エボルブが運営する、サーバのパフォーマンスを確認、相談できるサービス「負荷試験.com」。本サービスは、負荷試験なるものを実施することで、システムのパフォーマンスの現状と限界を知り、リスクの回避と設備投資の最適化を図ることができるというものだ。
今回、エボルブ 取締役の川﨑圭太氏にインタビューを行い、本サービス立ち上げの経緯からサービスの魅力、多くの会社でみられる具体的な事例を交えながらお話を伺ってきた。
株式会社エボルブ 取締役
川﨑 圭太 氏
■サーバの限界点を前もって知っておくことの重要性
――まず始めに、「負荷試験.com」を立ち上げられた経緯についてお聞かせ願えますか。
川﨑氏:初めに弊社が取り組んできた事業の話をさせていただきます。2003年の起業時から主にケータイアプリを中心にモバイル向けコンテンツを制作していたのですが、時代の流れを受けモバイルコンテンツにも大規模インフラが必要となりました。その経緯からコンテンツとサーバを並行して構築するというのが弊社の習慣となりました。アプリケーション開発をクライアントさまより請け負い、同時にサーバの構築やチューニング、メンテナンスを担ってまいりました。弊社のエンジニアにはポータルサイトやレンタルサービス、CGMなどの比較的大規模なトラフィックを捌いてきたノウハウがありましたので、スムーズにスマートフォン時代にも対応できました。
近年、いわゆるソーシャルゲームというものが台頭するようになってからは、多くの情報を扱うためのノウハウが必要となり、弊社が持つサーバ運営力に対して各方面からご相談をいただくようになりました。そのご相談の中に、リリース前やアップデート前のチューニングや性能試験のみをご依頼いただくようになったことがきっかけとなります。クライアントさまのご意向としては、リリースの前に「第三者の目を入れたい」という事情もあるようです。
また、海外では負荷試験に関する具体的な専門サービスが存在するのですが、日本ではまだそういった専門の窓口が少ないというのが現状です。それであれば、より分かりやすい体裁を整えて周知することで隠れたお悩みにお応えできるのではないかと考え、専門の相談窓口として、「負荷試験.com」というサイトを作ったという経緯となります。「サーバの性能は大丈夫か?」「毎月すごくお金がかかる。サーバ減らせないのか?」という部分で行き詰っておられる方々の相談窓口となれれば幸いと考えております。
――では、実際「負荷試験.com」ではどういった活動が行われているのでしょうか?
川﨑氏:「なぜ、負荷試験を行うのか?」という基礎的なところを含めた啓蒙活動から行っています。現状、負荷試験を行わずにリリースに踏み切られるサービスもあるのですが、負荷試験を行わずにサーバトラブルが起きてしまうと1日でも数百万円以上の損失になることがありますので、リリース前にしっかりとチェックすることの大切さ、それによってリスクを回避できることをお伝えしています。
そもそも負荷試験の手順や試験結果の見方・判断基準がわからない、または、多くの方が“負荷試験”を実施することで得られるメリットについてご理解されていない部分もございますので、予算やプロジェクト進行の兼ね合いもあるかとは思いますが、リリース後に慌ててサーバやインフラを増強することにならないようお話しさせていただいております。
――「第三者の目を入れたい」という意向はどういった意図から?
川﨑氏:負荷試験を実施すること自体でシステムが改善するわけではないのですが、例えばそのサーバが100万人のアクセスに「耐えられる」、「耐えられない」ということが判断できます。もちろん、設計者、開発者の皆さんはその規模に耐えられることを想定して構築・開発しているとは思いますが、ご自身で手掛けられたということもあり、見積もりが甘いケースも出てきます。また、第三者の目を入れることで、当事者の思い込みを排除したり、想定外を確認できるわけです。また、100万人までは耐えられるけど、データの兼ね合い上、101万人になった瞬間ダメになってしまうケースもありますので、そういった場合の対処法などをリリース前の段階で事前にご連絡することができます。
――昨今ではリリースと同時にプロモーションを展開することも珍しくありませんので、最初に躓いてしまうと一気にユーザーが離れてしまうというのはかなりデメリットですよね。
川﨑氏:おっしゃる通りです。大手ストア系のアプリの場合、レビュー欄の☆の初動数を気にしておられるクライアントさまがほとんどだと思います。ゲームアプリの場合、事前登録などでユーザーの期待感が高まっていることも多いので、サービス開始直後に最大瞬間風速となります。これに耐えられるかどうかは非常に重要なポイントになり☆の数にも影響します。この点からも、サーバの限界点を先に知っておくことが大切です。
――ちなみに、具体的に耳にされた業界の失敗談などはございますか?
川﨑氏:2015年の正月に大手通販サイトのサーバが落ちてしまったという事例があります。そのときは想定通りの来客数だったのですが、システム自体のリニューアルなどの影響もあり、3日で2億円の損失になったと聞いています。そういったことが起きてしまうと、目に見えないところでもユーザーからの信頼度の低下にも繋がってしまいます。大規模なキャンペーンや大きな更新を行う場合は、事前にしっかりと負荷試験を実施すべきだと提唱しています。
逆に、負荷試験をしっかり実施したことで有名なのが、2015年末に行われた某お笑いグランプリの投票システムです。アーキテクチャ設計レベルで初物だったということもあり、スマホやテレビからの投票やアクセス負荷が読めないため、想定アクセス数の10倍のアクセスにまで耐えられるよう作り、念入りに負荷試験を行ったとの話でした。企画自体は5年振りということもあり、失敗できないという想いがうまく作用した形でしょうね。
■最初の設計思想が肝 ─ データベース専門家の必要性
――負荷試験で耐えられないと分かった場合はどのように対処されるのですか?
川﨑氏:弊社で制作を担っている場合や、内部情報を詳細に教えていただけるケースであれば、「ここがネックになっていると思います」とピンポイントに指摘することができます。セキュリティ事情から情報が少なくなるほど断言はできなくなってしまうのですが、弊社の技術担当にできる限りの情報をお教えいただくことで、「ここが原因になっているかもしれない」という推測は申し上げることができます。なので、長いときは1ヶ月ほど負荷試験をすることもあります。負荷試験で問題が発覚してから解消して再び負荷試験というのを1週間サイクルで計4回ほど行う形ですね。
システムというと複雑そうに聞こえるかもしれませんが、サーバやネットワークを取り巻く環境要素はここ5~6年変化がなく、ノウハウは貯蓄されておりますので、技術者の方にも納得いただけるご説明ができるかと思います。
▲「負荷試験.com」の実績一例。
――負荷試験を効率的に行うにはどのようにすれば良いのでしょうか?
川﨑氏:長くお付き合いいただいているクライアントさまには、設計の段階から意見させていただいているのですが、その場合、負荷試験は1日で終わります。逆に、ある程度構築されてしまっているプロジェクトの途中で負荷試験を行い、問題が発覚するケースだと先ほど申し上げたように1ヶ月ほどかかってしまうこともあります。データベース設計に問題がありデータ構成を変えなければならない状態になってしまうとプログラミングも書き直しになってしまうので、早くても2週間~3週間は必要です。
システム構築という面以外にも、リリースが近くなるとプロモーション展開が始まったり、プレッシャーがかかったりするものですので、なるべく早めの段階から一緒に準備させていただければと思います。
――データベースの設計は特に注意しておくべきということですね。
川﨑氏:そうですね。これは、海外ではデータベースの専門家がいるのですが、日本ではまだあまり普及していないことが原因のひとつと考えています。日本では、プログラマーやインフラエンジニアの方がデータベース設計を任されていることが多いのですが、実は全く異なる管轄で、本来は“データベースアドミニストレーター”という専門職の存在が必要です。これは、データ要件を持っている人の要望を聞いて、テクノロジー的にどのように記録すればCPUやメモリなどのリソース効率が上がるかを設計する職になります。これには、プログラマーやインフラエンジニアの知識はさほど必要なく、ハードウェア効率を考えるための知識が必要なのです。データベースアドミニストレーターが増えれば、各所でサーバがダウンすることも減ると思います。
――“データベースアドミニストレーター”不在のプロジェクトは要注意ということですね。
川﨑氏:そうですね。そういった現状もあり、データベースの部分でサーバに問題が起きていることが多く、場所によってはほとんどのサーバがしっかりと働いていない状態になっていることもあります。対処としましても、サーバの台数をやみくもに増やすという不要な設備投資になっていることが多いです。メモリは使っているけど、CPUがほとんど動いていない場合などは、メモリ効率を少し変えるだけでかなりの効率化が図れ、コスト削減にもつながります。他には、専門家が社内にないことから、効率化は図りたいけど、制作者が既に現場におらず、対処できずに困っているケースもありますね。
――そういった場合はどうされるのでしょうか?
川﨑氏:ひどい場合は、思い切って作り直しましょうと提案することもあります。またプログラムを読んで不適切な部分を変更することもあります。データベース設計の在り方を見直す良い機会にもなります。
――負荷試験を行うことで、サーバが効率的に動いているか具体的にわかりますね。
川﨑氏:はい、いろいろなことが分かるので、まずは負荷試験を行ってみてください。その結果、月に数十台、年間数百台のサーバコストから解放されるのであれば、担当者だけでなく会社全体としてもメリットになりますからね。
――最後に、どういった方に「負荷試験.com」を使っていただきたいですか?
川﨑氏:まずは、これまで負荷試験を実施したことがない方々に試していただきたいです。特に、プロデューサーや経営者の方々には是非、注目していただきたい項目です。サーバ台数は少なくないはずなのに、自社サービスの動きが重いと感じる方には、何かお伝えできることがあるかもしれません。まずは弊社のサイトで“負荷試験”という概念に触れていただければと思います。
――:本日はありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社エボルブ
- 設立
- 2003年5月
- 代表者
- 安松 亮
- 直近業績
- 非開示
- 上場区分
- 未上場