【インタビュー】作りたかったのは”和製ゴッドゲーム"『戦国アスカZERO』の企画の狙いをORATTA代表 今井氏に聞いた(前編)


2015年12月に配信が開始され、現在、80万ダウンロードを突破した『戦国アスカZERO』を筆頭に、『BLEACH 卍解バトル』や『クロリス・ガーデン』といったタイトルを生み出しているORATTA。『戦国アスカZERO』では、リリース約1ヵ月で一時は売り上げランキングが50位前後まで上昇するなど、オリジナルのネイティブアプリとして健闘している。
 
本稿では、ORATTAの代表取締役 今井勇樹氏にインタビューを実施。前後編の2回に渡って、『戦国アスカZERO』の話を中心に、現在、同社で求めている人材や、少人数で高クオリティなゲームを作るために施されている工夫など、様々な方面から伺った話をお届けしていく。
 

株式会社ORATTA
代表取締役
今井 勇樹
 

■クリエイティブを駆使して「ゴッドゲーム」の遊び味を表現

 
――:本日はよろしくお願いいたします。まず始めに、『戦国アスカZERO』企画発足の経緯をお聞かせください。
 
今井勇樹氏(以下、今井):ORATTAでは、年間2~3本の新規タイトルを内製で企画・開発しています。その一環として、元々ブラウザゲームとして運用していた『戦国アスカ』を、装い新たにネイティブアプリとしてリリースしたいという企画が立ち上がったのがきっかけですね。
 
――:『戦国アスカ』を題材に選ばれた理由はどこにあったのでしょうか。
 
今井:今回、日本ではまだ馴染みのない「ゴッドゲーム」と呼ばれるジャンルにチャレンジしました。その際に、ゲームシステムや戦国という世界観がフィットしたので『戦国アスカ』を選びました。

――:「ゴッドゲーム」がどういったものかご説明いただいてもよろしいでしょうか?
 

今井:端的に言うと、『神様の視点で遊ぶゲーム』のことです。具体例としてはピーター・モリニュー氏の『ポピュラス』などですね。
 
例えば、箱庭系のゲームなら、資材やお金を集めて自分で建物を建てたり、ゲームの世界に積極的に介入しますよね。『手間暇をかけて、自分の街や国を大きくする』のが箱庭ゲームだとすると、ゴッドゲームは逆に介入できない。プレイヤーは神様なので、人間に文化を築くきっかけを与えるぐらいで、指定したものを作ったり、それをどこかへ持って行って加工したりという手間暇はかけません。個人的な解釈になりますが、あえて介入性を少なくすることで、バタフライエフェクト…ちょっとしたアクションが世界に大きく影響を及ぼす面白さを表現したのが、ゴッドゲームなのかなと思っています。
 
『戦国アスカZERO』も、国づくりにプレイヤーは介入できません。『実際に建物を建てるのは住んでいる町民だ』というコンセプトのもと、プレイヤーはあえて何もできないようにしています。本作でプレイヤーができることは、『新しい仲間を連れてきて国に住んでもらうこと』と、『その人たちと会話をして可愛がり、国に対するロイヤリティ「忠誠度」を引き上げること』だけです。その結果、これまでの箱庭ゲームにありがちな煩わしさはなくなって、見た目と違う遊び味が提供できています。



▲武将たちは自主的に建物をたてていく。
 
――:実際にプレイしてみて、町民によって建物がどんどん建っていく感覚はかなり新鮮でした。
 
今井:実は、ユーザー様から「建物の種類や位置を自由に組み合わせたいです」という問い合わせも数多くいただきます。もちろんそのお気持ちは深く理解しているのですが(笑)『戦国アスカZERO』は箱庭ゲームではなく、自分が連れてきた仲間たちが主人公のことを好きになって国を作っていくという様子を、丸ごと愛でるゲームですので。
 
――:そういった意味では、ひとつひとつにあえて介入できない分、多彩な要素が盛り込まれている印象を受けましたが、その辺りは意識して作られたのでしょうか?
 
今井:そこは工夫しましたね。『戦国アスカZERO』は、弊社の他のアプリと比べてもリターンレート(継続率)が非常に高くなっています。その理由として、多彩なコンテンツが『徐々にアンロックされていく』設計にしたことが挙げられます。ゲームが進むほどユーザー様の習熟度も上がってきて、どこかで「もうちょっと深く楽しみたい」、「飽きてきたな」と感じるタイミングが訪れますよね。従来の弊社のゲームは、「飽きられないように、バトルのやり込みを深掘りしたり、高難度クエストを追加しておく」といった、いわば縦方向の設計であったのに対して、本作は新たな遊び味のコンテンツが横に増える設計になっています。

そのうえで、古くなったコンテンツは触らなくても問題がないようなバランスになっているので、最初からいっぱいあってやることが分からないということはありません。ユーザー様が、もうちょっとこのゲームを知りたいと思ったタイミングでコンテンツが増えるよう設計していることが、高い継続率に繋がっているのかなと思います。

 

 
――:コンテンツの量を見ても、企画が大変だったかと思いますが、実際はどうでしたか。

今井:実質、開発期間は10カ月ほどでリリースしているのですが、実はその前の半年で開発したものが1度ボツになっています。「広がっていく楽しみ」を前提にゲームを設計し直したとき、最初の企画は合わないと。そういう意味では、企画の初期段階では時間をかけました。
 
あとは、オリジナル作品ですので、集客が課題になることが分かっていました。IPのように「固定ファンがいて、リリースした瞬間に数万人のDAUを確保」というわけにはいきません。まず、いかに認知して頂くか。とはいえ、プロモーション費用も無限ではない。
 
このゲームの独自性は「ゴッドゲームであること」なので、それをプロモーションで活用できるように、「城下町がインパクトがある絵になるようなプロダクトづくりをする」というのが開発の軸になりました。


――:まずは見た目のインパクトを重視してユーザー獲得を狙ったと?
 
今井:そうですね。ORATTAが大事にしている企画マインドのひとつに「クリエイティブファースト」があります。ゲームとして面白いものを作っても、そもそも手に取ってもらえないリスクが、オリジナル作品にはつきまといます。そういった状況を打開するためにも、「どれだけ絵力の強いものに仕上げるか」という点を重視しました。


▲SDキャラたちは、城下町を自由に動きまわる。

今井:ゴッドゲーム要素は、触ってもらえれば新しい感覚が面白がられるだろうと思ったので、可愛いSDキャラを撫でると喜ぶ、画面を全体に引くと鮮やかな色合いの戦国城下町が見える、という風に、分かりやすくてとっつきやすい絵面を目指しました。
 
――:プロモーションについては、どういった施策が練られていたのでしょうか。
 
今井:プロモーションは、オリジナル作品であることや弊社の会社規模を考えると、かなり積極的に行っている方かと思います。『戦国アスカZERO』では、広告を出稿する際にかかった費用を回収する率、いわゆる「ROAS」しか見ないようにやり方を一新しました。

それまでは、CPIや継続率など、複合的な要素から戦略を立てていたのですが、それらは予算上はブレーキ要素になることが多いですし、どうしてもPDCAのスピードが遅くなってしまっていました。今は、どの広告媒体にも出稿し、良し悪しはROASのみを見ています。

具体的な話をすると、数十種類ある広告手法を大きいものから小さいものまで、1週間ごとの投資回収率で一元管理しています。投資回収率によって広告をランク付けし、ランクごとの総予算で管理しています。1番上のランクなら投資してもすぐに回収できるという保証があることから、予算を決めず積極的に投資しています。ROASしか見ていないので、非常に速いサイクルで広告の改善ができています。現在、売り上げの大半を広告費に充てていますが、一ヶ月で7~8割は回収できているのでかなりアグレッシブに動けていますね。

 
――:ゲームの運営に関して何か心がけておられることはありますか?
 

今井:大きく分けて2つあります。ひとつは、ソーシャルゲーム運営会社らしいところで、ユーザー様の資産状況に応じたコンテンツを提供するというところですね。データを分析して、プレイスタイルや所持キャラ数などに合った遊び味のコンテンツを提供する、ということをしています。

もうひとつは、すごく感覚的なところですが、「見た目の変化や王道感」を重視しています。もともと複雑なゲームジャンルですし、何かキャッチ―なものを使って表現しないと伝わらないなと。そこで登場したのが、SDキャラクターの「動き」でした。1キャラずつ全てオーダーメイドで作っているのですが、奥義や必殺技のモーションが被らないよう、少しでも驚きがあるようなアニメーションを作れるよう心掛けています。

 

▲武将固有の技モーションは、どれも美麗。

――:ユーザーからの反響はいかがでしょうか?
 

今井:ユーザー様の多くが、『戦国アスカZERO』を一つのIPとして捉えて頂いているのを感じます。キャラクター同士のつながりや裏設定など、アプリ内では語られていない情報をもっと知りたい、というご意見を頂きます。これは運営チームとしては、本当に嬉しい話です。我々としても、もっと世界観に没入して頂くためのコンテンツを増やして、IPと同じような懐の深さや奥行きを出していかなければいけないと思っています。
 
――:IP化という意味では、マルチメディア展開についても考えられそうですね。
 
今井:メディアミックスもやりたいですね。また、6月21日からはTOKYO MXでTVCMの放映を開始しています(関連記事)。TVCMのクリエイティブについては、集客よりファン作りをしたいという想いがあり、キャラクターの魅力を別の視点で面白おかしく説明しています。ゲームの中身同様、横の展開を広げて懐の深さを見せていきたいですね。
 
【『戦国アスカZERO』TVCM「たわけ」編】

 
――:そのほか、マネタイズについて工夫されている点などお聞かせください。
 
今井:マネタイズの軸足は、キャラクターを入手するガチャになります。これもゴッドゲームの発想なのですが、本作は「どこまでもキャラクター入手が嬉しいゲーム設計」になっています。60人持っているなら60人全員必要になるし、61人目が入っても同じように嬉しい、という風にしたいというコンセプトがありました。弊社は長期運用タイトルを複数保有しているのですが、長く遊んで頂いているユーザー様ほどアプリ内資産が潤沢になります。そうすると、「最上位レアリティのキャラを5人引いた時点でガチャを引く理由を失う」ということが起きます。運営側としては、やむを得ずさらに強いキャラを投入することになり、アプリ内のインフレが進んでしまう。この問題に、弊社も長年悩まされてきました。

今回のコンセプトは「和製ゴッドゲーム」なので、殿様視点で見たときに、古くからいる武将と新しく入った武将に価値の差があるのはコンセプト的に嫌だなという想いが強くあり、『戦国アスカZERO』のバトルシステムの多くは、ユーザーの資産をフル活用するゲームにしています。例えば、レイドボス機能では、自分が所持している武将を全てボスに対して使用できます。5人しか持っていなければその5人がやられた時点で終わりますが、60人いるなら60人全員を使ってボスの討伐に挑めます。新旧の価値がフラットになるようなゲームコンセプトがあるので、設計にこだわりながらインフレしないことに注意しています。



▲レイドボス戦では、なんと所持キャラ全員で戦える。
 
――:要らないキャラがいないという点は、先ほど仰っていたユーザーの持続率にも繋がっている気がします。
 
今井:「無料で手に入るハイノーマルがイベントで使えるアプリは初めて見ました」というポジティブなご意見はたくさんいただきました。ゴッドゲームのコンセプトをバトルや箱庭に浸透させることで、ユーザー様にどこを切り取っても『戦国アスカZRRO』はこういう考え方だから安心できる、と思っていただければ幸いです。
後編では、少人数で高クオリティなゲーム開発を維持するために練られた工夫についてのエピソードなどをお届けする。こちらは後日掲載。

 
(取材・文:編集部 山岡広樹)


 
 ■『戦国アスカ ZERO』

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2010年7月
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