【インタビュー】誰もが意見を言える環境だから実現できた…スマホゲーム実況録画SDK「Lobi REC SDK」の制作背景をカヤック・遠山氏に聞いた


カヤックが2014年1月より配布を開始した「Lobi REC SDK」をご存知だろうか。これはスマートフォンゲームアプリに対応したSDKで、スマートフォンでプレイ中のゲーム画面録画が可能になるだけでなく、ゲームをプレイしながら実況ができる機能も実装した、世界的に見ても前例がほとんどない画期的なソフトウェアだ。現時点で、株式会社ミクシィの『モンスターストライク』、株式会社エイリムの『ブレイブ フロンティア』等のゲームに導入されている。

今回、「Lobi REC SDK」と、その元であるゲームコミュニティ「Lobi –チャット&ゲームコミュニティ-」(以下、Lobi)のディレクターである遠山薫氏(写真)にインタビューを行い、どのような経緯で開発されたのかを伺った。若いスタッフが即座に活躍する開発環境はいかにして作られたのか。非常に興味深い話を聞くことができた。


■「Lobi REC SDK」
 

公式サイト



 

■動画投稿でプロモーション効果に…「Lobi」の次なる展開


――:本日はよろしくお願いします。はじめに遠山さんが現在行っている仕事の内容を改めて教えてください。

よろしくお願いいたします。私は現在「Lobi」というゲームコミュニティアプリのディレクターとして、主にゲーム開発会社さんへの導入提案や、機能面での設計などを担当しています。


――:なぜ「Lobi」を立ち上げようと考えたのでしょうか。

そもそも「ナカマップ」という位置情報機能を備えたグループチャットアプリが存在していたのです。これが発展して「Lobi」に成長していったのですが、「ナカマップ」時代はゲームに特化したものではありませんでした。

なぜゲームに特化していったかというと、「ナカマップ」の利用者の多くが、50人以上でのグループチャットを行っていたという経緯があります。50人以上となると、当時の私たちが想定していた規模よりも遥かに多く、どういった目的で利用しているのかをヒアリングしてみると「ゲームのギルド戦で利用している」との答えが返ってきたのです。

当時はスマートフォンで仲間同士と楽しむゲームが流行り始めてきたころで、複数の人と同時に会話できるツールがとても重宝されており、これならばゲームとの連携に力を入れてみようを考えました。



――:「Lobi」はすでに多くのアプリで利用されていますが、ここまで成長できた要因はどこにあると考えていますか。

2012年からスマートフォンゲームアプリへコミュニティ機能をチャットSDKとして提供させていただいたのですが、同様のサービスで競合するものが他社さんにあまり存在しなかったことが大きかったかもしれませんね。

また、ゲーム開発会社さんにも「これからはチャット機能が必要」という認識を持っていた時期にうまく提供をはじめられたので、自然と多くのタイトルで利用していただけるようになりました。現在もランキング機能やプレイ動画機能といった、開発会社さんが「あるといいな」と思うSDKを定期的に開発、提供しています。



――:ゲーム実況というと「Lobi REC SDK」ですね。こちらも開発会社からの要望が多かったのですか。

実のところ「Lobi REC SDK」は、弊社のエンジニアが「作りたい」と言ってきたのがきっかけなんです。海外ではすでに実況配信が盛り上がっていた時期で、日本でも開発しようとなったものの、ノウハウがないため実現できるかは未知数でした。しかし数日後には最初に提唱したエンジニアがモックを作ってきて、「これはいける」と感じました。そこからは開発も早く、2ヵ月後には世に送り出せるクオリティのものが出来上がっていました。



■「Lobi REC SDK」の紹介動画





――:最初は社内からの提案だったのですね。では、このSDKを発表したとき、開発会社からはどのような反響がありましたか。

私たちが「Lobi REC SDK」のプレスリリースを出したタイミングでは、国内初のゲーム実況SDKだったこともあり、すぐに興味を持たれていました。すでに、YouTubeやニコニコ動画にたくさんのゲーム実況動画はあがっていましたし、スマートフォンゲームでもきっと流行るんじゃないかと、誰もが期待していただいてる状況でしたので、時代の流れにうまく乗れましたね。


――:開発する際にこだわった点はありますか。

品質ですね。弊社のエンジニアは誰もが品質にこだわりを持っていて、バグやフリーズはとにかく徹底的に潰しました。とはいえ、SDKは基本的に導入してもらわないと発生してこないバグも大量にありますので、スピーディーに修正できる体制を常時整えています。


――:そのような姿勢で作ったSDKであれば、開発会社からの印象も良かったのではないでしょうか。

そうであったら大変うれしいです(笑)。ユーザーさんがアップロードした実況動画を見て「感動した」と言ってくれた方もいらっしゃいました。最近のゲーム会社さんは必ずと言っていいほどTwitterをやっていて、つぶやくネタに困らないという意見もありました。ユーザーさんが投稿した動画を共有するだけでタイトルの宣伝になりますし、ユーザーさん自身もプレイ動画を披露することで他者からコメントをいただくことで、継続してゲームを遊ぶモチベーションにもつながりますからね。


――:今後は新機能も追加していくのでしょうか。

社内では毎日のようにブレストをしていて、アイディアをどんどん出しているところです。ユーザーさんや開発会社さんからのフィードバックも多く、実現したいものはたくさんあります。ゲーム実況のSDKというと、世界的に見てもまだ数社しか提供できていません。なので、誰も成し得なかった技術を使って未知の領域に踏み込んでいきたいと考えています。

ブレストは特に重視していて、各自が作りたいものをプレゼンする機会を少なくとも月に1度は設けています。弊社には自分が作りたいものを考えている人が集まっているので、プレゼン大会はいつも賑わっていますし、そこで企画が通ればすぐに開発が始まります。もっとも、通らなくても個人的に作ってくるスタッフも多いです。プレゼンの場にモックを持ってくることもありますね。


▲カヤック社内の雰囲気


――:モックを作るとなると相当な時間が必要になりますが、用意されているものなのですか。

もちろん優先すべき仕事はしっかりと行います。しかし、本来の仕事が終わりさえすれば残りの時間は自由に使えます。そこで自主活動として制作に励む人もいますし、早く帰るスタッフももちろんいます。それは悪いことではありませんし、休みも取りやすい環境になっています。また、空いた時間を利用して勉強会に行く者もいますね。


――:前例がないSDKだと、アイディアも無限に出てきそうですね。

正攻法も確立されていないですし、どんなことをしたらユーザーさんが喜んでくれるだろうと考えながら、日夜ブラッシュアップしています。まだ誰もホームラン級の機能を作り上げていない市場で、それをこれから開発できることはすごく楽しいことだと思います。

ユーザーさんや開発会社さんからの何気ない要望が大きなヒントになることもあります。開発会社さんからは、現在作っているゲームに合わせた機能を要望としていただくこともあり、私たちのヒントとして活かされています。


 

■「ゲーム会社やユーザーのおかげで成長できた事業」 採用面も強化中


――:導入しているメーカーの中には、インディーズや小規模のデベロッパーも存在するのですか。

最近はかなり増えてきましたね。新規流入のユーザーさんを獲得したいのはどのアプリでも同じですが、小規模のメーカーさんだと自由に広告を出すことも難しいです。そこで「Lobi REC SDK」を利用することで、実況動画が自然と世に送り出され、広告として機能してくれます。これはかなり魅力的だと思います。


――:幅広いアプリに導入される可能性があり、ネタバレへの配慮にもかなり気を配っていますよね。

弊社のエンジニアが自主的に「ネタバレ防止機能」と作ってきたのです。これにより、指定の箇所で自動的にモザイクを掛けられます。実はこの機能はエンジニアが私たちに企画を通さずに作ってきた機能で、私自身も出来上がるまでその存在を知らなかったのですよ(笑)。弊社は思いついたアイデアを即実行できる環境があるので、こういったケースはよくありますね。ディレクターが企画して作ることももちろんありますが、エンジニアが作りたいものを作るという環境も大切にしたいと思っています。
 


――:エンジニアの企画が通りやすい、自由な社風なのですね。
 
エンジニアから出てきたさまざまなアイディアに全員が目を通す習慣はできていると思います。今現在でもひとりひとりが作りたいものをしっかりと見据えています。それにディレクター陣が何を作るかを話し合う際にも、技術者は交えますね。やはり私たちが見ている視点とは違ったものの見方がありますし、何よりも技術者こそが何が実現できるかを一番分かっていますからね。


――:では、「Lobi REC SDK」に次ぐ第二、第三のソフトが生まれる可能性も大いにあると。

私たちはゲームが盛り上がる機能、楽しめる機能を作ることが使命だと思っています。今回はたまたま映像を撮る技術が採用されましたが、今後は違った機能を使ったSDKを随時開発していきたいですし、それが実現できる環境を常に整えていくつもりです。


――:開発チーム内では、具体的にどのような人が活躍しているのでしょうか。

一般的なアプリ開発の経験者はもちろんですが、別分野での知識や技術を持った人が多く活躍しています。「Lobi REC SDK」は特に別分野での知識が活かされていて、撮影する動画や音声の品質は他分野でのこだわりを持ったスタッフの力によるものです。

また、入社して2年目の若いスタッフが活躍しているのも特徴のひとつです。「Lobi REC SDK」をやりたいと最初に言ってきたのも2年目のスタッフで、自分で企画を出し、実装までのトラブルに対しても「こうやったらできるかも」と仮説を持って解決していきました。

そのスタッフも元々はAndroidの開発には携わっていなかったそうで、弊社に入ってから初めて勉強をしました。なので、スマートフォンに詳しくなくても、何かに特化していれば活躍するチャスは誰にでもあると思います。



――:若いスタッフがすぐに活躍できる現場というのも珍しいですね。

弊社には有能なスタッフを年齢にかかわらず認める文化があり、できる人にはどんどんやらせています。少しでも片鱗が見えれば一気に仕事は増えますし、そのタイミングで企画を持ってきてくれれば、確実に実現できます。IT企業はスピード勝負なので、良い企画があれば合宿をしてすぐさま形にするように心がけています。


――:開発環境を見たとき、カヤックならではと言えるものはあるのでしょうか。

他の会社さんでは絶対ないと思うのは、全社員に向けたメーリングリストがあり、誰でも送れることですね。

普通はメーリングリストを渡されても、気軽には使えないと思うんですよ。しかし弊社では、アプリのローンチやイベントの開始を告知したり、ときには事業部やスタッフへの意見が送られてきたりと、普段からさまざまな使われ方がされています。意見の中には厳しい内容もありますが、それはあくまでも叱咤激励であり、必ず改善点も添えてあります。これは開発スタッフ以外の社員からも当たり前のように送られてくるため、公開の前に一般ユーザー目線の声を聞けるという意味でも非常に重宝しています。

私も転職組だったので、まったく知らない人から全社員向けにメールが投げかけられるのは衝撃的でしたね(笑)。「ナカマップ」をリリースした当初は、まだまだ不完全な部分が多く、他の社員から改善点が一斉に送られてきたこともありました。これは全社員が自社のプロダクトを理解し、意見を持っている表れなので、とても良いことだと思います。



――:さまざまな意見が聞けるので、使う機会も多そうですね。

私が最も使うのはブレストのときですね。例えば「ゲームを面白くするアイディア募集」と書いたテキストを添付して送信すると、50件以上の返信が来ます。スタッフは皆楽しみながらも真剣にアイディアを出してくれるのでありがたいです。


――:今後を見据えたときの、目標や課題はありますか。

世界へ飛び出したい気持ちは強いです。世界的に見ても新しいサービスを提供することができましたし、今後はこの技術をいかに伸ばしていくかだと思っています。また、「Lobi REC SDK」を作ったスタッフの可能性を広げる意味でも、世界へ向けた挑戦は必須になってきます。広いマーケットへ目を向けたほうがもっと伸びるはずですし、さらに進化したサービスも出てくると思うので。


――:「Lobi REC SDK」はライバルも少ないですし、挑戦するならば今しかないと。

そうですね。それに挑戦するだけの能力を持ったスタッフが揃っていますから。まだはっきりとは決まっていませんが、来年には海外に注力していきたいと考えています。


――:海外のメーカーからの反響はあるのでしょうか。

日本でゲームをリリースしたいメーカーさんからは利用したいという声を頂いています。韓国語や中国語、英語版がほしいという問い合わせはかなり多いですね。将来は、「Lobi REC SDK」が日本展開の足がかりになるような存在に育てていきたいです。


――:現在は採用も強化しているとのことですが、どういった方と一緒に働きたいですか。


漠然でもいいから、「何かを成し遂げたい」と思っている人と働きたいですね。具体的な職種だと、サーバサイドエンジニア、フロントエンジニア(iOS/Android/html5)、開発ディレクター、SEO責任者、データ分析等、ネットサービスを運営するのに必要なさまざまな職種を募集しています。

私のようなプロデューサー、ディレクターの立場では到底考えられないアイディアを技術者の方は持っているはずなので、ぜひ面白いものを一緒に作っていきたいです。

アイディアはぼんやりでも、一見無謀なものでも構いません。それを具体的な形にしていくのが私たちの仕事ですし、スタッフも手助けになると思います。「Lobi REC SDK」に関しても若いスタッフが企画を立ち上げたものですが、周囲のスタッフの助けがなければ実現しませんでした。



――:それでは最後に、読者へ向けたメッセージがあればお願いします。

要望を送っていただければ良いものをどんどん作れるサイクルになっているので、些細なことでもぜひ意見をください。特に「Lobi」はゲーム会社さんやユーザーさんのおかげで成長できた事業ですし、この気持ちは忘れずに成長していければと思います。


――:ありがとうございました。


■「Lobi チーム採用情報」
 

Lobi チーム採用情報



■関連サイト

「Lobi」公式サイト

「カヤック」企業サイト

 
株式会社カヤック
http://www.kayac.com/

会社情報

会社名
株式会社カヤック
設立
2005年1月
代表者
代表取締役CEO 柳澤 大輔/代表取締役CTO 貝畑 政徳/代表取締役CBO 久場 智喜
決算期
12月
直近業績
売上高174億6700万円、営業利益10億2100万円、経常利益10億3800万円、最終利益5億1100万円(2023年12月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3904
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