【セミナー】「『SAO』のアスナは"売れる"キャラ」…コヤマシゲト氏とグッスマ代表の安藝氏が語る“キャラクター作りのポイント”とは


去る2015年9月25日(金)、第2回「Game Creative Exchange」(主催:Game Creative Exchange実行委員会)が、国立新美術館3F講堂(東京都港区六本木)にて開催された。

「Game Creative Exchange」は、ソーシャルゲームの登場とともに飛躍的に拡大したゲームイラスト業界の最先端の情報共有と課題解決、世界で活躍できる次世代の育成の場を創出するため、六本木から全国へクリエイティブな刺激を発信するイベント。

2014年11月7日に開催された記念すべき第1回目は、『ファイナルファンタジー』シリーズなどで知られるアーティスト天野喜孝氏と、その造形力で世界的に高い評価を受けているフィギュアメーカー海洋堂代表取締役社長の宮脇修一氏がゲストとして登壇した。そして、第2回目のゲストには、多数のアニメ作品にかかわるデザイナーのコヤマシゲト氏と、株式会社グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範氏が登壇。
 
コヤマ氏は、自身のキャラクターデザインの経験をベースに、IP化されるアニメキャラクターデザインや、2次創作意欲を高めて熱狂的な人気を誇るキャラクターを生み出す工夫について、安藝氏はフィギュア制作におけるアートディレクションの観点を主軸としながら、「作品」をトータルでグランドデザインすることについてなど、お互い対談を通して掘り下げていった。

 

■著名クリエイターが語るキャラクターデザインの過去・現在・未来



▲左から安藝貴範氏、コヤマシゲト氏

今回も著名クリエイター2名が登壇した「Game Creative Exchange」。はじめに安藝(あき)氏が進行役となり、自身のこと、そしてコヤマ氏のことも交えて自己紹介してくれた。

コヤマ氏と言えば、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」「ガンダムGのレコンギスタ」のデザインワークス、「ベイマックス」(原題「BIG HERO 6」)のコンセプトデザインをはじめ、多数のアニメ作品に関わるデザイナー。「最近はアートディレクターが多くなってきた」と語るコヤマ氏は、おもに作品の企画段階から携わり、キャラクターや世界観など様々なコンセプトデザインを手掛けているという。

また、世界中で大ヒットを記録したディズニー映画「ベイマックス」に関わるきっかけについても言及。同作の監督が来日し、コヤマ氏と一緒に食事をしたとき、その際たまたま監督が日本で様々なオモチャを購入していて、そのなかにコヤマ氏がデザインしたロボットがあったという。自身が手掛けたことを監督に告げると、後に「ベイマックス」のスタッフに起用されたようだ。なかなか特殊なケースではあるが、第一線で活躍してきたコヤマ氏だからこそ実現したエピソードである。

一方、安藝貴範氏は、「figma」シリーズや「ねんどろいど」などのフィギュアの企画・制作・販売のほかアニメ製作会社を運営するなど、国内外の様々なクリエイターと共にファンに驚きを提供し続けている株式会社グッドスマイルカンパニー(通称:グッスマ)の代表取締役社長。「発売延期などすると、お客様からは“カッスマ”と呼ばれます」と自虐ネタを披露するも、設立から15年を数え、世界中に多くのファンを持つフィギュアの文化を根付かせた企業の代表である。

話題は自己紹介の流れから、昨今のフィギュア事業の話に。数多くの作品を世に送り出してきたフィギュア界のヒットメーカーであるグッスマでは、一体どのような作品がおもに人気なのか。安藝氏によると、オンラインゲーム(PC・モバイル問わず)のキャラクターのフィギュア化が人気で、なかでも『艦隊これくしょん -艦これ-』と『刀剣乱舞 -ONLINE-』の2タイトルは絶大な人気を誇るようだ。
 
 
たとえば『刀剣乱舞 -ONLINE-』の三日月宗近のフィギュア(価格:3,889円+税)は、全世界で7万個以上を受注する大ヒットを記録した。「フィギュア界隈のなかでは、これはかなりの数。『艦これ』のキャラクターも同様に素晴らしい需要があります」と安藝氏。

そもそもおふたりの出会いは、グッドスマイルカンパニーが主催を務めるグッドスマイルレーシングの2014年の準備段階だった。同社は毎年、初音ミクを起用したいわゆる“痛車”で日本最高峰のレースなどに参戦しているのだが、そのレースクイーン姿の初音ミク"レーシングミク"のアートディレクションをコヤマ氏に依頼したという。安藝氏は、「改めてコヤマさんとお話すると、どういうふうにキャラクターを設計していくのかが勉強になる」とコメント。
 
ここからは、具体例を出しながらキャラクター作りのポイントについて両者で語ってくれた。

 

■どのようにして魅力的なキャラクターは生まれるのか

  
「綾波レイの髪型って変わっているじゃないですか?」と来場者に問いかける安藝氏とコヤマ氏。

綾波レイは、言わずと知れたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するヒロインのひとり。色白で青髪と赤い瞳が特徴で、その透き通るような存在感は多くのファンを生み出した。今回指摘した髪型とは、青髪ショートカットの“分け目”部分である。

本来アニメーションにおいてキャラクターを作るときは、当然“動かしたときにどうキャラクター性を伝えられるか”ということを重視するものだが、「そもそも映像を観てもらえないといけないため、観る前に初見で伝わるビジュアルのインパクトが必要」とコヤマ氏は語った。そのインパクトのひとつというのが、見た目だけでどのようなキャラクターなのか一発で伝わること
 

コヤマ氏は「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクターデザインを務めた貞本義行氏に師事していた経歴を持っており、綾波レイの髪型の特徴について「彼女はシャギヘアーで前髪が大きく分けて左右中央と3つの盛りが存在しますが、これは作画のしやすさにも影響していると思います」と説明。

というのも、アニメの場合は、髪の毛のレイヤーの下に目や眉毛がある。と同時に、キャラクターが動くため、前かがみになったときにはどうしても前髪で目と眉は隠れてしまい、表情がわかりづらくなる。綾波レイの髪型は、そういう演出的困難を回避できるように考えつつ、可愛さを表現した、制作サイドの事情も考慮されたデザインであったという。

またコヤマ氏は、髪の毛が顔の内側に向かってハネているのは、内向的なキャラクターであることを示すためと言い「髪型などのデザインでキャラごとに性格付けをしているのがすごいんです。レイとは対照的に、外向的なアスカ(もうひとりのヒロイン、惣流・アスカ・ラングレー)は、外側に髪の毛がハネている」と、デザインを通してキャラクターがどのような性格なのかが伝わるように、考えながらデザインしていることを解説してくれた。また、アスカが髪の毛を縛っているのは、女の子らしさの裏側に自分の性格を束縛しているという、二重の意味合いが込められているとのこと。

「良いキャラクターのデザインは、ある種、記号化されていて似させやすいのが特徴」と安藝氏。IP自体の人気の後押しもあるが、“似させやすい”ことによる二次創作やコスプレなど、キャラクター人気の多角的な拡がりにも寄与しているようだ。「僕のなかで“誰でも描ける”というのはデザインの根本にある大切な部分」とコヤマ氏は言葉を添えた。
 
 

■『SAO』アスナの髪色は“ミルクティー”のような淡い色…

 
「みなさんはアフォーダンスって知っていますか?」、コヤマ氏が問いかける。
 
「たとえば、お茶のペットボトルが緑色のように、文字を読まなくても無条件で手を伸ばせる」「引き戸の取っ手の形はその引く方向を観ただけでわかるように」と、アフォーダンスは物体の持つ属性が意識的にユーザーに対してメッセージを発している理論のことを指す。当たり前のことかもしれないが、こうした理論をキャラクターにも意識して配置することが大切だという。

ただ、構造的なところを考えている一方で、ときどき特殊な人気が出てくるキャラクターも生まれてくるもの。ここで、人気の出る最近のキャラクター像について話題がシフトした。
 
「『ソードアート・オンライン』のアスナ(同作のヒロイン)は見た瞬間に売れると思いました」。過去、コヤマ氏とイラストレーターのhuke氏が一緒に喋っているときに発言したひと場面。
 



安藝氏が「アスナのどのへんがいいですか?」と訪ねると、「もちろんキャラクター本来のデザインも魅力ですが、やはり色と髪ですね」と答えたコヤマ氏。サラサラで長い髪や結っているところなど、日本の男子が好む要素が入っているほか、髪の色もミルクティーのような淡い色でインパクトがあると分析した。

話題は再びフィギュアとオンラインゲーム(PC・モバイル問わず)の関係性について。冒頭でも話したように、オンラインゲームのフィギュア化は、『艦これ』と『刀剣乱舞』の2タイトルが圧倒的な売上を誇り、そのほかのタイトルはまずまずの成果だという。

「なぜだろう」と疑問を抱く安藝氏にコヤマ氏は、「キャラクターと作品の関係性に感情移入ができるロマンチシズムが入ってるかどうかが大きいと思います。その点で言うと、両作にはその要素が多く共通していると思います」と解説した。

また、昨今オンラインゲームメーカーからのフィギュア化に関する問い合わせが、よく窓口に届くと安藝氏は言う。「新作ゲームを配信したので、ねんどろいど化の見積もりください」など、各メーカーともキャラクターのマーチャンダイジングに積極的になっているようだ。

ただ、ゲームの売上と比べてマーチャンダイジングの売上は微々たるものではないか、という疑問も同時に出てくるものだが、安藝氏いわく「ファン層の拡大や既存ユーザーを繋ぎとめるひとつの施策」であることを説明してくれた。

一方でアニメの場合は、放送やパッケージ単体では儲けもそこそこのため、マーチャンダイジングを通して利益を得ることが重要になってくるという。

 

■ゲームのキャラクターデザインに関する印象は

 
次にコヤマ氏は、ゲームのデザインについて「客観的に見てもクオリティが高い。ただ、絵の質が高いだけに情報量が多いのは描く側にとっても観る側にとっても重荷になっているのでは」とバランスを指摘。

たしかにソーシャルゲーム全盛期の際は、美麗カードゲームが流行したものだが、コヤマ氏いわく「色数やディティールが多いと現場的な問題が発生する。一枚絵としては耐久度が高く長時間見られるが、広告的な意味合いでは一瞬でインパクトが伝わりづらくなる」とイラストのクオリティの高さを大前提としつつも、その用途の向き不向きを語ってくれた。

プロから見れば細かい要素も伝わるが、一般のユーザー目線ではシンプルに設計されているイラストは、それはそれで価値のあるものなのかもしれない。「シンプルなキャラクターだからこそ、二次創作に繋がる。タイトルの特性にも寄るが、解像度が高すぎると想像の余地がなくなり、お客さん側が受け止めきれないこともある」と続けた。
 

ここからは、来場者からの質問コーナーに移った。上記に対しての質問として、「モバイルゲームは描き込みなどでレアリティを表現しないといけないため、結果的に情報量が多いイラストになってしまう。情報量を増やす以外に、どこで差を付けたらいいか」というアドバイスを求める内容が挙がった。

これにコヤマ氏は一概には言えないことを前置きしつつ、「線情報と色情報のバランスを取ること」を指摘。たとえば、しっかり描き込まれた線の上に、たっぷりの様々な色が乗ることで、結果的に情報量が多くなってしまうため、「ゲームのキャラクターはとにかく色が多すぎる印象を持っている」と言葉を添えた。

昨今のアニメ制作でも期間と予算の問題もあり、描かれたシーンの上から光や影などの効果を施した、いわゆる撮影処理が行われている。細かいところまで調整されるため、やはりアニメのシーンでも情報量が上がってしまうようだ。

実際にコヤマ氏はアニメ「キルラキル」のときは、あらかじめ撮影処理が入ることを見越したうえで設計していったという。対して、アニメ「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」では撮影処理が行われないため、絵のクオリティや色彩にいたるまで徹底してこだわったとのこと。「アニメーション作品ではキャラクター単体で5色ぐらい使ったキャラクターでも、撮影処理をかけるだけで何百色になってしまうから」として、はじめから情報量を制御したようだ。

とはいえ、やはりレアリティが高いものであれば、豪華なイラストで眺めたいものだし、何より描いたイラストレーターはユーザーに少しでも喜んでもらえるように、良かれと思って描き込んでいるもの。コヤマ氏のアドバイスとして、「イラストが完成したら一晩寝かして、何かを捨てる冷静さを持つのが大事」と語ってくれた。

 

■大ヒット「ねんどろいど」の製作過程・秘話


続いての質問は「キャラクターをねんどろいどにデフォルメさせる制作過程と、ディレクションは何名体制でやっているのか」という内容が挙がった。
 

「基本的に最終ディレクションは僕がやっています」と安藝氏。そして、ねんどろいどにデフォルメで意識する際は、「対象のキャラの年齢を5歳~6歳ぐらいに下げる方法で可愛さを作っているケースが多い」と明かしてくれた。また、さらに特徴的なのは単純に幼児化するのではなく、頭や体を大きくし、手足を短くするなどのバランスにも気を配っているという。あとは、キャラクターの性格を表しているような髪型やアクセサリーを強調していくようだ。「リボンが目立つキャラクターならなら更に大きく、ツインテールが特徴なら床まで付ける」と分かりやすくなるようデザインを考えているとのこと。
 
コヤマ氏が「デフォルメシリーズを作る際、基準づくりが難しいかもしれませんが、ねんどろいどはどのタイミングで見つけたのですか」と訪ねたところ、安藝氏は「現在500体以上あるのですが、安定したのが30体目ぐらいです。ちょうどハルヒ(『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒロイン)を作っていたときでした」と裏話を語ってくれた。

ちなみに、いま安藝氏が注目しているキャラクターは「うまるちゃん」(『干物妹!うまるちゃん』のヒロイン)とのこと。「国内外問わず想定以上にフィギュアが売れている」と、全世界規模で人気を集めているキャラクターであることを語ってくれた。
 
(取材・文:編集部  原孝則)

主催者:Game Creative Exchange実行委員会
特別協力:国立新美術館
協力:株式会社グッドスマイルカンパニー、
グリー株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、サンケイスポーツ


■「Game Creative Exchange」
 

公式サイト


 
グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高754億4000万円、営業利益124億9800万円、経常利益130億8600万円、最終利益92億7800万円(2023年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
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