【セミナー】エフェクトアーティストは「映像の化粧師」…『クロスサマナー』の奥義を彩るポケラボ池田氏が登壇した「エフェクトデザイン論」を取材
クリーク・アンド・リバー社<4763>は、2015年9月26日(土)、セミナー「エフェクトデザイン論」の特別講座を開催した。
当日は、スマートフォン向けアクションRPG『クロスサマナー』(提供:ポケラボ)の開発者をゲストに招いてセミナーを実施。来場者には、Unityやエフェクト制作に興味を持っている方だけでなく、現役の2Dデザイナー、イラストレーター、3Dモデラー、3Dモーションデザイナーなど、多種多様なグラフィックデザイナーが訪れた。本稿では、ゲームにおけるエフェクトの重要性にも触れた本セミナーの模様を取材。
■エフェクトアーティストは「映像の化粧師」
今回登壇したのは、株式会社ポケラボ クリエイティブ事業部 エフェクトアーティストの池田博幸氏。これまで同氏はスクウェア(現:スクウェア・エニックス)に10年、サイバーコネクトツーに2年在籍したあと、ポケラボに入社、現在は『クロスサマナー』の奥義などを中心にエフェクトデザインを手掛けている。
20年近くゲーム業界に身を置いている池田氏だが、もともとはキャラクターデザイナー志望だったという。ただ、人気職種のためか背景デザインやエフェクト作成など、ほかのデザイン業務にアサインされた過去があったようだ。しかし、そんなときに担当していたエフェクトデザインにて、「演出の楽しみに目覚めた」とその魅力に気付き、以降エフェクトアーティスト一本で業務を行っている。
はじめに池田氏は、ゲーム業界で渇望しているアート職について、1位「エフェクトアーティスト」、2位「3Dアニメーター」、3位「UIアーティスト」であることを明かしてくれた。池田氏は「エフェクトアーティストはブルーオーシャン(青い海、競合相手のいない領域)。需要があるにも関わらず、供給(人員)が追いついていない」と現状を語った。
池田氏がエフェクトアーティストを薦めるのは3つの理由がある。まずひとつは、前述したように職種として“希少価値が高い”こと。学習環境がほぼ皆無で、育成法も確立していないため競争人口が少ないようだ。スキルを磨く場合は「会社に入って直接先輩から教えてもらうことが多い」と、人が少ないなりの懸念点もあるという。
ふたつ目は、他部署との連携業務が多く、全体を俯瞰で見られるため“大局的視点が持てる”こと。その結果、みっつ目の“ジェネラリストになれる”に繋がるようだ。エフェクトエーティストの学習項目は多岐に渡り、モデリング/プラグイン/アニメーション/シェーダ/ポストエフェクトと広範。これら専門性を極めることでジェネラリスト化し、ひいては職場で必要とされる存在になるのだろう。
▲エフェクトアーティストの役割について「映像の化粧師(けわいし)」であると語る池田氏。この画像を見れば、何故そのように呼ばれるのかは一目瞭然であろう。
▲『クロスサマナー』のPV(バトル篇)
続いて、多くのエフェクトアーティストが意識している3つの概念として、「方向」「出現から消失までの流れ」「余波」について解説してくれた。まず方向とは、力の向きはどこに行くのかということ。なかでもエフェクトの方向には、全方位型と指向型の2種類があるという。全方位型とは、中心側から外側に向かって満遍なく力の向きが拡散している演出で、池田氏いわく「安定感がある。画面全体に対して出るため、どの角度からも差し込めて汎用性が高い」と語った。
▲例として、アニメ「それいけ!アンパンマン」の必殺技・アンパンチのエフェクトを紹介。このシーンも全方位型であり、池田氏は「本当に素晴らしいエフェクト」と絶賛した。
▲ふたつ目の指向型はシンプルで、特定の方向に移動しているエフェクトのことを指す。ただ、全方位型と比べて格好いい角度を模索しなければならないため、試行錯誤が非常に多く、手間と時間がかかってしまうデメリットがあるようだ。なお、一般的にエフェクトは指向型が多いという。
「出現から消失までの演出の流れ」の説明では、はじめに池田氏が聴講者に向けてクイズを出した。
それが、左図の白丸を右図の真っ黒に塗りつぶすには、どのような手法があるのかというもの。フェードアウトをはじめ、スケールダウン、ブリンクするなど、遷移させたり消滅さえたりと様々な方法が存在する。「丸い画像をどのように遷移して消していくのかの答えが出せれば、その方法は無限にある」と池田氏。
▲「エフェクトの余波」では、キャラクターが猛スピードで攻撃を繰り出すときのゲーム画面を交えて紹介してくれた。実際に奥義の演出中には地面はないのだが、地面から炎やがれきなどを散らすことで、キャラクターの勢いを表現しているという。
池田氏は「とくに上手い人たちは、“方向”“出現から消失までの流れ”“余波”をすごく意識している」と言葉を添えてくれた。
■直線的な変化を避けて、より躍動感のある演出に
では、実際にエフェクトはどのように描いたらいいのか。池田氏いわくエフェクトで最も基本となる絵は“円”だという。円は塗り(景色)と線(窓枠)のふたつで構成されており、背景(内壁)の質感を頭のなかでイメージしながらエフェクトの画像やシェーダを作っていくという。
▲いまいち言葉で書いても伝わらないと思うが、上記の考え方で作られたエフェクトがこちら。たとえば、星型のエフェクトなどは円の画数を減らして5角形にしたり、爆発だったり、土煙や水の泡にすることもできる。
なお、ここに出ているエフェクトは、After Effectsのフラクタルノイズと呼ばれる機能を用いて制作。『クロスサマナー』に登場するエフェクトも、その9割以上がフリーハンドではなく、すべて数値入力で制作されたもの。アナログでも円を描いて、輪郭をこすっていき、出来た窓枠の背景に形式を取り入れ、窓枠の形や景色の色を調整したらエフェクトが完成するという。
▲After Effectsでも上画像のように処理すればエフェクトができる。
池田氏はアニメーションの共通原則として、「直線的な変化を避ける」ことも教えてくれた。「色々な表現の仕方があり、正解はないが…」と前置きしながらも、一流のアニメーターの演出を見てみると、“直線的な変化”を避けている傾向があるという。ここでは、『クロスサマナー』の火の玉を放つ奥義を通して解説してくれた。
▲火の玉の動きをグラフで見てみると、始点から終点に向かうまで、左右の移動や加速・停滞など動きにも変化があるのが分かる。「慣れていない人は普通の速度かつ直線で繋げてしまいがち。アニメーションの本来の意味は、生命(魂)を吹き込むこと。等速直線的な変化を避けて、躍動感や生命感あふれるアニメーションを考えて欲しい」と池田氏は指摘。
また、スマホゲームを遊ぶほとんどの人は無音でプレイすると思うが、「たとえサイレントでも音が聞こえてきそうな心地良いテンポを意識する」と演出表現の重要さに言葉を添えた。
■「マッチョなトランクス(『ドラゴンボール』)になるな」
次にパーティクルにおいて、最初に覚える「ビルボード」「エミッタ」「寿命」の3要素について解説してくれた。「ビルボード」とは、常に画面に正対し続ける、厚みのない透明な画板/キャンバスのようなもの。「エミッタ」とは、目には見えない発生装置のようなもので、発生時間や発生数を指定して、ビルボードを同時多発的に発生させる。最後に「寿命」は、いわば表示時間のことで、表示時間が終わる(寿命が尽きる)とビルボードが消去されるようになっている。これらパーティクルの一連の流れは、「シャボン玉である」と池田氏は言う。
▲実際にシャボン玉を作ってみせる池田氏。「このシャボン玉を出すおもちゃのラッパが、いわばエミッタ」と説明し、パーティクルの成り立ちをシャボン玉に置き換えて解説してくれた。
▲パーティクルは、細々としたパラメータが多いが、「大きさ」「角度」「位置」「色」の4つを意識すれば問題ないとのこと。これら4つに大きな影響を与えているモジュールはどこなのか、そこから逆の発想でパーティクルに触れると理解が早いという。
また、池田氏はゲームエフェクトについて「制約の塊」であるとも言うが、「制約を課すことで生まれる“至高の芸術”もある」と述べた。音楽や日本古来の俳句などを例に出して、それに付随して「マッチョなトランクスになるな」と独特なたとえ話も披露。
これは、マンガ『ドラゴンボール』に出てくる登場人物のトランクスを用いた例。彼が悪者・セルと戦うために、真の力を解放し、エネルギーで筋肉を増幅させたマッチョ姿で戦うものの、あっけなく負けてしまうという場面を取り上げ、「膨れ上がった筋肉でパワーは上がったが、スピードは急激に劣って攻撃が当たらなかった」と声真似を披露しながら解説してくれた。
つまり、池田氏が言いたいのは「エフェクトマッチョはやめよう」ということ。具体的に何に気を配るのかは「画像の大きさ」「ドローコールの数」「オーバードロー」「シェーダ複雑度」「動的光源の数(『クロスサマナー』では未使用)」など、負荷がかかったり、ゴチャゴチャしたりする演出を多用してしまうこと。使用するにも、画像を伸ばしたり、繰り返したり、反転させたりというテクニックを駆使して、パフォーマンスに細心の注意を払って行うのがいいようだ。
▲たとえば、『クロスサマナー』のトップページに映る雲海は、64×64ピクセルの2枚重ねのテクスチャだけで構成されており、さらにそれを上下で反転させたポリゴンの板を2枚重ねているだけ。かなり大画面で背景を埋めているけども、実際には2枚の画像しか使っていないという。「何を加え、何を飾るかよりも、“何を削り、何を残すか”がスマホの場合はとても重要」と池田氏。
セミナーの最後には、一流の演出家になるためのいくつかのポイントについて紹介してくれた。それが「コンテを描く」「ゲームをやる」「アンテナを張る」「動画を見る」の4つ。まずコンテを描くでは、落書きレベルでもいいので、頭にある設計図を具現化することが何よりも大事だという。また、演出とゲームデザインの関連性を理解するために、ゲームで遊ぶことも重要とのことで、いざエフェクトを制作する際に素材で何が必要なのかが分かるようになってくるようだ。そして、世の中の流れや業界最先端情報を得るため、つねにアンテナを張り巡らせていくこと。
「映像演出の品質は、クリエイターが観た映像の数に比例する」と池田氏が言うように、とにかく浴びるように動画(映像)をたくさん見て、様々な演出やエフェクトを自分のものにしてほしいとも語った。引き出しが増えることで、“こういう演出が欲しいなぁ…”と思ったときに、頭のなかで自然と閃くことができるようになるという。
池田氏は「表現を追求する分野であれば、最終的には必ず“人間を知る”という永遠の命題に行き着く」と考えている。ゲームを開発している人も、その演出を見る人たちも、みんな人間であるがゆえに、池田氏は「“人間を知る”ことはエフェクトを知ることと同義である」と最後に言葉を添えて、セミナーを終えた。
(取材・文:編集部 原孝則)
■『クロスサマナー』
©Pokelabo, Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社クリーク・アンド・リバー社
- 設立
- 1990年3月
- 代表者
- 代表取締役会長CEO 井川 幸広/代表取締役社長COO 黒崎 淳
- 決算期
- 2月
- 直近業績
- 売上高497億9900万円、営業利益41億300万円、経常利益41億3700万円、最終利益26億5800万円(2024年2月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 4763
会社情報
- 会社名
- 株式会社ポケラボ
- 設立
- 2007年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 前田 悠太