『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。
■第6回「オリジナルのゲーム作りで大切なこと」
こんにちは!
「君の名は。」のヒットがすごいですね。映像としての美しさはもちろんですが、新海監督の作品によく出てくる時間の概念や恋愛要素など、個人的に好きな要素がたくさん詰まっていてとっても面白かったです。この規模のヒット作は久しくなかったのでとっても刺激を受けました。仕事がんばろう。
さて、今回は2010年頃のお話です。
<2010年>
完全にスマホアプリのプロデュースにシフト。この辺から『ミリオンアーサー』の企画を考え始める。世界観・シナリオの作成を人気ライトノベル作家の鎌池和馬さんに相談しにいったり、開発会社を探したり。加えて『FFT獅子戦争』のiOS移植も開始。
この頃から僕は完全にスマホアプリのプロデュースに専念。スマホアプリ黎明期ということで、攻める企画と手堅くいく企画と両方を進めていました。
攻める方はオリジナルの世界観で当時のスマホ市場においてジャンル的にも新しかった『拡散性ミリオンアーサー』。手堅い方は売り切りの『Final Fantasy Tactics 獅子戦争』のiOS移植。これらはオリジナルとIPモノという区切りでもあるので、それぞれのプロデュースにおける大事な点について書いていこうと思います。
■まずは「テーマ」探し
これは以前の記事でも何度か書いていますが、オリジナル作品においては「テーマ」が一番大事です。そのゲームの看板ともいえるもので、お客様はこのテーマが琴線に触れるかでプレイするかどうかの検討を始めます。そういう意味では、キービジュアルなんかでどんな世界観なのかが一発でわかるテーマだと伝わりやすいですね。
当時の僕はそもそもテーマが大事であることや、そもそもどうやってテーマを考えればいいのかわかっていませんでした。そんな中、当時の上司の渡部さん主導で、週1で「面白いと思うテーマをプレゼンし合う会」を実施。この会を重ねる中で、他の人のプレゼンを聞きながら、テーマの絞り方に慣れていきました。実は、その中で僕がプレゼンしたテーマの一つにアーサー王伝説がありまして、それが後の「ミリオンアーサー」になります。
■個人的なクリエイティブ活動はおすすめ!
また、これはどんなプロデューサーを目指すかによって賛否あるかと思いますが、簡単なゲームやアニメ、本などを自分自身で作る経験をしてみることも大事です。この頃僕は同じ部の先輩たちと一緒にそういった作業をして見せ合ったりしていました。たぶんこの活動がなければ今の僕はなかったです。そのくらい、仕事に対する刺激を受けました。
この活動の何がポイントかというと自分の強みを持つことの重要性に気づき、モノづくりに慣れることだと思います。
成熟した市場では特に顕著ですが、世の中には似たような企画が腐るほどあります。それらに埋もれないような企画を提案し、自分の価値を高めるには自分だけの強みを磨いていく必要があります。時には自分の中のドロドロした部分を見せなくてはならないのですが、それは何も恥ずかしいことではない、ということに気付くとその後とても楽になります。逆にそれができないと苦しむことになります。
また、企画を立ちあげチームを指揮する立場のプロデューサーは、新体験を提案できる発想力はもちろん、その企画の完成形をイメージし導いていかなければなりません。
そういった経験は普通に仕事だけしていると最低でもゲームを最初から最後まで1本作らないとなかなかできないものですが、自分でクリエイティブ活動をすることで小規模ながらも似たような経験ができます。
個人的にも、プロデューサーとして最初から最後まで担当したタイトルが10本に届きそうなくらい経験している今でさえ毎回様々な気づきや反省があったりするのですから、小規模とはいえこういった経験をこなしているかどうかで成長度は随分変わってくるのではないでしょうか。
ちなみに、当時一緒に活動をしていた先輩の一人に『ブレイブリーデフォルト』を生み出された浅野プロデューサーがいたのですが、浅野プロデューサーの、楽しんでもらう相手のことはもちろん考えないといけないけれど「でも自分が一番楽しむ」というモノづくりに対する姿勢はとても勉強になりました。なので、この活動以降俄然仕事が楽しくなりました。笑 最初にアシスタントについた渡辺さんと同じく、浅野プロデューサーに出会っていなければ今の自分はなかったなぁと思います。
個人的にもとても大事な内容だったのでちょっと長くなってしまいました。この回でIPモノについても書こうと思ったのですが、長くなりそうなので次回にしようと思います。
ではでは今日はこの辺で!
P.S.
今期のアニメはおもしろいのがたくさんあっていいですね!個人的には『響け!ユーフォニアム2』『ユーリ!!! on ICE』『ガーリッシュナンバー』『競女!!!!!!!!』『灼熱の卓球娘』『ViVid Strike!』が特に好きです。
『ユーフォニアム』や『ユーリ』はテーマやシナリオ、全体的なクオリティも最高で直球な面白さがありますね。
一方、『ガーリッシュナンバー』はとにかくヒロインのウザさがとてもいいです。ウザいけどかわいい。たぶんリアルでいたらグーパンもののウザさですが二次元だと可愛い。アニメならではですね。
『競女』はお色気ものかと思いきや完全にギャグ。尻を用いた様々な能力・必殺技はその名前だけで笑えます。「尻が…追ってくる!」という名言も飛び出す感じで毎度笑ってしまいます。
『卓球娘』は試合中のスピード感とか見せ方とかがすごくいいと思います!
『ViVid Strike!』はライバルキャラの問答無用で相手をブッ飛ばすところが最高ですね。いじめっこ3人を粉砕したところは実にスカッとしました!
※他にもおもしろい作品があるのですが、原作読んでる作品は今回は外してみました。
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■バックナンバー
第5回「失敗の新体験が成功のチャンス」
第4回「どうしたら企画が通るの?」
第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」
第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」
第1回「2006年4月、スクエニ入社」
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)