【CEDEC 2017】スマホゲームに「エンディング」を入れるのは是か否か…『チェインクロニクル』4年間の変遷から実績データに基づいた結果を公開

 
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月30日~9月1日の期間、パシフィコ横浜にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2017」(CEDEC 2017)を開催している。
 
本稿では、8月30日に実施された講演「スマホゲームで物語を更新し続けること。4年間のストーリー制作コンセプトの変遷をファクトに重ねて」についてのレポートをお届けしていく。
 
本セッションでは、セガ・インタラクティブ モバイルインタラクティブ研究開発部の松永純氏が登壇。昨年のセッションが好評だったことから、今年はさらに深く『チェインクロニクル』のシナリオ制作において立てたコンセプトにどのような結果が返ってきたか、4年間の変遷を追う形で実績データを交えながら紹介した。
 
なお、昨年のセッション「昨年のセッション「スマホゲームにおけるゲーム性と物語性の“運用で摩耗しない”基礎設計手法~チェインクロニクル3年の運用と開発の事例を交えて~」のレポートについては下記の関連記事を参考にいただきたい。
 
【関連記事】
【CEDEC2016】スマホタイトルを長年運用するために必要な初期設計とは……『チェインクロニクル』の「ゲーム性」「物語性」「キャラ性」から価値を損なわない方法論を展開
 

▲セガ・インタラクティブの松永純氏。これまでは、アーケードゲーム『三国志大戦』『戦国大戦』、スマホゲーム『チェインクロニクル』で原案、ゲームデザイン、世界観、シナリオ制作などに携わってきたという。
 
 

■システム的工夫から見た、ユーザーの心を掴むシナリオ制作

 
まず始めに松永氏は、『チェインクロニクル』がどういったゲームであるかを紹介。
 
『チェインクロニクル』とは
本作は2013年にリリースされたスマホ向けアプリで、物語ありバトルありの正統派RPGだ。運営型ゲームで今年が5年目、対戦・協力要素は少なめで、コンシューマRPGのような内容を意識して作られているのが特徴となっている。
 
本セッションにおいては、下記3点について4年分の話を展開していくとのことだ。
 
【テーマ】
①スマホにシナリオを入れるにあたりどのような工夫を行ったか
②どの結果、どんな事実が発生したか
③その結果と、どう向き合ったか
 


また、セッションにおける前提条件として2つのQ&Aを提示した。
 
Q1:シナリオって定量化しづらいけど分析するべき?
A1:分析・振り返りをして対応を続けていくことは何事も基本。
 
Q2:どういった点を分析するの?
A2:シナリオを楽しんでもらうためのシステム的工夫が上手くいっているかどうか。
 
さらに、分析し改善を重ねることは重要だが、そのうえで「コンセプトを変更してはいけない」ということを強く念押しした。これを変更してしまうと、そもそも自分たちがユーザーに何を届けたいのかが分からなくなってしまうという。
 
そこで、まずは『チェインクロニクル』が何を狙って作られたゲームなのか、コンセプトを紹介。続いて、コンセプトを体現するために1年目に実施された工夫と結果を発表した。
 

▲『チェインクロニクル』では、「スマホRPGで熱くて泣ける物語を提供する」「仲間が増えることが最高に嬉しいRPG」という2点をコンセプトに掲げて今も開発が進められている。
 
 

◆1年目:カードではなく”キャラ”として生かすシナリオ作り◆


全キャラクターに専用ストーリー

▲こうしたアプローチは当時スマホゲームとしても初も試みだったとのこと。
 
ユーザーに「仲間が増えることが嬉しい」と思ってもらうには、ガチャでキャラを獲得した際に、”カードを手に入れた”ではなくキャラが仲間になった”と感じてもらう必要があると考えたという。そこで、カードではなくキャラであると認識してもらうために全キャラに専用ストーリーを用意したとのことだ。
 
●結果
・キャラシナリオスキップ率:約30%
・キャラ人気投票イベント
 最下位投票数:20票
 
当時のスマホタイトルやアーケードゲームのシナリオスキップ率は平均45~50%のため、非常に良い傾向となった。キャラ人気投票イベントに関しても、最も人気のないキャラでも20票を獲得できたということをプラスに捉えたとの話だ。当時、500ほどのキャラが実装されていたが、順位の低いキャラにも熱心なファンが付いていたため、「仲間が増えることが最高に嬉しいRPG」というコンセプトに沿う結果となったと分析した。
 
また、シナリオの中でもさらに「低レアリティにもクオリティの高い物語を付ける」「キャラ獲得時ドラマを付ける」といった工夫が成されている。
 
低レアリティにもクオリティの高い物語を付ける

▲提供タイミングが多いキャラに関しては、実用性に関わらずシナリオの質にも特にこだわっているとの話。方向性としては、手に取るユーザーが多い低レアリティのキャラには誰が読んでも分かりやすい王道の物語を、高レアリティのキャラには少しマニアックな物語を入れるように工夫している。
 
●結果
・スキップ率は、高レアキャラと同等
・ビュー数は高レアキャラの約10倍
 
松永氏は、低レアリティのキャラにもハイクオリティなシナリオを配置するという工夫が良い結果を招いたのではないかと分析する。
 
キャラ獲得時ドラマを付ける

▲ユーザーの感情が最も昂った瞬間に短いドラマを用意することでカードではなくキャラだという認識を強められるように工夫している。ビュー数についても狙い通りの結果が出たおかげで、非常に効率よく「仲間が増えるうれしさ」を提供できたと話した。
 
●結果
・獲得時ドラマが凝っているキャラはシナリオビュー率が5%程度上向く傾向
 
ここでは少し主観が入るとしながらも、リリース前に手応えのあるものについてはキャラ獲得後も専用ストーリーのビュー率が上向く傾向にあり、影響度は非常に高かったのではないかと分析した。

1話あたり構成をスマホに特化

クエストでは、「シナリオ→バトル→シナリオ」という構成で、1プレイ5分ほどで遊べるボリュームに調整されている。今でこそスマホゲームにおいてはよく見る構成だが、当時は初の試みだったとのこと。
 
●結果
・メインシナリオスキップ率:約25%
 
これも、一般的なシナリオスキップ率である45~50%を大きく上回る形となり、多くのファンに受け入れられる結果となった。
 
王道のメインストーリー提供

この点については、スマホで初の本格RPGを目指していたため、まずは多くの人が楽しめる内容にしたかったという理由だと松永氏は説明した。
 
●結果
・メインシナリオスキップ率:約25%
・新章追加時の復帰率:約20%
・シナリオ内容による離脱傾向無し
 
アップデートで新章が追加された際には、メインストーリーを最新話まで進めて止まっていたユーザーが復帰し、アクティブユーザー数が増加する傾向にあったという。また、ゲームの難易度によって離脱率が高まる傾向は見られることもあったが、シナリオの内容によってユーザーが離れていくような現象は見て取れなかったと明かした。

スマホだけどエンディングを作る

ここでは、エンディングを作ることで継続率が下がるという結果を予測できたため、チーム内でも実施前にかなりの議論が繰り広げられたという。しかし、冒頭にも述べられた通りコンセプトを実現するための柱として必要不可欠だったため断行。代案として、第2部の制作を発表してユーザーの期待感を煽る形に落ち着いた。
 
●結果
・離脱率:増加
・DAU:大幅に増加
  
結果、予想通りユーザーの離脱率は上がったものの、エンディング実装がセンセーショナルな引きとなりDAUが大幅に増加したため問題にはならなかった。
 

▲1年目を終えて新たに「ストーリーのネタがきつい!」「運営しながら作るの辛すぎ!」といった課題が発生。2年目は、ここに対しての解決策も模索することに。

 

◆2年目:舞台を広げて対策を講じてはみたものの……◆


異なる大陸に舞台を移した

「ストーリーのネタがきつい!」という課題に対しては「異なる大陸に舞台を移す」という施策を実施。世界観としても、王道のままではできない表現も多いため、それまでの内容から1歩踏み出したものを取り揃えた。

大陸ごとに組み替え可能な構成
また、開発時に何かトラブルが起きても柔軟に受け入れられる構成にすることで、運営をしながら作るのが辛すぎるという問題にも対策を講じた。
  
●結果
・新章追加時の復帰率は維持
・シナリオ内容による離脱傾向、スキップ傾向が出る
 
新章追加時の復帰率は維持できたものの、テーマ的に重い内容になるなど、ユーザーの好みによって離脱やスキップが増加する傾向が出てしまったという。王道から離れることで好き嫌いが如実に現れる結果となった。

運営イベントは第1部を中心に

こちらも「運営をしながら作るのが辛すぎる」という問題点の対策。スピード感が必要ということに加え、ユーザーの愛着があるキャラを登場させることで興味を引くという意味でイベント関連は第1部のキャラを中心に展開。
 
●結果
・第2部キャラの人気が上がりにくい傾向が発生
 
ここでは、2年目のキャラ人気投票イベントにおいて上位を第1部のキャラが占めてしまい、第2部のキャラ人気を獲得しきれないという問題が出てしまう。
 
さらに、2年目には長期運営を続けるスマホゲームならではの新たな問題が発生。
 
メインストーリー到達率減少

新章を追加することで復帰するユーザーはいるものの、シナリオが1本道である以上、進むにつれ減衰していく事実は避けられない。

多くの課題が残る年となったが、3年目はこれらの問題に対する解決策を探っていくこととなる。

 

◆3年目:最高のエンディングを目指した結果◆


そうして3年目に入ったものの、『チェインクロニクル』はここで大きな決断を迫られることになる。問題点を抱えたまま第2部の物語が佳境に入ったことで、どのように展開していくかが悩みどころとなったのだ。
 

 
ここで、松永氏は今後の展開として4つの選択肢を挙げ、来場者に自分だったらどの手法を選択するかと投げかけた。

①第1部同様、最終章をきっちり作る
②コストをかけずに最終章を作る
③大陸を追加して引き延ばす
④もっともっとコストをかけて最終章を作る  

会場の賛同量としては④>③>①>②という結果に。
 
『チェインクロニクル』としても、あえて④の「もっともっとコストをかけて最終章を作る」という選択をしたと松永氏は語った。
 

▲やはり、コンセプトがブレないよう第1部以上のラストを作らないわけにはいかないとの想いもあったという。
 
しかし、ただコストを掛けてクオリティの高いものを目指したわけではなく、2年目に挙げられた「最新話への到達率が減少している」という問題を解決するため、最終章を約半年がかりで全3章に渡って展開。これには、最終章が盛り上がり、そうした状態が長引けば、最新話に到達するユーザーも増え、離脱以上の効果を見込めるのではないかとの考えがあってのことだと説明した。
 
●結果
・期間中のユーザー数が激増!

しかし、完結後には第1部と同じく完結後はユーザー数が激減してしまう。
 

 
ここで、クオリティの高いエンディングを作っても離脱率増加の傾向は止められず、「エンディングは作らない方が良いのか?」という想いも頭をよぎる。
 
しかし、データをよく調べたところ、意外な事実が発覚。離脱したユーザーは第3部発表時点でクライマックスチャプター未達のユーザーが多く、逆にエンディング到達者においては定着率が上がっていたというのだ。ここでは、「完結する」という事実がユーザーの離脱を促すことに変わりはないが、質の高いクライマックスを提供することで「物語を完結させたユーザーが離脱しているわけではない」という貴重な結果がKPI分析上からも得られた。
 

▲松永氏は、数値としては現れにくいが、ストーリーに山場を作ることで熱心に遊んでくれるユーザーの期待に応えることに成功したことが分かったのは良い傾向だったと話す。

 

◆4年目:新主人公・シナリオ分化など大幅なテコ入れを実施◆


第2部が完結したことにより良い結果は得られたものの、まだまだ長期運営がゆえの悩みが解決したわけではない。
 
・最終章の到達率が下がり続ける
・テーマによりクリア率に差が出る
・後のキャラほど人気が出づらい
・そして本当にもうネタがない!!

 
といった点に対してはまだまだ解決策を模索しなければいけなかったのが当時の状況だ。そこで、4年目には下記のような対策を講じた。まだ全ての施策において結果が出ているわけではないが、一部、得られた結果についても発表された。
 
第3部へワープ可能に
メインストーリーを5つに分割


第3部では、5年後の世界を描くことで、第1部・2部をクリアしていないユーザーも遊べるような構造に。さらに、メインストーリーを5つに分割することで、どれかのシナリオを最新話まで進めるのを簡単にし、最終章の到達率低下という問題に対する解決策とした。
 
5つに分割した物語に別テーマを

また、5つのシナリオにはそれぞれ別のテーマを持たせ、ユーザーの好みに合わないものを回避可能にすることで「テーマによりクリア率に差が出る」という問題への解決策とした。
 
●結果
・5つのメインストーリーそれぞれを好むユーザーが分化
・すべてを読むユーザーの比率はやや低下
 
この結果、シナリオスキップ率は減少しているとのこと。ただし、提供しているストーリーをすべて読んでいるユーザーの比率が減少しているという点が新たな課題として挙がっていると松永氏は述べた。

新主人公としてちゃんと活躍!
第3部では新たに主人公を立てることで人気の獲得を目指す。
 
「自分」である主人王から、5人の新主人公へ交代!

新主人公を立てるにあたり、視点もそれまでの1人称型から3人称型に変更。松永氏は、3年間続けてきたものに対して、大幅な変更を加えるのはかなりチャレンジングだったと当時の様子を語った。
 
●結果
・4周年記念の人気投票では第3部キャラが次々とランクイン!

 
「後のキャラほど人気が出づらい」という問題に対しても、良い傾向が見られているという。
 
講演の最後に松永氏は、4年間運営を続けてきたまとめとして「土台となるシステムと物語構成」、それらを長く続けるために「結果と向き合い、正しく変えていくこと」が重要であると説いた。そして冒頭に立ち返り、支持してくれているユーザーを裏切らないためにもコンセプトを変えずに、「コンセプトを実現するために何ができるかを考える」ことを常に振り返り中でしていくことが重要だと強く念押しして講演の締めとした。
 


 
(文・撮影 編集部:山岡広樹) 


 
■『チェインクロニクル3』
 

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株式会社セガ
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会社情報

会社名
株式会社セガ
設立
1960年6月
代表者
代表取締役会長CEO 里見 治紀/代表取締役社長執行役員COO 内海 州史/代表取締役副社長執行役員Co-COO 杉野 行雄
決算期
3月
直近業績
売上高1916億7800万円、営業利益175億3900万円、経常利益171億9000万円、最終利益114億8800万円(2023年3月期)
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