【インタビュー】類を見ない“スマホゲーム動画コンテスト”の手応えと反省…。「ブレキャス」仕掛け人のカヤック遠山氏とエイリム鎌田氏に直撃
カヤック<3904>とエイリムは、「Lobi -チャット&ゲームコミュニティ-」(以下、Lobi)とスマートフォン向け本格RPG『ブレイブ フロンティア』(以下、『ブレフロ』)と共同で、プレイヤー参加型のゲームプレイ動画コンテスト「ブレイブ キャスト チャンピオンシップ」(以下、ブレキャス)を2014年11月14日から11月24日まで開催した。
「ブレキャス」では、「Lobi REC SDK」を用いた『ブレフロ』の新機能「実況プレイ動画投稿機能」を使用しており、ゲームプレイヤーはイベント特設サイトへプレイ動画を投稿することで参加ができた。ゲームプレイヤーが投稿したプレイ動画には「投票」機能が付いており、他プレイヤーからの人気投票で最も優れた実況動画を決定し、入賞者にはiTunes/GooglePlayギフトカードのほか、ゲーム内で使える豪華特典を贈呈。動画を投稿・投票するだけでも参加賞としてゲーム内アイテムがもらえた。
そんな類を見ないスマホゲームの動画コンテストだが、果たしてユーザーからはどのような反響があったのか。本稿では、カヤックから「Lobi」ディレクターの遠山氏、エイリムからプロデュース部の鎌田氏より、「ブレキャス」の取り組み経緯や実際の反響など、今後の動画コンテンツの行く末に迫る内容を聞いてきた。
■「作品」と呼ぶに相応しい動画が多く投稿された
株式会社カヤック
「Lobi」ディレクター
遠山薫 氏(写真右)
株式会社エイリム
プロデュース部 プロジェクトマネージャー
鎌田愼司 氏(写真左)
――:本日はよろしくお願いします。そもそも今回の取り組みですが、どのように始まったのでしょうか。
鎌田愼司氏(以下、鎌田):今回の「ブレキャス」は、ちょうど「Lobi REC SDK」(ゲーム実況録画SDK)のAndroid版が対応完了した時点で、カヤックさん側から録画機能のご提案をいただいたのがはじまりとなります。
弊社としても、「Lobi」(カヤックさん)との今後の繋がりを強化していく取り組みはもちろん、市場の流れなど鑑みて企画を了承した形になります。
――:実際に『ブレフロ』では、「Lobi」はどのような盛り上がりを見せていますか。
鎌田:コミュニティの部分では、ユーザーさんも活発にやり取りしています。ただ、録画機能とトークは新しい機能になるため、我々のほうで使い方や遊び方を提案していかなければならないと思っていました。導入してからの数字を見ても実感としてあったので、「ブレキャス」はその一環でもありますね。
――:なるほど。エイリムさんとカヤックさん側で、「Lobi」の新しい遊び方を提示しようとしていたと。
遠山薫氏(以下、遠山):そうですね。録画機能やトーク機能は、どちらも基本的にゲームユーザーさんからみて、どのように使っていいのか最初は迷う機能かもしれません。そういうユーザーさんに対して、『ブレフロ』が「Lobi」の機能を使うことでより楽しくなるような遊び方を、こちら側でも提案すればもっと盛り上がるだろうと思いで、今回の「ブレキャス」を立ち上げました。
――:「ブレキャス」の企画の段階では、お題分けも含めて熟考されたのですか。
遠山:ええ。お題分けにはこだわりました。初心者にも投稿しやすく、上級者が見ても楽しめるような場を提供しなければならないため、色々な面から見られる『ブレフロ』になるよう、レイド早解き部門/縛りプレイ部門/ブレフロあるある部門/アテレコ部門/フリー部門の計5部門を用意しました。
鎌田:なかでも「アテレコ部門」は、シナリオを楽しんでくれているユーザーさんがボイスを加えてくれたおかげで、『ブレフロ』の世界観が広がったようにも思えます。本来ならアテレコは投稿するにしても、ややハードルが高い部類に入るかと思っていたのですが、これが意外にも多くの投稿がありました。
遠山:私もはじめはどうなるのかなとドキドキしていたのですが、これが投稿数も多く、さらに質も高いんですよね。『ブレフロ』は物語がしっかり作り上げられているし、キャラクターひとりひとりにも個性があるためか、アテレコが盛り上がるのかもしれませんね。ちょっとやってみたという人たちや、きちんとした機材を用いた本格的な人など、取り混ぜてワイワイ盛り上がった部門でもあります。
――:ちなみに『ブレフロ』のユーザー層はどんな感じになりますか。
鎌田:そうですね。肌感として20~30代の男性が多い印象です。
――:なるほど。そういう意味では、今回の仕組みは女性や新規層の開拓にも一役買ったのではないでしょうか。
鎌田:ええ。女性ユーザーにも訴求した企画になります。
遠山:『ブレフロ』に限らず「Lobi」のなかでも女性実況は増えてきています。「女性が実況しているほうが見やすい」などのコメントもありますし、加えて喋りが達者でクオリティも高かったので驚いています。ただ、開発者としては「Lobi REC SDK」に顔出し機能があるため、ぜひそちらも利用していただけるような施策を今後考えたいですね。
鎌田:確かにそうですね。今回は顔出しの投稿動画は少なかったので、それは次の課題でもあります。我々のほうで事前に用意したお手本動画では、声優の市来光弘さんと弊社広報のかおりんごらと顔出しの実況動画を投稿しました。
――:かおりんごさんの動画は人気ですよね。
遠山:我々としても本当にありがたいことです。『ブレフロ』の「Lobi」コミュニティのなかに、かおりんごさんの専用部屋を作らせていただいたのですが、そこで「ブレキャス」が始まる前にお手本としてかおりんごさんが一定期間動画を投稿するのをやったのですけど、まあ盛り上がりが違いますね(笑)。毎日ちゃんと丁寧に投稿してくれましたし、ユーザーさんのコメントにも返信してくれるなど、かおりんごさんの頑張りによって、ユーザーさんも動画投稿の敷居が低くなったかと思っています。
鎌田:そうですね。ただ、かおりんごも最初はどういうふうに動画を撮影していいか悩んでいました。はじめに撮影した動画では声だけで収録して、次に顔出しもお願いしたところ、顔を出したものの一切喋らないという内容に(笑)。
一同:(笑)。
鎌田:メタルゴッドの人形を抱えたまま、ずーっと黙々とゲームをやっているという…まあハードル高いですから、ですよねという感じですが(笑)。次に投稿した動画は、カメラ(端末)の後ろに私が立って掛け合いするようにしたら、スムーズに撮影できました。我々自身もお手本の投稿を通じて動画作りを学べました。
――:ちなみに参加者数はどれぐらいありましたか。
遠山:のべ参加者数はおよそ50,000人になります。
鎌田:諸事情により開催期間が10日間しか設けられなかったので、もっと伸ばせるという手応えはありますね。というのも、途中から急激に投稿数が上がっていったのです。投稿するユーザーさんも、なかなか最初の一歩が大変でしたが、何個か上がってくると次々と立て続けに投稿が増えていきました。なかでも一見ハードルが高いと思われるフリー部門に関しては、一番動画投稿数が多かったですね。ようするに人が多く集まっているところに、動画も自然と集まっていきました。
遠山:確かに後半は加速度的に伸びていきました。サイトを立ち上げたばかりの段階は、“様子見”のユーザーさんも多かったと思うんですが、それが徐々に投稿数が上がって動画がたまり出すと、「やっぱ俺も投稿しよう」とハードルがグッと下がり、一気にサイト内の雰囲気が変わりましたね。そういう意味では、事前にもっと多くのお手本動画などを用意しておくと、投稿もよりし易かったかもしれません。仮に次回開催する際は、強固の体制で整えられますね。
鎌田:そうですね。今回経験したユーザーさんであれば、まず間違いなく投稿ハードルは下がっていますし、それこそ今から次回開催のために仕込んでくれているユーザーさんもいるかもしれません。やはり10日間のため、やりたいと思っていたことが間に合わなかった人などもいると思います。
期限ギリギリで投稿してくれた方のなかには、切り絵を作ったり、バーテンダーさんがかおりんごをイメージしたカクテルを作ってくれたりと、かなり秀逸な動画が後半になって上がってくる傾向がありました。どうしても今回の仕組みでは、後半に上がってきた動画は票を集めづらかったため、審査員特別賞という形で表彰いたしました。
――:なるほど。そのほか、何か手応えに感じたことはありましたか。
遠山:ユーザーさんの動画投稿へのモチベーションを理解できた点です。「ブレキャス」開催中の10日間は投稿数を通常時の4倍にあげることができ、やはりまだまだこちら側からユーザーさんに「動画を使った遊び方」を提示してあげる必要があることを確信できましたのは大きかったです。
鎌田:個人的には、コアなゲームユーザーさん同士がうまく動画で繋がっていたことが嬉しかったです。ゲーム内で有名なユーザーさんが、今回の動画投稿を通して別のユーザーさんと繋がりを持つきっかけになるなど、ゲーム間の交流にも一役買ったと言えますし、我々としてもユーザーさんとの距離感が、グッと近くなったようにも思えます。
遠山:それが「Lobi」が提供できる最大の価値なので、目に見えて実感いただけて良かったです。
鎌田:投稿された動画についても「作品」と呼ぶにふさわしいものも投稿されており、それを観た社内のクリエイターたちにもいい影響を与えるといった効果もありました。これまでゲーム内で一度見た後、なかなか見てもらえなかった名場面なども今回の企画によって再びユーザーさんの目に触れる機会を作れたのも結果的に良かったと思います。
また、ブレキャスの審査結果についてはニコニコ生放送で定期的に配信している「ブレ生~ブレイブ フロンティア公式ニコ生~」上で発表するという形をとり、こちらも多くの皆さまにオンライン上ではありますが、リアルタイムに楽しんでいただくことができました。
――:そうなのですね。
鎌田:とはいえ、『ブレフロ』を毎日遊んでいただいているユーザー数をベースに考えると、参加者はもっと増やせるのではないかと思いました。そもそも『ブレフロ』はRPGですから、ユーザーはひたすらゲームの世界にどっぷり浸かりたいと思っています。もちろん、我々もそのコンセプトは崩さないのですが、その世界の外側でも楽しめるような要素も提供できるように動いています。
遠山:ええ、機能自体もゲーム内の奥まったほうにありますからね。
鎌田:そもそも録画をしたいと思わない人には無理には届けません。恐らく他のゲームでは、クエストに行く際などに「録画しますか」みたいなポップアップが出るかと思うのですが、『ブレフロ』では一切出さないようにしています。これは『ブレフロ』総監督の早貸(エイリムの代表取締役社長CEO早貸久敏氏)の強い意向で、「ゲームのUIはゲームの世界観に入り込んでいるため、そこに録画という文言が出てくるのはおかしい。自分はいま召喚師なのに…」と(笑)。
――:たしかに(笑)。
鎌田:そのため、可能な限り録画ボタンなどは薄くすることにしています。
――:カヤックさん側としては、「Lobi REC SDK」を導入するにあたり、何か規定として決められていることはあるのでしょうか。
遠山:いえ、全くありません。ゲームがあっての我々の機能ですので、実装方法は各社に委ねています。もちろん、我々としてはポップアップで出していただくような提案もしますが、おっしゃる通り召喚師から現実世界に戻されるように、ゲーム体験を損なってしまえば、逆にユーザーさんにとってもストレスに感じてしまいます。
――:仮に次回開催する際は、どのような立て付けを考えていますか。
鎌田:「ブレキャス」に限ったことではないですが、じつはカヤックさんに提案されて面白かった企画のなかに、『ブレフロ』の各キャラクターのブレイブバースト(必殺技シーン)が格好いいので、そのシーンをユーザーさん全員で図鑑のように動画を埋めていくというものがありました。みんなで作るコンテンツは非常に面白いので、ぜひ次回はやってみたいですね。
遠山:ええ。『ブレフロ』にはキャラクターひとりひとりに個性がありますし、また必殺技も異なるじゃないですか。いちプレイヤーとしても見てみたいですよ。ゲームのなかにある図鑑を開くと、各キャラクターのブレイブバーストが一覧で見られたら、もう何日間でも見続けたくなるほど楽しいと思います。まだ入手していないキャラクターの必殺技を見たとき、さらにキャラクターを集めたくなるモチベーションにも繋がりますし、これはいつかやりたい企画でもありますね。
鎌田:プレイして動画を撮影して残していくのは、文化として非常に大事だと思います。それこそユーザーさんが「Lobi」のアイコンを見ただけで「これ録画できるよね」という認知が出てくると、我々ゲーム会社としてもやりやすくなっていきます。
遠山:そう言っていただけると非常にありがたいですね。今回も挑戦的な案件にも関わらず、エイリムさんには前向きにやってくださったことを改めて感謝しています。恐らく今回の「ブレキャス」をモデルにする企業さんも出てくるかもしれませんし、逆に反面教師として「こういうことはやらないでおこう」という意見も出てくるでしょう(笑)。
鎌田:俺の屍を越えてゆけと(笑)。
一同:(笑)。
遠山:でもその一歩を踏んでいただけたのが、本当に大きいです。
――:それでは、最後に双方の今後の展望をお聞かせください。
遠山:我々は今回の連動企画などを通して、ゲーム会社様、そしてゲームプレイヤーの皆様とともに、ゲーム動画や業界自体を盛り上げていきたいと思います。そのため、機能改善は我々の使命でもありますし、今回「ブレキャス」のユーザーさんの反応を見て、またブラッシュアップしていきます。
また、行く行くは、世界中で動画の機能が当たり前のように搭載されていることを目指したいと思います。それこそ動画の機能があったら「あ、Lobiかな」と思っていただいたり、自然にユーザーさんがゲーム内で「Lobi」機能を探してくれたりするように、我々も頑張っていきたいと思います。そういう意味では、今回の取り組みはその第一歩になったのかもしれません。
鎌田:『ブレフロ』では、今回の取り組みで動画投稿コンテストの仕組みの土台ができたと思っています。とはいえ、まだまだ録画のしやすさや一部端末で使えないなど、調整・改善しなければならない部分もあります。
そのほか、今後は動画を軸にしたコミュニティの取り組みなども意識しなければなりません。たとえば、自分が撮影した動画の一覧を作れたり、動画を録画することで実績が上がったりなど、うまく横展開にも繋がるような仕組みも考えていきます。今後も動画を活用したコンテンツが当たり前に根付くよう、時間をかけて企画などに取り組んでいきます。
――:本日はありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
■「Lobi」
■『ブレイブ フロンティア』
© 2013-2014 Alim Co., Ltd. All Rights Reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社カヤック
- 設立
- 2005年1月
- 代表者
- 代表取締役CEO 柳澤 大輔/代表取締役CTO 貝畑 政徳/代表取締役CBO 久場 智喜
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高174億6700万円、営業利益10億2100万円、経常利益10億3800万円、最終利益5億1100万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3904
会社情報
- 会社名
- 株式会社エイリム
- 設立
- 2013年3月
- 代表者
- 代表取締役社長 髙橋 英士
- 決算期
- 4月