【ラプラスリンク特集②】gloopsがシナリオにこだわったワケとは? 「取ってつけたシナリオや予定調和のゲームは飽きられている」



gloopsのスマートフォン向け新作RPG『LAPLACE LINK -ラプラスリンク-』(以下、ラプラスリンク)のリリースが迫ってきた。様々なソーシャルゲームの常識に挑戦すると標榜している本作だが、どういった常識を破壊し、そして新しい楽しさを生み出そうとしているのか。Social Game Infoでは、『ラプラスリンク』の特集を5回にわたって行い、その魅力に迫る。

第2回目となる今回は、ディレクターの涌井健一朗氏にインタビューを行い、シナリオへのこだわりについて話を聞いた。かつてソーシャルゲームでは世界観やストーリーは後から付けるもので、必要ないという議論さえ行われた時期もあった。この見方は依然として根強い。『ラプラスリンク』はこの"常識"にどう挑戦し、新しい解を提示しようとしているのだろうか。


■涌井健一朗氏プロフィール
2011年10月gloops入社。「大熱狂!! プロ野球カード」や「大熱狂!! メジャーリーグカード」などのディレクターを経験する。「大戦乱!! 三国志バトル」、「スカイロック」などの企画マネージャーを経て、「LAPLACE LINK」のディレクターとして、世界観設計、シナリオ品質管理、サウンドやボイスのディレクションを担当している。


 
■現代の延長線上にある未来の世界が舞台 ファンタジーや神話モチーフは避けた

――:よろしくお願いいたします。早速ですが本題に入ります。『ラプラスリンク』では、ストーリーも特徴になっているとのことですが、どういったストーリーになるのでしょうか。

ストーリーは、現代の延長線上にある未来の世界が舞台です。世界の中心には、魔法エネルギー「エーテル」を生み出す「ラプラスの樹」があって、エーテルを利用するために「ルーン」という刻印があります。ルーンは「水」を出したり「火」を起こしたり、人々の生活の要になっていて、とても便利なんですが、良いことばかりでなく、副産物として、「樹獣」と呼ばれるモンスターの発生を助長します。キャラクターたちの中には樹獣に娘の生命を奪われた人がいたり、ルーンを使いこなして親の病気を治そうとしている人がいたり、それぞれが「ラプラスの樹」と繋がっている何かしらの要素に思いを馳せています。ストーリーには一貫したテーマがあるのですが、それについては実際に遊んでみて感じてもらえたら嬉しいですね。


――:ゲームではファンタジー世界が人気ですが、今回のような世界が舞台というのは珍しいですね。

最初に考えたのが、なにをモチーフにするか、です。ソーシャルゲームでは、ファンタジーや神話をモチーフにすることが多いんですが、他に優秀な作品が多いのであえて取り組む価値を感じませんでした。かといって誰も知らないようなモチーフだと、ピンと来ない話になってしまう恐れがあります。悩みに悩んで、いろいろ資料を漁っているときに、ふと目についたのが「生命の樹」というものでした。

生命の樹の詳しい説明は割愛しますがいろいろ調べていくと、材料になりそうな要素が非常に多いんです。これをモチーフにした作品は、アニメやマンガなどでは散見されるのですが、ソーシャルゲームではほとんどありませんでした。「これしかない!」と思い、ストーリーの概要などの大枠をメモ書きで作って、プロデューサーの上田に意見を求めたところ、「いいですね」と答えてくれて、モチーフが決まりました。



――:なるほど。続いてキャラクターですが、

主人公「イツキ」には強い個性を持たせないようにしています。キャラクター人気投票をしたら、おそらく票が集まらないでしょう(笑) これは、登場キャラクターが非常に多くなるのはわかっていたので「自分より周りを活かせる」主人公にしたかったのが1つの理由です。もう1つの理由は、ストーリーにはエンディングがありますが、状況によっては2部、3部と続く可能性を考慮したものです。主人公の思いが強すぎると汎用性が低くなり、1部で完結してしまう可能性があったためですね。その代わり、その他のメインキャラクター「ハルカ」「シュクナ」「ユウト」は、個性を際立たせつつ、それぞれ主人公を差し置いて物語を引っ張っていけるくらいの「想い」を持たせました。
 
▲初期に制作した主人公・月代イツキのキャラクター設定の社内資料。


▲こちらも初期に制作したメインキャラクターの設定概要。現在と異なる箇所もいくつかある。


――:1章の冒頭から、すでに話が動き出してますよね。

はい。このゲームのストーリーはトップギアでスタートさせて、お客様が「えっ? 何が起こってるの?」と思ってる間に、次々キャラクターも出てきてどんどん話に引き込まれてもらいたいと思って作っています。難しかったのは、一歩間違えると用語がたくさんでてきて、キャラクターも多いし意味が分からなすぎて逆に興味を失ってしまう点です。そこは最初に登場させる世界観の用語を何度も精査したのと、ユウトの存在を上手く使って解決していきました。

ユウトは頭がよくなく、臆病で、逃げグセのあるダメなやつなんですが、「お客さん目線」なんです。「天使って何?」とか、イツキやシュクナたちに質問します。それにイツキたちが答えながら自然と物語が進んでいきます。世界観の用語は下手をすると説明くさくなって、途端に話がつまらなくなってしまうんですが、ユウトが話の中に用語を溶けこませてくれてるんです。ライターも「ユウトがいてくれてよかった」って思うことが何度もあったそうです。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、メインビジュアルにユウトが入っていません。これも「ユウト(お客さん)の目線で世界を見ている」って設定になっているからです。

 
▲様々な用語が出てくるが、物語の中でユウトに質問をさせることで溶けこませている(右の画像)。


――:注目してほしいポイントはありますか。

シナリオライターには、バトルに入る前にプレイヤーとしての感情を高めるような書き方をリクエストしていて、実際、そうなっていると思います。ストーリー上で「戦いたくない敵」や「ぶっ飛ばしてやりたい敵」を作り上げ、バトルに臨んでもらう。自身の感情がどう変化するかは注目してみて欲しいですね。「少年漫画のアツい展開」から要素をピックアップして作り上げていったストーリーやバトルもかなりあります。とくに20~30代の少年漫画で育った方々にはグッと来るシーンとかあるんじゃないかなと思います。私も原稿チェックやゲーム内チェックで何度も読んでいるはずなんですが、いまだに鳥肌立ててたりします(笑)

今回、ストーリーを作っていくにあたって、あえて結末を用意せずに進めてもらいました。テーマは設定したんですが、私自身もこの話のテーマは現実世界で消化できてないテーマです。なので、もうキャラクターに考えさせて結論を出してもらおうかなと(笑) さすがに話の大枠は作っていましたが、クライマックスに近づくに連れて「この状況で、イツキは何という言葉を口にするか?」「シュクナは現実をどう受け止めて行動するか?」など、キャラクターと親身に対話してもらいながら進めたため、我々がなんとなく想像していたエンディングを越えて行きましたね。中盤以降、すごい展開になりますので、結末も含めて楽しみにしていただければと思います。こういう作り方をしてよかったです。



 
■ソーシャルゲームのFF7のような存在でありたい
 


――:ここまで聞いていて思ったのですが、だいぶシナリオには力を入れているんですね。シナリオに力を入れた理由を教えて下さい。ノベルゲームはともかくとして、ソーシャルゲームは、一時は世界観がいらないとさえ言われたこともありましたよね。

そうですね。今回力を入れたのは、そういった現状に辟易としていたというのがもっとも大きな理由です。ソーシャルゲームでは、「ある世界で、カードを召喚する力を持って、最強のカード使いになる」といった類の取ってつけたようなストーリーや設定が多いですが、お客様からすると「もういい」と思われているのではないでしょうか? 昔、面白いと感じて遊んでいたゲームの多くはストーリーがしっかりしていたように思います。

ファミコンを経て、スーパーファミコンの時代になると、かなりしっかりしたストーリーのRPGが少しずつ出てきたと記憶していますが、その流れで革命ともいえるインパクトを残したのは、やはりプレイステーションの「ファイナルファンタジー7」(以下、FF7)で、ほかならぬ私も衝撃を受けました。「ゲーム」というジャンルのストーリーが「映画」のストーリーを超えた瞬間だと思いました。

近年のソーシャルゲームにおいて、取ってつけた世界観やストーリーの弱さに嫌気が差しているお客様も増えているのでないかと思いました。タイミングとして、そろそろ「FF7」クラスの衝撃を与えるストーリーが求められているのではないかと考えているわけです。実際にできるかどうかはともかく、我々もそういう存在になりたいと思っています。



――:『ラプラスリンク』は、ストーリーとゲームシステムが密接に絡んでいるようにみえますが、企画やイラストを担当されている方とどういった連携をとったのでしょうか。

世界観やシナリオを後からつける会社もあるでしょうが、今回の場合は一部のシステムを除いて世界観とシナリオが先行です。世界観を先行して制作し、企画にゲームシステムへと落とし込んでもらいました。なので企画は設定を積極的に拾いに来てくれて、例えば「ガチャ機能」を1つ作るにも「この世界でガチャって何?」とか、細かく聞いてくるわけです。「ルーンで魔法を使うってどういうアクションで発動するの?」って質問には、何人に話したかわかりません。「もう気にせず好きにやれ」って言い放ったこともあったかもしれませんね。

イラストについても同様です。アートディレクターとはシナリオについてよく話して、時として「シナリオ読んでからモノを言え!」と激しい議論になったこともありました。結果、全部のシナリオを読み込み、細かい部分の設定を作って10ページくらいのしっかりした資料を作って持って来たので「これ、いいですね」って言いました(笑) またリードイラストレーターが私の意図を資料上でほぼ100%汲み取ってくれたことも大きかったです。

 
▲世界観設定の社内資料。この世界に存在する要素すべてに対して設定を作っていった。他にも「冠婚葬祭」がどう存在しているか、物語の中に存在する組織の「組織図」をまとめた資料もあるそうだ。


――:ボイスもあるかと思いますが、やはりシナリオや世界観を意識したのでしょうか?

もちろんです。ボイスについては、最初から使おうと考えていましたが「フルボイス」は避けようと決めていました。ストーリーを読むテンポと、聞くテンポは絶対に合わないからです。せっかく演じていただいたボイスがもったいないことになりますし、テンポも落ちてしまい、メリットはほとんどないと考えています。

ですから収録するボイスは、簡単なボイスといいますか、物語を読むきっかけになる程度です。キャラの感情が分かる程度にしました。ただ、重要なセリフのみフルボイスとなっています。声優さんにお願いするにあたっては、「キャラに合うかどうか」をもっとも優先しました。キャストについては、音響制作会社さんに任せきりで、こちらのキャラクター設定から出していただく声優さんの候補は、いつも完璧ですね。



――:サウンドのテイストもシナリオに合わせたのでしょうか。

サウンドが流れるシーンの展開や、時にキャラクターたちの感情をお伝えしながら28曲制作しました。ノイジークロークさんにはとことん付き合っていただけて、細かいところで何度もリテイク出させてもらったんですが「うちってリテイク多いですかね?」と聞いたら「普通です」と言ってくれたので、じゃあもうちょっと遠慮なく行くかと(笑) 天使戦やラスボスについては、伊藤賢治さんにお願いしました。特にラスボス曲に関しては、キャラクターたちの感情やお客様がどういう感情でプレイするかを踏まえた楽曲となっており、「これ以外はない!」というほどの素晴らしい仕上がりです。私自身、最初に聴いた時は震えましたので、ぜひプレイしていただいて体験していただければと思います。


――:ありがとうございました。


次回は、『ラプラスリンク』のイラストや演出、背景などグラフィックに関するインタビューとなります! お楽しみに。

 
■これまでの掲載記事

【第1回】
gloopsはソーシャルゲーム業界の常識をどう破壊し再構築したのか 上田Pが語る破壊の先で作り上げた"新しい楽しさ"



【制作発表会】
gloopsの新作『LAPLACE LINK』は常識を打ち破る新世代ブラウザゲーム マップ移動型&アクションバトル、"リアル"な世界観・キャラが魅力


 
(編集部 木村英彦)
 
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会社名
株式会社gloops
設立
2005年8月
代表者
李 仁
決算期
12月
上場区分
非上場
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