【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」
「自分のやりたい事と、仕事で望まれていることのズレ」
これに対し、どう立ち向かったらいいのか? この手のストレスが年々出てきている。もともと一線級のクリエイターは自分が作りたいものと、お客さんが求めているものは違う事を理解しているものです。時にはエゴを押し殺し、時には上手に折り合いをつけながら制作に臨みます。
稀に自分が作りたいものを作ったら、そのまま売れたということもあります。これは単純に運がいいだけの話で、ほとんどのクリエイターはなんらかのズレと立ち向かっているのが当たり前です。
それでもここ数年、我慢強く立ち向かっている開発者から、隠しきれない何かが滲み出てくるのを感じ、この現象にきちんと立ち向かわないと、マズいんじゃないかと考えるようになりました。自分自身にも心当たりがあります。まずはこのモヤモヤを分解して整頓し、原因を探ってみることしました。すると、まず以下のトピックが見えてきました。
「先行きがある程度見えてきたことに対しての不安や退屈さ」
スマートフォンの台頭は、業界各社の売上構造を根底から変えてしまう強烈なものでした。
■家庭用ゲームと、モバイルゲームと…
■今回の記事
【大手ゲーム決算まとめ】6社中5社が営業増益 バンナム・コナミ・スクエニの好調目立つ スマホゲームが成長のカギ 異色は家庭用ゲーム好調のコーエーテクモ
家庭用ゲームの業績好調が「異色」であると報じられているわけですから、スマホを中心としたネットワークコンテンツの売上が会社の屋台骨たる主力事業になったと言ってよいでしょう。大手の未来は明るいように見えます。今後「二年」だけは、かろうじて大丈夫。一方でこういった記事もあります。
■今回の記事
【決算まとめ】主要モバイルゲーム企業の1-3月…ミクシィが売上高でガンホーとDeNAを抜き首位に 売上高・利益を伸ばす大手 一方で赤字計上企業も7社に増加
完全に明暗が分かれる格好になっています。各社ここまで業績の善し悪しのコントラストが出るのは、いわゆる2010年末から起こったソーシャルゲームバブル以降はじめてのことです。どういうことか? 出せば当たる常勝、右肩上がりの状態が完全に終わったということ。
また、業績が良い会社でも、総合力で売れている会社は少なく、メガヒットタイトルが1本あり、その1タイトルの売上がそのまま会社業績として反映されています。これは、次の1本がでなければ、いずれはピンチということを意味します。複数当たっている会社でもIP化など長く愛される要素を創出しなければ同じことになります。
現在のスマゲ市場は「一発当たるとデカイが、もはや昔ほど当たらなくなった」。
さらに年々開発費は高騰しておりリスクも高まった。また、売れているタイトルはランキングに残り続けるので、上位に食い込むのも困難。こんなキツイ市場になってしまったのに、各社一斉にスマホ向けのゲームをつくりまくっている。いったいこの先どうなってしまうのか……冷静に考えれば不安やとまどいも出てくるでしょうね。
新しいもの好きの私個人としては、いままでのやり方はすでに通用しないし、「市場もすでに終わった」くらいに考えています。何か別の「ブレイクスルー」を見つけなければ、このままこの市場はどんどんスポイルされていくでしょう。
家庭用ゲーム機は新しいハードが出ることで、場のリセットが都度かかるという側面があります。
▲プレイステーション4(20周年アニバーサリー エディション)
技術的にできる事が増えたから、新ハード向けに新しいアイデアを出してみようとなり、クリエイターのモチベーションも上がります。プラットフォーマーはその気になれば、もっと早いタイミングでスペックを上げた新機種をリリースできるはずですが、ハードの寿命をみながら周期を「わざと」コントロールしていますよね。また高額の開発専用機材が必要だったり、参入障壁も高めに設定されています。このことによって市場が緩やかに保たれ、作り手も腰を据えてそこに挑むことできます。
一方スマホは事業主がゲーム屋ではないので、ゲームクリエイターの都合とは関係なくガンガン端末のスペックは上がって行きます。参入障壁も低くオープンプラットフォームのため、スピード感とライバルの数も半端でない。ゴールドラッシュの時代から現在のフェイズへの移行ピードは、家庭用ゲーム市場のそれと比べるとまさに爆速。端末に現在ほど性能を依存しない時代がそのうちやってきますから、ある日気づいたらPS4→PS5程度のスペックへと端末がバージョンアップされている。なんて事が起こるでしょう。
そのくせ家庭用ゲーム機に比べて、スマホは最新の技術に挑める場所では必ずしもありません。
家庭用ゲーム機は新ハードでクリエイターがどこまでやってくれるか? を顧客が楽しみにしているところがあります。一方、スマホゲームの顧客は超超ライトユーザーが大部分を占めますから、新しい端末でのゲームにおける技術革新をそこまで求めていません。端末の進化スピードは家庭用ゲーム機よりも早いのにも関わらず。
よって先端の技術に挑む事にやりがいを感じるトップクリエイターがスマゲ業界で肩透かしを食らう状態が起こりつつある。『メビウスファイナルファンタジー』(公式サイト)のような規模の作品が大きな支持を得ると進展がありますね。
▲スマホ向けRPG『メビウスファイナルファンタジー』
家庭用ゲームもビジネスとしての成功機会は昔より少なくなってきており、暗中模索かつ八方塞がりの状況。これが各人のモヤモヤの原因なのか。
これ……ではない! ではないぞ!
ライバルが大勢おり、制作費のリスクもかかり、面白いのは当たり前、その上で売れるか売れないかは道・天・地・将・法すべて揃ったとしても運次第……みたいな過酷な状況、市場が爛熟してきてからの戦い方など昔からゲームクリエイターは百も承知で覚悟の上。
フラストレーションは「別のところ」に存在する!
私の中にはっきりと「もうひとつの要素」が浮かび上がってきました。ですが、さらに長くなりそうなので、続きは次回に書きますね。今回は、市場のバブルと右肩上がりの状況がハッキリと終わった事はあらためて分かりましたね。これ自体も本当にヤバイことです。何か革新を起こさなければ。
それではまた!
■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)ディビジョンエグゼクティブ兼プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)