【上期総括】マイネット上原社長インタビュー「しっかり作ったゲームが評価される安全な市場」「開発と運営の役割分担が明確化、セカンダリー市場の位置づけが変わった」
スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016年上期振り返り」。今回はマイネット<3928>の上原仁社長にインタビューを行い、上半期のスマートフォンゲーム市場とともに、同社としての取り組みを振り返ってもらうとともに、下半期の展望について語ってもらった。
――:よろしくお願いします。最初にスマホゲーム業界の2016年上期を振り返って率直な感想をお願いします。
一言で言うと安全な市場になったように思います。2014年後半から2015年いっぱいまで、良いものを出しても売れない、何をやったら良いのかわからないという感じでした。2016年に入ると本当に面白いものを作れば、しっかり評価されるという意味で安全な市場になったと認識しています。
2015年末までIPを使ったタイトルでなければダメだ、コンシューマ出身の会社でないと生き残れないといわれました。それが2016年になると、SAP系の会社が復活し、オリジナルおよび女性向けタイトルの台頭により、ボラティリティーが収まり、ヒットを狙いにいってヒットさせられる市場になってきたと思います。
総称して「安全化」、つまり市場として適切な状況になったと思います。しっかり事業として、計算できる市場になりました。
――:セカンダリー市場に目を向けると、引き続き成長しているのでしょうか?
はい。引き続き成長しています。案件が引きもきらない状況は変わっていません。例えば、直近ですと「サムライキングダム」を買い取りましたが、買取価格が億を超えるタイトルも市場に出るようになっています。
これは売上が一定のラインを切ったらセカンダリーへという判断基準を持つ会社が増えてきたからだと思っています。数字が悪化したからクローズかセカンダリーに持っていくということではなく、人員を再配置するためにマイネットに…と言ってもらえるようになりました。
――:以前は少し状況が違ったのでしょうか?
はい。弊社が買い取っていたタイトルに関しては、こちらから営業活動をして獲得していたため月商5000万円を超えるタイトルが多かったのですが、インバウンドのタイトル、つまり買い取ってくださいとお声がけいただいた案件に関しては、どうにもならないタイトルが多かったです。
最近では、セカンダリーマーケットにも、改善の余地が十分あるタイトルが流入してきています。月商1億円を超えるタイトルの再成長を図ることも可能ですし、逆に、5000万円を下回るタイトルであっても当社がリビルドすることでまだまだ利益が出せるようになります。
この背景として、業界内で役割分担の認識が浸透したことがあります。ゲームメーカーは、組織マネジメントを行う上で、先ほどの安全化の話に繋がるのですが、計画的にタイトルに投資するようになりました。そして新作を当てるというメーカーとしての企画・開発の機能と、運営の機能を別のものであると認識するようになってきたと思います。この運営の機能に特化した事業をマイネットではゲームサービス事業と位置づけています。
また、市場がどんどん拡大するという時期ではありませんから、おのずと雇用の数、つまり会社の規模を拡大するという時期でもなくなっています。そうなると当然、人員の再配置、つまり開発したタイトルをいつまで担当して、どのタイミングで離れて次のサイクルの開発に入るか、という人材のサイクルを強く意識するようになっています。
市場が拡大している時は、タイトルを作るだけ人を増やすという状況でした。現状では、例えば、1タイトルあたり5億円、年に5タイトルやっていく上で必要な人員数はすでに揃ったというところも多く、それを役割に応じてサイクル化して回していく状況にあるようです。
サイクルで回していく上で、例えば、サービス開始から半年~1年過ぎたタイミングで、人材の再配置として運営のプロフェッショナルに引き継ぎたいというニーズが高まっています。
――:リビルドによる付加価値はどうやって出すのでしょうか。
当社は21タイトル(2016年6月現在)運営していますから、ある種の集約効果が生まれます。例えば「CroPro(クロプロ)」はそのうちの1つで21タイトルに加えて80社の皆さんと一緒に相互送客の集約効果を出しています。相互送客の集客によって、ゲームメーカー単独だと死んでいたタイトルの寿命を長くすることができています。
また1人の人気キャラクターを多数タイトルに登場させることで、キャラクター領域でのコストはかからないのにユーザーバリューを高くすることができ、ローコストハイリターンの状態にすることもできています。
これ以外には、自動化ツールを多数開発しており、今までメーカーでは手動で行っていた運営業務を弊社では自動化することでローコストも実現しています。自動ツールのメリットも多数のタイトルを運営しているからこそ可能になっていることです。
相互集客やキャラクターのアセットの有効活用、データドリブン、自動化などを行い、ゲームサービス事業としての付加価値を高めていくことで、結果的にゲームメーカーに売却時の利益確定額をより高めることが実現できるようになってきています。
これらは運営特化している事業者だからこそ出せている付加価値です。付加価値が高まることによって、タイトルを買い取る時に出せる値段をより高く設定することができ、ゲームメーカーさんはその値段なら売ろうかと考えるようになっていると思います。
――:ゲームサービスの市場に算入される会社も増えてきていますが、その影響などはいかがでしょうか?
答えは、ほとんど影響ありません。自社プラットフォームタイトルに注力されているDeNAさんやグリーさんは経済合理的と思いますが、直接の競合に当たる新規参入された他社さんは難しい状況と聞いています。移管と運営に関して、本気でこれしかないと思いながら、プロとしての誇りを持つという意識が醸成できていないとできません。すごく泥臭いですし、大変です。人員に関しても、チームアップするときに人事におけるコントロールは重要です。
当社は、現在、350人の社員が在籍しているのですが、過去の経験やスキルなど情報をデータベース化し、柔軟な人員配置を行っています。そして、社員が誇りを持って移管と運営ができるようにしています。人員が余っていたからそのチームを作ったという意識や、本当は新作を作りたいという考えを持っている人ですと、特にモチベーションの面から移管の時の大変さに負けてしまう傾向にあります。
――:決算説明資料だと上期はいわゆる投資の時期ということでしたが、タイトルの買い取りは順調に進んでいるのでしょうか?
はい。上期は、月1本ペースで買取を実現しており、6月1日時点で2016年の買取タイトル数は6タイトルになりました。
――:そもそもの疑問なのですが、御社がセカンダリーのサービス運営に特化された理由を聞かせてください。
それは運営が得意だからです。当社は、創業以来、インターネットサービスを8年間、提供してきましたが、ずっと変わらずやり続けたことは、PDCAに基づく運営になります。この部分だけは他のゲーム会社には負けないですし、当社の強みになっている、という仮説がありました。
仮説検証のため、2年前にセガさんと提携し、「ドラゴンコインズ」を預かりました。そこで実際に運営をするとセガさんがやっていた時よりも良い数字が出ました。仮説の検証もでき、運営だけなら世界のセガにも勝てるという自信がつきました。さらにグリーさんの「ドリランド 魔王軍vs勇者」も成功し、タイトルが増えていきました。運営が得意という仮説は確信になりました。
運営という強みを活かして、ポジショニングを確立してくためのビジネスモデルは何かと考えた結果がゲームの買い取りでした。最初にイグニスさんのネイティブタイトルを適切な値付けを行い、買い取りました。幸い当社には金融業界出身者が多く、適切な値付けでリスクマネジメントできたこともあり、うまくいきました。これなら本当にいけるということで2014年末に7億円の資金調達を行い、その資金でgumiさんの3タイトルを引き受けました。
さらにセカンダリーに参入した理由としては、運営が好きで得意だから、でもあります。運営が好きとはどういうことかというと、社員1人1人のやりがいの源泉というお話になってきます。我々のやりがいの源泉は、お客様に喜んでもらえたら嬉しい――それがやりがいであるという点にあります。あくまでお客様ありきです。
それに対して、メーカーのクリエイターのやりたいことは、面白いゲームを作りたいとなります。面白いゲームとは何かというと、主観になると思います。自分が面白いと信じるゲームを作ることをモチベーションとして、それが世に出てお客様がついていく…本当にクリエイターとしての尊いあり方だと思います。
――:下半期の見通しについてお聞かせください。
基本的には「安全化」が進行し、より綺麗な市場になっていくと思います。つまりボラティリティーが低くなり、面白いものが評価される市場です。ただしご存知のように、開発にもマーケティングにも一定のお金が必要で、新規参入のチャンスはもう少ないでしょうね。
お金も人員も潤沢で、狙ってヒットを出せる会社は多くて20社となり、その20社が安定的なビジネスを展開できるマーケットになるでしょう。同時に、手前味噌ですが、20社が安定的に収益をあげられるスマホゲーム市場において、なくてはならない存在になるのが、ゲームサービス事業者として、運営をプロとしてやっていく当社の目指すところです。
つまり、20社は、リリースして一定期間経過した既存タイトルをマイネットに売却することで利益確定するとともに、そこに割り当てていたエース級の開発者を再配置して次の新タイトルの開発に集中できる。一方、買い取ったタイトルは、マイネットがしっかりと運営して長期間にわたってお客様にワクワクを提供する。マイネットは、そういった良い循環を作るための「出口」を提供する存在として、成長していきたいと思っています。
――:ある程度収益の出ているタイトルでも、エース級の人材を運営にいつまでも割り当てているわけにはいかず、かといって人も増やせないとなると、運営をやってくれる会社に任せたいと考えることは自然の流れだと思います。
はい。かつての運営受託では、受託する側は人数を削ってコストを減らす以外の方法がなく疲弊していました。当社は、運営を引き受けるときに買い取ることで金銭的なリスクを負い、その分、自分たちの工夫で付加価値を付けて収益をあげていくというビジネスモデルを作りました。これはかつての運営受託時代にあるような、人月受託の場合は絶対に成立しません。
――:なるほど。いままでのお話をお聞きして思ったのですが、少し大袈裟な言い方かもしれませんが、産業構造を変えたと言ってもいいかもしれませんね。
ありがとうございます。「我々はまさに産業構造を変えているんだ。だからゲームサービス企業として誰にも負けない存在になるとともに、ゲーム産業になくてはならない産業のインフラになろう。そして、そのことに誇りを持って、お客様に価値を提供していこう」というのが、メンバーに共有している日々のメッセージです。その意味で、産業構造を変えたと言っていただいたのはとても嬉しく思います。
――:ありがとうございました。
(編集部 木村英彦・協力 森山晃義)
会社情報
- 会社名
- 株式会社マイネット
- 設立
- 2006年7月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 岩城 農
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高87億1700万円、営業利益1億6800万円、経常利益1億2500万円、最終利益1億4300万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3928