作るにも、遊ぶにもカギとなる、ゲームにおけるコミュニケーションの重要性…GameBank椎野氏&ウゴカス佐々木氏対談


 
「人と繋がると、楽しい」…コミュニケーションこそ最大のエンターテインメントである、というコンセプトを掲げて設立されたGameBank。第1弾となるタイトル『オービットサーガ』も、そのコンセプトにのっとった、自らが作り上げた星島(オービット)に互いが進攻&防衛する「対戦プレイ」を搭載しており、プレーヤー同士のコミュニケーションへと足を踏み入れている。

今回、書籍「伝え方が9割」の著者で、各地で講演も行っているウゴカス代表の佐々木圭一氏と、GameBank 代表取締役社長 CEO 椎野真光氏にコミュニケーションについてお話を伺う機会に恵まれた。佐々木氏と椎野氏は、就職活動時に知り合った友人という間柄だ。
 
<佐々木圭一氏プロフィール>
1997年博報堂に入社。もともと伝えることが得意ではなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しんだが、あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。
カンヌ国際クリエイティブアワードでゴールド賞含む、計6つのライオンを獲得。One Show Designで日本人初、ゴールド賞獲得など、入賞受賞合計51以上のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得するなど、輝かしい実績を積み、博報堂を退職後、独立し、2014年1月、株式会社ウゴカスを設立。
「伝え方が9割」、同「2」などの著書を持ち、各地で講演も行っている。
 

■ゲーム制作におけるコミュニケーションの変遷…口伝からドキュメントへ


佐々木氏:まず、お話を始める前に伺いたいのですが、この対談を読むのはどんな人達なんですか?

――:「Social Game Info」は、ゲームが好きな人も多いですが、ゲーム業界で働いている人も多いと思います。

佐々木氏:分かりました。これ結構、大事なことなので。

――:なるほど。それではよろしくお願い致します。

佐々木氏:はい。まずGameBankでのゲーム作りは普通とは違うのですか?

椎野氏:ゲームの作り方は規模によって違ってくるんですよ。ミニマムだと3人ぐらいで作るものから、10人、20人、そして50人を超えた規模で作るものもあります。今は最大級のタイトルだと200人を超えているものもあって…そういうタイトルは作り方がもうまったく違ってきます。

20人まではあれこれと明文化をしなくてもゲームは作れます。「こういう風に作りたい!」、「あぁ、なるほどね」ぐらいのやり取りで作っていけちゃう。ただ、50人を超えたあたりから、そんなやり方だとまるで動かない。各自の作ったパーツが噛み合わなくなるんですよね(笑)。

以前に手がけたタイトルだと50人ぐらいで作っていて。ゲームを構成するパーツをそれぞれが作るんですよ。例えば、経営パートとか育成パートだとか。そして、それを最後にガシャッと合体させる。だから最初の設計図がものすごく重要なんですね。

GameBankでは、ゲーム制作にあたっては、言葉だけでなく「最初にしっかりと書類にまとめる」ということを行なっています。ゲームを制作するプロセスは各社それぞれで、例えばある会社さんだと企画書も書かなければ、仕様書も書かないそうです。

うちは最初に、ディレクターやプランナーなりが、おおよその「ゲームデザインドキュメント(以下、GDD)」という分厚い文書をしっかり作ります。各機能がどういう目的を持って、どれぐらいのボリューム感で作っていくのか。それを全部シートに記します。

それをベースにしながら携わる各々が分解して、自分たちのパートを制作していきます。オンラインゲームやソーシャルゲームは、特にマネタイズのフローやアイテムの個数などをしっかりと把握しておかないといけないのですが、それをしっかりと、ボリューム感も含めてGDDというドキュメントにまとめてもらうんです。

GDDをしっかり作って、そこからブレないようにする。僕は、GDDを見れば売れるゲームかどうかもおおよその見当がつきます。書面の中にゲームを一度作り上げてしまうんです。企画書と仕様書の間のようなドキュメントを作って、それが出来上がってから本開発に入る。海外でも取り入れられている手法ですね。

それがあると、色々メリットがあるんですよ。例えば、途中からプロジェクトに入ったスタッフにも伝えやすい。「GDDがあるから、まずはそれを見てよ」と。それを見れば「あぁ、なるほど」と分かりますよね。

ここまでの話だと、「ドキュメント作成にあまりに時間をかけるのはもったいない」とも思えますよね。それは実際そうで(笑)。GDDは作らないといけないのだけれども、作る時間をどれだけ最小限に留められるかもポイントになります。そのためにフォーマット化や、過去のサンプルのライブラリ化もしっかりやっています。そうすれば書く時間がだいぶ短縮できるんですよ。

「GDD作りに時間をかけちゃダメ…でもしっかりと作って!」という矛盾したことをやってもらってます。


――:それっていざ書く側の人からは嫌がられたりしませんか?

椎野氏:最初は嫌がられますね。でも、一度やってもらうと「これ(GDD)がなかったら作りきれなかった」と言ってもらえます。

GDDに書かれていないものは、ディレクターが想像できていないものなんですよね。そこに抜けがあれば指摘できる。そうすると、開発もだいぶ進んでベータを越えたあたりで「あ、これを入れるのを忘れてた!」みたいなことも起きなくなり、後悔するのを防げます。

それにGDDの蓄積があることで、これからもっと違ってくると思いますよ。結局は蓄積だと思うんですが、GDDを作っていけば、例えばそのスタッフがいなくなっても、その経験や知識が組織にちゃんと貯まっていく。GameBankでは「人を育てないといけない」という思いもあるのですが、今、オンラインゲームを作れる人が日本には圧倒的に少ない。そのために“オンラインゲームを作れる人”を作らないといけない、というぐらいの状態です。

そこで、作る人のノウハウをどう共有していくのか…となりますが、その仕組みもしっかり作っていこうと考えています。それをオープンにしてもいいのではないかと考えてもいます。


――:そこまで考えていらっしゃると。これまでの経験から必要性を感じてこられたのでしょうか? 海外では大学やそれこそ国も巻き込んでゲームを作っていたりもして、技術共有が盛んです。でも、日本では先に丁稚奉公的なシステムから立ち上がってきましたよね。いわゆる「盗んで覚えろ」的なものといいますか。見習いで入って先輩から吸収する一子相伝、門外不出というか。最近は違いますが、他社さんに技術を提供するなんてあり得ない時期がありましたよね。

椎野氏:実はそれって…外に出さないのではなくて、資料を適当に作ってるから恥ずかしくて外に見せられないんだと思いますよ(笑)。

一同:(笑)


――:ある人がいなくなるとゲームが作れなくなったりもしましたよね。シリーズ作がいくつか続いているタイトルでも、突然あるタイミングで停滞したりすることがある。そして少し間を置いて前作からガラッと変わったものが出てくる。それが何かというと、作り方が継承されないままにそれまで作っていた人が辞めてしまったから、実は別の人が1から新しいのを作り直していたりして。そして辞めた人は別の会社で似たようなジャンルのゲームを作っていたり(笑)。

椎野氏:ありますね(笑)。僕らGameBankは他社コンテンツのパブリッシングも行なっていくのですが、「Yahoo! JAPAN の力を使って御社のゲームを売りましょう」ということをやっていくんです。「いろんな会社に良いコンテンツを作ってもらって、それをうちから出しませんか?」というものですね。

そこで、事業計画の作り方や、フォーマット、開発ツール類、仕様書の作り方、実際にリリースされているゲームのGDDなどをオープンに提供していこうと。そうすれば質の良いコンテンツができやすくなってくれるのではないかなと。そういう構想を持っています。

ちょっとGDDのサンプルをご覧頂きましょうか。今、あるゲームのGDDを持ってきてもらいますね。(ほどなくしてGDDが届けられる)…これが僕らがGDDと読んでいるモノなのですが…仕様書ではないんですよ。フローが書かれていて、各画面でこういうことをさせますよ、とか。それらが全部記されています。これを元に仕様書を作っていきます。

 

まずはこれをプランナーやディレクターがしっかり書ききれないと、そのディレクター自身もゲームを作れると判断できないということになるんですよね。まずはGDDを作るのがうちのディレクターの仕事です。

僕はゲームを作るにあたって思うんですけれども、基本的には想像力でゲームを作り始めるとしても、その想像力はスペシャリティな誰かのもの。分かりやすい存在で言うと、業界は別になりますが、宮崎駿さんや細田守さんなどですね。あるスペシャルなクリエイターの想像力に数百人の関係者が共感しながら作業を進めていく。ゲームの質も同じく1人の想像力次第で決まるところがあって、その周りの人は、その人の想像力をさらに最高の状態へと押し上げるためにフォローし続けている。これは100人でも200人規模でも結局はそうで、Pixarなんかも同じなんですよね。

監督が見せたいもの、表現したいもの、イマジネーションを最大限に発揮させるためにみんなががんばっている。僕はゲームでいうとディレクターがそのポジションだと思っていて、まずはディレクターに「お前の見せたいものを一度ちゃんと起こしてみろ」と言うんです。それがGDD。これをしっかり書ききれるディレクターは信頼していますね。

佐々木氏:そういうディレクターは今、何人ぐらいいるんですか?

椎野氏:本当にスペシャリティなディレクターはそんなに数はいないです。製作における上流工程、下流工程を完全に把握できているという意味で言うと、うちでは4、5人じゃないかな。

佐々木氏:椎野さんはその彼らが作るゲームを具体的なところまで今も見るんですか?

椎野氏最初はコンセプトで見ます。その後はどのディレクターに何をやってもらうかを決める。それから後は基本的にディレクターに預けます。

佐々木氏:預けるんだ。でも預けるのって不安ですよね?

椎野氏:また宮崎駿さんで例えますが、どんなテーマでも宮崎駿さんに預ければ一定のエンターテインメントになるっていう保証がありますよね? 最初のコンセプトのところだけキレイに与えられれば、最高の仕事をしてくれると信頼できる人。それはうちも同じで、預けてしまって大丈夫。

GameBank第1弾アプリの『オービットサーガ』も実際そうなんです。最初のアサインとコンセプトを設定してからは、僕はあまり口出ししていないんです。というのも、プロデューサー兼ディレクターの河井(大輔氏)は「あまり椎野さんは口を出してくれるな」という人なんですよ(笑)。

▲GameBank初のタイトルとなった『オービットサーガ』。
 
――:そうなんですか、ちょっと意外ですね。河井さんもゲーム会社の経歴がいろいろとあって、今はGameBankにいらっしゃる方ですよね。

佐々木氏:そういうこともあるんですか。ゲーム業界の中で会社を変わったり動いたり…というのは結構あるものなのですか?

椎野氏:本当に超優秀な人はあまり動かないですよ。ただ、自分がアウトプットしたものがあまり認められなかったり、会社の方針が急に変わったり…そういう人は横に動いたりということがあります。

ただ、最近は違った動きもあって。今ゲームのパラダイムシフトが起きていて、コンシューマーゲームからソーシャルゲーム、ソーシャルからスマートフォンゲームといった変化が起きているので、ゲーム会社からソーシャル系に行って、さらにどこか違う方へ行ったり。経由して違うところに、という動きも起きている。

佐々木氏:うーん、なるほど。でも椎野さんの前の会社からYahoo! JAPAN へというのは、「全然違う(会社)じゃない」って素人目には思えるんですよね。ゲームに関連する事業というのは共通しているけど。

椎野氏:そうですね…僕としては、限られたユーザーに対して最良のコンテンツを提供するというのは、もうやりきったなという感覚があって。僕はフリーミアムなオンラインゲームやソーシャルゲームをやりたくて、スマートフォンのアプリでやれるな、こっちの方がむしろいいなと思えたところで、お役ご免を頂いて。そして「今度は日本をソーシャルしたい」となって。壮大な感じで(笑)。

佐々木氏:会社を辞めるのって、その人がいなくなったらゲームが作れないという状況もあったでしょうし、引き留められなかったですか?

椎野氏:「こういうことをやりたいんです」と話してね。それでもいろいろとハレーションは起きましたけど(笑)。Yahoo! JAPAN のパワーでゲームを出していくとなれば、業界的には(以前の会社と)競合するところもあるので、まぁいろいろ思われるかもしれないですね(笑)。

佐々木氏:でもそれこそね、そうならないと。「椎野の野郎!」って言われるぐらいに(笑)。…椎野さんもクリエイター時代が長かったわけですよね。そうすると、やっぱり任せているタイトルにも口を出したい時は出てくるんじゃないですか? 任せつつも…とはいえ、ここは…というような。

椎野氏:それは…その事柄のクリティカル度合いによって、アドバイスするかしないかの温度感が変わってきますね。

佐々木氏:言わないといけない、というときには言う?

椎野氏:一番重要なのは、僕らがリリースするために必要なクオリティラインに届いていない時で、それは指示を出します。届いているんだけどベクトルが違うよねという時は、アドバイスを出します。商品のレベルまで届いているかどうかが判断材料かな。ほかはもう好みだったりしますからね。

ゲーム制作者って自分の得意な「型」があるんですよ。佐々木さんが言葉を考えるときのレシピのようなもので。僕で言うとユーザーに長く遊んでもらうために、ゲーム中でユーザー同士の対立構造を煽って、また別の勢力に参加して遊んでみたくなるようなゲームにしたりとか。それが僕の得意な型なんですよね。

それは『キングダムコンクエスト』などで使っている型なんだけど、その型は実は『サカつくオンライン』でも使っている型だったり、翻って見ると『サカつくモバイル』で試した型だったりもする。相撲で言うと「突き押しが得意」とか、「がっぷり四つに組むと盤石」とか。ああいった型が制作者それぞれにあるので、自分の型をほかに押しつけることはしないです。

佐々木氏:なるほど、得意な型があって、それで勝負しているときには、なるべく何も言わないようにしているわけですね。

 

■MMORPGにハマッた世代…ゲームで起こるコミュニケーションの変化


佐々木氏:椎野さんのような若い人が社長になるというのは、ゲーム業界では多いのですか?

椎野氏:ソーシャルゲーム系はもっと若い人も多いですよ。老舗のレガシーな会社の社長はもっと上の世代だと思いますけど。

佐々木氏:椎野さんと以前の会社で同期だった人は、今どんなことをされているのでしょう?

椎野氏:同期! うーん、セガ・インタラクティブのクリエイティブオフィサーで、『三国志大戦』などを手掛けた西山(泰弘)さんとかが同期で一番目立っていたかな。あと、今はディー・エヌ・エー(DeNA)にいる馬場(保仁)さん。

ゲームの中でもソーシャルゲーム系、ゲームアプリ系では僕らの世代がスーパーボリュームゾーンです。僕らより上の人はあまりいないかな。


――:今社長をやられている人が多いピーク世代ですよね。

椎野氏:僕らの世代はスーパーファミコンから新しい時代になって、産業としてゲームが一気に世界に広がっていった頃なんですよね。当時は就職人気ランキング2位がセガだったんですよ。名のある大学から良い人材がワーッと集まってきて。ものすごく活きの良い人が多かった。

佐々木氏:僕の幼少期にファミコンが発売されて。僕は一番初期のファミコンを持っていたんですよ。ボタンが四角いゴムで押すと戻ってこない(笑)。この世代が日本でTVゲームを初めから体験して、スーパーファミコン、プレイステーション、セガサターンなどなど、それら全部を見てきた世代なんでしょうね。

椎野氏:僕が入社した当時は、その流れにPCオンラインゲームが現われて直撃するんですよ。『DIABLO』、『Age of Empire』、『Ultima Online』、『EverQuest』。MMORPGを輸入して遊んでいた時代。そこから日本にもオンラインゲームの波がきて。それが2000年頃かな。当時は「テレホーダイ」の時代ですもんね。


――:そうですね、テレホーダイは夜の23時から翌朝8時までネットの通信料を定額で使えたNTTのサービスです。他の時間に使うと従量課金になってしまう。そういう時代なので、23時からみんなオンラインゲームに集合していましたね。

佐々木氏:そんなことが…面白いですね。

椎野氏:23時から4時~5時ぐらいまでゲームを遊ぶと次の朝に会社いけないから、みんな午後出社になってね(笑)。

佐々木氏:それは当時のゲーム業界の人はだいたいそうだったんですか?

椎野氏:当時はものすごく多くて。その後も遊んでいるタイトルとか時期は違えど、MMORPGにハマった経験のある人はだいたい同じような経験をしていますね。


――:それまでは会社で徹夜ばっかりしていた人達が、突然、家に帰るようになった時期ですね。「家が腐っちゃうから帰る!」とか言い出したり、「ちょっと呼ばれてるから帰るわ」って同僚に言うんだけど、それは家族とかではなく、オンラインゲームの中の話だったり(笑)。

椎野氏:ありましたよね(笑)。

佐々木氏:それ、その人がゲームに来なかった場合はどうなっちゃうんですか?

椎野氏:いないと困るんですよね。「ヒーラーが来ないとどうにもならないじゃん!」って怒られる(笑)。なので、みんな23時にちゃんと集合して、今日は何をするかIRC(Internet Relay Chat:インターネット・リレー・チャット)で相談してね。

佐々木氏:言うことを聞かない人とかも出てくるんじゃないですか? 「俺はそれやりたくない」とか。


――:なので一緒に遊びやすいっていうメンバーが自然と固まっていきます。「こいつはできる」、「こいつは頭が良い」とかも見えてきて、できる人同士はできる人同士でくっついていくんです。

佐々木氏:そうやっていくと最強軍団が生まれていく?

――:そうですね。できる人の集まりは進行度も速いですし。それぞれのテンポや考え方が近い人が自然と集まっていきます。その中でも置いてかれる人も出てきたり、新しい人がまた加わったり。

佐々木氏:その中には様々な職種の人がいて、年齢もバラバラだったり?

椎野氏:そうそう。実際にあったのが『ファイナルファンタジーXI』だったかな? 大きなリンクシェル(プレイヤー同士の集まり、グループ)をとりまとめている人がいて。「この人すごいね、指示も的確だし、コミュニケーションの頻度や人柄も優れてる」って人が。実はその人は、某ソーシャルゲーム会社の取締役の方だったり。やっぱりリアルで仕事できる人はゲームの中でもすごいんですよ。

佐々木氏:では、GameBankでもゲームが上手い人は仕事ができるっていうことはあるんですか?

椎野氏:ゲームが上手いからって仕事が必ずできるかというと…それは明言を避けるけど(笑)。仕事ができる人は、ゲーム内でもコミュニケーション系の仕切りをやらせると上手いんですよね。

佐々木氏:それは作っているコンテンツにも影響していくものですか? 例えば、周りをうまく乗せて仕事を速く進めたり。

椎野氏:そうですね…僕がハマっていた『ブラウザ三国志』で言うと、下手な同盟は「あそこに攻めるぞ! バーンッ!」って勝った負けたってやってるんだけど。上手い同盟はちゃんと東西南北に戦線や担当をわけて。何かあった時にはちゃんと報告するようにってやるんですよ(笑)。それが、すごく強い。指揮命令系統をちゃんと整備して、まるで本当の戦争。

そこがすごく強かったのは、現場にすごく裁量を与えていたんですよ。現場に裁量を与えて、各々がベストな行動を取りなさいと。それを中央集権的にコントロールするのがものすごく上手い人がいて、その人は実際にお会いしたら農家の人で、だから段取りがうまいのか、と(笑)。

佐々木氏:なるほど…基本的には、オンライン内に長くいる人の方がもてはやされるんですか?

椎野氏:長くいるというよりは、戦争ゲームにおいては的確さとか、あとは信用度かな。でも、ログイン時間が流動的な人は信用されないんですよね。必ず決まった時間にいて、来たら必ず役割をこなしてくれる。そういう人は信頼感が高い。仕事も同じでしょ?

佐々木氏:仕事とゲームすることは、もしかして似ているんですか? ゲームの中で仕事をしているように聞こえて……。


――:近いものを感じることはありますね。ゲーム内にもこの役割とこの役割はこうして欲しいというのがあって、その人に出して欲しい結果もあって。それに対して信頼の置ける人がいれば戦力の計算がしやすいですよね。

椎野氏:それをゲーム内で的確に指示出しできる人が重要で。

日本人のコミュニケーションの話をすると、「阿吽の呼吸が重要」という話が先ほどもありましたよね。僕は大学時代に社会学をかじって「阿吽の呼吸」を調べたことがあるんですが、あれは江戸時代に関所ができて、移動の自由が制限された時に「ムラ社会」ができた。で、その村でトラブルを起こすと、いわゆる「村八分」の状態になって生活ができなくなる。なのでトラブルを起こさないようにするため、他人が嫌がることをしない、そもそも言わないようになった。

逆に西洋の人は、いろんな人種が外からどんどん入ってくるから、利害関係の整理をするための「調停」や「係争」が整備された。日本はそうではなく、生まれた場所に死ぬまでいなければならなくて、その村の流儀に従わなければいけなかった。明治時代に廃藩置県が行なわれて移動が自由になったけど、村社会的な流れは会社の「年功序列」や「終身雇用」に反映されてしまったんだよね。

そうして、基本的には何も言わないんだけど、言われなくてもやるとか。何も言われないんだけどそこには一定のルールがあって、それにのっとってないと「あいつは何だ」と言われる社会ができた。ただ、ゲームの世界は全然知らない人同士が集まっているから…。

佐々木氏:西洋的なんだ!

椎野氏:そうそう、すごく西洋的。ちゃんとコミュニケーションを取れる人が偉い。「こうしましょう」とちゃんと言える人がHubにいるかいないかで、その勢力の強さが大きく変わってくる。日本人としてはコミュニケーションをしながら戦争をするといったことはあまり得意ではないかもしれないけれど、それを上手くやってくれる人がいると、ゲームは俄然面白くなっていく。

佐々木氏:ゲームの中でもコミュニケーションが本当に大切な時代なんですね。

椎野氏:そうですね。オンラインゲーム中ではその人の身振り手振り、様子が分からないだけに、言葉だけのコミュニケーションになる。

日本人はゲームでパーティーを組んだ時に必ず挨拶をするんですよね。入った時に「よろしくお願いします」と、最後にも「お疲れ様でした」というようなことを必ず言う。欧米の人は入った時に「Hi」ぐらいは言う人もいるけど、終わったらパーッといなくなっていく。この辺は国民性だなーと。


――:海外の人は自由集合、自由解散ですね。気づいたらいるし、気づいたらいなくなってるイメージですね。

椎野氏:もう1つ、日本人と欧米人の違いとして、海外の人はコミュニティ中のルールに縛られるのがあまり好きじゃないし、実はコミュニティそのものもそんなに作りたがらないんですよね。「なんでそんなルールに従わなきゃいけないの? 俺は好きなようにやるよ」というように、勝手にPvPのコンテンツを遊んだりする。…盆踊りとダンスの違いみたいなものがあって。日本人って盆踊りが好きでしょ?

佐々木氏:みんなで一緒にやりましょうっていう。

椎野氏:みんなと同じ均一的な動きをして、そのコミュニティに溶け込んで均質化する状態に心地良さを感じる傾向があります。欧米の人は自由にやらせてくれ、同盟戦とか面倒くさいわ、という意見が結構あります。

なので、コミュニティの作り方やゲームのデザインというのは、日本人向けと外国向けで全然別物になります。僕らが海外からゲームを受け入れる際には、日本人向けのコミュニケーションデザインの特性をベースに、「周囲に迷惑をかけないように努力する」という要素を入れることが多いです。

一方、日本で作ったものを海外に持っていく時には、もっと自由度を高めたり。あと「英雄性を高める」という言い方をするんですけど、高額の課金でとてつもなくすごいアイテムなり存在になれちゃうものを用意するということもやっていい。そいつがいるといないとでは全然違ってきちゃう、三国志の呂布ような存在になれるもの。でも、日本向けではあまりそういうものを作らないです。

ゲームデザインする際には国民性や地域性を考えるんだけど、国民性ってそもそもそれまでの歴史ですよね。ゲームも歴史があるし、社会性も関わってる。その土壌により適したデザインをしないと、ゲームが受け入れてもらえないんですよね。

佐々木氏:なるほど。GameBankでは今は日本人が楽しめるゲームを作っているんですよね。

椎野氏:そうですね。ちなみに韓国や中国はオンラインゲームを作るのに長けていて、日本はコンシューマーの文化があって1人で遊ぶのに長けていて、1本道にストーリーを追う映画のようなゲームに長けている。もともとそういうゲームに青春を捧げてきた人が開発者になっているというのも理由だと思うんですけど。でも、最近はずいぶん変わってきているかな。


――:変わってきているとは思いますが、根底にあるものは1人遊びがまだ主流かなと感じますね。ゲームセンターでも、日本では初対面の人と一緒に遊ぶというのはなかなかあり得ないですが、海外だと「俺も一緒にやるぜ!」といきなり知らない人が入ってくるなんてこともある。たまたま居合わせたから一緒に遊ぼうとなる。それこそ自由集合と自由解散ですよね。

佐々木氏:一方で日本人は「よし行くぜ!」と言ってから「せーの!」で始めるのが好き。

椎野氏:で、終わるときも予定調和でちゃんと終わる。負けてもちゃんと挨拶はすると(笑)。

 

■コミュニケーションとは結局「相手が何を考えているのか」に尽きる


――:コミュニケーションのシチュエーションとして、オンラインで全く知らない人と話をすることと、リアルで会って話をするのとは違うと思うのですが、佐々木さんとしては、その違いに何か感じるものはありますか?

佐々木氏:コミュニケーションって、リアルもそうだし、オンラインでもそうだとは思うのですが、結局は「相手が何を考えているのか」に尽きると思うんです。自分の言いたい事をそのまま言えば、相手はそのまま受け取ってくれるかというと…そんなことはないんですよね。

この対談の初めに「読む人はどんな人ですか?」とお聞きしたのは、実はそこなんです。僕は「その人達は何を求めているか」を考えてコミュニケーションするんです。


――:なるほど。

佐々木氏:それと同じように、リアルでも相手が何を求めているか、オンラインでは相手が見えないけど、主婦かもしれないし、小学生かもしれないけれど、「この人は何を考えているのかを聞く」ところから始めるんですよ。黙っていたら分からないから。

オンライン上ではテキストでやり取りをしていると思いますが、テキストの会話はリアルなコミュニケーションの練習になるんです。

テキストだと1度打ち込んでから考えてEnterキーを押せるじゃないですか。リアルでは喋ったままに伝わってしまって、これは言わない方が良かった…とか、そういう意図ではなかったのですが…とかが起こる。テキストなら「相手が何を考えるかな?」、「誤解されるかな?」というのを一呼吸置いて、伝える前に変えることもできる。そのトレーニングになると思います。

協力して仲間と冒険するというのも良い練習になると思えます。自分が伝えたとおりに相手が動いてくれるかといえば、もちろん必ずしもそうはならない。それを一度体験すると、相手を想像した上で伝えるのが大事ということを実感できますよね。


――:確かに…。

佐々木氏:僕は「北風と太陽」の話をよくするのですが、これは「北風と太陽がどっちが強いかという勝負をして、村人の来ているコートを脱がそうとする話」ですが、北風は強い風を吹いて脱がそうとするものの、吹けば吹くほどコートが飛ばされないようにしっかり握りしめてしまう。それに対して、太陽がポカポカ陽気で照らしたら、村人は自分からコートを脱いだ。

この話のように、「相手がやりたくなるように伝えてあげる」のがポイントですよね。リアルライフで言えば、「この机を運んで」といっても「なんで俺が運ばないといけないの?」となるけれど、そこで「一緒に運んでください」と言えば、「じゃあ運ぼうかな」という気分になれる。“チームワーク感を入れる”という伝え方の技術です。ちょっと入れてあげるだけでいいんです。

感謝を先に入れるのもポイントであり基本ですね。「水を50リットル持ってきて下さい」って言われても重いですし、嫌ですよね。でも、「水を50リットル持ってきて下さい。ありがとうございます! 」と言われると、嫌だけど持ってこようかな…という気持ちになる。

「ありがとう」という言葉は、普通は要求に応えてくれた後に言うものですが、お願いと一緒に「ありがとう」も言うと、相手は「やろうかな」と思っちゃうんですよね。伝え方のレシピで言う「感謝」というものです。それなら、ただストレートにお願いした時よりもお願いを聞いてくれる確率があがります。100%ではないですけど、経験則的には20~30%上がりますね。

椎野氏:オンラインゲーム上でもそれは通じるのではないかなと思います。


――:それは確かに感じたことがあります。私も要望の言葉の最後に「すまない」と一言入れるだけで、話を聞いてもらえたな、という体験がありました。特に一度失敗したりして、言い合いが起きていて熱くなっている時とかに有効ですよね。会社の中で起きることやコミュニティの中で起きることは、ゲームの中でも起きるなと思えますね。

佐々木氏:ゲーム中ではより赤裸々になりますよね、きっと。会社だとケンカしてしまうと利害関係に影響がありますが、ゲームなら辞めてしまえばいいとか、他に移ることもできますから。それだけにより生に近くて、コミュニケーションの技術が重要かもしれない。

――:そうですね。そろそろお時間となったようです。本日は貴重なお話をお伺いできまして、勉強になりました。ありがとうございました。


ゲームプレイにおいても、オンラインでの「コミュニケーション」はこれからより一層重要な要素となってくることは間違いない。そしてもちろん、ゲーム制作にあたっても「コミュニケーション」は必要、重要視されてきている。今後も、「コミュニケーション力」はゲーム業界にとっても重要なカギを握ることになるだろうか。

 
(聞き手:編集部 佐伯憲司 テキスト/Photo:山村智美)

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会社情報

会社名
GameBank株式会社
設立
2015年1月
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