『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
■第1回「ここに未来は予言される」
この連載はタイトルのとおり、わたくし安藤武博が業界の「未来」を予言する内容になります。「Social Game Info」(以降SGI)はスマホアプリ・ソーシャルゲーム情報サイトと銘打っているとおり、「現在」に関する情報が次々と掲載されていきます。推測するに多くの業界人が読んでいるサイトであり、大半が「みんなどうしてるんだろう」という情報収集のために読んでいるように思います。その気持ちをさらに深堀りすると「これからどうなるんだろう?」「今後どうすればいいんだろう?」という不安も大きいのではないでしょうか。
私がスマホのゲームをつくり始めてから6年あまりが経ちました。その間、最前線でもがいてきた者の実感としては、今後どのようなものをつくれば売れるのか、どこに向かって舵を切れば多くのお客様がよろこぶのか、判断がますます難しくなっています。
そもそもゲームづくりとは、ひたすらこの状態での決断実行を繰り返していくもの。それにしても携帯電話のゲーム市場は、かつてない成熟とともに未曾有の過当競争になっている。ここまでライバルが多いのは20年ゲームをつくってきてはじめての事だし、相当タフな状況です。ある程度、失敗成功を繰り返した人間でもこう思うわけだから、まだつくり始めて間もない人たちは特に困り始めているように見える。もしくは気づいていないか、気づいていないふりをしているだけか。
残念ながら制作費も高騰し、ちゃんとしたゲームをスマホでつくるとなるとローンチまでの金額はだいたい1億5000万~2億くらいが相場。『乖離性ミリオンアーサー』はざっと5億かけている。ハイリスクのくせに確固たる成功方程式なんてものは無く、暗闇に向かってジャンプをし続けないといけない。THIS ISゲーム作りなのだが、産業構造的に実にえげつない時代がいよいよ携帯電話向けゲームの世界にも到来している。仕方ないけども、かなりしんどい。
▲『乖離性ミリオンアーサー』
また、ネットには分析や振り返りなど「過去」のことばかりが載っており、そこに「未来」のヒット作をつくる情報はありません。また「現在」のニュースはあっという間に「過去」になる。ということで「現在」「過去」ばかりが載っている業界関連の記事に、「未来」の要素を持ったものを書く事にしました。いち個人の予言に過ぎませんが、現在困っている人のサポートに、少しでもなればと思います。
よってここで「未来」のことを語る際には「と思う」「と考えられる」などの表現ではなく「である」と言い切ります。でないと面白くない。また私はメディアやコンサルとは違い、仮説を立てたあとに実際自分でゲームをつくって試せるので、断言してからやってみた結果、こうなったという事ができる。そういった検証もします。
予言が当たった場合、時代を切り取ることが仕事のプロデューサーとしては醍醐味ですし、外れたときは笑ったり、反面教師にして楽しんでいただければ幸いです。「コメの事は、田んぼに入ったものにしかわからない。」と田中角栄は言ったそうですが、そのようなものにします。
またSGIの記事をなるべく取り上げて、そこから未来を切り取ります。先週は嘘のようなタイミングで私が手がけたゲームの記事がアクセス一位でしたが、ゆえに最前線の人間の予言記事として楽しんでいただければうれしいです。
■【SGIの1週間を回顧(2/28)】大人のための『ミリオンアーサー エクスタシス』の事前登録の記事がトップに 新作関連の話題が上位に集中
■DAUが二万人いれば月の売上で億を狙える
「これからは圧倒的な差別化がないと勝てない」
この記事はこれにつきます。なぜか? ライバルが多い場合、人と違わないと埋もれて目立たないから。オープンプラットフォームになると、なぜか内容がバラエティに富まずに、似たりよったりのものになるのですが、お客様は似たものや体験したものには、そうそう飛びつきません。当然差別化しないといけない。ではどこでするか?
ビジネスモデルはF2P(Free-to-Play:無料プレイ)を超えるものはもはやでませんし、技術的にもスマホを超えるものは当分でません。よってほとんどの場合、コンテンツデザインでしか勝負ができない。
コンテンツという言葉は意味の取り方が人によって曖昧で、胡散臭いから嫌いなのですが、あえて使うのは、ゲームの中身の差別化も含まれれば、プロデュース方法の差別化など、外側の仕掛けの違いが含まれるため、包括的な意味としてこう書きました。『ミリオンアーサー エクスタシス』(関連記事)は徹底的に、座組みと仕掛けという外側を磨いて、なんとか目立てたのです。
▲『ミリオンアーサー エクスタシス』はプラットフォーム「GREE」で配信予定。
その刺激的なカードイラストで18歳未満のユーザーはインストール禁止で大きな話題に(編集部)。
F2Pは一定数のお客様がいれば、前払い方式のパッケージゲームほど絶対数を集めなくてもビジネスが成立します。感覚的にはDAUが二万人いれば月の売上で億を狙えるイメージです。よって二万人の熱狂的なお客様を獲得できるかどうか、に絞ってゲームをプロデュースするという戦略が生まれます。
本作のようにGREEプラットフォームで、ブラウザ方式というのは現在のトレンドとは逆行していますが、それゆえ絞ることができる。さらに18禁とすることでターゲットをさらに絞ると同時に、スクエニとの企業イメージのギャップということで場外乱闘的に注目を集める。これが二万人の熱狂的なお客様を獲るという仕掛けです。
「ミリオンアーサー」シリーズはこれまで一貫してこの戦略でIPの展開をしてきました。『拡散性ミリオンアーサー』のPlayStation®Vitaやニンテンドー3DSへの展開がまさにそうです。VitaはDAUが絞られますが相変わらず5800円のパッケージゲームが年間30万本売れるくらいのビジネス規模があります。3DSは課金率が低いものの同じく5800円のパッケが年間10万本売れるかどうかくらい。力及ばず三月末で終了するスマホ版(関連記事)も無課金サービスながら1万5000人のDAUがあり、まさにファンの方に支えられています。これには深く感謝しかありません。
熱狂的なファン「のみ」を獲得するようがんばるというのも、老若男女を取りに行く国民的アプリに対しての差別化になり得ます。言い方を変えればニッチなテーマも創作できますから、やりたいことが個性的であるクリエイターにはオススメです。
ただし、これとて誰よりも速く仕掛けるのか、人の様子をみてから動くのとでは大きく違う。前述の展開は最もはやく動いたモノ勝ちであり、それはやはり先駆者こそ、もっともわかりやすい差別化の対象にほかならないからです。このようなことを仕掛ける場合、ほとんどの人がそりゃ無理だろうと思っている場合の方が多く、周りに反対者が多いかどうかも実は推進の基準になっています。反対者がいないと健全ではない。
となってくると、現在勝っているよりもピンチに陥っている人をサポートする方が成功する場合が多く、正直に言って私にとってのGREEは今そうです。ゆえに、もっともチャレンジできるプラットフォームだとプレスリリースには書きました。かつてVitaやdゲームもそうでしたし、6年前は信じられないでしょうけど、App StoreやAndroid Market(現Google Play)がそうだったんですよ。
「『エクスタシス』は月に億売れます」
そして、このあとどうなるのか? それは今後のお楽しみに。
来週は私の部下でもあり、オリジナルIPとして『拡散性』、『乖離性ミリオンアーサー』の二本をヒットさせたプロデューサーの岩野が寄稿します。交互に二人で毎週連載していきますが、お互いの原稿は掲載されるまで読まず、往復書簡の要素も入れていきます。こちらもどうなるのか? ご期待下さい。
■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)ディビジョンエグゼクティブ兼プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
■スクウェア・エニックス
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)