【ハッカドール×SGIコラボVol.07】「アニメ放送のアプリへの波及効果は予想をはるかに上回る」DeNA岡村直哉氏インタビュー
オタク向けスマホニュースアプリ『ハッカドール』が昨年8月のリリース以来、快進撃を続けている。ユーザ数を順調に増やすとともに、2015年10月にはなんと1.5億PVを記録。さらにアプリに登場するハッカドールたちが活躍するアニメ『ハッカドール THE あにめ~しょん』が10月より絶賛放送中である。
Social Game Infoでは、関係者インタビューを通じてニュースアプリをアニメ化するという前代未聞の試みに迫る。7回目となる今回は、ディー・エヌ・エー(DeNA)の岡村直哉氏にインタビューを行い、アプリとアニメのプロモーションの違いや分担、アニメ放送のアプリに及ぼした影響について話を聞いた。また、エイベックス・ピクチャーズの寺田浩史氏にもご参加いただいた。
■当初はアドバイスを出す程度の関わりだった
―――:よろしくお願い致します。まず、岡村さんは初めから『ハッカドール』のプロジェクトに携わっていたのですか?
岡村氏:いえ、当時はスマートフォンゲームのプロモーションがメイン業務で、『ハッカドール』のミーティングには時々顔を出しアプリのプロモーション手法やDeNAで得た知見などの共有、アドバイスを行っていた程度です。
『ハッカドール』はリリース前に、謎のティザーサイトを開設して、少しずつ情報を更新していき、8月15日のコミケに明らかになるという、どう見ても意味ありげな設定を行いました。かつソースをのぞくと何かがあるみたいな仕掛けです。この手法はゲームなどでもプロモーション方法として大変話題になりやすいので、『ハッカドール』でもやりましょう、などとアドバイスをしていました。
―――:最初はガッツリ関わっているわけではなかったんですね。
岡村氏:はい。ゲームプロモーションの知見から、どういうタイミングでプロモーションを行うと効果的で、かつ結果をどう判断し、次にどういう選択肢をとるべきか、といった会議に参加するという関わり方です。それ以外には社内の凄腕デザイナーをアサインするべく所属チームにかけあって協力を仰ぐ、といった程度です。
―――:なるほど。そういえばゲームショウのイベントで司会をされましたよね。
岡村氏:はい。2014年の「東京ゲームショウ」ではハッカドールのキャストのみなさんも運良くステージイベントに参加いただけることになり、ハッカドールのステージを行うことになりました。とはいえ、そんなにお金もかけられませんので、プロデューサーの岩朝が構成を考えて、司会については私が担当することになりました。これはもう宣伝マンの宿命のようなものですが。ハッカドールの声優のみなさんとはそこで、初めてお会いしました。
当時は、『ハッカドール』がここまでにぎわうことは予想できていませんでしたし、アニメ化の話も一切ありませんでしたので、この作品にここまで長く深く関わることになるとは思いませんでしたね。
―――: ゲームショウのイベントの記事で岡村さんをいじったのを思い出しました。ツッコミ不在の中、唯一のツッコミキャラとして頑張っておられたなと(笑) 関連記事
岡村氏:(笑) その後の関わりで行くと、引き続きゲームのマーケティング業務やイベント対応などをメインとしながら、たまにハッカドールチームのいるフロアにいって「最近、どうですか?」と話をする程度だったかと思います。
再び深く関わるようになったのは、冬のコミケの時です。もともとコミケ担当ではあったのですが、「ハッカドールでコミケ会場からニコ生をやろう!」という突拍子もない話が出たのを皮切りに、司会をはじめ企画にも深く巻き込まれてしまいました(笑)
■2015年の年明けから本格的に関わるように
岡村氏:変化が訪れたのは、年が明けてからです。2月頃からハッカドールへの社内の注力度合いも変化し本格的に取り組むことになりました。少し特殊なアプリということもありハッカドールユーザーの理解と、アプリマーケティングの両立ができる人間という理由からです。あとはニコ生の番組「ハッカちゃんねる」もレギュラー化してしまいましたし。
―――: そういえば、昨年、岩朝さんと初めてお会いした時、岡村さんはいらっしゃらなかったですよね。
寺田氏:昨年のコミケの時は、コミケにはがっつり関わっていたけれども、ハッカドールにもがっつり…というわけではなかったんですね。
岡村氏:はい。リリースされた2014年8月当時は他のゲームやイベント業務などで忙殺されていました。『ハッカドール』は1月、2月頃から特に非常に多くの方に利用していただけるようになったので、比重が増えていったわけですが、アニメ化の話まで持ち上がったのは驚きました。
岩朝がインタビューでお話しましたが、アニメをやるべきか迷っていて、チームのメンバーを会議室に呼び出して意見を聞きました。結局、岩朝以外は全員やったらいいんじゃないか、という意見でした。仮に失敗してもいい、チャンスがあるんだったらやったほうが良いと皆で話していたのを覚えています。結果、春からアニメ化にむけて具体的な準備が始まりました。
寺田氏:私に話が来たのもその頃ですね。
■寺田氏と本音ベースで相談
岡村氏:3月末にはキャストの皆さんにアニメ化を伝えることになり、ニコ生でお世話になっていた上田麗奈さんにもハッカドール4号役の依頼をさせていただきました。さすがにみなさんアニメになるとは思っていなかったようでとても驚かれていました。その後、5月の「マチ★アソビ」で正式に告知することになり、同時に寺田さんとプロモーションの相談を始めました。
原作側のプロモーションの状況をお伝えしつつ、寺田さんからアニメの宣伝方法をお聞きしたりして…要するにお互いにアイディアを出し合ったわけです。声優さんのお誕生日にはお祝いのイラストを公開しよう!などと楽しくプロモーションの計画を練っていきました。
寺田氏:僕は誕生日とか記念日のお祝い感がとても好きなんです。わかりやすいですし、Twitterとかでみんなで一緒にお祝いもできます。ほんとうに大事だと思っています。
―――:アニメとアプリの宣伝は完全に分業しているんですか?
岡村氏:プロモーションに関しては、一定の分業はありますが、臨機応変に対応するようにしています。アプリ側も必要と判断したらアニメの宣伝をやりますし、アニメ側も同様です。キャストさんも積極的に関わっていただけましたので、10分アニメの割には、周りの方々からは宣伝を一杯やっていると思われているかもしれません。
寺田さんとも、本音ベースで身もふたもない話をさせていただいたのが良かったと思います。エイベックスさんが一生懸命アイディアを考えて、こちらが「これ、世界観に合わないんですよね」といった対応ではいいものはできないと思いました。両社で一緒に作り上げて、エイベックスさんが「やりたいことをやれた」という状態になることがプロジェクトとしても成功になるんじゃないかと思いました。
また、アニメの制作現場もスタッフのみなさんがやりたいことができるだけやれるように、という考え方で進んでいると聞いています。ハッカドールは、もともと「オレたち、こうなったら捗るんだよな」という、オタクエンジニアの思いを具現化したものでした。ですので宣伝に関しても従来のアプリマーケティングの手法に固執せず、喜んでくれるお客様がいるかどうか、そして自分たちがそもそもやりたいかどうかという部分を尊重しています。
―――:アプリのマーケティングをやられていた立場からすると、アニメのプロモーションは違うものですか?
岡村氏:そうですね。アプリだと数値に反映されてくるので、よく言えばPDCAによる改善を是とする、悪く言うと短期的な目標に振り回されがちです。一方アニメの場合、中長期的にコンテンツをどう育てていくのか、そもそも何を表現したいのか、という点がとにかく論じられておりそこが大きく違うと思いますね。
ソーシャルゲームのプロモーション担当者がアニメの宣伝に関わろうとすると、言語や考え方の違いを理解して、切り替えていかないと、アニメに関わっている方々とお付き合いするのは大変かもしれません。
寺田氏:「確かにリスクはありますよね。例えば、オリジナルのギャグアニメの作品で『なぜこういうくだりや話を作ったんですか?』」と真面目に聞かれても「おもしろいと思って…そりゃ言われればたしかにそうですけど…」としかいえないと思います。ゼロか1かと言われる質問を問われると、制作側としてはきついかと思いますね。
岡村氏:寺田さんもインタビューで「パッケージの売上が…」とおっしゃっていたものの、「売れる曲・アニメはこうだ」というセオリーはないですよね。「ハッカドール」では、数値などの根拠はもちろん大事だが、楽しくやってこそのKPIという姿勢です。だからこそ、アニメ制作のみなさんとも取り組みをご一緒させていただいているんだと思います。
―――:そもそもハッカドールチームがKPI重視で行くという姿勢だったら、アニメに行くという判断はありえなかったかもしれませんね。
岡村氏:それでいくと、会社もよくGOを出したと思います(笑) 数字にシビアな会社ですけど、作品とIPの持つ価値に投資しようという判断をしてくれたわけです。そういう意味で、DeNAそのものも色々な考え方を持つようになってきました。
―――:正直、意外な感じでした。
岡村氏:他作品に比べて異常に早いアニメ化でしたので、他社の方からは「なぜ? 金?」とよくいわれました。要するにお金でゴリ押ししたと思われていたわけです。そういうお考えも理解できなくもないんですが、本当にそうじゃないんですよね。
■アプリには予想以上の効果が出ている
―――:アニメのアプリへの効果は何かあるんですか?
岡村氏:アニメではアプリの紹介はほとんどやっていません。1話はお話の都合上、アプリの紹介はやっていますが、それ以降は全くありません。アプリはおろか、スマホもお話にはほとんどでてこないと思いますが、ハッカドールのインストールには確実に寄与しています。地上波でやっている時、BS11、ニコ動などのオンライン配信が始まった時など、インストール数を時間単位で見ていると如実にわかります。新しく利用される方もいますし、久々に起動される方もいます。これは僕らの予想を超える数値でした。
宣伝だと思って作ったものではありませんでしたから。製作委員会方式で当社の100%出資でもないですし、作品性を大事にして私物化もしていません。アプリへの波及効果については、予測モデルを作っていましたが、それを上回っています。マーケティングと思って作っていませんが、結果として、とても良いプロモーションになっていると思います。
何百万、何千万もかけてプロモーションをしたとしても何も残りませんが、アニメは作品として残りますから、その意味でも非常に価値があるかと思います。弊社だけでやっていたら、音楽CDも出せなかったと思いますし、お金を出すからCDを出してとお願いしても難しかったはずです。声優さんをはじめ、スタッフの方との関係も単なるビジネス上のお付き合いになっていたでしょう。
一つの作品作りをご一緒することによって、アニメや出版、フィギュアなど、色々な業界の方からお話が聞けて見識が広がりますし、我々はスマホアプリ界隈のお話を皆様にお伝えできます。今後、『ハッカドール』以外のところでも気軽にお声がけできる関係になったかなと感じています。その意味で、アニメ製作委員会を作ったのは単にハッカドールにとってだけでなく、DeNAにとっても広がりを持つものとなったと思います。もちろん、私にとっても、です。
―――:アニメの放送が始まって手応えは。
岡村氏:はい。手応えは非常に良くてありがたいです。ハッカドールのサービス自体を新しく利用される方はもちろん、久々に使っていただいている方、SNSなどをみるとアニメが面白いからアプリを再びインストールして使い始めた方など様々ですね。アイコンや名前をハッカドール仕様にしていただく方も目立ちます。また、マチ★アソビにでると「次も出てよ」、コミケに出ると「次のコミケではこんなことをやってほしい」というリクエストをいただきます。宣伝マンとしては結構な手応えです。
例えばアニメの手応えで行くとニコ動の再生回数やコメントは他と比較してもショートアニメなのに非常に多いと感じます。
―――:プロモーション目的に作ったわけではなかったけれど、結果的に非常に良かったと。
岡村氏:そうですね。アニメは制作スタッフ・キャストの皆さんのがんばりもあって、評判がとてもいいです。プロモーション側でも、ここから持続させていくために頑張りたいと思います。
また、ハッカドールの歴史として、ゴリゴリにアピールすることを良しとはしていません。ニコ生「ハッカちゃんねる」でも「全力で宣伝しましょう!」ではなく、声優さんがはしゃいでいる姿を見つめる視聴者…というバラエティの図式に持っていく。でもインストールがついてくる、ということを繰り返してきました。
プロダクトはかなりまじめにつくっていますので、こういった展開を継続することが大事だと考えています。一方で、ビジネスとしては課題が山積みです。アニメ化しましたし、これからもお客様に使っていただけるようにしなくてはなりません。その責任もあります。
―――:ところで、アプリ側からアニメの宣伝でやっていることはありますか。
岡村氏:アプリ側ですと、アニメ応援キャンペーンを勝手にやっていますし(笑)、プロダクト側でのコラボでもアニメの告知を入れるたりとやっています。また、エンドカードという機能がありますので、アニメと他作品コラボなどの時には利用していただいています。あとは、ニコ生施策でしょうか。
寺田氏:既に宣伝の基盤があったのは、弊社としては非常にありがたかったですね。ニコニコ生放送の番組制作一つにしても、一から立ち上げていくのにはカロリーがもちろんかかります。TV番組をもうひとつ作るようなものですから。構成作家さんや司会は誰にお願いするか、キャストさんはどうするか、などを決めなくてはなりません。「ハッカちゃんねる」では既にそれができていたので、あとはアニメを踏まえた内容を皆さんと検討していくことが話しやすい環境でした。
■ハッカドールに便乗してくれる仲間を募集中!
―――:今後のことを教えて下さい
岡村氏:まずはアニメをみていただいて、ハッカドールを使っていただくことが第一なのですが、中長期的には、もっともっとハッカドールに便乗していただける仲間をどしどし募集しています(笑)。ハッカドールは、他社の方々の力を借りながら成長していったところがありますので、自分たちだけでやるのではなく、いろいろな展開ができればいいなと思っています。
―――:コラボされた会社の方に話を聞くと、良かったといわれることが多いですね。
岡村氏:ハッカドールから来たユーザの起動率が明らかにおかしいぐらい高いと言われますね(笑) あるアプリからは、ハッカドールから来た方は、クエストのクリアが早いし、ログイン回数が明らかに多いといわれました。我々も含めて、『ハッカドール』に関わる人が皆、ハッピーになれる場にしたいですね。
―――:岡村さん個人としてはいかがでしょうか。
岡村氏:私としては、アプリマーケティングの視点を持ちつつ、エンタメ側にも関われる存在になりたいですね。エンタメの世界には、この道一筋できたプロフェッショナルな方々が多くいらっしゃいます。しかし逆にエンタメの世界がわかっていて、他の何かがわかる人間は、意外と小回りが利くこともわかりました。
これからエンタメ業界に入りたいと思っている方は、そっちへの知見を持ちつつも、この業界でずっと頑張ってきた方々が知らない何かを1つ、2つ持っていると、エンタメ業界でも重宝されると感じています。
―――:岡村さんはゲームの宣伝も行う可能性もあるわけですか。
岡村氏:はい。ゲームのプロモーションもやります。まだいえないですが、開発中のタイトルにも関わらせていただいております。ハッカドールはいま盛り上がっている状況なので、業務の比率が高いですが、ゲームがヒットすればそちらも忙しくなるかもしれません。その時は「あの時、お話していたものです」とお伝えします。ですが、当面の山は冬のコミケですね(笑)
岩朝氏:そしていつか紅白歌合戦の司会を任せられるような、そんなMCにもなりたいな、なんて…岡村はそんな夢もきっと持っているはずです。
―――:…。ありがとうございました。
【これまで掲載したインタビュー記事】
第1回 ハッカドール1号を演じる声優 高木美佑さんに放送直前に迫ったアニメの見どころを聞く!
第2回 音楽Pの村上貴志氏インタビュー「楽曲の基礎は昨年夏にできていた」「ユニットとしていつかは興行やアルバムも…」
第3回 声優の高木美佑さんがおすすめアプリを紹介 アプリライフをはかどらせちゃうぞ! 今回は『Deemo』です!
第4回 プロデューサー岩朝暁彦氏インタビュー「アニメ『ハッカドール』は妥協せずに作り上げた自信作」
第5回 声優の高木美佑さんがおすすめのアプリを紹介 みんなのアプリライフをはかどらせちゃうぞ! 今回は『セガNET麻雀 MJ』
第6回 エイベックス寺田氏にアニメの宣伝を聞く ゲームとの違いやハッカドールならではの露出とは?
■『ハッカドール』
(編集部 木村英彦)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432
会社情報
- 会社名
- エイベックス・ピクチャーズ株式会社
- 設立
- 2014年4月
- 代表者
- 代表取締役社長 寺島 ヨシキ/代表取締役副社長 勝股 英夫
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 非公開
- 上場区分
- 未上場