本稿では、韓国インターネットデジタルエンタテイメント協会(K-IDEA)の担当者にインタビューを実施し、同国におけるゲーム市場の現状と未来について迫っていく。PCオンラインゲーム大国と呼ばれてきた韓国において、果たしてモバイルゲームはどれほどの市場を占めるのか。
■「PCかモバイルか、いま韓国市場は重要なターニングポイント」
K-IDEA
Executive Secretary
Sung-Kon Kim 氏
今回、K-IDEAの担当者として、Sung-Kon Kim氏に話を伺った。そもそもK-IDEAとは、2015年で11年目を迎える韓国インターネットデジタルエンタテイメント協会のことで、おもに同国におけるゲーム事業の調査及び研究、普及、啓発等、産業の振興を図ることを目的としている。現在K-IDEAには、一般会員として78社が所属しており、日本企業ではグリーやディー・エヌ・エー、ソニー·コンピュータエンタテインメントジャパンが所属。
また、韓国最大のゲームショウ「G-STAR」の主催社でもあり、言わば日本におけるCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)にあたる協会だろう。
このほか、一年に一度開催する「大韓民国ゲーム大賞」の運営にも携わっているという。本ゲーム大賞は、文化保護レベルとなる「大統領賞」など、名誉ある作品を決める重要な祭典となっており、なかでも前回は19年の歴史のなかで、初めてとなるモバイルゲームが大賞に輝いたことでも話題となった(関連記事)。大賞に輝いたモバイルアクションRPG『BLADE for Kakao』は、開発をActionSquare、提供を4:33(4時33分)が担当している。
▲『BLADE for Kakao』。提供会社である4:33(4時33分)は独特の社名ではあるが、その社名には“とくに意味が無い”という。「彼らのアイデンティティだそうです」とSung氏。
▲【韓国ゲーム市場規模】2007年から増加しているが、近年は足踏みの状況。市場規模は約10兆ウォン(日本円:約1兆円)。モバイルゲームだけでは、3兆ウォン間近【韓国ゲーム白書2014より】
今後の韓国ゲーム市場の見通しとして、Sung氏は「当然モバイルゲームの市場規模は拡大します。また、もうひとつの特徴として、中国市場の急成長に伴い、韓国企業に対する中国の投資が活発になっていきます」と説明した。近年、世界的にも中国発のタイトルが次々とランキングにランクインしているほか、ゲームのクオリティも高まってきているという。
▲2013年における韓国ゲーム市場のマーケットシェアは、半分以上がPCオンラインゲームで、23.9%がモバイルゲームにあたる。もともと後者は一桁であったことを考えると、急成長していることが分かる【韓国ゲーム白書2014より】
面白いのは下部の数字である。モバイルゲーム市場の急成長に伴い、主力のPCオンラインゲーム(日本で言うコンシューマゲーム)が今後下火になるのではないか…という心配を他所に、来年以降はPCオンラインゲームが復調することを示した。Sung氏は「必ずしもモバイルゲームの売上が高いとは限りません。やはりPCオンラインゲームの売上のほうがまだ膨大ですし、開発社側もそれに気づき始めています。2015年はPCオンラインゲームの大作がいくつかリリース予定のため、PCかモバイルか、韓国市場にとっては重要なターニングポイントになると思っています」と分析した。
▲【韓国ゲーム白書2014より】
大手ゲーム会社としても、現在PCオンラインゲームに人的リソースを割いているという。大作のPCオンラインゲームを開発するとなると、少なくともスタッフは100人体制、コストは日本円にして約40億円、開発期間は4~5年もかかるもの。現在はモバイルゲームの収益の低さや頭打ちであることが徐々に分かってきたこともあり、長期的な運営ができ、かつ収益が良いPCオンラインゲームの開発に人的リソースも配置されているとのこと。
とはいえ、決してモバイルゲーム市場がシュリンクしてくことは無いようだ。 現在もモバイルゲームを開発する中小企業が1000社以上もあるため、急激に減少することは無いという。
■韓国ユーザーのスマホ普及率や買い替えサイクルは?
韓国のスマートフォンの普及率は、全世界のなかで第2位である(2013年調べ)。普及率は73%で、3人に2人はスマートフォンを持っている計算になるが、当然現在はこれよりも高い数値となっている。
また、韓国はスマートフォンの買い替えサイクルが早いことでも有名とのことだ。日本は、新しいスマートフォンに買い換える期間が約29.2ヵ月、アメリカは約18.2ヵ月。これに対して韓国は、約15ヵ月で新しいスマートフォンに買い換えるという、全世界のなかで最も早いサイクルになっているようだ。ちなみに詳細な内訳として2年~3年未満が39%、1年未満が40%となっている。「新しい機種が発売したら、多くの人が買い換えます」とSung氏が語るように、韓国ユーザーは常に良いデバイスを持っていることになる。
▲ゲームで遊ぶ韓国のユーザー層について(2014年5月調べ)。昔はおもに男性がゲームを遊んでいたが、モバイルゲームの登場により男性が52.7%、女性が47.3%と男女の区分が無くなりつつある。ピンクのグラフは年齢層だが、10代~30代までもあまねくゲームを楽しんでいることが分かる。
▲モバイルゲームを遊んでいる端末は、圧倒的にスマートフォン。北米では、タブレットPCで遊ぶ方も多いが、韓国は日本同様でその数は少ない。フィーチャーフォンはほぼ無いに等しい。なお、すべての数字を足しても100を超えるのは、重複回答ができるようにしているためである。
▲“モバイルゲームをどのようにダウンロードしているのか”について。最も高いのはGoogle Play。次いでカカオトーク、キャリアマーケット、App Store。韓国はAndroidユーザーが多いため、このような順番となっている。
世界的に有名なプラットフォームに次いでキャリア事業社が3位に挙がることは珍しい。じつは韓国では、プリペイドカードなどをキャリア事業社のプラットフォームで決済することで、キャッシュバックしてもらい、ポイントを貯めることができる。また、景品イベントが頻繁に行われるなど、ほかのマーケットに比べて独自的な展開でユーザーにメリットを与えているという。Googleもプリペイドカードの販売を始めたので、競争は今後さらに激しくなる見通し。
▲2009年-2012年のコンテンツの売上額の増減を占めるキャリア事業社。1位がKT。次いでSKテレコム、NTTドコモ、ソフトバンクとなっている。
■“ゲームは悪影響なのか?” それを守るのは政府か親か…
続いては、韓国人が好むモバイルゲームについて。最も好まれているのは「記録を出してランキングを競うゲーム」とのことだ。2位は「ひとりで楽しむゲーム」、3位は「育成シミュレーションゲーム」、4位は「対戦ゲーム」とのことで、いかにコアユーザーであるかが分かる。
有名なゲーム会社についても話してくれた。すでにご存知の方も多いと思うが、現在韓国で最も活躍しているゲーム会社はネットマーブルで、韓国のGoogle Play売上ランキングでTOP10のうち5タイトルがランクインしている状況。また、海外に進出して好成績を上げているのは、ゲームヴィルと『サマナーズウォー』で有名なCom2uSだ。両社は去年合併したため、ひとつの会社としてみてもいいだろう。
海外ゲーム企業が韓国に進出して最も好成績を収めたのは、ご存知『クラッシュ・オブ・クラン』でお馴染みのフィンランドのゲーム会社・supercellである。長らくGoogle Play売上ランキングで1位を維持していた同作だが、じつは海外タイトルが首位を維持し続ける事例はこれまでに無かったという。「昔の韓国ユーザーは、よく韓国産か海外産かと区分していましたが、最近ではゲームに国籍を問わなくなりました。面白いゲームであれば、爆発的な人気が得られるようです」とした。
韓国のゲーム市場と言えば、過去にPCオンラインゲームを遊び続けて死亡事件に繋がり、社会問題になったこともあった。これらの事件を受けて政府は、2011年より16歳未満の青少年は午前0時から6時までの6時間を、オンラインゲームの利用を禁止する「シャットダウン制」という制度を施行。これを違反した場合、その該当するゲーム会社の代表は刑事処罰を受けるといった強力な制度になっている。
「しかし、最近ではこれは無駄な政策だったという声が高まっています」とSung氏。そもそも何故子供がゲームに没入するのかというと、親が子供を管理出来ない状況や教育背景も関係しているとし、一概にゲームそのものが悪いとは言い切れないと分析した。こうした認識が広がり、シャットダウン制は間違った政策として非難が挙がっているという。「パク・クネ政府が発足してからは、これを無くすという声が高まっています」と言葉を添えた。
なお、モバイルゲームには法的な規制は無いが、キャリア事業社側が「親・安心サービスアプリ」を提供して、子供の位置情報やゲームの利用時間などを把握できるような施策をとっているとのこと。やはり管理する権限は政府ではなく、親に渡すべきであるという意見も多数出てきているようだ。