増えているが、「新規タイトルの配信などによる増加で、急激に組織を膨張させるような採用は考えていない」という。
なお、月次の業績推移を見ても、業績は成長期から安定期に入ったように見える。
■『パズドラ』…大型コラボ実施の6月は?
売上の大半を占める『パズドラ』の状況を見て行こう。
国内MAU(月間活動ユーザー数)は1~3月が好調だったことを踏まえると、2Qも安定的に高い水準で推移。一方、海外のMAUは香港・台湾での配信を受けて1Qに伸びたが、2Qは伸びが一段落した。北米の状況については「売上高は右肩上がりに伸びているが、急激な伸びではない。プロモーションに課題があると思っているので、海外でのコラボレーションなどを強化していきたい」と話していた。
会場からは、「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」といった大型コラボがあったにも関わらず、6月の月商が伸び悩んでいるのではないか、という質問が出てきた。森下社長は「コラボやイベントの効果などで、6月のARPPU(課金ユーザー1人あたりの月間課金額)は上がった。MAUも決して悪くなく想定内。むしろ2月の状況があまりに良すぎた、という方が想定外だった。今後はARPPUのトレンドを少し落としていくことが重要かなと考えている」と回答した。
『パズドラ』が、ストアランキングの売上首位から落ちる場面が目立ってきたことについては、自社のメンテナンスと他社のイベントのタイミングによるものと指摘。「日々の運営が重要。通常運転で抜き返せる状況にあるので、さして問題はない」と述べた。また、競争やサービス改善への圧力という意味で「そういう(『パズドラ』に匹敵するような)タイトルが出てくることは良いこと」と指摘した。
■レイトマジョリティ層に『パズドラW』でアプローチ
説明会では、スマホゲーム市場が急成長期から成熟期へ移行するなか、レイトマジョリティ層への対応がユーザー層拡大に向けた課題と述べた。その施策の一つが、7月29日に実施した大型アップデート『パズドラW』だ。
森下社長は、各種市場調査データから「スマホがレイトマジョリティ層にまで浸透」し、2013年以降、「スマホゲーム市場の成長率が鈍化」していると指摘。そして、2013年時点で国内スマホネイティブアプリ市場におけるガンホーの売上シェアが51%を占めている状況を紹介し、このシェアを維持していくという目標を述べた。シェア維持策として「未獲得のレイトマジョリティ層を狙うこと、新作など新しい価値を創造していくこと、既存IP(知的財産、版権)を最大化していくこと」を挙げた。
レイトマジョリティ層獲得のための具体策が『パズドラW』だ。『パズドラ』本編を遊んでいないユーザーを調査すると、モンスターの育成・合成・進化といったRPG要素が難しいという声があったため、パズルアクション部分とステージクリアの達成感を楽しんでもらうコンセプトで開発したという。
森下社長は実機を操作しながら、この『パズドラW』のコンセプトについて説明した。進化・合成・育成といったRPG要素は一切なく、パズルの課題をこなしていくゲーム。パズルの盤面を『パズドラ』本編の「縦5×横6」から「縦6×横6」に変更し、コンボを作りやすく修正。初心者向けにパズルの爽快感を純粋に楽しめるものに仕上げているという。また、ゲーム内アイテム「魔法石」は本編と共通化しており、フレンドデータも連動。進化・合成・育成が無い代わりに、アバターの着せ替え要素がある。
『パズドラW』の実装で、見方によっては2つのゲームが1つにアプリにぶら下がる形になり、さらに同じ仮想通貨を使える状態になる。この状態のアプリがiOS端末のプラットフォーマーであるアップルの審査を速やかに通過したことに意外感を抱く声が、会場から出てきた。「アップルとは情報交換を定期的に行ってきた。(パズドラWも)新しいものとして非常に評価を頂いている。今後も良好な関係を維持していきたい」と回答した。
新作『ピコットキングダム』についても「最近のトレンドがアクションゲームだとは捉えていない。一度クリアしたステージはオートで遊べるようになっており、コアゲーマーだけでなくライトなカジュアルユーザーにも遊んでもらえるよう設計している」と話していた。
■新作10本進行中…コンシューマーゲームでコアゲーマー獲得も目指す
新作10タイトルの開発・企画を進行中だと明かした。第3四半期(7~9月)中に、『パズル&ドラゴンズ』の大型アップデート「パズドラW」とは別に、完全新作タイトルを1本提供予定だという。
また、グラスホッパー・マニファクチュアが開発、ガンホーが発売元を担当するPlayStation4(PS4)向けオンラインアクションゲーム『LET IT DIE』について、PS4版と連動するスマートフォン向けゲームを提供する予定であることも明かした。『LET IT DIE』は2015年に配信開始予定で、基本プレイ無料のアイテム課金型ゲームとなる。スマホ向けゲームは、単独でも遊べるゲームになるという。
ガンホーの森下社長は「スマートフォンゲームだけでなく、コンシューマーゲームでコアユーザー獲得も同時に目指していく」と話していた。
■中国展開も推進…中国版『パズドラ』は大幅にカスタマイズ
中国展開も準備中であることを明かした。現地パートナーはほぼ確定しており、「可能であれば年内にリリースしたい」とのこと。現在、国内で提供している『パズドラ』を、中国市場向けに大幅にカスタマイズして提供する予定だ。
中国展開については「目指すところはトップで、そのためには中途半端なローカライズ・カルチャライズではなく、万全の状態で出したい」と述べた。中国展開におけるパートナーの選定基準を問われた際、具体的な社名は明かさなかったが「我々は運営が重要だと考えている。オンラインゲームの運営ノウハウを持ち、中国市場のデータを持ち、我々のゲームを運営できる会社」と述べるにとどめた。
■『妖怪ウォッチ』の活躍に「負けないように頑張る」
今後の広告宣伝費の動向について、『パズドラW』のプロモーションを実施していく方針と述べた。ただ「様々な状況を考慮しながら適時実施していく。大量にやるというわけでもない」と述べた。
子供の間での『妖怪ウォッチ』の人気について、「(ガンホーへの)影響はさしてないと思うが、この時代にパッケージソフトを販売し、認められたということは、本当に素晴らしいこと。小さなお子様に安心・安全で楽しい遊びを提供していきたい。負けないように頑張っていく」と意気込みを語った。
グラフィック水準の上昇による開発費の高騰などを懸念する声も会場から出たが、「開発費は少しずつ上がっていくことはありうると考えているが、ゲームとして重要なのはゲームシステムそのもの。グラフィックという視点では、最近の若い人は2Dのドットを斬新なものと思っているのかもしれない、と感じている。グラフィックはクオリティだけではなく、表現手法の問題ということ。いたずらにグラフィック(の質)を追うことはしない」と回答した。
(以下、筆者が何度か説明会に参加して感じたことだが、株式市場はガンホーに対して、これまでほどでは無いにせよ、高成長の再来を期待しているように思う。一方、ガンホー側は、以前のような高成長ではなく、安定成長への変化を目指していることを伝えようとしているように見える。市場から安定成長株としての評価を得るには、ガンホーは配当額を増やすなどの対応が必要となりそうだ)
※追記:図表をガンホーが公式サイトで公開したデジタルデータ(PDF)からの抜粋に差し替えました。内容は同じものです。
■関連リンク
・決算説明会資料(PDF)
会社情報
- 会社名
- ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社
- 設立
- 1998年7月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 森下 一喜
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高1253億1500万円、営業利益278億8000万円、経常利益293億800万円、最終利益164億3300万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3765