【インタビュー】『2.5次元の誘惑 天使たちのステージ』が見せつける圧巻の“アート力”…Aiming「TeamCARAVAN」が語るグラフィック技術力向上の裏側

左から
Aiming/第二事業部/エンジニア一課/エンジニア 佐久間尚輝
Aiming/第二事業部/アート六課/デザイナー 加藤恵美
Aiming/第二事業部/アート六課/デザイナー 等々力龍磨

2024年9月に配信が始まった『2.5次元の誘惑 天使たちのステージ』(リリステ) 。本作では、7月から放送がスタートしたTVアニメ『2.5次元の誘惑(リリサ)』(以下「にごリリ」)を題材にしたコスプレバトルRPGで、奥村正宗(cv.榎木淳弥)や天乃リリサ(cv.前田佳織里)たちが繰り広げる熱血青春ストーリーを追体験できる。

配信から1日で全世界100万DLを突破するというニュースが飛び出すなど、好調な滑り出しを見せた本作を手掛けるのは、Aiming<3911>の第2事業部「Team CARAVAN」。このスタジオは、これまでにも『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』(以下、カゲマス)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか バトル・クロニクル』(以下、ダンクロ)といったアニメ原作のゲームを開発してきた実績を持つ。『リリステ』はこれまでに培ってきたノウハウがいかんなく発揮されたタイトルと言えるだろう。

今回は、『リリステ』の中でも特に評価が高いグラフィックを担当したアートチームへインタビューを実施。アニメと遜色がないキャラクターモデルはいかにして作られたのか、その道のりを振り返ってもらった。

目指したのはアニメと遜色ない表現…表情の数も当初の2倍に

――:本日はよろしくお願いします。まず、みなさんの自己紹介からお願いできますか。

等々力氏:Team CARAVANで3Dキャラモデラーを担当している等々力龍麿と申します。主な業務としては、『リリステ』の3Dモデルのリーダーとして品質管理を行いつつ、自分自身でも手を動かし、実際にモデルを作っています。


加藤氏:セットアップとモーションを担当している加藤恵美と申します。Aimingではこれまで『キャラバンストーリーズ』や『ダンクロ』でもモーションを担当してきました。『リリステ』ではモーションリーダーとして携わっています。


佐久間氏:R&Dグラフィックスの佐久間尚輝です。弊社にはR&Dという研究開発の部署があり、そこでグラフィックス部門のリーダーを担当しています。『リリステ』では3Dグラフィックスでアニメの表現をしたいということで、技術面の実装や最適化を行いました。


――:『リリステ』は9月のリリース以降、特にグラフィックスの面で高い評価を得ている印象です。実際に開発された皆さんの手応えはいかがですか?

等々力氏:評価していただけたのはとても嬉しいですし、実際私たちも手応えを感じています。Xを始めとしたSNSでの反応を見ていても、「キャラクターがかわいい!」「美花莉が近くにいる!」といった声をいただいています。作ったメンバーとして、「これはいけるぞ」という期待感が持てる反響でした。

加藤氏:『にごリリ』のアニメや漫画のファンの方々からも好評なのは嬉しいですね。私たちがこだわっていた細かい仕草の再現にも気づいていただいて、じっくり作った甲斐があったと、喜びと同時にホッとした気持ちもありました。

佐久間氏:私はエンジニアとして見栄え良く、そして軽くすることを目指して開発してきたので、グラフィックに加えて「動作が軽い」と評価していただけるのが一番嬉しかったです。

――:確かに、実際にプレイしてみても、グラフィックの美しさと同時に軽さも際立っています。あらためて、開発時はどんなこだわりを持って臨んでいたのでしょう。

等々力氏:弊社は過去にもアニメ原作のゲームをタイトルかリリースさせていただいていますが、今回は既存のキャラクターモデルよりもワンランク上を目指そうと、これは企画段階から言われていました。
ポリゴン数で言えば過去作から2、3倍の数を使用しています。そのおかげでローポリ感、カクカク感を感じることはほとんどなくなりましたし、アウトラインもくっきりきれいに表示できるようになりました。
本作はアニメが原作としてあるので、「シェーダーで好き勝手やる」というより、アニメと遜色ないものを作ることが目標でした。

  • アニメ設定資料と3Dモデルの比較

    左がアニメ設定画・右が3Dモデル


佐久間氏:弊社だと『カゲマス』『ダンクロ』でトゥーン表現を活用してきました。今回はその表現技術を活かし、さらにアップデートさせたイメージです。
具体的な技術を挙げると、例えばセルフシャドウがあります。前髪が顔にかかったときの影、あるいは、手を前に出したときの影がしっかりと反映され、なおかつ解像度を下げないようにしました。また、前髪と目が重なったとき、前髪を半透明にして目を表示する技術はエンジニア側がサポートしたところです。

――:これまでに培ってきたノウハウもいかんなく発揮されていると。

等々力氏:そうですね。これまでの技術があるからこそ、新しい技術にも1つ、2つ、3つと手を付けられるようになりました。

佐久間氏:そういう意味では、『リリステ』の挑戦は『カゲマス』のころから実は始まっていたのかもしれません。今までの知見があったからこその『リリステ』であり、『リリステ』で得た影の処理であったり、動作の軽さであったり、といった知見は次のタイトルにつなげていけたらと思っています。

――:セルフシャドウというお話もありましたが、その他にこの作品からの新しい挑戦はありましたか?

等々力氏:正直に言ってしまえば、全部が新しいこと…(笑)。初めてのことばかりで、どんな手段を使えばいいのか、R&Dグラフィックスのチームと相談しながらの作業でした。
その中でも特筆できるのは、キャラクターをアップにする表現ですね。キャラクターが画面に近づいて、プレイヤーとの距離が近くなる描写が多いんです。

  • ゲーム画面。顔・手のポリゴン数を上げて、キャラとの触れ合い・アップ時に耐えられるよう作成している。

これは元々ゲーム内に搭載する予定がなかった表現でしたが、ポリゴン数が増えたことで、「アップの表現にも耐えられるクオリティなのでは」とチーム内で話題になり、実際に取り入れることになりました。

加藤氏:ポリゴン数が増えたことももちろん、補助骨が増えたことも『リリステ』ならではですよね。スマートフォン向けのゲームでは見たことのない補助骨の量で、私も「ちゃんと動くかな」と心配していたくらいです(笑)。

――:キャラクターの話だと、表情や仕草も重要だと思います。

  • 実際のゲーム画面。アニメのイメージを意識した表情・仕草づくりを行った。

等々力氏:開発当初は使用する表情数も決まっていたのですが、ドラマシーンを作る中で想像以上に顔が見える場面が多いなと。そうなると、最初に思い描いていた表情数だと全然足りなくて、リリース数ヶ月前に8種類ほど追加することになりました。急いで作って、確認しての繰り返しは大変でしたが、その分こだわりが見える仕上がりになったと思います。

  • ドラマシーンの一部。開発過程でより演出を豊かにするためギャグ表情などの追加等も行った。

――:こだわりという点で聞きたいのが、服装や髪の毛の質感です。実際にプレイしてみると、コスプレ衣装のエナメルの質感など、かなりリアルに表現されていると思いました。

等々力氏:コスプレが題材である以上、衣装に関してはこだわりたいとも考えていました。具体的にはマットキャップという金属質感表現のために使われるシェーダーを利用して、エナメル特有の光沢を再現しました。ともすれば「アニメっぽくない」と言われるかもしれませんが、そこはこだわりとして、どうしても実装したかったところです。

  • モデル

  • モデル+テクスチャ

  • トゥーンシェーダ

リリエルの3Dモデル。トゥーンシェーダでは質感強化のためにマットキャップなどを新規に追加した。

加藤氏:髪の毛の表現でいうと、今回は骨がたくさん入っています(笑)。チーム内では、サラサラしたツインテールの動きは絶対に実現したいという話があり、その影響で骨の数がどんどん増えていきました。そこで妥協しなかったから、2Dアニメっぽい動きは実現できたと思います。

――:本作の場合、登場するキャラクターによって髪型や服装は変わってきますよね。なにか、キャラクターごとに違った苦労、こだわりはあったのですか?

等々力氏:キャラクター特有の違いというと…羽?

加藤氏:そう、羽!一部のコスプレ衣装には背中に羽が生えているのですが、動きをシミュレーションするとどうしても髪の毛と当たってしまい、不自然な動きになってしまうんです。これは今でも試行錯誤の連続ですね。

  •  

    • 開発画面。今回は物理表現にMagicaCloth2を採用した。

     

佐久間氏:だけど、キャラクターごとの骨格は一緒なので、そこは効率化できた点でもあります。

加藤氏:そうですね。身長の違いもスケールを調節するだけでしたし、短時間で開発できたポイントでもあります。

――:佐久間さんは研究開発にも携わっているとのことですが、具体的にはどんな業務を行っているのでしょう。

佐久間氏:ここまでの話でも出てきた、シェーダーやセルフシャドウといったグラフィックの基礎となる部分を研究し、開発チームがすぐに活用できるように落とし込むのが主な業務です。それに加えて、ひとつひとつの技術を再開発しないように共有化、そして効率化することも私たちの目的です。

――:アニメIPのゲーム化ならではの難しさはあるのでしょうか。


等々力氏:作画のアニメでは見えない角度も、3Dのゲームだと見ることができる。言い方を変えると「見えてしまう」のは、ゲームの魅力であり、作るうえでの難しさでもあります。
アニメと違い、ゲームはいろんな角度から画面に映るので、影の付き方も違うし、もっと言うと「見られたくない角度」というのもあるんです。煽りの角度や俯瞰の角度はまさにそれで、開発初期はアニメの設定画通りに作ったとしても、角度を変えるとめちゃくちゃになっているケースはよくありました。上下左右、360度どこから見てもかわいく、なおかつアニメと同じ見た目で作らなければならないのはアニメIPを3Dでゲーム化する際に必ず直面する問題ですが、例に漏れず本プロジェクトでも大変苦労しました.......。

アートチームとエンジニアが連携して挑んだスピーディな開発

――:本作がヒットした要因のひとつとして、アニメ放送に合わせてリリースできたこともあるかと思います。このスピード感は当初から意識していたのでしょうか。

等々力氏:もちろん意識していましたが、今はまだ反省のほうが多いです。もっと早くできたし、もっと効率化できたなと。
TeamCARAVANとしては、アニメに合わせてゲームをリリースする体制自体は今後も続いていくと思います。今回得たノウハウは決して無駄にせず、次のプロジェクトに繋げていきたいです。

佐久間氏:スピード感が今後も重要になってくるのは間違いないです。今回のプロジェクトが発足してから、どんな技術を、どのように使うのかの選択は早ければ早いほどいいので、私たちエンジニアもアートチームと同じように意識していました。

等々力氏:エンジニアチームと意思を共有して開発できたのは、素早いリリースを実現できたポイントだと思います。アートチームとエンジニアチームって、まったく別の業務なのでそれぞれが閉鎖的になりがちだと思うんです。
だけど、TeamCARAVANは組織のみんなで作っている感覚が強く、セクション関係なくコミュニケーションが取れるんです。このチームワークこそ、スムーズな開発には必要不可欠だったと思います。

――:差し支えなければ、TeamCARAVANとしてどんなチャレンジがあったのかも教えてもらえますか。

佐久間氏:これは『リリステ』に限らずすべてのスマートフォンアプリに言えることですが、端末によって動作が不自然になることです。

等々力氏:リッチに作っているぶん、動作が重くなる可能性は覚悟していましたけど、やはり問題を解決する必要はありましたね。それに加えて、容量の問題もありました。

佐久間氏:このゲームは初回ダウンロードで3.8GBほどの容量が必要で、これを軽くするための作業もあったんです。背景のポリゴン数を削ってもらったり、アセット全般の見直しをしたり、シェーダーをまとめて1つにしたり…。いろいろな経験ができましたし、これは『リリステ』だけでなく、今後の大型プロジェクトでも活かせるノウハウになると思います。

――:容量だけを見ても、いろいろな工夫があったんですね。

等々力氏:工夫というと、大きな箇所に焦点を当てて、思い切って削っていく作業をしたのもそのひとつです。細かいところをさらに細かく削っても、作業が多くなる割に、容量の削減にはなりません。一番重いところをどう軽くするか、その一点に集中したのがよかったのだと思います。

佐久間氏:ロードも時間も相当長かったですよね。開発初期の段階だと、端末によっては3分かかったケースもありました。それが今では長くても5秒程度なので、軽くなった恩恵は間違いなくありますね。

――:スムーズな開発という点で、モーションに関してはいかがでしたか?

加藤氏:作ること自体はもちろん、チェックが大変でした。デバック担当の人にはとにかく細かなところまで見てもらい、それに私たちが対応する形だったので、なにかと時間はかかりました。
ひとつ救いだったのが、本作は現実的な人間の動きをイメージしているので、モーションキャプチャーとの親和性が高かったことです。キャラクターの動きをスピーディに作るとなると、必要不可欠でしたね。

佐久間氏:この作品ではただポリゴン数を増やすだけでなく、「どこまで増やせるか」「どこまで増やすべきか」を研究しながらの開発でした。増やし続けても開発は難しくなるし、時間もかかります。そうではなく、いい見せ方をするためにはどれだけのポリゴンが必要か、最適なボリュームを見つけるのは我々としてもこだわったところです。

「作品を愛する人」が集まるTeamCARAVAN

――:TeamCARAVANについても教えてください。在籍するスタッフにはどんな人が多いですか?

等々力氏:『リリステ』のチームで言えば、『にごリリ』ファンがとても多いです(笑)。グッズが机の上に並んでいる人ばかりで、「どこがかわいいのか」を語り合っている、作品愛が強いメンバーが揃っています。

加藤氏:やりたいこと、表現したいことに対するこだわりが強い印象はありますね。それぞれに大きな目標があるから、違うチームであっても積極的に相談して、お互いに相談し合えるメンバーばかりです。

佐久間氏:連携力という意味ではエンジニアチームも同じです。「以前のプロジェクトではここが苦労したから、次回作では改善しよう」「この機能は汎用的に使えるから他のチームと共有しよう」と、そんな話し合いができるのも、チームごと、そして個人ごとで相談し合える環境ができているからだと思います。

――:それでは、TeamCARAVANが今後求める人物像についても教えて下さい。

等々力氏:自分の意見、自分の好みをしっかり持っていて、周りを引っ張っていける人は自然と活躍できると思います。私自身、昨年9月に入社したばかりなのですが、実は以前から『にごリリ』が好きで、新参者のくせに『リリステ』にどんどん口出ししていたんです(笑)。現在リーダーポジションを任されているのも、そのような姿勢が評価されたからでしょうし、今後手掛ける作品でも、自主的に自分の意見を言える人は重宝されると思います

加藤氏:自分がやりたい表現に妥協しない人ですね。もちろん開発期間が無限にあるわけではないので、工数の管理も大切です。そのうえで、どこまでこだわり抜けるかを、スケジュールと向き合いながら力を発揮できる人がいると嬉しいです。

佐久間氏:TeamCARAVANは、自分がやりたいと手を挙げたらやらせてくれるチームです。私がR&Dグラフィックスを発足したのも、自分で手を挙げたからですから。自分で提案できて、積極的にチャレンジできる人はすぐに活躍できると思います。

――:ありがとうございました。

©橋本悠/集英社・リリサ製作委員会 ©Aiming Inc.

株式会社Aiming
http://aiming-inc.com/
自分たちの面白いをカタチに変える
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会社情報

会社名
株式会社Aiming
設立
2011年5月
代表者
代表取締役社長 椎葉 忠志
決算期
12月
直近業績
売上高181億9900万円、営業損益13億900万円の赤字、経常損益11億円の赤字、最終損益22億2700万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3911
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