【年始企画】「アプリマーケティングへのAIの導入は20%程度」「マーケターは創造的な仕事に集中できるように」 AI先進企業メタップスが語る現状と未来



スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年の市場動向と2017年のトレンドを読み解く年始恒例企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016-2017」。今回は、株式会社メタップス <6172> の開発本部開発部部長 小森谷一生氏(写真左下)、データサイエンティスト 有井勝之(同上)、データサイエンティスト 西口真央氏(同右下)にインタビューを行い、AI(人工知能)とアプリマーケティングというテーマで話を聞いた。


――:本日はよろしくお願いします。今回は「AIとアプリマーケティング」についてお聞きします。のっけからなのですが、「AI」とはどのようなものなのでしょうか?
 
小森谷氏:「AI」という言葉は広義で使われています。人間の脳を再現するニューラルネットワーク的なものから、機械学習・ディープラーニングという手法をとらえてAIと言ったり、IT化することをAIと言ったりしています。メタップスでは、機械学習を用いて、金融、課金や購買など経済の予測推進を行うことをAIとして捉えて、それを事業にどう活かせるかを考えています。
 
有井氏:AIは人工知能と言いますが、「知能」は基本的に人がものを考えたり判断したりすることです。それに対して人工知能は、人が作った「人工」の知能(モノ)です。自分たちの判断や思考をサポートするために、人工の知能は活躍します。今まで職人芸的にやっていたことをいかに自動的にできるのか?人がこれまで判断していたことをいかに機械的に、恣意性をなくして判断できるのかだと思います。

 
 
――:現在のアプリマーケティングではどのように利用されているのでしょうか。
 
小森谷氏:弊社では2年前からMetapsAnalyticsというアプリのマーケティング分析ツールの提供を行っています。ゲームアプリの場合は、ユーザの行動分析や購買の予測、GooglePlayやAppStoteなどの市場の動向予測、レビューやユーザの感情分析などを行っています。それをツールとして提供することで、アプリ開発会社にマーケティングの促進を行ってもらっています。Metaps Analyticsのインテリジェンスというツールでは、売上動向の予測やアプリがどの言語でレビューされているのか?関連するワードの分析、競合タイトルの分析なども行っています。
 
 
 
――:Metaps Analyticsを利用することによってどのような効果があるのでしょうか。
 
小森谷氏:広告の費用対効果の予測などもできます。広告を出稿した場合、クリック数やインストール数、広告経由のユーザが3か月後などにいくら課金したかなどの予測や費用対効果の予測を行えます。これによって、マーケターは追加出稿を行うかの判断を行うことができます。広告の効果測定という部分では他社さんのツールでも提供されていますが、Metaps Analyticsは予測ができるのが大きな特徴になります。また弊社にはコンサルティングのチームもありますので、Metaps Analyticsの予測データを利用して、お客様に次の施策などの提案も行っています。
 

 
――:AIを導入することでマーケターの働き方にどのような変化が考えられるのでしょうか?
 
有井氏:今AIはすごくブームになっています。歴史的にみても18世紀半ばから19世紀にかけてイギリスで起こったとされる産業革命以来の大きな動きです。産業革命では、手織物など最初は手作業でやっていたことが、流れ作業によって一般的な人もできるようになり、さらに機械の導入によって、人の働き方も変化しました。
 
同様にマーケターの働き方にも大きな変化が起こっています。これまでマーケターが手でやっていた作業がAIによって最適なものを自動的に抽出できるようになり、もっとクリエイティブに力を入れていく働き方に変わってくるでしょう。具体的には、今まで朝から晩までのエクセルでの作業がなくなり、新しいゲームのコンテンツを考えるなど、人間でしかできないようなクリエイティブな仕事が増えていきます。
 
ユーザの立場からみても、コンテンツを考える人が増えるのでよりコンテンツが面白くなります。面白いかコンテンツかどうかは、ゲームを遊んだ時間や他のコンテンツの比較などからロジカルに判断できるようになります。人間はコンテンツ制作に集中することができ、提供されたサービスをAIが迅速に評価することで、良いものだけが残っていくので、ユーザは常に面白いコンテンツに触れることができます。

 
 
 
――:AIによって本当に大きく変わろうとしつつあるということですね。
 
西口氏:リスティング広告では、何百万のワードを手動で出稿している場合がありますが、それをすべて自動化して、どのワードがクリックやコンバージョンに結びついているかを自動で判定して予算投下の判断も行えます。弊社の子会社のプロダクトになりますが、出稿からコンバージョン測定まで自動で完結しているプロダクトもあります。アドワーズに百万のキーワードを出稿してどのキーワードが最適かなどの判定もできます。
 
小森谷氏:入札型の広告に関していうと、現在でも自動化は進んでいます。ここではマーケターの業務はクリエイティブを用意することが業務になってきています。
 
有井氏: 一方でまだまだ機械では難しい部分も残されています。例えば文字の間隔は何ミリが一番良いかなどコンテキストやユーザの心理状態によって結果が違う内容に関してはまだよくわかっていません。このような人間でしかわからない部分はいくつか残されていて、その部分がマーケターの主な仕事になってくると思います。
 

 
――:クリエイティブな仕事をやりたいマーケターにとっては、作業に時間をとられない環境になって、やりやすくなるということですね。
 
小森谷氏:マーケターはクリエイティブの部分に特化することができます。レポートを作って報告という”作業”ではなく、自分たちのプロダクトを世の中の多くの人に伝えるという本来のマーケティング業務に集中できると思います。
 
有井氏:チームとして見ても、今まではマーケターもいて、コンテンツ担当や事業全体を見る人もいて、役割が分断されている文化もありました。そもそも分断化して良いのかというのもあります。KPIは役割毎にそれぞれ独立して存在するべきだし、数値で見えるものは数値を見てというのは変わりませんが、自動的に処理できるところはリソースを極力抑えて、より創造的な部分に人を回して全体を効率化していこうという、すごく前向きな変化だと思います。

 
 
 
――:みなさんがAIに携わっていて、今までだと発見できなかったこういう面白い発見がAIによって発見できたというのはありますか?
 
小森谷氏:自動の入札ツールだと、ユーザがどのようなワードで流入しているのかがわかります。例えば、浴衣、水玉、青などのワードからの流入もありました。ユーザはこんな細かいワードで探していてコンバージョン率も高いことがわかったことは驚きました。人力だとこんなワードではまず入札はしないですね。
 
西口氏:メタップスのデータでは、特定のゲームだけではなくいろいろなゲームのデータをもうひとつ上位概念として横断して見ることができます。例えばこのアプリを利用しているユーザはこのアプリも遊ぶという全体的なマッピングも見られます。人それぞれではなくだいたい同じパターンで動く傾向があるのは面白いと思いました。
 
有井氏:マーケット全体を見られるのは僕らの最大の特徴だと思っています。各ゲーム会社さんはゲームアプリの数値は確認できると思いますが、僕らはゲームを横断して統一的な法則がないのかなどを見ることができることで、新たな法則の発見をスピード感持ってできることがメリットです。クライアントへの提供価値も高いを感じています。
 
私は物理を学んでいたのですが、ニュートンは世の中の物の動きはすべて運動であり、三つの法則で説明できるという運動の三つの法則をまとめました。物は落ちたら落ち続けるという慣性の法則、押したら押し返されるという作用反作用の法則、もうひとつは単純な数式で質量×加速度=力という法則です。すべての世の中のモノの動きはこれだけ複雑であっても三つで説明できます。
 
これはすごく画期的なことで、今まではひとつひとつのものを観測することでしかわからなかったのに、三つの法則で説明できます。僕らは今まさに各ゲームで共通しているファクターは何かを探していて、同様の法則をゲームアプリで見つけようとしています。
 
西口氏:法則はだいたい三つか四つになりますね。


 
――:そんなに少なくて大丈夫なものなのでしょうか?
 
有井氏:ものを判断する人の行動は本質的にシンプルなものなので、法則の数が多いとたぶん間違っていると思います。同様にゲームの世界にも三つの法則があると思っています。
 
小森谷氏:法則を発見できればマーケターは三つの数値を見るだけで、自社のアプリの調子が良いのか悪いのかを最終的に判断できるようになれば、人工知能ですごく楽になったと実感できるのではないかと思います。
 
有井氏
:発見した法則から消費行動を理解できれば他のビジネスにも横展開できます。人がこういう感情や衝動でお金を使うというロジックがわかれば、他の業態でも応用がかのうとなり、今は、いかにそこを導き出せるか、予測するのか、新しいチャレンジだと考えています。

 
 
――:アプリマーケティングにおけるAIの利用について、将来的にAIはこれくらい導入されるというイメージがあると思いますが、現状でいうと何パーセントくらい導入されているのでしょうか?
 
小森谷氏:まだ20%くらいでしょうか。現状では先ほどの入札部分などの広告出稿には導入されていますが、アプリの運用部分でもやれることはまだまだ多く残っていて、アプリマーケティングという面ではまだまだだと思います。
 
西口氏:多くの会社で導入しようとはされていると思いますが、会社の文化やデータが蓄積されてない、どのように導入すればよいかわからないなどの理由から進んでないのという現状もあります。
 
有井氏:世の中は変わろうとしています。人の働き方が変わるのも一つの理由だと思っています。そこを僕らが先導してリストラクトしていきたいと思っています。

 

 
――:AIの導入が進むとマーケティングの世界がより高度になるということですね。
 
有井氏:ビッグデータの時代になり、これからIoTの時代が進むことで、これまでは数値で見えなかったものが見えてくることがきっかけになると思います。
 
西口氏:もっと未来の話をすると、誰に何を見せれば良いのかなど、よりパーソナライズされていくと思います。データサイエンティストの立場からすると、今の課題としてデータは蓄積されてくるのですが、データを使えるようになるのはもうひとつステップが必要だということだと思います。

例えば、位置情報のデータは取得できていますがユーザIDと紐づけされていないため、同じ人の行動かどうかはわからないこともあります。法律やシステムが整備されていくと詳細なデータも使えるようになってくると思いますが、多くの人がデータを使うことで生活がもっと便利になると考える世の中にならないといけないと思います。
 
小森谷氏:私たちは個人情報を守ろうという意識が強いですが、一方で無意識のうちに自分で情報を出すような状況にもなってきていると思います。ベースの考え方を変えることでさらに世の中が便利になるのかなと思っています。
 
有井氏:例えば地図アプリを使うことは自分の位置情報を教えていると考えることもできます。しかし地図アプリはとても便利なもので、アプリを使うことが今では当たり前になっています。個人情報のセキュリティがしっかりしている前提のもと、データを提供することで受けとれるメリットが大きいということがわかれば、人々の考え方も変わってくると思います。
 

 
――:AIの導入によって私たちの生活にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
 
小森谷氏:例えば健康の分野でいうと、医療業界はまだアナログなところがたくさん残っています。今でもWindows98を使っている病院もたくさんあります。国のIT推進の政策が頼りになってしまうかもしれませんが、全体の水準をあげてデータが蓄積されれば、人工知能によって医療の水準も上がってくると思います。
 
有井氏:予防医療にも活用できます。病気になってからではなく、今の生活だと病気になります、だから今の生活を改善して病気になる確率を減らしましょうということもわかります。これが実現すれば医療費の高額化の国の問題も解決するし、もっと楽しく生きていけると思います。個人の健康の情報は最も出したくないものだと思いますが、病気にならない、より健康になるために提供するというかたちになればと願っています。
 
西口氏:これはすごくハードルが高い面もあります。まず遺伝子検査を行って遺伝子情報を提供して、どのくらい寝て何を食べてなどの情報をすべて提供しないと、パーソナルアシスタントは作れません。究極の個人情報ともいえるようなデータを集めることには、まだまだハードルが高いと思っています。

 
 
 
――:これからAIの導入が進むことで生活もより便利になることが期待できますね。貴社のプロダクトについては今後どのような進化を考えているのでしょうか?
 
小森谷氏:Metaps Analyticsについては、ユーザ情報の分析をさらに深堀するフェーズに入っています。クライアントさんと連携しながらデータの検証を行い、今までのDAUやLTVなどではない新しい指標を見出して、マーケティングの指標にできればと考えています。
 
その他の部分では新しいプロダクトとして、経済や金融などの予測を考え始めています。メタップスグループ全体のテーマが「お金の流れを予測する」ということで、金融の予測をしてユーザに利便性をもたせることが製品化できればと考えています。今は構想中で来年着工という感じですね。
 
有井氏:人がお金を使うことを理解することは面白いと思います。これまで人は生きるためにものを買って、ものを買うために働いていますが、お金を使うことに対しての理由や行動はほとんど理解されていません。人工知能を利用することによって、人間を理解することができれば、人間の知能の成長にもつながると思っています。

 
 
――:本日はありがとうございました。
 
株式会社メタップス
https://metaps.com/

会社情報

会社名
株式会社メタップス
設立
2007年9月
代表者
代表取締役社長 山﨑 祐一郎
決算期
12月
上場区分
東証グロース
証券コード
6172
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