【CEDEC2017】『FFXV』の12言語対応はいかに実現したのか…スクウェア・エニックスが誇る翻訳管理システム「Byblos」に迫る
2017年8月30日から9月1日にかけて、パシフィコ横浜で開催された「CEDEC2017」。その中でスクウェア・エニックスのローカライズ部が、「ローカライズの技術 ~モバイルからAAAまで網羅する翻訳管理システム~」と題した講演を行った。
セッションに登壇したのは、ローカライズ部に所属する秦研究氏、小林和貴氏、小村麻紘氏の3名。まずは秦氏から、同社が開発した翻訳管理システム「Byblos」の紹介が行われた。
▲左から小村麻紘氏、秦研究氏、小林和貴氏
スクウェア・エニックスといえば昨年11月、『ファイナルファンタジーXV(XV)』を12言語に対応させて発売した。このような多言語同時対応は『FFXV』に限らず標準の時代となっており、日本のゲームでも英語やフランス語、イタリア語といった言語への対応は必須になっている。さらに最近では中国語や韓国語も重要になってきた。しかし多言語に対応するためには、宗教や倫理の問題、それぞれの言語での音声収録、UIの調整といった問題もつきまとう。
なにより、「言語ごとに翻訳・管理されるマスターデータの管理が大変」だと秦氏は述べる。字幕テキストに各言語の台本、構成テキストにボイスといった膨大なデータが言語の数だけ増えていく。しかも原文となる言語は国によって違う。「FFXV」の場合だとまずは英語版と作り、その英語版を元にポルトガル語版などが作られていった。そうなると、仮に大元である日本語版に修正が入ったとしても、ポルトガル語版に修正が反映されるのはかなり終盤になってしまう。
そこで開発されることになったのが、翻訳管理システム「Byblos」というわけだ。「Byblos」ではデータ管理に使うID/Labelを統一することで、膨大なデータの統合管理を可能にした。また幅広いワークスタイルに対応するためにハイパフォーマンスのWindows版、マルチプラットフォームに対応したWeb版の2種類がある。
「Byblos」を使用する流れとしては、まずはシナリオライターが書いた原文の更新通知を翻訳者が受け取り、差分を確認して翻訳作業に入る。それを校正者がチェックし、齟齬を修正した後に、開発者が最終的な確認を行う。これらすべてが「Byblos」の中で完結するのだ。現在は『FFXV』以外にも、『ドラゴンクエストXI』をはじめ、10タイトル以上で利用されているという。
続いては小林氏がマイクを握り、「Byblos」のデモを行った。台本の翻訳と字幕テキストの翻訳がスムーズに行われていくほか、「尺に合うように」など注意書きを残す場面もあった。こういったやりとりは、翻訳者と校正者の間でよく行われているそうだ。テキストの入力以外にも、差分や履歴の表示、複数言語の同時表示、さまざまなオプションによる検索、ボイス再生といった機能も搭載されている。
小林氏は主にWindows版「Byblos」の開発を担当している人物でもあり、同氏の言葉によると現在のWindows版はバージョン2への移行を目指しているとのこと。これまでは基本的な機能を備えたバージョン0、『FFXV』の12言語同時翻訳を経てバージョン1に移行、現在のバージョン2は通信プロトコルに改良が加わっている。
今後の目標としては、グロッサリーの蓄積やゲームアセット形式のエクスポート、クラウドへの移行を挙げていた。さらにゲームに直接反映できるように、ゲームエンジンとの連携も視野に入れているという。
続いては小村氏がWeb版を開発することになった経緯を説明した。Web版は『FFXV』のクライアントをベースに再構築したもので、ハイスペックではないものの、Windows版と相互の保守性と移植性を意識して開発された。
Web版で大きな問題になったのが、ストレージに保存されるデータの容量である。『FFXV』ではデータをSQLiteに保存していたが、Web版ではローカルのストレージに保存される。そうなるとサイズの上限が気になるところだが、元々の「Byblos」にはサイズ上限を知るための仕組みがない。そこでWeb版ではサイズ上限を定義し、されにストレージの利用状況を把握できるUIに改良した。
そのほかにも「Byblos」はスプレッドシートUIを採用しているが、Web版では新たにテキストエディタに寄る翻訳もサポート。テキストエディタ形式は後にWindows版にも引き継がれたという。加えてこのテキストエディタはカスタマイズ性に優れており、マクロの文法チェック、テキストのインポート&エクスポート、自動バックアップといった機能も備わっている。
小村氏はWeb版の開発を振り返ると、「スタートラインには立てた」としつつ、「UI/UXは今後さらに時間リソースを割いていく」と課題を語った。また、新しいウェブ技術を積極的に取り入れていきたいと意欲を見せた。
最後に再び秦氏がマイクと握ると、今後の展望として機械学習による作品内の表現の統一を挙げた。これが実現すれば、時間だけでなくコストの削減にもつながるというのだ。さらに自動翻訳による作業見積もりも目標のひとつだとのこと。気になるコストを、まずは自動翻訳で試算してみることで、全体的な効率化を目指すという。
セッションに登壇したのは、ローカライズ部に所属する秦研究氏、小林和貴氏、小村麻紘氏の3名。まずは秦氏から、同社が開発した翻訳管理システム「Byblos」の紹介が行われた。
▲左から小村麻紘氏、秦研究氏、小林和貴氏
■今は多言語同時対応が標準の時代…それに伴う新たな問題も
スクウェア・エニックスといえば昨年11月、『ファイナルファンタジーXV(XV)』を12言語に対応させて発売した。このような多言語同時対応は『FFXV』に限らず標準の時代となっており、日本のゲームでも英語やフランス語、イタリア語といった言語への対応は必須になっている。さらに最近では中国語や韓国語も重要になってきた。しかし多言語に対応するためには、宗教や倫理の問題、それぞれの言語での音声収録、UIの調整といった問題もつきまとう。
なにより、「言語ごとに翻訳・管理されるマスターデータの管理が大変」だと秦氏は述べる。字幕テキストに各言語の台本、構成テキストにボイスといった膨大なデータが言語の数だけ増えていく。しかも原文となる言語は国によって違う。「FFXV」の場合だとまずは英語版と作り、その英語版を元にポルトガル語版などが作られていった。そうなると、仮に大元である日本語版に修正が入ったとしても、ポルトガル語版に修正が反映されるのはかなり終盤になってしまう。
そこで開発されることになったのが、翻訳管理システム「Byblos」というわけだ。「Byblos」ではデータ管理に使うID/Labelを統一することで、膨大なデータの統合管理を可能にした。また幅広いワークスタイルに対応するためにハイパフォーマンスのWindows版、マルチプラットフォームに対応したWeb版の2種類がある。
「Byblos」を使用する流れとしては、まずはシナリオライターが書いた原文の更新通知を翻訳者が受け取り、差分を確認して翻訳作業に入る。それを校正者がチェックし、齟齬を修正した後に、開発者が最終的な確認を行う。これらすべてが「Byblos」の中で完結するのだ。現在は『FFXV』以外にも、『ドラゴンクエストXI』をはじめ、10タイトル以上で利用されているという。
■今後は機会学習や自動翻訳の導入も視野に
続いては小林氏がマイクを握り、「Byblos」のデモを行った。台本の翻訳と字幕テキストの翻訳がスムーズに行われていくほか、「尺に合うように」など注意書きを残す場面もあった。こういったやりとりは、翻訳者と校正者の間でよく行われているそうだ。テキストの入力以外にも、差分や履歴の表示、複数言語の同時表示、さまざまなオプションによる検索、ボイス再生といった機能も搭載されている。
小林氏は主にWindows版「Byblos」の開発を担当している人物でもあり、同氏の言葉によると現在のWindows版はバージョン2への移行を目指しているとのこと。これまでは基本的な機能を備えたバージョン0、『FFXV』の12言語同時翻訳を経てバージョン1に移行、現在のバージョン2は通信プロトコルに改良が加わっている。
今後の目標としては、グロッサリーの蓄積やゲームアセット形式のエクスポート、クラウドへの移行を挙げていた。さらにゲームに直接反映できるように、ゲームエンジンとの連携も視野に入れているという。
続いては小村氏がWeb版を開発することになった経緯を説明した。Web版は『FFXV』のクライアントをベースに再構築したもので、ハイスペックではないものの、Windows版と相互の保守性と移植性を意識して開発された。
Web版で大きな問題になったのが、ストレージに保存されるデータの容量である。『FFXV』ではデータをSQLiteに保存していたが、Web版ではローカルのストレージに保存される。そうなるとサイズの上限が気になるところだが、元々の「Byblos」にはサイズ上限を知るための仕組みがない。そこでWeb版ではサイズ上限を定義し、されにストレージの利用状況を把握できるUIに改良した。
そのほかにも「Byblos」はスプレッドシートUIを採用しているが、Web版では新たにテキストエディタに寄る翻訳もサポート。テキストエディタ形式は後にWindows版にも引き継がれたという。加えてこのテキストエディタはカスタマイズ性に優れており、マクロの文法チェック、テキストのインポート&エクスポート、自動バックアップといった機能も備わっている。
小村氏はWeb版の開発を振り返ると、「スタートラインには立てた」としつつ、「UI/UXは今後さらに時間リソースを割いていく」と課題を語った。また、新しいウェブ技術を積極的に取り入れていきたいと意欲を見せた。
最後に再び秦氏がマイクと握ると、今後の展望として機械学習による作品内の表現の統一を挙げた。これが実現すれば、時間だけでなくコストの削減にもつながるというのだ。さらに自動翻訳による作業見積もりも目標のひとつだとのこと。気になるコストを、まずは自動翻訳で試算してみることで、全体的な効率化を目指すという。
(取材 ユマ)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)