パシフィコ横浜において開催された「Computer Entertainment Developers Conference 2016(CEDEC2016)」で、カプコン技術研究開発部技術開発室・高原和啓氏による「『バイオハザード7 レジデントイービル』におけるVR完全対応までのみちのり、歩みの中の気づき」と題する講演が行われた。
PlayStationVR向けの技術デモ『KITCHEN』を公開し、それが『バイオハザード7 レジデントイービル』と明かされて、VRに向けて力を入れているカプコン。やはり気にかけているのは「VR酔い」やVR作品への継続性だ。故に今講演では、プレイヤーが実際にどう遊びどう感じるかにも焦点をあてていた。
現在新ゲームエンジン「RE ENGINE」の開発コアメンバーとしてC++ライブラリの設計・開発・VRデバイスの研究を担当する高原氏は、「VR完全対応」が恐らく世界初の試みだと言いつつも、「他社さんが(先んじて)VRコンテンツを発表するたびにドキドキしている」と冗談を交えながら語る。
「VR完全対応」とは、本編を最初から最後まで、PlayStationVRを装備した状態でプレイできる事。この完全対応について、「実は誰もやりたくないないでは?」とも考えていると同氏。その理由は、VR専用タイトルを作るより、VR対応タイトルを作る方が難しいと言われているためだ。また、VR完全対応のものだと高いコストがかかる事も懸念される。
■『KITCHEN』を土台にした『バイオハザード7』
エンジンとタイトルを同時並行開発していた『バイオハザード7』は、2014年の1月からVRを組み込む企画はすでにあったのだが、VR完全対応が求められたのは2015年10月。そこで「バイオ7を全部VRに対応させよう」と決まったとの事。
1年9ヵ月間開発の進んでいたタイトルを、「システム・アート・サウンド・ゲームデザイン等々、配信済み体験版とほとんど変わらない要素が実装済みの状態からVR完全対応にしなければならなかった」という苦労は察するに余りある。
ここから開発チームのミッションが、「VR未対応のタイトルをVR完全対応のタイトルに変更する」というものに変化したのだ。
ある意味転機となったのは、VR完全対応が本決まりする前、2015年の6月の事。E3でデモプレイできた『KITCHEN』である。この『KITCHEN』はバイオを発表できない当時に行われたバイオの技術デモであり、意図・目的とするところは次の三つ。
一つは「VR+ホラーでどこまで恐怖を演出できるのか、VRの恐怖演出をユーザーはどう思うのか」を「恐怖体験の検証」とする事。もう一つは、「小さいプロジェクトからノウハウを蓄積していく」という「VRタイトル開発の基礎検証」。最後に、「RE ENGINEにPlayStationVRを対応させる」という「開発環境の整備」である。
「KITCHENによる基礎検証」を、E3に出展してフィードバックを得て、『バイオ7』のVR完全対応に組み込んだ形だ。その『KITCHEN』のスペックは、1080p、リプロジェクション120Hz。PlayStationVRのHMUとDUALSHOCK4をトラッキング。ショウ向けの工夫として、約3分のホラーショウを展開、全員に同じ体験を促し、謎解きやゲーム世界への干渉はなしというもの。
プロモーションとして選ばれたのは、「画像や映像ではなく、ユーザーのリアクション」だ。何が見えているのかを知りたいという欲求を促す目的がある。なお、今会場では高原氏によるPlayStationVR実機を用いた『KITCHEN』デモプレイが行われて、ラストに刺し殺されるところまでしっかり楽しんだ。
■VR疲れによるコンテンツ・デバイス離れ
VR開発者なら誰もが気にする事柄、それがコンテンツに対するVR疲れだろう。高原氏もそこに触れ、VR疲れの要因はVR酔いと眼精疲労にあると指摘。
VR酔いは、環境に対する視覚情報の錯覚「ベクション」が主な原因で、眼精疲労は左右の映像が立体視を表現する以外の違いがある時のステレオ違反、深度を無視して描画されたオブジェクトが他のオブジェクトと重なってしまった時などの深度違反、解像度の低さや焦点距離の急激な変化などが考えられる。
同氏は続けて「VR疲れはVRゲーム離れを起こし、それがVRではないゲーム離れやVRデバイスそのものへの忌避へと転じる」とも語る。開発者が気にかける事はここであり、ただゲームが面白ければいいのかと問われたらそうではないという。VR疲れは蓄積されるダメージ。それをそのままにして平気でプレイするユーザーはごく少数なのだ。
しかしこの「VR疲れ」は慣れるため、日常的に触れている開発者はどんどん耐性が高まる。無意識の内に疲れにくい操作や自分なりの方法を編み出すものなのだ。酔う酔わないは個人差が多きく、「自分が大丈夫だから他人も大丈夫」は間違っている。実際に高原氏もVRに弱く、実は筆者もすぐVR酔いするタイプ。ではどうすればいいのか?
まず大事なのは「VR疲れは知る事から!」で、先ほどの原因を知り、対策を練る事。そして「センサーを養う事」だ。自分だけの判断ではなく、コンテンツがVR疲れを伴うものなのかどうかのセンサーを最大にする。最後には高い「品質管理体制」が求められる。開発チーム内でのチェックプレイに始まり、社内の品質管理部門、社外の品質管理サービスなどをフルに活用してクオリティを保つ事が大切だと語った。
■歩みの中の気づき
ここからは、『バイオハザード7』のVRライブデモを実施。
再び高原氏がPlayStationVRをセットして実機プレイを披露する。通常のゲームプレイ時の操作性とVRの操作性はかなりの差異があり、移動速度もNonVRで約6.1km/h、VRだと約4.2km/hとなっている。移動速度に補足すると、左右に壁がある状態で移動すると背景の動いている感覚が目に入ってくる情報より思った以上に多いので、加速しているような印象を受けるとの事。体感的な速度を落とすためにパラメーターを調整しているそうだ。
またアイテム用のイベントリ画面もVR用にしていて、3D上で浮いているようなものにしていた。冷蔵庫を開ける場面では、NonVRの場合手が出てイベント進行となるが、VRではそのまま。酔ってしまう要素は極力除外されているためだ。
VRと通常の違いは他にもあり、例えばしゃがみモーションは0.5秒の感覚でしゃがんだり取ったりするが、VRは0フレームで動かしているなど、細かいところまで微調整がなされており、「VR酔い・VR疲れ」に対する配慮が最大限になされていると感じた。
高原氏からのまとめは次の通り。
1.途中からのVR対応は大変!
⇒ 「カメラを2個置けばとりあえずVR」ではない。ほとんどの要素に手を入れる事になる。
2.VR、NonVR両対応は……
⇒ 二つのゲームを同時開発しているようなものですよ。
3.思い切ってあきらめるのも必要!
⇒ イベントをカットするなど。
4.考えるより、試す!
⇒ 何が酔うのか酔わないのか、正解はない。タイトルごとに手法も異なる。
5.既存の手法に惑わされない
⇒ 非推奨と言われているもの中に答えがある事も。
「我々もまだまだこれから、紹介できなかった要素・工夫・調整などをしつつ、これからもアイデアを共有し挑戦していきましょう」とスライドは締めくくられた。
■講演後の高原氏に直撃インタビュー
――:『KITCHEN』や『バイオ7』を体験できる場所はありますか?
高原:これまでも主要な都市でやっていました。今年のE3で出展はしましたが、一般の方が体験できる場所は設けていません。しかし体験しないと分からないところが非常に大きいので、実際に体験してみて、「ゲーム内容、VR完全対応に不安な部分はないな」と実感していただきたいですね。
――:私もVR酔いしやすいタチでして。大丈夫でしょうか?
高原:「VR酔いが強い」と言われた事もあったんですが、これも先ほどの講演の中でお話ししたように、開発メンバーが慣れすぎて、調整しきれていなかった部分があると思うんです。現在は社内でもVR酔いに対する周知がなされており、取り組みも変わりました。
そういった自信も込みで、是非体験していただきたいんです。動画サイトやスクリーン越しではなく、PlayStationVRを装着して楽しんでいただければ!
敵に足を引きずられる、ダメージを受けるといった、通常のゲームでは使われている事が使えない。ではどうしようかという部分からも、日々調整を続けています。
――:映画的な手法も取り入れているのでしょうか?
高原:最近のFPSの映画で演出上カメラが揺らされていまして、どう工夫して「酔い」を抑えているのか、そんな事も調べて取り入れています。VRと言われているもの全部から情報を得ていますよ。やはり酔ってしまったらユーザーが離れてしまうので、そうならないように気を付けています。
――:VRにとって環境音は大切だと伺いました。
高原:環境音についても一カ所から出すのではなくて、窓に近付いたら窓の外に降っている雨の音が大きくなって、離れれば消えて……そんな事をしています。また、ホラー作品ですから、音声にラップ音が入ってるんです! 私自身も先ほどのプレイ中に音がして、「何の音だ!?」と見てしまったんですが、あれは演技ではなくて思わず見てしまいました(笑)。「なんかミスったのかな?」って。それくらい、自然に聞こえていましたね。
――:では、最後に皆さんに向けてコメントをお願いします。
高原:PlayStationVRが発売された後にどれくらいコンシューマー業界が盛り上がるか気になりますし、それを盛り上げたい一員でもありますので、皆さん期待してください!
(取材・文:ライター 平工泰久)
■『バイオハザード7』概要
最新作『バイオハザード7 レジデント イービル』は、シリーズのルーツである「恐怖」をメインコンセプトとし、ホラー性の深化に焦点を絞ったタイトル。圧倒的な没入感溢れる恐怖体験を提供するため、従来の三人称視点(TPS)から一人称視点(FPS)へゲームシステムを革新したほか、PlayStation®VRへの完全対応も予定。
また、今作のためにカプコン社独自に開発した最新のゲームエンジン「REエンジン(アールイーエンジン)」により、ハードスペックを最大限に引き出し、実写映画に匹敵するフォトリアルな表現が可能になるなど、世界最高峰のホラーエンタテインメントを生み出すべく、充実の開発体制で鋭意開発を進めているという。
プレイステーション4、Xbox One、PC向けに、北米および欧州では2017年1月24日に、日本では1月26日に発売予定。
■BIOHAZARD 7 resident evil(バイオハザード7 レジデント イービル)
対応ハード:PlayStation®4、PlayStation®VR、Xbox One、PC
発売日:2017年1月26日予定
希望小売価格:
パッケージ版:7,990円+税
ダウンロード版:(PS4)7,398円+税/(XboxOne)7,400円+税/(PC)7,398円+税
プレイ人数:1人
ジャンル:サバイバルホラー
■関連サイト
対応ハード:PlayStation®4、PlayStation®VR、Xbox One、PC
発売日:2017年1月26日予定
希望小売価格:
パッケージ版:7,990円+税
ダウンロード版:(PS4)7,398円+税/(XboxOne)7,400円+税/(PC)7,398円+税
プレイ人数:1人
ジャンル:サバイバルホラー
■関連サイト
会社情報
- 会社名
- 株式会社カプコン
- 設立
- 1983年6月
- 代表者
- 代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1524億1000万円、営業利益570億8100万円、経常利益594億2200万円、最終利益433億7400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 9697