【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」



最近自分も企画を立ち上げたばかりでまさに企画を詰めている時期なので、今回の記事は自戒の意味も込めて書きたいと思います。

企画が売れるかどうかは「テーマ」「ターゲット」「ゲーム性」「タイミング」などなど、様々な要素が絡まって決まりますが、いかに秀逸なテーマで、それがドンピシャにターゲットに刺さっていようと、そのゲームが運営を意識した構造になっていない限り売れません
 
「そんなことは当然考えている」という声が聞こえてきそうですが、実際世に出ているゲームの多くは十分に考えられていないものが多いです。それは、これまでモバイルのF2Pタイトルで売ってきていた会社やチームであってもそうですし、あるいはそういった成功体験があるからこそ陥りやすい落とし穴なのかもしれません。
 
特に最近は、リリース時は売上ランキングを駆け上がっていくものの、しばらく経つとガクっと落ちてしまうパターンのタイトルをチラホラ目にします。こういったタイトルはまさに運営を十分に意識できていないからであるように見えます。リリース時にランキングを駆け上がれるのはお客様の興味を引いている証なので、それが継続できないというのは非常にもったいない。
 
F2Pモデルのタイトルは運営開始後が本番ですし、上記のようなことにならないように「運営を意識した構造にする」ということは開発初期段階で最も気を使いたいポイントだと思います。
 
あくまで個人的な見解ですが、運営を十分に意識できないのは、そもそも考えてないというのは別として「過去のヒットタイトルのやり方を鵜呑みにしすぎている」「過去の成功体験に縛られている」「商品のクオリティに高くしすぎた(量産がききづらい)」などなど色々考えられますが、元をたどれば見積りが甘い、ということに尽きるかと思います。偉そうなことを言っていますが、実はこれは過去に自分が手掛けたタイトルでまさにあったことでして、その失敗体験があったからこそ痛感していることだったりします。

また、かつてのソシャゲと、現在そして今後のF2Pヒットタイトルとでは気にするポイントがちょっと変わってきているので、その点を特に意識しないと爆死します。

 

■運営を意識する、そのポイントとは


では、そもそも運営を意識するということがどういうことか。私がポイントにしている事をいくつか挙げてみたいと思います。

①商品を追加する物量と頻度
売り物がなければ売り上げは上がりません。適切な物量・頻度で売り物を提供していく必要があるので、その体制を築けるかどうかあらかじめ想定しておく必要があります。

②イベントを追加する物量と頻度
買った商品を楽しむ場がないと買うモチベーションが上がりません。商品を提供するタイミングでそれに合わせたイベントも必要です。

③データの容量
いくら商品やイベントを追加できる体制が整っていたとしても、その都度データは増えていくので、それがあまりにもスマホを圧迫するとなるとアプリを消去するきっかけになります。データの容量増加対策はとても重要。

④ギミックを追加できるゲーム性
商品のバリューをただステータスのインフレで解決するだけでは、これまでに買った商品がゴミとなってしまい継続して買うモチベーションを下げます。また、同じことを繰り返すだけではゲーム自体に飽きがきてしまう。
 
①〜③に関しては、当たり前のことなので当然どんな企画でも考えるところだと思いますが、ここの見積もりが甘く、結果運営開始後に苦労されているケースは多いんじゃないでしょうか? 特に最近のタイトルは見た目もゴージャスにしないと売れないためか、商品クオリティを挙げることを優先して安定的に商品を供給できないタイトルをわりと目にします

私が以前プロデュースして早々に配信停止をせざるを得なかった『オカルトメイデン』というタイトルもこのパターンでした。もちろん配信停止はゲームサイクルや課金の仕組みそのものなど、他の理由も重なったものではありますが、ここが一因となったのは間違いありません。リリース直後のDL数は新規IPとしては非常に多い部類だったのでとても残念で、それだけに深く反省したものでした……。
 
 
 
▲『オカルトメイデン』は、オンライン専用のバトルブロマイドRPG。最大の特徴は、本作の登場人物がハイクオリティーな3Dモデルで作成されており、バトルシーンでは着せ替えた衣装や武器が即時反映されること。2014年6月末サービス終了。


そして④に関しては、①〜③とはまた性質が異なり、まさに先述の「かつてのソシャゲと、現在そして今後のF2Pヒットタイトルとでは気にするポイントがちょっと変わってきている」部分です。その違いを一言でいうと、「動的な商品バリュー」ということかと思います。

そもそもガラケーからスマホになり「フルタッチデバイス」「端末の高スペック化」という点が大きく変化したわけですが、それによりイラストや数値の変化だけでは商品バリューを出しづらくなりました。商品バリューが低ければ、当然お客様はその商品を欲しいと思わず、結果売上が上がらなくなります。なので商品バリューを高めるために各社いろんな工夫をしてきました。ガラケーのソシャゲ時代から含めて商品バリューを上げるために登場した代表的な例を挙げてみます。

・パラメータを高くする
・イラストのクオリティを上げる
・ボイスをつける
・ド派手な演出のスキル
・キャライラストが動く(3Dキャラになって動く、など)
・新ギミックを搭載


例を時系列で並べてみたのですが、最近のものほど動的な仕組みでもってバリューを高めていることがわかります。そして、一番下にある「新ギミックを搭載」こそが運営を意識する際のポイント「④ギミックを追加できるゲーム性」なのです。

「④ギミックを追加できるゲーム性」を一言で説明すると、「ベースとなるゲーム性の上に新しいギミックを追加していき、都度新体験を提供していくという仕組み」…ということなのですが、これだけだとイマイチわかりづらいと思いますので、ヒットしているゲームで例を挙げてみます。
 
■『パズル&ドラゴンズ』

・出現するパズル玉の色を制限することで縛りダンジョンを作る
・パズル玉の色を操作するスキルを作ってコンボ数を高められるようにする

 
■『モンスターストライク』

・バトルフィールドや敵の攻撃ギミックを追加し新しいダンジョンを作る
・新しい操作ギミックを追加しプレイヤースキルが関係する幅を広げる


■(一応)『乖離性ミリオンアーサー』

・TCGをベースにしたルールやスキルの追加により新しいクエストを作る


字面だけみるとどんなタイトルでもありそうに見えますが、単に数値の変化だけでなく、キャラクターの動きの変化があったりプレイスキルに影響がでるといったギミックの変化があることが重要です。例えば『モンスト』で貫通ダメージを与えられる放射状の攻撃やうまいことタイミングを合わせて攻撃するユニットが登場したことがありますが、いちユーザーとして思わず「使ってみたい!」と思いました。ただ数字や絵が変わるだけではこんなモチベーションは得られません。

ゲームには目的があり、その目的を達成するために準備をし、その準備が成果となって現れます。この時、その成果はよりドラマチックに演出された方が準備のし甲斐がありますし、また次も頑張ろうと思える。だから準備(ガチャや強化)のモチベーションを上げるための成果の演出にこそ徹底的にこだわるべきです。「④ギミックを追加できるゲーム性」というのは、同じゲームの中で都度新鮮な成果の演出を作り出すために必要なベースであり、だからこそ今後作るタイトルには必要不可欠だと考えます。
 
そして、「④ギミックを追加できるゲーム性」は途中で変えることがほぼ不可能なので、開発初期段階で詰め切っておく必要があります。新しいゲーム性で挑むぞ! というPJでは特に気をつけた方がいいです(逆に言うと売れてるタイトルの側替えPJの場合はある程度筋道ができている分おかしなことにはなりづらいです。既に飽きられている可能性はありますが)。

 

■ソシャゲとスマホゲームの違いはとんでもなくでかい


あと、前回の安藤の記事(関連記事)で「スマホでゲームを遊ぶお客様は、専用ゲーム機のプレイヤーと比べると、「超・超ライトユーザー」です」「プラットフォームによってサービスや内容を変える」とあったように、専用ゲーム機とスマホゲームとでは根本的にゲームの作り方が違います。そして、それはかつてのソシャゲと最近のスマホゲームの作り方にも同じことが言えます。

極端なことを言ってしまうとソシャゲにはベースとなるゲーム性がほぼなかったのに対して、スマホゲームはベースとなるゲーム性が必要です。もちろん今でも前者の方法でスマホで売れているタイトルもありますが、スマホゲーム黎明期に獲得したユーザーが遊んでくれているなどかなり稀なケースです。だからゲーム会社がかつてソシャゲで苦戦していたのも、ソシャゲで売っていた会社が今スマホゲームでうまくいきづらいのもある意味当然です。作っているものが全く違うからです。

スマホゲームが台頭してきて彼此もう5年ほどが経とうとしていますが、まだまだ安定してヒットを出せる会社は少ないです。そもそもスマホゲームはソシャゲと専用機ゲームのそれぞれの特徴をあわせ持つゲームなので、考えることが倍です。とても開発の難易度が高い上に最近は開発費も高騰化してきたので、いよいよもって大変な時代に突入してきたと言えます。

だからこそ市場にある需要を正しく認識し適切なサービスを提供するという根本の部分ができないと、当然勝てません。個人としても会社としても常にそれを意識して、その上で「できないとこはできない」「自分の強みはどこなのか」を正しく理解し、それを補ったり生かしていくための動きをしていきたいですね。 ではでは今日はこの辺で!

P.S.
最近初めてサバゲーをしたのですが、ハマりました。銃を撃ったりする楽しさもありますが、コスプレ的な楽しさがあることも気づきまして、GW中もひたすら装備品を探す旅にでています。ミリタリというと男子専門の超マニアックな嗜みというイメージが強いかもしれませんが、聞くところによるとサバゲー女子も結構増えているのだとか。既にサバゲーを嗜んでらっしゃる方、これから始めたいという方、一緒にサバゲーやりましょうw
 


■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。


■スクウェア・エニックス

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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)

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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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