【インタビュー】タカラトミーアーツ大庭氏に聞く『プリパラ』のヒット要因…『プリティーリズム』の積み重ねがあるからこそ実現した数々のチャレンジ

アーケード向けガールズ筐体『プリパラ』が好調だ。2014年7月のリリースから半年ほどで登録ユーザー数が100万人を突破するなど破竹の勢いで伸びている。

今回、タカラトミーアーツAM事業部の大庭晋一郎氏にインタビューを行い、『プリパラ』の企画開発の経緯やヒットした要因、アニメとゲームの連携のあり方などについて話を聞いた。『プリティーリズム』シリーズからの蓄積があるからこその成功であり、いきなり大ヒットを生み出したわけではないことがわかる。

ゲームアプリを提供する会社にとっても玩具メーカーならではの考え方や取り組みは大いに参考になるのではないかと思う。



■企画・開発の経緯

―――:本日はよろしくお願いします。まず、『プリパラ』の企画の経緯を教えて下さい。

弊社は、『プリパラ』以前は、『プリティーリズム』というガールズ筐体を手がけてきました。『プリティーリズム』のリリース当時、女の子のおもちゃ離れが発生したことを背景に、ガールズ筐体市場が一旦シュリンクする状況にありました。新しいチャレンジとして、おもちゃ売り場に女の子を呼び戻したいと考え、ガールズ筐体『プリティーリズム』共同原作であり、ゲーム開発元のシンソフィアさんと企画・開発することにしました。

『プリティーリズム』では、女の子のリアルクローズなファッション(現実性のある服)と、本格的なダンス、スケートという要素を入れた、新しいエンターテインメントを提供したいと考えていました。同時に、玩具メーカーらしいギミックとしてハートの宝石「プリズムストーン」を取り入れました。幸い弊社のチャレンジが受け入れてもらい、4年近く運営することができ、一定の成果を収めたと考えています。

その次のステップとして、シンソフィアさんと企画したのが今回の『プリパラ』です。チームで歌とダンス、おしゃれが楽しめる「アイドル体験」が手軽に楽しめることをコンセプトにしました。

ただ、弊社は玩具メーカーですので、エンターテインメントとしての新しさや楽しさだけでなく、機構的な面白さも追求したいと考え、プリンタ筐体としました。当時、プリンタ筐体は、男の子向けには存在していましたが、女の子向けものはありませんでした。そして、女の子にとっての楽しさはどこにあるのかと考えたところ、ゲームで遊んだキラキラな思い出を一緒に印刷して、チケットとして手元に残せることではないかと考えたのです。

さらに『プリパラ』は、単なるプリンタ筐体ではなく、カメラを付けました。カメラ付きのプリンタ筐体というと、「プリントシール筐体」を思い浮かべますが、ゲーム終了後に印刷されるカード「プリチケ」に自分の顔写真がついてくれば、ゲームで楽しんだ思い出だけでなく、モデル気分も味わえ、さらに世界に一つだけの自分だけの宝物になると考えました。

 

―――:なるほど。印刷される「プリチケ」は、「トモチケ」と「マイチケ」の2つに分かれます。「トモチケ」は交流要素と言えますが、どういった経緯で導入したのでしょうか。

「トモチケ」は、アバターとなるマイキャラを友だちと交換できますが、女の子は、プロフ帳やシールなどのアナログ的な交換遊びを好みます。作ったアイドルを名刺代わりに友だちと交換するのがキッズ筐体の新しいコミュニケーションではないかと考えました。

こういった交換は、デジタルシステムでも可能ですが、あえてアナログにしました。アーケードゲームは、携帯ゲーム機やネットワークゲームと違い、ゲームの設置されている場所に出かけて楽しむものです。筐体を中心として半径10メートル位の世界で、女の子たちが「トモチケ」を交換しています。


 
【トモチケ(上)とマイチケ(下)に分かれる】
 
 

■協力企業との取り組みの歯車が噛み合った

―――:運営開始からこれまでを振り返っていかがでしょうか。

多くの方に受け入れてもらい、非常に好調です。『プリパラ』のアカウント数は100万人を突破し、予想をはるかに上回るスピードで伸び続けています。弊社としては、もともと2015年3月に50万人を目指していましたが、想定の倍以上のスピードとなっております。

ゲーム自体の楽しさはもちろん、アニメとの連携や、エイベックスさんの手がける音楽、イベントなど、様々な企業さんと一緒に取り組んだ施策の歯車が噛み合ったことが大きいです。イベントに関しては、夏にエイベックスさんで、ガールズオーディションを実施して優勝した子がアニメエンディング曲PVのバックダンサーとして出演したり、声優としてゲスト出演したりといった取り組みを行ったことも、女の子には夢のあるコンテンツと受け取ってもらえたのかもしれません。

また、トモチケ交換が予想以上に受け入れられたことも重要です。「トモチケ」を筐体に読み込ませ、チームを組んでライブを行えるなど、友だちを集めていく要素がポイントとなっております。また、弊社がオフィシャルでやっているわけではないですが、筐体を導入していただいている店舗が自主的にトモチケを交換するボードを用意してくださっていることもあります。トモチケ交換できない方がボードに貼り付けられたトモチケを持ち帰り、代わりに自分のトモチケを置いていく、というものです。


 
【トモチケ交換ボード】
撮影協力:秋葉原Hey(タイトー)


―――:筐体の設置している店舗で観察していると、幅広い年齢層に愛されていると感じます。午前中から昼過ぎまではお子さん、夕方からは中高生や大学生、夜になると大人が遊んでいます。ターゲットよりも高い年齢層に受け入れられているのはなぜだと思いますか?

弊社としては、あくまで「女の子の夢を叶える」コンテンツとして考えております。女の子はマイキャラを自分の憧れの姿として見ていますが、大人にとっては自分の娘さんのような見え方になるみたいですね。自分がアイドルチームのプロデューサーとして見ている感覚もあって、それが受けているのかもしれません。

―――:納得です。私も他の方とトモチケ交換をすると、「やはりうちの娘が一番かわいいな」と思いますから(笑) リズムゲームとしても比較的遊びやすくしていると感じましたが、そのあたりはどういった考えだったんでしょうか。

ゲームというのは、長く運営すると、足し算の方向になって、最終的には必要以上に難しくなってしまいがちです。小さいお子さんにも遊べるようにするため、どこまでシンプルにするかを考えた結果、ワンボタンで遊べるゲームにしました。こういったことはリズムゲームではあまりないと思いますが、とにかく小さいお子さんでもボタンを押していけば、体感で楽しめるようにしました。ワンボタンで遊べるので、親御さんも簡単にお子さんを手伝うことできます。

―――:ゲームは本当にシンプルで、私のようにリズムゲームに慣れてない人でも楽しめると感じました。

弊社としては、高い得点を出さないと楽しめないゲームにはしたくありませんでした。ゲームで遊んでアイドル体験が楽しめるというコンセプトを考えると、あまりハードなゲーム性は必要ありません。この点はアニメでうまく表現してもらえていますが、誰でもアイドルになれて、好きな服を来て、ステージで友だちと素敵なライブができた、そんな思い出をプリントして持ち帰ることができる…そういったことが重要と考えています。
 
 


■『プリパラ』からアニメとの連動ありきで進めた

―――:CGは、『プリティーリズム』シリーズからだいぶテイストが変わりましたね。

『プリティーリズム』は、「リカちゃん」のような表現文法で…、というコンセプトで進めていました。ゲームは2010年7月にスタートし、そのゲームを原作としてアニメが翌年4月からスタートしました。その後『プリティーリズム』シリーズは『オールスターセレクション』を含めて合計4作も作ることができ、非常に好評でした。

―――:なるほど。『プリティーリズム』シリーズはゲームとアニメの同時進行と勘違いしていました。『プリパラ』とはだいぶ違うスタートだったんですね。

はい。今回の『プリパラ』は、最初からアニメとの連動ありきで企画したものです。アニメで見ている世界がゲームでも遊べることをコンセプトとし、開発元のシンソフィアさんと、タツノコプロさんのCGチームで話し合ってもらいながら、アニメとゲームでできる限り同じ表現にすることを最初の段階で決めていました。

ライブなどのCGは、アニメを見ている人の感情移入がゲームでもできるようにしました。アニメと同じ手触りのCGと、自分のキャラが一緒にいると、その世界に入った感じがしますよね。『プリパラ』は、あくまでゲームが原作ですが、アニメと同じやり方で表現していったほうがいいと判断したわけです。


―――:しかし、ゲームとアニメの連携は相当難しい仕事じゃないかと思えるのですが。

『プリティーリズム』では、タツノコプロさんとシンソフィアさんが3年ほど連携して仕事をしてきましたからスムーズに進みました。もちろん、大変なことに違いはないのですが…。2014年7月からゲームとアニメを始めるとき、「今回は一歩踏み込んだ連携をとっていきましょう」ということで意思統一できていました。これまで積み上げた経験を集約して、一段、二段引き上げましょう、ということです。そして、両社がお互いに刺激しあっていいものができたのだと思います。

 
【自由度の高いキャラクターメイク】



■高頻度のアップデートで常に新しい何かがある状態に

―――:4年の積み重ねがあったからこそ可能になったわけですね。運営中のアップデートに関してですが、アーケードゲーム業界では2カ月に1度アップデートすれば早い方と聞いたのですが、『プリパラ』に関しては毎月アップデートされていますよね。

『プリパラ』は、弊社のアーケード筐体として初めて通信機能を搭載しています。それ以前の筐体のアップデートは、DVD-ROMやUSBメモリーなどを店舗様に郵送してアップデート作業をしてもらう必要がありました。通信機能を搭載することで、この手間が省けるようにしました。

また、お客様にとにかく筐体のある場所まで定期的に来ていただくには、毎週・毎月、何かが起こっている状況を目指す必要があると考えました。大型テーマパークなども必ずなにか新しいことがありますよね。せっかく通信機能を導入したわけですから、それをフル活用しないともったいないと考えています。


―――:スマートフォンゲーム並みのアップデート頻度なので、すごいなと思いました。コーデも毎月のようにでていますよね。どのくらいあるのでしょうか?

1カ月に30種類ほど追加していますから、雑誌やお菓子などの付録として提供する限定コーデを加えるとさらに増えるでしょう。さらに『プリパラ』でも、『プリティーリズム』時代のコーデが1000種類以上使えるようになっています。とにかく膨大な数です。その意味で、資産がある状況で始められたのは良かったと思います。



■『プリパラ』と『プリティーリズム』はどこかでつながっている

―――:その点についてお聞きしたかったのですが、『プリティーリズム』のコーデを使えるようにした理由を教えて下さい。ばっさり切ってしまうことも考えられたかと思うんですが。

すでに申し上げたように、弊社は、『プリティーリズム』を4年間運営してきました。その間、ゲームで熱心に遊んでいただいているお子さんもたくさんいらっしゃいます。サービス開始当時、小学校低学年だった方は、現在では小6、中学生になってらっしゃいます。そうした熱心に遊んでいただいたファンの方々に引き続き遊んでいただきたいと考えました。ゲームの『プリティー』シリーズの主役はコーデですし、そのコーデ一つ一つにお客様の思い出がありますからね。

『プリティーリズム』と『プリパラ』は、タカラトミーアーツの『プリティー』シリーズとしてこれから何年も続けていきたいと思っています。現在、公開している劇場版『プリパラ』で『プリティーリズム』と『プリパラ』がクロスした世界を表現しているのも、制作に関わっている皆様のそのような思いがあるからです。


―――:そういえば、『プリパラ』第1話で『プリティーリズム』の歴代主人公たちが出てきましたよね。

『プリティーリズム・レインボーライブ』の終了後、2014年4月から6月まで『プリティーリズム・オールスターセレクション』を放送しました。主人公「らぁら」が登場したのは劇場版『プリティーリズム』ですが、オールスターセレクションでは、らぁらが先輩主人公たちから色々なことを学んでいきます。そして、らぁらが7月から晴れて『プリパラ』の主人公としてデビューしました。先輩たちがそんならぁらを応援するため、シルエットとして登場します。これは制作のタツノコプロさんの洒落た演出でした。もちろん「赤井めが姉ぇ」も継続して出ており、つながっている世界であることを示しています。



■アニメとゲームの連携も蓄積があればこそ

―――:アニメと連動したイベントライブでも、コーデやトモチケなども「何回クリアすると~がもらえます」と表示されていて、遊ぶ側からすると遊びやすいですね。簡単に手に入るわけではないし、かといって難しすぎるわけでもない。絶妙な塩梅だと思いました。

特にアニメで出てきたコーデは、ファンならば必ずほしいと思うんです。ですから、できる限り手に入るようにしました。とはいえ、あまり簡単に出るようにすると、アイテムの価値が下がってしまいます。アニメと連動したイベントをやるときは、プレイヤーはゲームを頑張ったらできるだけ手に入れられるようにしました。

―――:アニメとの連携もものすごくスムーズですよね。

ありがとうございます。プロモーションやゲームの年間運営スケジュールを立てて、アニメ『プリパラ』の森脇真琴監督やプロデューサー、タツノコプロのCG班の方々と相談しながら、キャラクターやライブ、コーデを出すタイミングを決めています。「ここでこういう形で出してほしい」という弊社側の要望を伝えつつ、出し方やタイミングなどについては毎週話し合いながら進めています。

キャラクターデザインはシンソフィアさんとコンセプトやデザインを決定した後、森脇監督やライターさん、エイベックスさんらと話しながらキャラクターの性格をどんどん肉付けしていきます。すると、どんどん面白いキャラクターに育っていきます。そのアウトラインがみえたところで、それがゲームにフィードバックされることがあります。

ゲームとの連動で言うと、『プリティーリズム』シリーズの監督、菱田正和さんにゲームのメイキングドラマというライブ中の重要なパートの絵コンテを執筆いただいております。菱田さんはアニメでもCGパートの演出、絵コンテを手掛けており、ゲームとアニメの連携を図っております。アニメで使われる楽曲の歌詞は、三重野瞳さんがメインですが、ゲームのオリジナル楽曲の歌詞も三重野さんにお願いしています。そういうところで世界観がぶれません。タツノコプロさんとシンソフィアさんと長年、一緒にやってきたからこそできるものです。




■「ドリチケ」と新キャラ「みかん」が4月より登場

―――:本当にこれまでの蓄積が生かされているんですね。今後の展開を教えて下さい。

4月からチケットのサイズで大きい「ドリームプリチケ(ドリチケ)」が登場します。筐体から出てくるカードのサイズが2倍になります。マイキャラがより大きく、かわいらしく表現されます。

―――:『ブキガミ』でも時々、「ドデカカード」が出てきますよね。それと同じようなイメージでしょうか。

『ブキガミ』は、普通にプレイしていると時々「当たり」として出てくるのに対し、『プリパラ』では3回プレイすると「ドリームシアター」への扉が開き、そこでもう100円入れていただくと、「ドリチケ」が出てきます。カードのサイズが単に大きいだけではつまらないので、1枚でヘアアクセを含めたフルコーデが入手できるなどのお得感も出しました。

 
【ドリームプリチケ(ドリチケ)】
※デザイン・内容は開発中につき変更になる可能性があります。


―――:アニメも4月から新シーズンが始まりますが、ゲームでは何かされるのですか?

アニメには新キャラクターとして、「あろま」と「みかん」が登場します。ゲームでは4月からプレイアブルキャラクターとして「みかん」が追加される予定です。既存のキャラクターと同じように、とても魅力的なキャラクターですので、ぜひご期待ください。

―――:ありがとうございました。

 
【あろま(左)とみかん(右)】
 

(編集部 木村英彦)


■関連サイト

ゲーム版プリパラ公式サイト

アニメ版プリパラ公式サイト

タカラトミーアーツ





©T-ARTS / syn Sophia / 劇場版プリパラ
©T-ARTS / syn Sophia / テレビ東京 / PP2 製作委員会
株式会社タカラトミーアーツ
http://www.takaratomy-arts.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社タカラトミーアーツ
設立
1988年2月
代表者
代表取締役社長 近藤 歳久
決算期
3月
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