グリー<3632>の子会社・Wright Flyer Studiosは、9月17日~20日に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2015」において、新作アプリ『ガーディアンクラッシュ』を発表した。
本作は、ド迫力な爽快バトルと奥深い戦略性が楽しめる3DバトルRPG。奥行きある3Dバトルアリーナを舞台に、プレイヤーは戦況に応じて5人のガーディアンを自由自在に操作して、最大5vs5の戦いを繰り広げていく。また、特殊な力を持ったタワーが存在するステージでは、攻撃順などを工夫して効率的に戦う必要があるなど、戦略性も求められる。
今回「Social Game Info」では、本作のプロデューサーである大桑哲也氏、開発を担当した中国のLETS MOBO社に、両社の取り組みをはじめ、ゲーム概要やその魅力などについて伺ってきた。
■「日本の運営スタイルは踏襲しない」…日中の運営/技術力が結集した新作
グリー株式会社
事業統括本部 Japan Game事業本部
Native Game Publishing部 マネージャー
大桑 哲也 氏(写真左)
LETS MOBO
CEO
Chen Jian 氏(写真中央)
LETS MOBO
Co-Founder, Engineer
Yao Chenyong 氏(写真右)
――:本日はよろしくお願いいたします。はじめに『ガーディアンクラッシュ』のゲーム概要を教えてください。
大桑哲也氏(以下、大桑):『ガーディアンクラッシュ』は、戦略要素が満載の3DバトルRPGです。中国で大ヒットを記録した『刀塔伝奇』(日本名『Soul Clash』)を彷彿とさせるバトルゲーム ですが、本作は奥行きのある3D空間がバトルの舞台となっています。従来のこの手のゲームとは異なり、2Dの1ラインではなく、3D空間になることでやり込み要素や柔軟な戦略性が味わうことができます。
――:そもそも開発を務める中国の「LETS MOBO」社とは、どのような経緯で今回のプロジェクトでご一緒されたのでしょうか。
大桑:陳(Chen)さんと姚(Yao)さんは元々グリーチャイナで働いていたのですが、私が最初にお会いしたのは昨年の「チャイナジョイ」(中国最大のゲームショウ)のときでした。 私はグリーのパブリッシングチームとして、KDDIさんとの協業をまとめつつある状況で、そこを並行して中国・韓国などのアジア圏から質の高いゲームタイトルを探しているタイミングでした。
現地で何度かお会いするうちに、陳さんから「いま新しい作品を開発している」と伺って、本作のビルドを見せてもらいました。とても面白い内容でしたので、帰国してから会社に提案し、もろもろ契約周りをまとめ、年明けの2015年2月頃から実際にプロジェクトが動きはじめました。
――:LETS MOBO社について教えてください。
Chen Jian氏(以下、陳):いま話にあったように、在籍中はグリーチャイナの立ち上げ、クローズを経験し、その後にLETS MOBO社を設立しました。会社ではUnityのエンジンを使用して、3Dゲームの開発に臨んでいて、それが『ガーディアンクラッシュ』となりました。スタッフは元グリーチャイナの人が中心で、現在は25人が在籍しています。
――:実際に開発を担当したLETS MOBO社としては、『ガーディアンクラッシュ』にて具体的なコンセプトなどはあるのでしょうか。
陳:じつは本作は、日本市場を意識したタイトルとして開発していきました。開発当初は操作性もかなり複雑だったのですが、途中からグリーさんをはじめ多くの方からフィードバックをいただき、毎日改善を積み重ねていくなかで、現在の形にたどり着きました。
――:言われてみると、たしかにキャラクターの見た目など日本のゲームみたいです。
大桑:ここは我々も意識しました。日本ユーザーの特徴は、パッと見て少しでも違和感を覚えると「これ、海外タイトルを移植したやつでしょ?」と素直に受け入れてくれなかったり、粗探しを始めたりするものです。テキストはおかしくないか、キャラクターのデザインに変なところがないかなど、細かいところまで精査したうえで、率直にコアな面白いゲーム性に目を向けて欲しいと考えて、様々なところに気を配り開発に臨みました。
陳:3D演出に関しては、非常に自信を持っています。細かいところや仕上げなどは、大桑さんをはじめとするグリーの方々に監修していただきました。
――:ちなみに日本以外の配信は考えているのでしょうか。
陳:今後予定していきますが、まずは日本市場にフォーカスして開発を進めています。
――:中国のゲーム開発会社が、日本向けのゲームを手掛けるという、なかなか珍しい開発コンセプトかと思います。そこまで日本向けにこだわる理由は何でしょう。
陳:今までのモバイルゲームの歴史から見ると、ここ数年間で中国で成功したゲームアプリが、海外でも成功できたという事例が極端に少ないです。もちろん日本のゲームアプリでも“世界的ヒットタイトル ”は少ないですが、その市場規模の大きさとゲームのクオリティの高さは十分に理解しています。全力をかけて挑むのであれば、日本のような市場が適しているだろうと考えました。
――:姚さんは、本作のエンジニアでもありますが、日本向けタイトルとして気を配ったところはありますか。
Yao Chenyong 氏(以下、姚):私はグリー在籍時に、20タイトル以上も日本のゲームをローカライズし、台湾でリリースしたことがありました。ローカライズと言っても、単純に文章だけを翻訳しても意味がなく、きちんと各国のユーザーの特徴を捉えて、ゲーム内容も調整するといったカルチャライズの作業も入ってきます。
そのひとつがチュートリアルです。中国では日本以上にチュートリアルを面倒に感じ、キャラクターの台詞やボイスも全部飛ばしてしまう傾向があります。そのため本作では、世界観を伝える演出やキャラクターの台詞なども多数追加して、もっと日本のユーザーさんがのめり込めるような工夫を施しています。
大桑:開発中のエピソードですが、中国にはGoogle Playが存在しないため、Android版のQA作業は困難でした。実際にチンさんたちに来日していただいたり、ビルドを送ってもらい弊社側で対応したりと上手く作業していきました。
――:LETS MOBO社から見て、日本のユーザーにどのような印象を持っていますか。
陳:日本のゲーム業界は、他国と比べても歴史が深いと思っています。そのため、ゲームに対する日本のユーザーさんの目が厳しく、海外のデベロッパーからもクオリティの高いゲームではないと、日本市場の参入は難しいという印象が持たれています。そんな難しい市場のなかで、今回我々のチームが手掛けたゲームをリリースできることが、本当に嬉しいことですし、何より光栄にも感じています。
姚:技術者としては、日本人のゲームをやり込む時間が通勤時間やお昼休み、深夜・寝る前になど、一定の時間に固まっているのが印象的です。一方中国では仕事中でもゲームを遊ぶため、昼夜問わずサーバの負荷が分散されていますね(笑)。だからこそ日本では、イベントのタイミングに合わせて、色々用心していく必要があります。
――:大桑さんのほうでは、中国市場をどのように捉えていますか。
大桑:現状は、中国国内では中小のデベロッパーがビジネスしづらい状況だと思っています。単純に特定のプラットフォームやパブリッシャーが強力で、そこと中小は協業できるか、できないかでビジネスの成否が決まってしまうような形です。
開発会社の数は日本に比べて圧倒的に多いのですが、その大半がリリース後も上手くいかないタイトルになっています。だからこそ、陳さんのような枠にとらわれず外部で出すマインドを持っている開発会社と一緒に出来るという意味は、グリーとしても大きなチャンスであり、タイミングだとも思っています。
――:実際にリリース後は、どのような運営スタイルで行くのでしょうか。恐らく日本向けタイトルとして行くのであれば、積極的なガチャイベントやキャンペーンが増えていくのかと思います。
大桑:いえ、じつはここに関しては、あまり日本の運営スタイルは踏襲しません。というのも、『刀塔伝奇』のような中国のバトルゲームは、あまりガチャイベントを積極的に展開しないのです。その理由は、どんなキャラクターでもきちんと育成すれば、一定以上の強さを発揮するため、やたらに強いキャラクターをたくさん登場させると、ゲームバランスを崩してしまう恐れがあります。
そのため、育成の過程においてクエストに何度も挑んだり、キャラクターのレベルを上げたり、武器を強化したりと、ステップごとに少しずつマネタイズしていければと考えています。
――:中国ゲームアプリのマネタイズで主流なのが「VIP課金システム」(月に一定の課金をすると月単位で課金分の恩恵が得られるシステム)ですが、本作には入っているのでしょうか。
大桑:搭載しています。そもそもこの手のゲームに関しては、VIPシステムを含めた形で開発されているため、変にカスタマイズしてしまうとゲームバランスが崩れて、きちんと楽しめなくなってしまいます。グリーとしては初めての試みになりますが、このビジネスモデルはあえて残そうと判断しました。
陳:よく VIPシステムはマネタイズの一種と思われますが、単純にゲーム内コンテンツのようなものです。運営側で決めた成長曲線をもとに、ユーザーさんの成長データを考慮して、ゲームのバランスを調整していくという大事な部分をVIPシステムが担っているのです。課金した分、それ相当の見返り(恩恵)が得られることで、コア・ライト問わず、すぐにゲームの本質的な面白さを味わうことができ、結果長く遊んでもらえることにも繋がっていきます。
――:姚さんはVIPシステムに対して、どのような印象を持っていますか。
姚:エンジニアとしてはややこしいことです(笑)。
一同:(笑)
姚:ゲームバランスもそうですが、リワードの設定や調整は骨の折れる作業です。ただ、私としてもVIPシステムは必要だと思っています。私もよくゲームはやり込むほうなのですが、何よりVIPシステムがあることで“成長している”という段階を感じることができるのです。それも自分のペースによって調整できるのはいいことです。
大桑:飛行機のマイレージやカードのポイントなど、自分が払ったお金に応じて、ランクが得られ、そのランクに応じて特典が得られるということを 、誰しもが経験しているはずだから、自然と受け入れられるのかなと思っています。無料でゆるく遊びたいとき、やり込みたいときなど、各々のプレイスタイルに応じて決めることができるのは理想的なことです 。
もちろん、VIPシステムによる、課金額に応じてユーザーが受けられる恩恵の差の問題もちゃんと意識していています。そのため、元々VIPのみ使える一部の機能を、ゲームの進捗に伴って使えるような調整も行いました。これも今回のカルチャライズのポイントの一つです。
――:PvPなど、他プレイヤーと一緒に遊ぶ要素はいかがでしょうか。
大桑:まだローンチでは、リアルタイムのマルチプレイは実装していませんが、「アリーナ」という非同期のPvPバトルのほかに、同サーバ内の全ユーザーで1体の魔神に挑む「魔神襲来」、1つのマップに3人のプレイヤーがランダムで振り分けられ、マップ上の鉱脈を奪い合う「資源発掘」など、多彩なバトルコンテンツを用意しています。今後はギルドを含めリアルタイムのPvPを実装していこうと考えています。
陳:じつは技術面では、すでにシステムは開発しています。ただ、実際にリリースしてからユーザーさんのフィードバックを見ながら、内容の調整や実装のタイミングなどを決めていければと思っています。
――:それでは、最後に『ガーディアンクラッシュ』における今後の展望をお聞かせください。
大桑:本作では豊富なコンテンツを用意しており、ユーザーさんに長く楽しんでもらえるような運営の素地は十分整っています。新しいシステムにも挑戦していますので、日本のユーザーさんからは「新しいジャンルだね」と認めてもらえるように努めていきます。
陳:我々としては、日本市場にリリースする初めてのプロダクトになります。βテストでは積極的にユーザーさんの声に耳を傾けて、全力をかけて面白い作品になるよう頑張っていきます。
姚:今後も積極的にUnityを使用したり、独自のサーバ技術を活用したりと、日本の作品とは異なる色がゲームでも出していけるのかなと思っています。自然と日本のユーザーさんが感じたことのないゲーム体験を、『ガーディアンクラッシュ』で味わえるでしょう。
――:本日はありがとうございました。
■繊細な演出あり 『ガーディアンクラッシュ』試遊
インタビュー中では、実際に『ガーディアンクラッシュ』を試遊することができた。
ゲームサイクルは、「クエスト」→「強化」→「バトルで腕試し」という従来のスマホゲームを踏襲している流れ。クエストでは、砂漠や雪山、古代遺跡など、100以上の多彩なステージが用意されている。なかでも筆者が目を奪われたのが、クエスト選択中のワールドマップの画面。背景にドラゴンが飛んだり、雨や雪などの天候が変わったりと、細やかな演出が随所に散りばめられているのだ。
どうやら一部クエストでは、背景の天候が実際のバトルシーンでも反映されるとのこと。陳さんいわく「今後は天候が直接バトルに影響を与えるような機能の追加も検討しています」と話しており、たとえば雨のときは雷攻撃が強くなったり、雪のときは氷攻撃が強くなったりという形が予想される。より戦略性が増すため、ここは楽しみにしておこう。
さて、前述しているように、バトルは奥行きのある3D画面のなかを、最大5vs5の人数で戦いを繰り広げていく。プレイヤーは戦況に応じて5人のガーディアンを操作でき、敵1体をタップすると集中攻撃したり、スワイプして敵の攻撃を回避したりと、意外にも自由自在に動かすことが可能だ。
ガーディアンは、戦士・ナイト・アーチャー・ヒーラー・魔法使いの5つのジョブが存在。各ガーディアンは固有のスキルを持っており、その組み合わせ次第で様々な戦略が取れるのが特徴。また、バトル中に一度限りの協力技「クリスタルスキル」なるものも存在。これは数秒間も敵全員が身動き取れなくなるスキルや、味方全員がHP回復するスキルなどがあり、タイミングを見て使用することで戦況を大きく変えることができる。
そのほか、一度★3(評価)でクリアーしたクエストであれば、スキップチケット を使用することでクエストをスキップすることが可能だ。これも中国のゲームアプリではお馴染みの要素とのことで、ストレスフリーで効率的に素材などを集めることができ、スマホユーザーのライフスタイルに合わせた要素を担っている。
中国最新の技術と日本のクオリティが融合した、これまでのグリータイトルとは一線を画する『ガーディアンクラッシュ』。いよいよβテスト、開始。
(取材・文:編集部 原孝則)
■『ガーディアンクラッシュ』
(c) Letsmobo, Inc. Published by Wright Flyer Studios
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632
会社情報
- 会社名
- 株式会社WFS
- 設立
- 2014年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 柳原 陽太