「令和版メディアミックス」by雨穴。双葉社が見出した「世界に届く"小説"×"絵"で読み解く『国民的スケッチミステリー』」 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第117回

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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雨穴―日本のホラー作家、YouTuber、ウェブライター、脚本家ーー。本名も素顔も地声すらも出していない完全な覆面作家は、登録者174万人を超え、総再生回数も2億1100万回の人気YouTuberでありながら、2024年日本で最も本を売ったベストセラー作家であり、かつ今全世界で初の書下ろし小説となる『変な絵』が世界的なミリオンセラー作品となり、世界30ヵ国と地域で総累計164万部と広がっている。

また彼のデビュー作が原作となった映画『変な家』は50億円、400万人を動員する大ヒット映画となった。雨穴とは一体、何者なのか・・・そしてなぜいま、これほど雨穴作品が世界中でブームに包まれているのか。雨穴の最高傑作作品『変な絵』の世界的な大ベストセラーの仕掛け人である、双葉社の出版プロデューサー兼編集者である渡辺拓滋氏に、この現象を解説してもらった。

 

【目次】
総累計164万部、世界30か国と地域に展開された「スケッチミステリー小説」『変な絵』
YOASOBIの「出版プロデューサー」として見えたもの
令和版の双葉社「新メディアミックス」ーー。日本基準ではなく"世界基準"でつくる、を徹底した新メディアミックス・プロデューサー
売った本は500万部超。新時代のメディアミックス・プロデューサーがみる出版社の未来

 

■総累計164万部、世界30か国と地域に展開された「スケッチミステリー小説」『変な絵』

――:自己紹介からお願いします。

双葉社で編集局次長統括編集長を務めております渡辺 拓滋(わたなべ たくじ)と申します。雨穴さんの『変な絵』の総合企画プロデュースと担当編集者をいたしております。

 

https://www.nippan.co.jp/ranking/annual/より中山作成

 

――:書籍界で飛ぶ鳥を落とす勢いですね。今年日本で売れた書籍トップ10のうち3作品が雨穴さんの作品で、双葉社『変な絵』は総合ベストセラーで2023年4位、2024年6位。総累計164万部!羨ましすぎる。

最初は単行本で2022年10月に発表した作品となりますが、雨穴先生が2024年1月に"事件の本当の真相"を書き下ろした「続編新作」がついた、文庫本も出版されまして、すでにこちらも重版も重ねており、売れ行きは倍増しています。

内容は中山さんも読んで頂いたとのことですが、小説と何かがおかしい9枚の絵から一つの事件の真相を探る戦慄の「スケッチミステリー」となっていますね。絵をみながら小説を読み進めて、事件を解決していく雨穴先生しかできない作風となっています。

――:どういう人が読んでいるのでしょうか?

日本で最初に一番ファンが多かったのは30~40代の女性の方々でしたね。入り口はやはり「読みやすいミステリーホラーもの」といった感じで、その女性層から人気の火がついて、そのうちに普段は本を読まない20代~10代の若者が入ってくるようになって、その後に母親からの影響もあって子供たちが読むようになって行きました。

――:『変な家』(2021年7月)と『変な絵』(2022年10月)はどう違うのでしょうか。

私ども双葉社の『変な絵』は、雨穴先生が初めて書き下ろした「小説作品」となります。

2021年夏から秋頃にかけて雨穴先生にコンタクトをとり、今までになかった「小説」×「YouTube動画」×「音楽」という新しい作風で新時代の小説を書いていただけないかというお話しをさせていただき、ご興味をもっていただきました。そのうえで、雨穴先生ご本人のお言葉となりますが「『変な絵』は、自分にとっての最高傑作です」と言える最高の出来となった本作が、2023年に出版界で快進撃を飛ばすことになりました。

――:100万部に到達した本って双葉社の中にどのくらいあるものなんですか?

ここ最近の代表的な作品の一部を挙げさせていただきますと、『クレヨンしんちゃん』はもちろんのこと『告白』、『君の膵臓をたべたい』、『Orange』、『あなたがしてくれなくても』…といった作品になりますでしょうか。

『変な絵』のようにミリオンセラーは数年に1冊あるかないか、という大ヒットとなりますが、今回特別だと思えるのは「30か国と地域で世界に向けて海外出版」がされ、現時点でまだ全ての国と地域で出版をされていないにもかかわらず、すでに世界での総累計部数が164万部というミリオンセラーとなっているのは、私が知る限りでは双葉社としてもおそらく初めてのことになるのではないかと思っています。

イタリアで初版8万部やフランスでも初版7万部でスタートすることが決定していますが、日本発の作品としては異例中の異例の高部数だと思っております。イギリスでも雨穴さんをモチーフにした顔写真を書店の壁に大きく張り出したり、店頭のショップウィンドウに『変な絵』に出てくる、何かがおかしい4枚の絵や表紙が飾られたりするなど、各書店で大きな展開をしてくださっており、完売店も出るほどの売れ行きとなっています。

 

イギリス/ロンドンの書店

 

――:海外でどのくらい売れているんですか?日本の書籍が海外で売れることってなかなかないですよね(ビジネス本がアジアで、などはありますが・・・)

現状での内訳で言いますと、日本134万部で海外30万部となっています。ありがたいことに大人から子供まで世界中でも多くの方々に幅広くお読みいただいております。雨穴先生にしか描くことのできない「小説」と「絵」とで一つの作品となる、「スケッチミステリー」という作風やジャンルは、世界的にも存在しなかったに等しいのではないかと思っています。中には日本のマンガに慣れ親しんだ方々で「マンガ小説」的な読み方をしてくださっている方もいらっしゃるのではないかとも思っています。

 

 

2024年「書籍年間売り上げ第1位」のホラー作家&Youtuber・雨穴氏『変な絵』が国内でシリーズ「累計134万部」となり、異例の「世界30ヶ国と地域」(北米、ヨーロッパ、南米、アジア)でのグローバル出版を記念して、2025年1月16日に「日本外国人特派員協会」で記者会見が開かれました。

――:『変な絵』が世界的ミリオンセラー作品となったのは「クレヨンしんちゃん」のルートがあったため、これだけ一気に海外出版に至ったということなんでしょうか?

いえ、詳細は控えさせていただきますが、実はまったく別のルートで世界マーケットの海外出版を開拓しております。「ホラーミステリー小説」×「絵」という作品のため、最初にアジア圏でありがたいことに高い注目が集まりました。韓国、タイ、中国、台湾、ベトナムなどで出版がされ、タイでは発売されると書店売り上げ1位にもなり、台湾では早くもベストセラーとなり重版も掛かるなど売れ行き好調となっています。

さらに海外に向けた施策も本格的にスタートさせ、『変な絵』という作品を知ってもらうために、小説の翻訳そのものだけでなく、チームワーク力は出版界随一だと思っていますが各部署とも協力や連携し、「第一章」のYouTube動画も英語版と中国語版を制作して各国の出版社に送るなどしました。

その後、欧州の主要国であるイギリスを始めとしてフランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、そして東欧北欧のチェコ、ノルウェー、フィンランドや、北米のアメリカなどでの出版も続々と決まっていきました。

さらに今年25年に入り、日本の「文庫出版」とイギリスとアメリカでの「世界同時出版」が決定し、海外メディアさまからの注目度もとても高く、お問い合わせも多数いだたいておりましたことから、日本外国人特派員協会で記者会見を開かせていただくことになりました。

記者会見当日は国内外100人以上のメディアが詰めかけ、AP通信からワシントンポストなど数多くの海外大手メディアがご取材をしてくださり、雨穴先生の会見の模様と『変な絵』が世界30ヵ国と地域で出版が決定し、世界的なミリオンセラー作品となっていることを、世界各国に向けて報じてくださいました。

今後はイスラエル、ロシア、南米のブラジルなどでの出版も予定されています。フランスでは大手書店チェーンのFNACが「今月の本(2月)」に選定するなど、雨穴先生の作品『変な絵』が大きな期待ととともに受け入れられ、すでに日本国外で発売をされた国と地域だけで発行部数は30万部を超えており、これから出版される国と地域も多いため、まだまだ世界でも売れ行きが伸びるのではないかと思っています。世界での総累計部数200万部も早いうちに到達できるのではないかと予想しております。

 

記者会見時の渡辺拓滋氏

 

■YOASOBIの「出版プロデューサー」として見えたもの

――:日本外国人特派員協会での外国メディアからの質問で少し気になったのですが、雨穴さんだけでなく、AdoやVTuberも引き合いに出され、「日本はAdoにしても、なぜか匿名性を極めて高い状態で創作活動するケースが多い。それは個人の問題なのか、日本の社会構造の問題なのか?」と。

日本国内では顔を出さないことで、もちろんその方々の特性にもよるところもあるかと思いますが、作品の幅が自由に広がる面もあるのではないかと思っております。一方、今後はアーティストさんなどが世界で活躍したり、成功する一つのキーワードとなるのが、個人的にはエッジのきいたキャラクター性を生かした「匿名性」というような気がしています。

 

出典)Social Insightより著者作成

 

――:雨穴さんのYouTubeは、コロナ発生時に10万人登録から『変な家』出版の21年夏に35万登録となり、それがすぐに50万、そして100万登録になるのが2023年10月で、映画『変な家』の大ヒットのあとに一気に150万登録に乗って、現在も174万人と増加中です。

私が申し上げるのも大変に僭越ではありますが、雨穴先生は間違いなく100年に一人の天才だと思っています。YouTubeの動画制作、小説、絵や歌、そしてダンス…など、あらゆる才能をお持ちの方です。

――:この『変な絵』が世界的な作品となり、ミリオンセラーとなったのは何が要因だったのでしょうか?

主要なポイントとして考えられるのは、私としては2点あるのではないかと思っています。まず1点目は、雨穴先生のお力により小説と絵とでなる作風を確立し、「スケッチミステリー」という世界的に見ても初とも言える新しいジャンルを開拓することができたことではないでしょうか。世界でもゲームやマンガに慣れ親しんだ若者や子供たちが増え、「読みやすさ」を前面に出したことで、日本だけでなく、こうした世界の若者や子供たちなど多くの方々にお読みいただけているのではないかと思っています。

2点目に新時代にあった「メディアミックス」がポイントではないかと思っています。「小説」に「YouTube動画」と「音楽」などもミックスして、海外にも広げられる今までになかった新時代のメディアミックス作品として完成することができたことは、日本の出版物のなかでない画期的なことだったのではないかと思っています。

「小説」×「YouTube動画」×「音楽」が1つの作品でつながっていることで、どこからでも作品に入って行くことができます。日本での出版と同時に世界展開を考えたときに、タッチポイントを増やすことがとても重要だと考え、こうした新時代に合ったメディアミックスの作品作りをいたしました。おそらく、「小説」×「YouTube動画」×「音楽」という新たなフォーマットは、雨穴先生と私とで一緒に考えさせていただいた出版界初の試みではないかと思っています。

――:なるほど!?アニメや映画とのコラボというのはありましたが、「小説」を「YouTube動画」と「音楽」とコラボした新時代のメディアミックス、というのは確かに初めての事例かもですね。

ありがとうございます。物語の冒頭部分を約25分の動画「この絵の仕掛けが解けますか? 『変な絵』第一章」としてYouTubeで公開したことで、海外にも広がってゆき(海外展開で非常に不利と言われる日本語での)出版書籍を海外に広げるには、もしかすると今後の一つの方向論になるのではないかとも思っています。

しかもこれも雨穴先生のオリジナルなんですが、作品のアナザーストリーとして音楽「a Mother's Nocturne」も作っていただけたんです。2023年11月に公開されまして、現在130万回再生以上再生されています。

 

 

――:雨穴さんの天才性もあるのでしょうけど、渡辺さん自身はどうしてこうした「新しいメディアミックス」を一編集者でありながら、一緒に関わっていけているのでしょうか。

私は以前、YOASOBIさんを担当させていただいておりまして、近いことを経験させていただいたことがとても大きかったと思っています。「夜に駆ける」を始めとする楽曲の小説版『夜に駆ける YOASOBI小説集』(2020年9月)を総合企画プロデュースさせていただき、一編集者でありながら「小説」×「音楽」の新メディアミックスを展開させていただきました。

それを総合プロデュースさせていただき本にしたときの「小説」×「音楽」の新時代のメディアミックスの広がりや、その「波及効果」にとても驚いたんですね。小説が音楽と一緒になることで、今まで一切、本を読んだことがなかった方々や若者などにもこれだけ多くの興味や関心を持っていただけるんだ、と。こうした新しいチャレンジをすれば、若い方々の本離れが叫ばれていますが、少しでも本を読んでいただけるのだと、これから企画を考える上での大きな学びとなりました。

結果、現在、『夜に駆けるYOASOBI小説集』は日本国内だけで35万部突破となっております。そのノウハウを元にして今度はゼロから小説を音楽にするための作品募集もさせていただき、YOASOBIの楽曲「大正浪漫」の原作小説となる『YOASOBI 「大正浪漫」原作小説 大正浪漫』(2021年9月)を総合企画プロデュースせていただきました。

大変に恐れ多いのですが出版を通じて、YOASOBIの「小説を音楽にする」というコンセプトを、世の中に広げる一翼を担わせていただけたことは、経験上とても大きかったと思っています。このYOASOBIの小説が日本から韓国、台湾、タイ、インドネシアなどアジア各国へと広がっていったことが、この度の『変な絵』の世界的なヒットのヒントにもなっているのではないかと思っています。YOASOBIの小説出版はアメリカでの出版も今後控えており、さらに世界規模で進んで行きそうです。

――:なんだか「令和版の蔦屋重三郎さん」のようですね!?

 

コミカライズした作品はコミックシーモアで『電子コミック大賞2025』の「男性部門賞」も受賞

 

■令和版の双葉社「新メディアミックス」ーー。日本基準ではなく"世界基準"でつくる、を徹底した新メディアミックス・プロデューサー

――:渡辺さんのキャリアをお伺いさせてください。

双葉社入社は1994年なので、編集者としては早いもので30年のキャリアとなりますね。まずは雑誌の方からお話をさせていただきますと、エンタメ誌やファッション誌、アニメ誌、医療誌、サッカー雑誌などの編集長を務めてきました。私のキャリアは出版業界が良い時代からのスタートとでしたので、会社のおかげでたくさんの経験を積ませていただきました。心から感謝をしています。最近では、有名人のインタビューサイトの統括編集長も務めています。

そうした中で雑誌だけでなく「書籍をどうベストセラーにするのか」を、20代後半から次第に考えるようになりました。新聞、テレビはこういう切り口やポイントがあると取り上げてもらいやすい、『anan 』などの女性向け雑誌ならこういう感じだろう、そうやって色々と試行錯誤して行くうちに、書籍をただ出版するだけではなく、自分なりに「出版記者会見」もプロデュースするなど大型プロモーションの「型」を身に着けていきました。

――:そうなんですよね。以前日経BPの東城さんにもインタビューして本の売り方ってもう脱昭和しないと厳しい話を伺いました。ただ「記者会見をプロデュースする編集者」というのはちょっと異例で聞いたことがないですよね。

はい、ありがたいことに、まさに「記者会見」も私が一編集者の時代に身に着けた「型」だと思っています。その成功体験になったのが、野村克也さんの自叙伝『女房はドーベルマン』(2002)でした。私にとって大恩人となります。(当時、野村氏は1990~98年にスワローズ監督を務め、1999年から阪神タイガーズの監督を務めるが3年連続最下位という窮状を経て、2001年に妻である沙知代夫人の脱税疑惑事件と阪神監督辞任などもあり、人生の転機を向かえていたころ)。

私が野村さんご自身の自叙伝を世に出させていただき、その“復帰"ともいえる場を「包み隠さずお話をして」と出版記者会見という形で、2002年5月に行うことになったのです。野村さんの自叙伝を出版企画したのは、誰にでも失敗や挫折はあるかと思うのですが、野村さんのくじけずに一歩一歩前に進もうとする生き方を通じ、多くの方々に勇気を与え、日本がもう一度、再チャレンジをできる社会に変わったらよいなとの思いからでした。

3か月近くの間、一切、誰にも分からないように野村さんのご自宅にお邪魔させていただき、二人だけで過ごしてお話を聞かせていただき、一緒に一冊の本に仕上げさせていただきました。そして、出版にあわせて復帰会見まで全てプロデュースをさせていただき、横について野村監督の独白を聞かせていただく機会に恵まれました。この自叙伝出版と記者会見が上手くいったことが大きかったのか、その日を境に、日本中が野村監督を応援しょうという空気に一気に変わって行きました。私自身にとり、まさに「本」×「記者会見」という「型」ができた瞬間でした。

――:「書籍」だけでなくは、その時代を切り取るような「写真集」企画でも数々の大ヒットを飛ばしていますよね。

小泉純一郎元総理の写真集『小泉純一郎写真集KOiZUMi』(2001)も私にとって、代表作となった作品です。その当時はその日本の首相が海外の方々から見ると、一部ではまだ紋付き袴を着ているぐらいの認識だったようなのですが、そういったイメージを払拭し、日本のリーダーでも凛としてスーツとネクタイが似合い、欧米の首脳にも一切引きを取らない、といえるのが小泉総理でした。

世界に向けて日本のリーダーの素顔や真の姿など、人となりが伝わる写真集を作ってはいかがでしょうかとご提案させていただいて、息子さんとキャッチボールをする写真やさわやかなシャツ姿なども撮らせていただき、出版をさせていただきました。私には世界中の方々に、日本のリーダーの真の姿や日本をもっと知ってもらいたいといった思いがありました。日本の憲政史上、総理大臣が写真集を出版するというのは、初めてのことだったと思います。それぐらい日本の出版史に残るであろう大きな出版でした。

いまだに覚えていますが、この小泉写真集の出版の際も、日本中のメディアだけでなく、欧米など海外メディアからの反響も大きく、私が企画当初から考えていました日本のリーダーの素顔や日本を海外にもっと伝えたいという、企画の狙いが見事に上手く行き大きく報じられました。私としてはこの写真集出版が分岐点となって、その後に企画する出版は「日本基準だけでなく、世界にも目を向けよう」というグルーバルな視点を持つようになりました。また、誰もしたことがない前例のない一国の総理大臣の出版企画を成功に導くことができたことで、まずは第一歩を踏み出せば、大きな出版のチャンスにもつながるといった編集者マインドもこの時に備わりました。

――:本当に、日本初でしたよね、「総理大臣の写真集」というのは。初版8万部で、小泉首相のサイン付きプロマイドも封入されていました。お話をいただいたように、まずは第一歩を踏み出すことで、こうした歴史に残るような大きな出版も可能になるのですね・・・。

こうした出版物の成功が私の礎になっていて、今も動き方も当時と全く変わっておりません。2022年のサッカーW杯カタール大会で“三笘の1ミリ"で日本中を虜にしたサッカー日本代表・三笘薫選手の初の著書となる『VISION夢を叶える逆算思考』(2023)も、同選手のいるイギリスに行きまして、編集だけでなく一緒に企画プロデュースから構成もし一冊の本にまとめさせていただきました。同書には三笘選手を作る"120のメソッド"が全て綴られています。

そして、三笘選手がW杯後に時の人となって帰国した出版会見も、全て企画プロデュースをさせていただきました。会場にはイベント来場者とメディア関係者が500人近く集まりました。『VISION夢を叶える逆算思考』は未来ある子供たちから、これから三笘選手のように世界を目指す日本人選手たち、そして指導者、ビジネスパーソンまで多くの方々にお読みいただき、ありがたいことに10万部を超えるベストセラーとなっていますね。

――:これもめちゃくちゃいい本でした。現役のプロサッカー選手って、こんなにも言語化しているのか、と自分の時代のアスリートイメージが覆されました。ビジネス界で起こっていることと、三笘選手の言ってることはほとんど一致しますよね。日本VS欧州では「組織」と「個」の在り方が真逆のように異なる。

そうなんですよ。いま時代の中心で世界でも輝いている日本人のなかには、ものすごいエッセンスや言葉があると思っています。その旬を逃さずに本として形にする、というのが我々の使命だと思っています。これからもYOASOBI、雨穴先生、三笘選手に続く、日本人が世界的なスーパースターになるお手伝いやプロデュースを、出版を通じて大変に微力ですさせていただきたいと思っています。そして、日本人の世界的なスーパースターのエッセンスや言葉を、出版を通じて未来の子供たちに伝えることで、日本から多くの人材が世界に羽ばたいていって下さったら、出版人として本望だと思っています。

私自身は入社10年たたずに早い段階で、大変にありがたいことに各界のリーダーやTOPの方々との出版を通じたお仕事の中で、たくさんのノウハウを積み重ね、多くの皆さまの多大なるお力添えや運にも助けられ、数多くのベストセラー作品を世に出すことができました。野村監督との仕事では「作るだけではなくて、伝えることが大事なんだ」というプロデュースの力を学ばせていただき、小泉総理とのお仕事では「グローバル目線で見た時に、時代が求めるメッセージ性を入れたコンテンツを作らないといけない」ということを学ばせていただきました。

――:こういうの不思議なんですよね。僕の場合、自分自身で発案してほぼ持ち込みのように書籍をつくるんですが、逆に編集者がこうして「プロデューサー」として「提案して」本にしていくのですね。

私は「編集者はプロデューサーであるべきだ」と思っています。私の場合は最初に企画提案をさせていただく際、お断りをされるところから始まり、長い期間をかけて信頼関係を築き、3年、5年、10年をかけて本にさせていただくこともあったりします。そうした長い期間をかけて信頼関係を築く中で、その著者の人生を変える決定的な大きなタイミングで本の出版をお預かりすることがありがたいことに多いですね。

例えば、「ドラえもん」の声優を長年、務められた大山のぶ代さんの『娘になった妻、のぶ代へ』 (2017)は、社会的にもとても意義のある本だったと思っています。「ドラえもん」の声をしていた大山さんが認知症になられた際、認知症の患者を持つご家族はどう生きるべきかを、旦那さんである俳優の砂川啓介さんが綴った一冊になります。

彼女のような国民的な声優さんがそうした病のなかでどう感じ、どう生きたのかーー。また、そうした最愛の妻が病と闘うなかで、夫である砂川さん自身の明るく前向きに生きる姿を明らかにすることで、同じように認知症の患者を持つ多くのご家族に勇気や未来があることを、本を通じ伝えられたらと企画させていただきました。

大山さんと砂川さんの噓偽りのないご夫婦の本当の姿を伝えることで、出版後、日本中から大きな反響があり、それがきっかけとなって、日本全体で認知症で悩む人々やご家族の救いとなり、大きな社会変革が起きました。NHKを始めとする多くのメディアが『娘になった妻、のぶ代へ』を元にしてテレビ番組で「出版特集」を組んで下さり、この大山さんと砂川さんのご夫婦の本がきっかけとなって、認知症のご家族がいることを家族の中だけで内々にし看病する方々が苦しむのではなく、「そういうことが言える社会へと変わっていった」。あらためて、「本の力」というのはとても大きく、社会を変えることもできるのだと改めて痛感した次第です。これからも大山さんと砂川さんのご夫婦の本のように、少しでも多くの方々の一助になる本を企画プロデュースできたらと心から思っています。

――:なぜこれほど一国の総理大臣から、世界的なアーティストグループ、野球界の有名レジェンド監督、日本サッカー界のスーパースター、国民的声優など数多くの著名人たちの「人生を変えるターニングポイント」に巡り合えたのでしょうか?

やはり、これはありがたいことに本当に運に恵まれたとしか言葉がないかもしれませんね。本当に編集者冥利に尽きると思います。

 

■売った本は500万部超。新時代のメディアミックス・プロデューサーがみる出版社の未来

――:凄いですね。確かに今までの「本の編集者」というイメージとはだいぶ違いました。

編集者は時代の半歩先を見て、今、世の中で読者の皆さま方が何を知りたいのか、何を読みたいと思っているのかを捉える職業だと思っています。多くの著者の方々とは、先ほども申し上げましたように長い年月をかけて信頼関係を築かさせていただき、その方の人生を変える決定的な時期に出版をさせていただきました。「本の編集者」という感覚はもちろん大事にしながらも、その一方で大変に恐れながら「その方ご本人のプロデューサー」をさせていただいているという感覚で仕事をしてきました。おかげさまで、現在でもアーティストやスポーツ選手、小説家、政治家、企業家、クリエイターの方々など、ありがたいことに数多くの皆様方からたくさんのプロデュースのご依頼をいただいております。

――:少し気になるのですが、著者の気持ちや考えが編集者の企画にを向いていないこともあったりしますよね?そういった場合は著者とどういった話し合いやコミュニケーションを取るのでしょうか?

著者と本を作るにあたって、一緒に設計するときのコンセプトメークはかなり時間をかけて何度も話をさせていただきます。そして、ご意向をおうかがいしながら丁寧に行うようにしています。時には「大変に申し訳ないのですが、このままいくと世の中的には売れるものにならないのではないでしょうか…」「著者自身が気づいていない…、本当の自分をもっと多くの人たちに伝えてみたらどうでしょうか」といった率直な感想なども述べさせていただきながら、本音で一緒にコンセプトを作っていくように心掛けています。

――:これまで数十作品の書籍に関わってきて、どのくらいの部数を売られてきたんですか?

今まで編集者として担当させていただき、企画プロデュースいたしました累計部数は500万部を超えていますね。多くの方々の多大なるお力添えや、書店様、印刷所関係、流通関係、全ての出版に関わる皆様のご協力があっての賜物だと心から思っています。そうした中でも『変な絵』の164万部は、私が編集者として手掛けた中で一番売れた本になりました。

――:編集者って年に6~7冊みたいに抱えている方々もいて、次々、新しい本を出して行けなければならないため、本が出版された段階で本来は仕事って終わることが多いですよね?

今までは編集者は本を「作る」だけで良かったと思うのですが、これからの時代は「作る」だけではなく「伝える」「稼ぐ」まで全てが重要になってくるのではないかと思っています。

私がファッション誌の編集長(『EDGE STYLE』(2009~14年女性ファッション誌)を務めていたときに、「付録ブーム」の時代となったことがありました。この時に、雑誌を編集制作するだけでなく、モデルたちが考案した商品開発もし、出版外事業収入を得るビジネスモデルを構築し、とても多くのことを学ばさせていただきました。このファッション誌の編集長時代に、「稼ぐ」という意識を学ばせていただいたことが、今に大いに活きていると思っています。会社からこうした貴重な機会をもらえたたことに、とてもありがたく思っています。

――:『変な絵』のような大きな出版は双葉社としてはどういう体制でやるんですか?双葉社は1948年設立、社員数は200名規模ということで出版社としては中堅大手の一角ですよね。どういうカルチャーの会社なんですか。

先ほどもお話をさせていただきました通り、弊社は出版界随一のチーム力がある会社だと思っております。『変な絵』のような大ヒットを生み出すために、チームを組んで会社皆で連携し協力して最大化できるように展開をしています。この度の、『変な絵』の世界的なミリオンセラーとなる大ヒットも、まさにチーム力の賜物であり、大勝利だと思っています。

――:最後に、マンガ以外はいまだに出版不況となっています。書籍だけでなく、雑誌も25年落ち続けています。今後、出版社にとって重要な役割はどういったことだと考えますか?

本を売るための導線づくりというのは、本のなかでのストーリー作りだけではないのではないかと思っています。先ほどもお話をさせていただきました通り、本を「作る」だけでなく「伝える」ことがとても大事だと思っております。このため、本の宣伝戦略・プロモーション戦略といったストーリー作りを入念に練ることも重要だと思っています。

また、一つのストーリーを起点として映像化、アニメ化、商品開発化、ゲーム化、海外出版化するなど、中長期的にどのように最大化できるのか、逆算で考えるビジネス的なストーリー設計もとても大事になってくると思っています。こういった3つのストーリーを設計立案することが、個人的にはこれからの出版社や編集者の大きな役割の一つになってくるのではないかと思っています。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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