GameBank 代表取締役社長 CEO
椎野真光氏
今回、4月1日より同社代表取締役社長 CEOとなった椎野真光氏をはじめ、各タイトルを担当するプロデューサーの方々にお話を伺う機会を得られた。まず、椎野氏にGameBankの立ち上げの経緯から、これからの展望まで、幅広い話題でお話を伺った模様をお届けする。
■良質なコンテンツを制作するためのコスト、運営するための人材をしっかり採っていく
――:本日はよろしくお願いいたします。まずは、GameBankさんの設立から、これまでの流れをお伺いできますか?
元々私は、ヤフーに在籍しておりました。ヤフーにおいて、宮坂(学氏)に社長が代わってから、今までのPCプラットフォーム向けの事業から、スマートフォン向けに事業転換をこの3年で進めてきました。結果として、現状ユニークブラウザー数でいうと、スマホベースでは4,000万以上のデバイス数をヤフーが抱えるまでに成長してきました。
ヤフーがスマデバ(スマートデバイス)ファーストを推し進める中で、これからのヤフーの事業を考えると、もうひとつの収益源としてB to C…つまりスマートデバイスのユーザーを我々でいうところのゲームに乗せて、いっぱい遊んでいただいて、そこを軸にヤフーとして事業を拡張していきましょう、ということが決まっていました。
そこで思い切って、新たにGameBankを設立しスピード感を持ってプロジェクトを立ち上げ、ヤフーと一緒に、GameBankがヤフーをうまく使えるような形が一番いいのではないか、というお話をさせていただいたのが2014年の秋ですね。
この立ち上がりのスピード感に関しては、セガからセガネットワークスを切り出したときにすごく感じたところでして…セガも当時はコンシューマー系の文化で、フリーミアムというものに対して懐疑的な目があって。ゲームが大好きな人達には、フリーミアムはゲームの本質的なものではないといった否定的な目で見られていて。当時は大型のフリーミアムコンテンツのプランは上で止まることが多かったんですね。それから、現場でなるべく決済できるようにしてから、事業速度が上がってきました。これをもう1回ヤフーとGameBankでやりましょう、というのが今のGameBankですね。
――:GameBankさんが立ち上がってから、どういった規模感で、どういったペースでソフトをリリースして…といった事業計画はどんなものを想定されていたんですか?
今、ゲームアプリ事業は完全に踊り場に来ていて、1タイトルあたり3~5億ぐらいの開発費がかかります。2015年は、これに耐えうる会社と、ドロップする会社の選別が行われる年だと思っています。我々は幸いなことに、1本~2本の失敗でステージから落ちる…といったことは当面なく、ある程度の規模感を持ちながら、ヤフーの送客を充てることで、こつこつと積み上げていくことが十分可能と考えています。
基本は2年単位で、独立性が担保できるぐらいの事業が作れているか? というところが1つの判断材料になりますけれども、少なくともこの1年に関しては、「しっかり仕込みましょう」と。良質なコンテンツを制作するためのコスト、運営するための人材といったものをしっかりと採っていこうと考えています。
いったん「行けそうだ」と思った瞬間に、今まで想定されているよりも大きな規模の期待が各所から入ってくるような後ろ盾はできているので、現状はまだ最初の1本が世に出ていない状態ですが、その1本目がリリースされた後、そこからの事業拡大は、他社と比べてもスピード感をもって進められるのではないかと考えています。
■圧倒的なヤフーの送客とこれまでのスマホアプリの流れとは違ったコンテンツ制作ノウハウこそが勝ち筋
――:椎野さんはこれまでコンシューマタイトル、PCオンラインタイトルからソーシャルゲームに移行されてきて、さまざまな実績とともにノウハウなどを蓄積されてきたと思いますが、GameBankさんにおいての勝算はどのあたりにあるとお考えですか?
事業的な勝算と、コンテンツ的な勝算に分けられると思うのですが、事業的な勝算は、やはり圧倒的なヤフーのユーザー数ですね。たとえば、『剣と魔法のログレス』がMMOにも関わらず、それまでMMORPGをプレイされていなかったお客さんも巻き込んであれだけ大きなムーブメントになってきました。そういったカジュアルなユーザーを巻き込める環境が、スマートデバイスのフリーミアムモデルにもあると思っていて、我々はまず、ヤフーを使っていらっしゃるユーザーさんに単純に大きく風を当てることができますね。これ自身が我々の勝算の1つの大きな部分です。
一方、コンテンツに関していうと、これは製作者としての私のアドバンテージですが、これまで「コアゲームを得意にしている」と言ってきました。では、「コアゲームの定義って何なの?」という話をすると、AAAクラス…3Dで美麗なグラフィック、たとえば『FF』とかですかね、それはコアゲームではないと考えています。
結局、リアルタイムで同時接続したゲームにおいて、ユーザーとユーザーが拮抗した力関係の中で、より優位にするにはどう知恵を使うか…これこそがコアゲームのコアゲームたるゆえんです。1人遊びよりも『チェス』とか『将棋』といったものは知恵を使いますよね。あれだけ深くて歴史も伴うようなものですね。
私が特に得意としていた『Kingdom Conquest』のような、同接したゲームの中で自分の優位性をどう誇示するか、ということをフリーミアムモデルゲームのなかで成立させるという点において、非常にノウハウが蓄積できています。
GameBankの設立のコンセプトには、「コミュニケーション」をコアに据えています。フリーミアムで、スマートデバイスで常時オンライン接続できるという中で、ユーザーがそこに一堂に会することができる。ソーシャルゲームは、今までの「フレンドを増やすとアクションポイントが増えます」といったゲームから、本当にユーザー同士が一緒のゲームに入って一緒に遊ぶという時代になってきていて、そこにフォーカスした私のノウハウとともに、今、たくさん入社してきているPCオンラインゲームを運営してきたスタッフの知見も含めて、これまでのスマートフォンゲームアプリの流れとは違ったコンテンツを提供していきます。これがコンテンツとしての勝ち筋ですね。これが2016年までに必要になってくる、ゲームアプリの競争力だと考えています。
――:ヒット作を生み出すというのは、コンテンツのパワー、リリースのタイミングなど、いろんな要因があると考えられますが、マーケティングデータからの予測では見えない部分もありますし、自分たちが作りたい、という舵取りで作られるゲームもフィットしないこともありますよね。椎野さんには今後どういった部分を狙っていきたいと考えてらっしゃいますか?
これを語るときに気を付けなければいけないのが、今、ソーシャルゲームアプリの延長線上にあるアプリのビジネスと、これから本格的に始まるであろう、オンラインゲームとしてのゲームアプリと、2つ見方があると思うんですよね。たとえば、ミニゲームの中に継続性を持たせて(要素を)膨らませているのが今のカジュアル~ミッドコアアプリだとすると、私たちはどちらかというとPCのオンラインゲームの文脈から引っ張ってきているんですよ。
PCも、コンシューマー系オンラインタイトルもどんどんスマートデバイスの方に集約されていくと、ちゃんとゲームが遊べるデバイスとして、スマートデバイスが認識されていきます。そこに対するしっかりとした骨太のゲームを作っていきましょう、というのがGameBankです。そういったゲームがなくなることはないですし、我々はそもそもコアなMMO…3年からへたをすると10年、ユーザーさんに遊んでいただけるようなものを作っていきましょう、というお話なので、事業としては2年スパンで見ていきますが、ゲームとしては5年~10年というスパンで「オンラインゲームをどうしていくか」を考えなければいけないんですね。
そのために、オンラインゲームのパブリッシング体制ですとか、我々もスタジオを持ちますが、オンラインゲームを作れる人たちをそこで育てて、どんどん卒業させ、開発者やスタジオを増やし、ちゃんとしたオンラインゲームを作れる日本にしていこう、ということを考えています。
そのために、オンラインゲームの制作のルール作りだとか、そういったものを韓国ないし中国やアメリカとか、大規模なコンテンツを制作するノウハウも含めて、我々の中で制作手法のスタンダードなものを作っていって、スタッフに対して共有するような動き出しをしています。なので、今までの2011年あたりからの流れのソーシャルゲームの延長線上のオンラインゲームという文脈からは卒業して、これから来るオンラインゲームのスタート時点としてのゲームアプリという見方をしています。
■骨太な「基本的にはゲームが好きで、制作に携わりたい、という方」を採りたい
――:そうなると、GameBankさんでこれから必要となる人材…多岐にわたる職種を募集されていますが、「こういうものを作りたい」から「こういう人材が欲しい」というイメージはございますか?まず、オンラインゲームのトッププレイヤー…何かしらのランキングに入ったり…フリーミアムゲームでも構わないんですが、オンラインゲームを極めた人でないと、さらにその上を極めるゲームは作れないと思っています。私自身も『Kingdom Conquest』を作る前は、『ブラウザ三国志』でTOP20ぐらいまではいきましたが、その上の1位までの道のりの遠さをすごく痛感したんですね。どんなゲームでもいいです、オンラインゲームでほかの人と一緒に競い合ったり遊んだり、寝食を忘れて没頭した経験のある人でないと…そこで得られた気持ちや思いを、新たなゲームに乗せて提供しようとするビジネスですので、それがないと、いいものは提供できないと思っているので…そういう方を求めています。
これは、プロデューサーもディレクターも、運営もそうですし…実は管理の担当もゲームを好きな人間しか採りません。基本的にはゲームが好きで、制作に携わりたい、という方ですね。
イメージとしては初年度ですぐに80名ぐらいの規模になると考えています。特にスタジオを作っていきますので、質のいい人材を集めていきたいと思っています。
――:「プレイヤーとしてゲームにのめり込んだことがある人」というお話ですが、「遊ぶのは得意だけど、作るのはまた別の話では?」という考えもあるかと思いますが、いかがでしょうか。
極論ですが、遊ぶのが得意な人=「オンラインゲームを極めるほどやり込んだ人」と、ゲームをちゃんと作れる人=「ゲームを遊ばない人」という比較だった場合、前者を採りますね。ゲームをやらない人間は、ゲームが作れても、当社では採りません。
ここで重要なのは、当社では、何もない状況から、ルール…マネタイズも含めて、一からフルオーダーメイドで作っていきます。本当に新しいものをしっかり作れる時代になってきたので、今必要な人材として、最初からものを作れる自信のある人、ゲームが好きで、ゲームのルールを深さも含めて考えられる人が必要で、仲間になっていただきたいと考えています。
――:開発者として、取締役社長として、GameBankという会社はどのあたりが特徴といえるでしょうか?
私はどちらかというと製作者としての意識がすごく強いんですよね…20年近くゲーム制作をやってきているので。
先ほどもお話しましたが、ようやくスマートデバイス向けの本格的なオンラインゲームが作れる時代になってきたと考えています。一から新しくゲームを作りたい、という方が活躍できる場がGameBankにあります。通常、新しいビジネスモデルにチャレンジするのは難しい部分もありますが、私たちも新しいものを恐れることなくチャレンジしていきます。これがまず1つ。
それから、ヤフーのグループ会社であること。ヤフーを活かしたコンテンツ作りというものも、セカンドフェイズである2016年以降、積極的に推進していきます。ヤフーのユーザーの中には、ノンゲームユーザーが多くおりますし、PCを含めるとカバー率は8~9割ぐらいになると言われています。そういった方々に新しいジャンルの遊びを届けることができて、その遊びがひいては、私たちが志向しているコアゲームの方への導線として機能するのであれば、ユーザーのパイはものすごく大きい。ヤフーのトラフィックだけではなくて、ヤフーの中のサービスと連動するコンテンツを作れる可能性も多分にあります。これも他社にはない、製作者としてのチャレンジしがいのある場所といえますね。
我々の事業の計画としては、しっかりしたオンラインゲームを提供していける会社になっていきましょう、ということと、ヤフーのユーザーをゲーマーに変えていく、中間的なコンテンツもしっかり作っていきましょうという…大量のユーザーがいて、そのユーザーがゲームをやっている、という状態「一億総ゲーマー」が私たちのゴールです。
――:社内制度面で特徴的なものはありますか?
私もこの会社においてはいちクリエイターですので、大きな経営判断を伴う決断ではない限り、頭ごなしにトップから「こう変えろ、ああ変えろ」みたいな感じではないですね。むしろ、編成の仕組みの中にディレクターやプロデューサーが同じ横のレイヤーでゲームを評価しあう制度がありまして、フラットな意見として、厳しい意見も含めてお互いの意見を突き合わせる構造になっています。…ゲームのわからない人から言われてもムカつくじゃないですか。
うちでは、プロデューサーやディレクターの自律性にプロジェクトをある程度任せながら、そのタイトルの責任者としてしっかりゲームを作ることのできる環境を整えてあります。その上で、自分のゲームを批判するのはほかのディレクターになります。よりゲームをわかっているディレクターが鋭い指摘をすることで、「なるほどな」とか痛い思いをすることもありますが、その上で改善方法を考えたりすることができますね。
――:プロジェクトの選定等に関しては、何か特徴的なものがありますか?
実態としては、いろんなバリエーションがありますね。ポートフォリオをしっかり組んで、何本かスロットがあって、このジャンルでこういったターゲットのタイトル、ということで一定の方向感を設定して、具体的な内容を提案してもらうという場合もありますし、フラットに「面白そうだ」というものを持ち寄ってもらうこともあります。
よくあるのが、協力会社さんとか、事業を持っておられる方とのお話し合いで、「新しいな」、「面白いな」と思うものに関しては、そこから一気にタイトル化したりコンテンツ化したりすることもあります。
――:柔軟性に富んでいるんですね。
スタジオの場合、プロデューサーがいて、そのプロデューサーが「次何を作るか」を延々と追い続ける、という体制があったりしますよね。たとえばスタジオジブリでいうところの宮崎駿さんと高畑勲さんとか。我々としては、タイトルに注視しながら、協力会社さんとの関係性も鑑みつつ、一番確度の高いものをプロダクト化していく、というプロセスを踏んでいきます。プロデューサーの力量ももちろん必要ですが、どちらかというと、コンテンツの中身の方を重視しますよね。
――:プロジェクトに対しての人員のアサインなども柔軟に対応しているんですね。人物単位で見ているというか。
そうですね。そのプロダクトを一番取り回せそうな人を割り当てるという感じです。「その人が今まで作ってきたタイトルの延長線上に合わせましょう」という感じではないです。もちろん今までの経験を活かしたようなコンテンツというものもありますが、それだけではないです。
――:GameBankさんのこれからに関してもお伺いできますか?
ゴールとしては、パブリッシャーの色が強くなると思いますね。ただ、いわゆるポータル的なパブリッシャーではないです。そもそもヤフーの強みは、そこにいるユーザー数だったりしますし、いわゆるポータル的なビジネスをずっとやってきているので、マインド的にはプラットフォームビジネスには親和性が高いと思っていますし、そこの取回しが非常にうまい会社であると思います。
ただ、家庭用ゲーム機プラットフォームでも、任天堂さんやソニー・コンピュータエンタテインメントさんは、ゲームプラットフォームを出して「はい、よろしく」ということでビジネスが立ち上がる、というわけではなくて、任天堂であれば宮本茂さんたちがそのプラットフォームを最大限に魅力的に見せるコンテンツ群を作ることによってのプラットフォームだったりしますよね。
そういう意味で、我々としてはいろんなコンテンツをお預かりし、リリースしていく部分もありながら、目利きの部分もふくめ、自分たちも面白いと思うコンテンツを作っていける体制をしっかりと用意していきます。イメージとしてはネクソンさんあたりが近いんですかね。コンテンツを作る能力もあり、パブリッシングの体制もあり、それら含めてしっかりとボリュームを出していく。これが現在設定している仮のゴールですね。
――:GameBankさんに興味を持たれている方にメッセージなどあればお願いします。
1つは、「本格的なオンラインゲームを作りたいのであれば、GameBankは本腰を入れて作っていける環境はあります」という部分。そういったことに可能性を感じられる方にはぜひ来ていただきたいですね。
当面は、しっかり数字を作っていけるタイトルを世に出して、「オンラインゲームがちゃんと作れる会社だ」ということを認知していただいて初めて、大きくブーストがかかっていくと思いますので、そこをやり切れる方が欲しいですね。
――:イメージですが、割と骨太な方を求めてらっしゃるように感じます。
そうですね。ゴリゴリで大丈夫です(笑)。むしろ、「人生の大半をゲームに費やしてきました、さあこれから僕の人生どうしましょう?」みたいな方が居心地のいい会社にしていきたいと思います。
――:(笑)。ありがとうございました。
■関連情報
会社情報
- 会社名
- GameBank株式会社
- 設立
- 2015年1月