【インタビュー】年内50作品掲載、さらに書籍化も視野に 漫画事業を立ち上げたCygames伊藤氏が語る新たな野望


Cygamesが新たに立ち上げた「漫画事業部」。発足の発表から約1ヵ月後には、スマートフォン・PC向け漫画サービス「サイコミ」を早くも展開。『グランブルーファンタジー』『神撃のバハムート』といった同社の人気ゲームのコミカライズを発表し、すでに多くのファンから注目を浴びている状態だ。

また、ゲームのコミカライズにとどまらず、オリジナル作品も数多く登場、週刊から日刊、読み切りまで連載スタイルもさまざまで、人それぞれの環境に合った楽しみかたができる工夫もなされている。

果たしてこの漫画事業部と「サイコミ」は、どんな目標を掲げて立ち上がったのか、同事業部を統括する伊藤氏に気になる質問をぶつけてきた。

 

 

■イチから始めた漫画事業でもクオリティ担保は徹底




――:本日はよろしくお願いします。まずは伊藤さんがこれまでにどんな業務をしてきたか、教えてもらえますか。

Cygamesには以前、出向で1年ほど勤めていまして、そのときにはソーシャルカードゲームのディレクターを担当していました。その翌年から正式に入社となりました。入社してからはプロジェクトマネージャーとして、いくつかの作品に携わりました。それらの開発が一段落したところで、ちょうど漫画事業が始まったのです。


――:漫画事業部はどのくらい前から発足したのですか。

ちょうど1年前からですね。発足のさらに半年ほど前から、渡邊(Cygames 代表取締役社長 渡邊耕一氏)から「漫画をやりたい」という話は出ていました。また、僕自身もやりたい気持ちはあったので、それまでのプロジェクトに一区切りついたところで動き出しました。そこからは編集者を集めて、作家を集めてと、本格的な人材確保に当たりました。


――:Cygamesの漫画というと、「サイコミ」での配信がメインになっていますよね。「サイコミ」の運営は当初から構想に入っていたのですか。

そうですね。現在はアプリとWebサイトの両方で閲覧できますが、最初からそれらを作るつもりでした。


――:なるほど。しかしまったくの新規事業ということで、作家さん集めなどにも苦労があったのではないでしょうか。

はい。クオリティの高い作品を提供するためには、良い作家さんが絶対必要ですので、作家さん探しは妥協せず行いました。私が描いて欲しい漫画家さんを集める形で、もともと編集スタッフとつながりのあった作家さんに相談したりしながら進めまして、あとはコミティアに出張編集部を出展して漫画を持ち込みに来ていただいたり、他の作家からの紹介だったりと、いろいろなケースで徐々に広がっていきました。
 

【連載マンガ(一部)】
『グランブルーファンタジー』(原作:Cygames 作画・監修:cocho 脚本・コンテ:楓月誠)

『ウマ娘 プリティーダービー ハルウララがんばる!』(作画:皇宇(zeco) ネーム:中山かつみ)

 『神撃のバハムート ミスタルシアサーガ』(作家:近藤るるる)

『あいどるスマッシュ!』(作家:TNSK)

『群れなせ!シートン学園』(作家:山下文吾)


――:そのようなことの積み重ねで徐々に事業部が立ちあがっていったというわけですね。ちなみに、先ほど、作家は「一緒に働きたい人を集める」と話していましたが、具体的な決め手はあるのですか。

やはり、お客様に対して良いものを届けたいという熱量を持っているかどうかというのが一番大事ですね。「サイコミ」は幅広い層のお客様に楽しんでいただける漫画アプリを目指しているので、ジャンルは偏らないようにできるだけ散らすことを意識しております。アプリで見るとなった場合、自分に刺さる作品がひとつもないと、起動されなくなってしまいますからね。なるべく多くの人に刺さるように、ジャンルを散らしていく考えです。ですので、どんなジャンルでもそのジャンルが好きな人が「コレだよね!」と楽しめるような王道なものを描ける方に来ていただきたいなと思っています。


――:現在連載されている作品をみると、やはり『グランブルーファンタジー』は人気が高い印象です。
 

漫画事業部は、そもそも『グランブルーファンタジー』のコミカライズ作品を作るというところから始めていますので、そこのクオリティ担保は最優先で行っております。今までも4コマ漫画などはありましたが、それらとはまた違った、本格的な内容で人気になっています。既存の『グランブルーファンタジー』関連作と比べても、クオリティは負けないように努めています。


――:『グランブルーファンタジー』も含めて、クオリティ管理で気を付ける点はありますか。

まず、ネームの段階で面白いかどうかは気を遣っているところです。ネームは漫画の基礎となる部分ですので、最初のチェックはブレないように心がけています。あとは連載という体裁をとっている以上、次回に期待が持てる終わり方をしているか、あるいは各話の入り方が盛り上がっているかはもっとも重要なところだと認識しています。


――:クオリティ管理という点では、スマートフォンやWebで見る漫画ならではの難しさもあるかと思います。

確かに紙面との違いはありますが、私たちとしてはあまり差を出さないように努力しています。横読みで、普通の雑誌と変わらない感覚で読めるようになっています。もちろん、紙媒体よりもフォントを大きくしたりといった、アプリならではの調整は施しています。
 

▲スマホ版では、縦読みと横読みを切り替えられる。

 
――:アプリの運営も部署内でしているとのことですが、UIはどのような点に注意して制作したのですか。

アイコンやボタンの位置など細かい調整がいろいろありました。また、苦労したと言えばトーンが荒れないように直すのも大変でした。そもそもトーン自体が印刷することを意識した技術ですので画面上だと大きな障害になりました。アプリ開発のときも、もっとも気を配っていた箇所です。


――:アプリの開発ももちろんですが、その他に、漫画事業をゲーム会社でやるメリットはありますか。

やはりゲームのコミカライズをするうえで、迅速に対応できる点は大きな魅力です。直接開発チームと会話ができるので、どんなストーリーにすればいいか、逆にどんなネタがNGなのかをすぐに知ることができます。加えて、『グランブルーファンタジー』に関しては4コマ漫画を描いているチームが最初からあるのも大きかったです。社内に経験のあるスタッフがいたからこそ、実現できた事業だと思います。


――:Cygamesはゲーム以外にも、アニメ事業なども展開していますよね。他の部署を巻き込んでのメディアミックスは構想にありますか。

それはもちろんです。最終的な目標はメディアミックス展開です。アニメ化以外にも、漫画を題材にしたゲーム化も面白いと思います。ただ、具体的な話はまだ何もないのが正直なところです。


――:さすがに始まって間もないサービスですからね。この短い期間ではありますが、ユーザーからの反響はありましたか。

漫画の内容、アプリの使い勝手共に良い評価をいただいています。特に『グランブルーファンタジー』は、既存のユーザーさんにどう受け入れられるか、不安な面もありましたが、好意的な意見をもらえたので一安心しているところです。

他の作品についても、徐々に人気が上がってきていると手応えを感じています。『群れなせ!シートン学園』『ブラザーフッド』『あいどるスマッシュ!』といった作品は人気が高いです。また、『255の5コマ』など日刊の作品も用意しており、そちらも多くの人に読んでもらっている状況です。



――:ちなみに、現在のところ掲載作品数はどのくらいになっているのですか。

現在は22です(インタビューした5月末時点)。そして年内には50本の掲載を目指してがんばっているところです。ユーザーさんからの意見を見ても「作品数が少ない」との意見をいただいています。私たちも22では少ないと感じているので、早急に対応していきたいです。


――:作品数の少なさ以外では、伊藤さんが課題と感じることはありますか。

一応『グランブルーファンタジー』があるとはいえ、柱となるオリジナル作品がしっかり評価されなければいけません。ただ、しっかりとした評価は話数を重ねないとされませんので、まずは着実に更新を重ねることが第一ですね。


――:やはり、オリジナルでもヒット作を生み出したい思いがあるのですね。

はい。とはいえ、ただ本数を増やしても、クオリティを伴わないと意味がありません。良い作品を生み出す作家との出会いにも期待しつつ、私たちも品質の管理を徹底していくつもりです。

 

■棚に並べる喜びは根強い ―― 書籍に対する並々ならぬ思いも


――:現在は無料で漫画を公開していますが、今後の展開についてはどのようにお考えですか。

しばらくはコンテンツを拡充していくことに集中する予定ですが、いずれは書籍化や電子書籍化の展開をしていきたいと考えています。アプリやWebは、なるべく多くの人に読んでもらいたいので、完全に無料で展開すると方針として決めています。書籍に関しては、年内に形にできればと考えているところです。


――:書籍化は伊藤さんにもこだわりがあるのですか。

やっぱり、最終的には紙で読みたいじゃないですか(笑)。それに、棚に並べる喜びも未だに根強いと思うんです。
 


――:そういったお話を聞いていると、以前から漫画が好きなことが分かりますね。ちなみに、これまでに出会った漫画で、特にお気に入りのものはありますか。

元々『魔法陣グルグル』が好きで、そこから漫画を買い始めたんです。『魔法陣グルグル』はアニメ化もされていて、その第2話を見たときに、「こんなに面白い作品があるのか」と思うくらい笑ってしまって。それで作品をもっと知るために雑誌も買って、他作品にも手が伸びるようになったのです。

その後は週刊少年マガジンも読み始めるようになりました。当時は『RAVE』とか『GetBackers』、それに『ラブひな』もありましたね。中学生の夏休みに古本屋で、開店から閉店までずっと読みふけっている生活を送っていました。



――:当時からそのくらいの熱量があったのですね。

当時は無自覚でしたけどね。気がついたら夜遅くになっている感覚でした。毎日そんな生活を送っているから、O脚になってしまったのかなと思っています(笑)。


――:ははは(笑)。しかし、漫画を読むきっかけである『魔法陣グルグル』は、確かに画期的な作品でしたね。

ゲームの世界観をベースにしていて、さらにパロディも入ってきますからね。当時のエニックスだからこそできた作品だと思います。


――:ちなみに、現在注目している漫画はありますか。

あまりにたくさんの作品を読みすぎていて、逆にどれを挙げればいいか分からないくらいですけど(笑)。最近読んだものだと月刊「少年シリウス」に掲載されている『アヴァルト』は、第1巻の時点で物語に惹きこまれて、「これからどうなるんだろう」とワクワクさせてくれました。第1話は面白くても、そこから持続しない作品が多い中、『アヴァルト』は続けて読むことを意識していているように感じました。王道の作品で言うと『ブラッククローバー』とか、『火ノ丸相撲』も好きですよ。


――:事業部にもたくさんの雑誌が積み上がっていそうですね。

読むことも勉強ですし、今どんな漫画が流行っているかを追いかけることも大切ですからね。それに、家に置いておけないくらいのボリュームになってきたのです(笑)。そもそも漫画大好きですし、編集陣から上がってくるネームがちゃんと面白いかの判断もできないといけませんので。私は漫画事業部で一番マンガを読んでいると思ってますので、そこはブレないようにしてます。


――:採用面についてのお話も聞かせてください。現在もスタッフの募集をしていますが、伊藤さんはどんな人物を求めていますか。



始まったばかりの部署なので、当然実務経験がある方、そして普段から漫画を呼んでいる方が望ましいです。あとは作りたいものがはっきりとしていると、働きやすいと思います。


――:職種としては、基本的に編集者になるのですか。

そうですね。しかしそれ以外にもネームがかける漫画家と、ストーリーを作れる原作者も探しているところです。特に連載漫画特有の盛り上げ方を知っている原作者は貴重な存在です。


――:漫画家については、持ち込みも受け付けているんですよね。

はい。持ち込みでも、同じチームとして働きたい、と思えるような熱意の高い方に是非たくさん来ていただきたいと思っています。


――:分かりました。最後に、漫画事業部の展望があれば教えてください。

まずは年内に50作品の掲載と、単行本を発売が大きな目標となります。また、プロモーションの一環で「サイコミ」の雑誌を作ったのですが、そちらの評判も良かったので、紙方面へのアプローチは考えています。事業部全体として、サイコミを通じて社内のIPをどんどん強くしていき、いずれは「サイコミ」の漫画をゲーム化などという展開もしていきたいと思っています。


――:ありがとうございました。
 
(取材・構成:編集部  原孝則)
(文:ライター  ユマ)


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