【インタビュー】マイネットグループをゲームサービス業のトップへ―戦略顧問に就任した和田洋一氏、マイネットグループ代表の上原仁氏が見るスマートフォン市場の未来
9月21日、スクウェア・エニックス・ホールディングス元代表取締役社長の和田洋一氏が、マイネットグループの戦略顧問に就任することが発表された。(関連記事)ゲーム産業のすべてを知り尽くした和田氏が、ゲームサービス業で着々と成長を続けるマイネットグループの一員となったニュースは多くの関係者、さらには一般のゲームファンの間でも話題となった。
今回Social Game Infoは、和田氏とマイネットグループの代表 上原仁氏にインタビューする機会を得た。両氏が見据えるマイネットグループの戦略、そしてスマートフォンアプリ市場の未来など、興味深い話を聞くことができたので紹介しよう。
株式会社マイネット
代表取締役社長
上原 仁 氏(写真右)
株式会社マイネット
戦略顧問
和田 洋一 氏(写真左)
――和田さんがマイネットグループさんの戦略顧問に就任するというニュースには驚きました。まずはどのような経緯で決まったのか、から教えてもらえますか?
上原氏:私にとって和田さんは、ずっと心の師匠といえる人物なんです。当社がゲーム運営にフォーカスを当てる前、4年ほど前の話ですね。そのとき和田さんの講演を聞く機会があり、そこで「これからのゲーム産業は、運営こそが重要になってくる」と仰っていました。このインプットが当社の方向性に強く影響を与えているのです。
その後もゲーム産業の大先輩として遠目に見ていたのですが、ここ数ヶ月の期間で直接やり取りさせていただくようになり、心の師匠ではなく、本当の師匠になってほしいとお願いしました。本当に、熱烈なラブコールを繰り返しましたね(笑)。
和田氏:何度もお願いされましたね(笑)。話を聞いているうちに熱意が伝わってきたのと、マイネットグループの狙っているポジションがとてもユニークだったので、なにかお手伝いできればと思い、戦略顧問に就くこととなりました。
――和田さんはこれまで、マイネットさんにどんな印象を持っていましたか?
和田氏:私がスクウェア・エニックスに所属しているとき、マイネットのプレゼンを受けたこともあるんです。その当時から「なかなか勇気のあることをするな」と思いながら見ていましたね。運営にフォーカスを当てるということは、まったく新しいマーケットを切り開くことと同じ意味です。その難しさは僕も理解していることですし、相当な努力を重ねてきているな、というのが最初の印象でした。
僕に限らずゲームに携わる人であれば、マイネットグループのやっていることのポテンシャルの高さ、同時に難易度の高さは分かっているはずです。しかも他の事業から手を引いて運営に特化させるというのは、度胸のある奴がやることだなと(笑)。
上原氏:当社のベースには「ゲーム作りは国作り」という考え方があり、国に住むユーザーさんの生活や社会を豊かにしていくのが私たちの仕事です。こうした考えに共感してくれたことはとても嬉しかったですね。
――これからお二人はゲームサービス業(ゲーム運営)のビジネスを浸透させていくために尽力されていくと思います。そこで、お二人が考えるゲームサービスで大切なことを教えてもらえますか。
上原氏:まずゲームサービスの定義として、オンライン上のゲームに集まった人々が社会を形成していくことと考えています。その上でゲームサービスを充実させることの意義は3つあると考えています。
1つ目はユーザーさんが長くワクワクできる空間を提供し続けることです。ユーザーさんからすればゲームはひとつの世界であり、そこにいる時間を豊かにできるかは、運営にとってまず最重要のテーマです。
2つ目はゲームメーカーにとっての意義です。ゲームを作り終わって運営のフェーズに入ると、ゲームのサービスマネジメントに時間を割くことになり、新しい作品を作ることが難しくなります。私たちがゲームサービスのプロフェッショナルとなることによって、新作開発のプロフェッショナルをより自由な環境に置くことができるのです。ゲーム産業全体の生産性を高めるためには、役割分担は必要不可欠になると見ています。
3つ目はゲーム産業に関わるすべての人のキャリアパスです。この産業には「新作を作ることがかっこいい」という雰囲気がコンシューマ時代からあります。0を1にするクリエイターがピラミッドの頂上にいて、その下にいるスタッフは同じ地点を目指します。ですが、20代、30代で夢を見ても、実現できないとキャリアの成長が望めなくなります。
ところがゲーム運営の場合は、ユーザーさんからの声を聞きつつ、日常的にベストの企画開発を目指すことになります。これは若手が将来的にゲーム作りのセンスを磨くことにもつながり、今までにはないキャリアアップの武器になります。また今は道の少ない40代・50代のゲームクリエイターキャリアも安定運営期のタイトルでは機会が大きく拓かれます。新作開発と運営が分担されているほど、ゲーム産業のキャリア機会はさらに広がると考えています。
――なるほど。では和田さんはゲームサービスで大切なことはなんだと考えていますか?
和田氏:ゲーム産業の生態系を考えた時、4つの環境から成立している事がわかります。ひとつはゲームを動かす動作環境、次にゲームエンジンを含めた開発環境、3つ目がGoogle PlayやAppStoreに代表されるマネタイズの環境、そして4つ目がサービス環境です。この4つをうまく絡めていくためには、それぞれがどういう流れになっているかを知ることが重要です。
――その流れというものを、ぜひ教えていただけますか。
和田氏:動作環境とは業界で「プラットフォーム」と呼ばれていたもので、アーケードから始まり、コンシューマが生まれ、それがマルチプラットフォームになり、今では汎用機のスマホの時代になりました。2015年前後からゲームの動作に特殊な環境が不要になり、パソコンに溶けてしまった印象です。VRやARの登場によって再び一から作る時代が来ると思いますが、もう少し先の話ですね。
開発環境は、最初はツール群だったものが、だんだんと有機的につながるようになり、ひとつで完結するゲームエンジンへと発展しました。Unreal EngineやUnityですね。これらのゲームエンジンは、昔だと特定のゲームに紐付いた存在でした。例えばUnreal Engineの場合は、『Unreal TOURNAMENT』や『Gears of War』といった作品が有名でしたね。そして、どのゲームとも紐付かない独立したエンジンとして生まれたのがUnityでした。ゲーム独自のエンジンから、徐々に独立して離れていく歴史が開発環境にはあるのです。ひとつのゲーム、ひいてはひとつの会社に依存しない、汎用的な環境が現在の姿であると言えます。
3つ目のマネタイズ環境の始まりはゲームセンターを運営するオペレーターで、その次に任天堂さんの持っているおもちゃ流通「初心会」も流れの中にあります。インターネット時代になってからはガラケーのiモードがマネタイズのプラットフォームとして発展しました。今はGoogle PlayとAppStoreが支配していますが、アプリダウンロード以外の展開が出てくれば端末に依存しなくなり、別の姿になっていくでしょう。
残る4つ目の環境、サービス環境というのはできたばかりの流れで、専業でやっているのはマイネットグループくらいだと思います。以前だとゲーム開発のスタッフがそのままサービスも任されたりと、ゲームそのものとリンクしていました。しかし、ゲームエンジンが特定のゲームから離れていったように、開発とサービスも離れていくだろうと考えています。ですから、マイネットグループとUnityは立ち位置が似ていますよね。
現在はまだほとんどの人が、開発と運営はスタッフが一致しないと成り立たないと思っているはずです。しかし今こうして、マイネットグループという会社が存在しているのです。
――運営を事業の1つとして展開している企業は他にもあると思いますが、マイネットグループ独自の魅力はどこにあると感じていますか?
和田氏:それはやはり開発と運営を切り離し、運営(ゲームサービス)専業に舵を切ったことの一言に尽きますね。他の会社であれば怖くてできないはずです。しかしゲーム産業の流れを見れば、運営専業の会社が出てくるのは必然のことです。専業が故にぶつかる壁もあったと思いますが、それを乗り越えたノウハウは他社には絶対にありません。
動作環境でも同じことが言えます。昔はプレイステーションで作るのであれば、それ以外のハードで動作させるのは難しいことでした。マルチプラットフォームに対応させようと思うと、途端に苦しくなるわけです。しかしハードとソフトを切り離して考えられるようになった現在は、作る側も運営する側も、そしてユーザーさんも幸せになれるのです。
――今のお話を聞いて、上原さんとしてはいかがですか?
上原氏:私たちはそもそもベンチャーなので、生き抜くことを第一に考えてきました。必死になって組み上げてきた事業が、和田さんの目線で正しかったと言っていただけるのは本当に嬉しいことです。
現在当社にはサービスの付加価値を高めるレーベル「PARADE」とそのレーベル名を冠したPARADE本部が存在し、ここでは基本的なデータ分析を行うモジュールや、マッチングのモジュール、集客や作業自動化を行うモジュールなどを作っています。モジュールを組み合わせたものがエンジンとなり、これを使えば最初から運営を見据えた開発ができるのです。
データ分析や自動化、サービスマネジメントの手間が省けるぶん、よりクリエイティブにフォーカスしたゲーム作りができます。発足した当初はまだまだ必死で、「PARADE」がどこへ向かうのかおぼろげでした。しかし今は和田さんのおかげで、「PARADE」がどこへ向かうべきか、方向性がはっきりしましたね。
――「PARADE」の進化にも期待が持てそうですね。
上原氏:対応するタイトルが増えれば増えるほどデータが蓄積され、検証件数も増えていきます。そうなればエンジンにも磨きがかかっていきます。
和田氏:専業の良いところは、さまざまなデータをフラットに見られることです。それでいて、ただのツール屋で終わる事業でもありません。
上原氏:その通りです。エンジンだけですべてを完結させるのは不可能な話で、ゲームサービスクリエイターたちの手でゲームをより良くしていく必要があります。そしてエンジンチームもいることで、精度もさらに増していきます。両方が存在して初めて成り立つ事業なのです。
――現在のスマートフォンアプリ市場についてはどう見ていますか?またこれからどうなっていくと予想していますか?
和田氏:40年近く続くゲームの歴史の中で、スマートフォンはひとつの完成形ですよね。市場という観点でも「成長が止まった」と言われることもありますが、そもそも国内だけでも1兆円規模のエンタメ市場なんて他にはありません。
その一方で、ひとつめの大きな波が終わったところで、次になにをやるかを各社が模索している段階でもあります。そこで皆さんが考えたことと言えば、IPをいかにして確保するかです。これは技術の進化から離れた典型的なプラットフォームの末期状態で、決して良いこととはいえません。作る側が行き詰まっているからこそ、別の切り口で付加価値を与えなければいけない。そこで重要になってくるのがサービスの充実なんです。
――和田さんが目指す方向につながってくると。
和田氏:はい。ただ、スマートフォンアプリにおけるサービス業はあまり進んでいないのが現状です。幸か不幸か、日本のアプリはガチャ依存が強く、ガチャにサービスを集約させてしまっているからですね。ガチャ以外のサービスを考えている人はとても少なく、だからこそチャンスなんです。ガチャにとらわれないゲームデザインを、どうサービスとして続けていくかが勝負のポイントになると思います。
――具体的にガチャ依存から抜け出すためにはどうしたらいいか、和田さんなりのアイディアはありますか?
和田氏:今スマートフォンアプリを配信しているメーカーは、苦しくても現状運営しているタイトルの3割程度のガチャを禁止にすればよいと思います。スタッフをあえて一度追い詰めないと、新しいアイディアはなかなか出て来ないと思います。以前はガチャに頼らないアプリも多くありましたが、それらは徐々にガチャのあるシステムへ改造されていきました。今度はガチャをなくすように改造していく番なのです。
もうひとつ注目したいのは海外タイトルのシェアの高さです。これは日本のゲーム産業が始まって以来初めての現象で、今後はもっと増えていくことが予想されます。日本のゲームも、もっと外へ出ていく努力をするべきですね。
――今の和田さんのお話を聞いた上で、上原さんの考えも聞かせてもらえますか。
上原氏:強い使命感を感じているところです。作り手の中には新しい遊びを作ることが得意な方もいれば、IPを作ることに長けている方もいます。またコミュニティ型のゲーム作りという意味では、韓国や中国のデベロッパーに一日の長があります。国内外のさまざまな方とお取り組みしていく中で、当社がしっかりとした日本向けのサービスを考え、運営していくことをアピールしていきたいですし、多くの方に認めていただけるよう努力していく考えです。
――では、マイネットさんとしての将来へ向けたビジョン、展望があれば教えてください。
上原氏:「PARADE」をさらに進化、普及させて、ゲームサービスのプラットフォームとして定着させていきたいです。ゲームを作って世に出した瞬間から、最高のサービスを実現できたら嬉しいですね。そして1兆円規模のアプリ市場において、なくてはならない存在になりたいです。
――和田さんはマイネットグループの将来のため、どんなアクションを起こしていく考えですか?
和田氏:ひとつは上原さんの答え合わせになることを、今までの知見から伝えることです。もうひとつは組織が大きくなっていく過程で、さまざまな問題が起こるはずです。そんなときに、世の中の動向を把握し、違うときは違うとはっきり指導していくことが僕の役割だと考えています。
――最後に、上原さんと和田さんがお互いに期待していることも教えてもらえますか?
和田氏:上原さんにはゲームサービス業の分野のトップになってほしいですね。ゲームサービス環境は、これから存在感が増していくことは間違いありません。そのトップは目指すべきですし、ぜひ取ってもらいたいです。
上原氏:私は起業して11年になりますけど、明確な師匠ができるのはこれが初めてなんです。和田さんは業界を再編する動きを産業の視点、経営の視点の双方から実現してきた人物です。その経験を元に、師匠であり続けてほしいですね。
――ありがとうございました。
今回Social Game Infoは、和田氏とマイネットグループの代表 上原仁氏にインタビューする機会を得た。両氏が見据えるマイネットグループの戦略、そしてスマートフォンアプリ市場の未来など、興味深い話を聞くことができたので紹介しよう。
■開発とサービスはいずれ離れていく
株式会社マイネット
代表取締役社長
上原 仁 氏(写真右)
株式会社マイネット
戦略顧問
和田 洋一 氏(写真左)
――和田さんがマイネットグループさんの戦略顧問に就任するというニュースには驚きました。まずはどのような経緯で決まったのか、から教えてもらえますか?
上原氏:私にとって和田さんは、ずっと心の師匠といえる人物なんです。当社がゲーム運営にフォーカスを当てる前、4年ほど前の話ですね。そのとき和田さんの講演を聞く機会があり、そこで「これからのゲーム産業は、運営こそが重要になってくる」と仰っていました。このインプットが当社の方向性に強く影響を与えているのです。
その後もゲーム産業の大先輩として遠目に見ていたのですが、ここ数ヶ月の期間で直接やり取りさせていただくようになり、心の師匠ではなく、本当の師匠になってほしいとお願いしました。本当に、熱烈なラブコールを繰り返しましたね(笑)。
和田氏:何度もお願いされましたね(笑)。話を聞いているうちに熱意が伝わってきたのと、マイネットグループの狙っているポジションがとてもユニークだったので、なにかお手伝いできればと思い、戦略顧問に就くこととなりました。
――和田さんはこれまで、マイネットさんにどんな印象を持っていましたか?
和田氏:私がスクウェア・エニックスに所属しているとき、マイネットのプレゼンを受けたこともあるんです。その当時から「なかなか勇気のあることをするな」と思いながら見ていましたね。運営にフォーカスを当てるということは、まったく新しいマーケットを切り開くことと同じ意味です。その難しさは僕も理解していることですし、相当な努力を重ねてきているな、というのが最初の印象でした。
僕に限らずゲームに携わる人であれば、マイネットグループのやっていることのポテンシャルの高さ、同時に難易度の高さは分かっているはずです。しかも他の事業から手を引いて運営に特化させるというのは、度胸のある奴がやることだなと(笑)。
上原氏:当社のベースには「ゲーム作りは国作り」という考え方があり、国に住むユーザーさんの生活や社会を豊かにしていくのが私たちの仕事です。こうした考えに共感してくれたことはとても嬉しかったですね。
――これからお二人はゲームサービス業(ゲーム運営)のビジネスを浸透させていくために尽力されていくと思います。そこで、お二人が考えるゲームサービスで大切なことを教えてもらえますか。
上原氏:まずゲームサービスの定義として、オンライン上のゲームに集まった人々が社会を形成していくことと考えています。その上でゲームサービスを充実させることの意義は3つあると考えています。
1つ目はユーザーさんが長くワクワクできる空間を提供し続けることです。ユーザーさんからすればゲームはひとつの世界であり、そこにいる時間を豊かにできるかは、運営にとってまず最重要のテーマです。
2つ目はゲームメーカーにとっての意義です。ゲームを作り終わって運営のフェーズに入ると、ゲームのサービスマネジメントに時間を割くことになり、新しい作品を作ることが難しくなります。私たちがゲームサービスのプロフェッショナルとなることによって、新作開発のプロフェッショナルをより自由な環境に置くことができるのです。ゲーム産業全体の生産性を高めるためには、役割分担は必要不可欠になると見ています。
3つ目はゲーム産業に関わるすべての人のキャリアパスです。この産業には「新作を作ることがかっこいい」という雰囲気がコンシューマ時代からあります。0を1にするクリエイターがピラミッドの頂上にいて、その下にいるスタッフは同じ地点を目指します。ですが、20代、30代で夢を見ても、実現できないとキャリアの成長が望めなくなります。
ところがゲーム運営の場合は、ユーザーさんからの声を聞きつつ、日常的にベストの企画開発を目指すことになります。これは若手が将来的にゲーム作りのセンスを磨くことにもつながり、今までにはないキャリアアップの武器になります。また今は道の少ない40代・50代のゲームクリエイターキャリアも安定運営期のタイトルでは機会が大きく拓かれます。新作開発と運営が分担されているほど、ゲーム産業のキャリア機会はさらに広がると考えています。
――なるほど。では和田さんはゲームサービスで大切なことはなんだと考えていますか?
和田氏:ゲーム産業の生態系を考えた時、4つの環境から成立している事がわかります。ひとつはゲームを動かす動作環境、次にゲームエンジンを含めた開発環境、3つ目がGoogle PlayやAppStoreに代表されるマネタイズの環境、そして4つ目がサービス環境です。この4つをうまく絡めていくためには、それぞれがどういう流れになっているかを知ることが重要です。
――その流れというものを、ぜひ教えていただけますか。
和田氏:動作環境とは業界で「プラットフォーム」と呼ばれていたもので、アーケードから始まり、コンシューマが生まれ、それがマルチプラットフォームになり、今では汎用機のスマホの時代になりました。2015年前後からゲームの動作に特殊な環境が不要になり、パソコンに溶けてしまった印象です。VRやARの登場によって再び一から作る時代が来ると思いますが、もう少し先の話ですね。
開発環境は、最初はツール群だったものが、だんだんと有機的につながるようになり、ひとつで完結するゲームエンジンへと発展しました。Unreal EngineやUnityですね。これらのゲームエンジンは、昔だと特定のゲームに紐付いた存在でした。例えばUnreal Engineの場合は、『Unreal TOURNAMENT』や『Gears of War』といった作品が有名でしたね。そして、どのゲームとも紐付かない独立したエンジンとして生まれたのがUnityでした。ゲーム独自のエンジンから、徐々に独立して離れていく歴史が開発環境にはあるのです。ひとつのゲーム、ひいてはひとつの会社に依存しない、汎用的な環境が現在の姿であると言えます。
3つ目のマネタイズ環境の始まりはゲームセンターを運営するオペレーターで、その次に任天堂さんの持っているおもちゃ流通「初心会」も流れの中にあります。インターネット時代になってからはガラケーのiモードがマネタイズのプラットフォームとして発展しました。今はGoogle PlayとAppStoreが支配していますが、アプリダウンロード以外の展開が出てくれば端末に依存しなくなり、別の姿になっていくでしょう。
残る4つ目の環境、サービス環境というのはできたばかりの流れで、専業でやっているのはマイネットグループくらいだと思います。以前だとゲーム開発のスタッフがそのままサービスも任されたりと、ゲームそのものとリンクしていました。しかし、ゲームエンジンが特定のゲームから離れていったように、開発とサービスも離れていくだろうと考えています。ですから、マイネットグループとUnityは立ち位置が似ていますよね。
現在はまだほとんどの人が、開発と運営はスタッフが一致しないと成り立たないと思っているはずです。しかし今こうして、マイネットグループという会社が存在しているのです。
――運営を事業の1つとして展開している企業は他にもあると思いますが、マイネットグループ独自の魅力はどこにあると感じていますか?
和田氏:それはやはり開発と運営を切り離し、運営(ゲームサービス)専業に舵を切ったことの一言に尽きますね。他の会社であれば怖くてできないはずです。しかしゲーム産業の流れを見れば、運営専業の会社が出てくるのは必然のことです。専業が故にぶつかる壁もあったと思いますが、それを乗り越えたノウハウは他社には絶対にありません。
動作環境でも同じことが言えます。昔はプレイステーションで作るのであれば、それ以外のハードで動作させるのは難しいことでした。マルチプラットフォームに対応させようと思うと、途端に苦しくなるわけです。しかしハードとソフトを切り離して考えられるようになった現在は、作る側も運営する側も、そしてユーザーさんも幸せになれるのです。
――今のお話を聞いて、上原さんとしてはいかがですか?
上原氏:私たちはそもそもベンチャーなので、生き抜くことを第一に考えてきました。必死になって組み上げてきた事業が、和田さんの目線で正しかったと言っていただけるのは本当に嬉しいことです。
現在当社にはサービスの付加価値を高めるレーベル「PARADE」とそのレーベル名を冠したPARADE本部が存在し、ここでは基本的なデータ分析を行うモジュールや、マッチングのモジュール、集客や作業自動化を行うモジュールなどを作っています。モジュールを組み合わせたものがエンジンとなり、これを使えば最初から運営を見据えた開発ができるのです。
データ分析や自動化、サービスマネジメントの手間が省けるぶん、よりクリエイティブにフォーカスしたゲーム作りができます。発足した当初はまだまだ必死で、「PARADE」がどこへ向かうのかおぼろげでした。しかし今は和田さんのおかげで、「PARADE」がどこへ向かうべきか、方向性がはっきりしましたね。
――「PARADE」の進化にも期待が持てそうですね。
上原氏:対応するタイトルが増えれば増えるほどデータが蓄積され、検証件数も増えていきます。そうなればエンジンにも磨きがかかっていきます。
和田氏:専業の良いところは、さまざまなデータをフラットに見られることです。それでいて、ただのツール屋で終わる事業でもありません。
上原氏:その通りです。エンジンだけですべてを完結させるのは不可能な話で、ゲームサービスクリエイターたちの手でゲームをより良くしていく必要があります。そしてエンジンチームもいることで、精度もさらに増していきます。両方が存在して初めて成り立つ事業なのです。
■今こそ新たなサービスの在り方を
――現在のスマートフォンアプリ市場についてはどう見ていますか?またこれからどうなっていくと予想していますか?
和田氏:40年近く続くゲームの歴史の中で、スマートフォンはひとつの完成形ですよね。市場という観点でも「成長が止まった」と言われることもありますが、そもそも国内だけでも1兆円規模のエンタメ市場なんて他にはありません。
その一方で、ひとつめの大きな波が終わったところで、次になにをやるかを各社が模索している段階でもあります。そこで皆さんが考えたことと言えば、IPをいかにして確保するかです。これは技術の進化から離れた典型的なプラットフォームの末期状態で、決して良いこととはいえません。作る側が行き詰まっているからこそ、別の切り口で付加価値を与えなければいけない。そこで重要になってくるのがサービスの充実なんです。
――和田さんが目指す方向につながってくると。
和田氏:はい。ただ、スマートフォンアプリにおけるサービス業はあまり進んでいないのが現状です。幸か不幸か、日本のアプリはガチャ依存が強く、ガチャにサービスを集約させてしまっているからですね。ガチャ以外のサービスを考えている人はとても少なく、だからこそチャンスなんです。ガチャにとらわれないゲームデザインを、どうサービスとして続けていくかが勝負のポイントになると思います。
――具体的にガチャ依存から抜け出すためにはどうしたらいいか、和田さんなりのアイディアはありますか?
和田氏:今スマートフォンアプリを配信しているメーカーは、苦しくても現状運営しているタイトルの3割程度のガチャを禁止にすればよいと思います。スタッフをあえて一度追い詰めないと、新しいアイディアはなかなか出て来ないと思います。以前はガチャに頼らないアプリも多くありましたが、それらは徐々にガチャのあるシステムへ改造されていきました。今度はガチャをなくすように改造していく番なのです。
もうひとつ注目したいのは海外タイトルのシェアの高さです。これは日本のゲーム産業が始まって以来初めての現象で、今後はもっと増えていくことが予想されます。日本のゲームも、もっと外へ出ていく努力をするべきですね。
――今の和田さんのお話を聞いた上で、上原さんの考えも聞かせてもらえますか。
上原氏:強い使命感を感じているところです。作り手の中には新しい遊びを作ることが得意な方もいれば、IPを作ることに長けている方もいます。またコミュニティ型のゲーム作りという意味では、韓国や中国のデベロッパーに一日の長があります。国内外のさまざまな方とお取り組みしていく中で、当社がしっかりとした日本向けのサービスを考え、運営していくことをアピールしていきたいですし、多くの方に認めていただけるよう努力していく考えです。
――では、マイネットさんとしての将来へ向けたビジョン、展望があれば教えてください。
上原氏:「PARADE」をさらに進化、普及させて、ゲームサービスのプラットフォームとして定着させていきたいです。ゲームを作って世に出した瞬間から、最高のサービスを実現できたら嬉しいですね。そして1兆円規模のアプリ市場において、なくてはならない存在になりたいです。
――和田さんはマイネットグループの将来のため、どんなアクションを起こしていく考えですか?
和田氏:ひとつは上原さんの答え合わせになることを、今までの知見から伝えることです。もうひとつは組織が大きくなっていく過程で、さまざまな問題が起こるはずです。そんなときに、世の中の動向を把握し、違うときは違うとはっきり指導していくことが僕の役割だと考えています。
――最後に、上原さんと和田さんがお互いに期待していることも教えてもらえますか?
和田氏:上原さんにはゲームサービス業の分野のトップになってほしいですね。ゲームサービス環境は、これから存在感が増していくことは間違いありません。そのトップは目指すべきですし、ぜひ取ってもらいたいです。
上原氏:私は起業して11年になりますけど、明確な師匠ができるのはこれが初めてなんです。和田さんは業界を再編する動きを産業の視点、経営の視点の双方から実現してきた人物です。その経験を元に、師匠であり続けてほしいですね。
――ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社マイネット
- 設立
- 2006年7月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 岩城 農
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高87億1700万円、営業利益1億6800万円、経常利益1億2500万円、最終利益1億4300万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3928